13.隠れ里を探して
ひょんなことから俺は、海底神殿で魔神族から依頼を受けることになった。
その対価として移転の指輪をもらったので、さっそくそれで自宅へ戻ってきた。
バルカンが飛んでも半日くらいの距離を、一瞬で跳んだことになる。
体感的に、まだまだ魔力には余裕があった。
「よし、それじゃあまた海岸に戻るぞ」
「あまり無理はするでないぞ」
チャッピーに注意されながらがも、俺は指輪に魔力を込めた。
そして頭に刻みつけた光景を思い浮かべる。
「あ、戻ってきたのです」
「大丈夫ですか、旦那様」
「うわ、本当に戻ってきたよ」
無事に転移が成功し、リューナ、レミリア、チェインに出迎えられた。
さすがに連続して転移したせいか、少し頭がクラクラする。
「フウッ、少し頭がクラクラするけど、なんとかなったな」
「あまり無理をするでないぞ、デイル」
「ああ、さすがに今日は休むよ。ここで野営でいいよな、みんな?」
「もちろんなのです」
「そう思って、もう準備してありますよ」
「そうそう、無理しなさんなって」
すでに取りかかっていたのもあって、テキパキと野営の準備が整っていく。
やがて日が暮れる頃、夕食を取りながら今後の話をした。
「明日はカガチへ戻るとして、それからどうするのですか? 旦那様」
「まずはエルフの里を訪れるよ。あそこの長なら、何か知ってるかもしれない」
「でも、今までもハイエルフについては調べてたんだろ? 今さら行っても、同じじゃないかい?」
チェインが指摘するが、俺は首を横に振った。
「いや、今まではあやふやな情報に基づいて調べていただけだったけど、今の俺たちは天空郷の存在を知っている。それにバルデスは、天空郷を支えているエルフがいるって言ってたんだ。そんな集落を探せば、何か分かる可能性は高いと思うんだ」
「ふむ、特に歴史のある集落を探せば、見つかるかもしれんの」
「そういうこと。まずは身近な所から、調べてみるよ」
こうして今後の方針は決まった。
翌日はバルカンの飛行箱に乗って、カガチへ帰り着く。
さすがに3人を伴っての転移は、無理と判断した結果だ。
カガチへ戻るとまず、人魚女王に使いを出した。
しばらくすると彼女が俺の拠点へ駆けつけたので、今回の顛末を語った。
「そうですか。海底神殿がおかしくなっているのですね」
「ナターシャさんは、海底神殿をご存知だったんですか?」
「ええ、噂だけですが。海神が海を鎮めるために築いた神殿が、どこかにあると聞いていました」
「なるほど。しかしあいにくと、管理者が引き継がれないままになっていたため、今は機能不全に陥っています。そしてそこに居合わせた魔神族から、ハイエルフを探して連れてくるように、依頼を受けました。ナターシャさんは何か、ハイエルフについてご存知ありませんか?」
すると彼女は美しい顔を曇らせて、首を横に振った。
「あいにくと海上のことはまったく存じませんわ。お役に立てず申し訳ありません」
「いえ、それならけっこうです。こっちで心当たりを当たってみますよ」
「よろしくお願いします。これが今回の護衛代と、情報料になります。もし海底神殿を復活させていただければ、またお礼はさせてもらいますわ」
そう言って女王が、真珠の詰まった貝殻を寄こした。
中を見ると真珠が20個もあり、奮発してくれたのが分かる。
「これはどうも。海底神殿の件は別口で報酬がありますから、別にいいですよ」
「とんでもない。私たちの海を救っていただくのですから、何か考えておきますわ」
女王も譲らないので、それはまた別途ということになった。
本当にいいんだけどな。
翌日はまたバルカンに乗り、エルフの里を訪れた。
結界の中に入ると、すぐに長のラナウスに面会を申し入れる。
しばし待っていると、彼が現れた。
「これはデイル殿。急にどうしたのですかな?」
「お久しぶりです、ラナウスさん。実はハイエルフのヒントをつかんだんですよ」
「なんですと?」
大いに興味を示すラナウスに、今回の話を伝えた。
特に天空郷の話には驚き、腕を組んで考え込む。
「ふーむ、ハイエルフの住む天空郷ですか。まるで神話のようですな」
「ええ、おそらく神話の時代から存在する場所でしょうね。興味深いことに、天空郷を支えるエルフの集落があるだろうと、魔神族の男が言っていたんです。何かそれに、心当たりはありませんか?」
「いや、そのような話は聞いたことがありませんな。一応、デイル殿の依頼で過去の記録を調べてみたものの、そのような記述はありませんでした」
「そうですか……それならエルフの起源、についてはどうでしょうか?」
「エルフの起源、ですか?」
「ええ、そんな神話時代の場所と関係するのなら、よほど歴史のある集落だと思うんです。例えば、最古のエルフ集落とか、そんな感じの……」
それを聞いたラナウスが、ピクリと反応する。
「待てよ。そういえば、我らエルフ族の歴史を謳った書物があります。あれを見れば、何か分かるかもしれない」
「ああ、それですよ。ぜひお願いします」
すぐさまこの里の神殿まで行き、古文書を保管する部屋へ通された。
部外者なら絶対に入れない場所だが、今の俺は彼らの盟主的存在だ。
いろいろと骨を折った甲斐があるというものである。
やがてお目当ての古文書を見つけた神官が、それを持ってきた。
ただし古代エルフ語で書かれてるから、俺には読めない。
いくつか質問をして、内容を教えてもらった。
それによると、ハイエルフから別れたエルフ、ダークエルフ族は、徐々に数を増やして大陸中に広がっていった。
そしてその大元となった里の名は、”アルヴレイム”。
「ふむ、ハイエルフの存在だけに注目していて、見逃していたようだ。しかし里の名前だけで、位置の情報はありませんな」
「少なくとも、同盟に参加している集落ではないですよね。やっぱり隠れ里みたいなものがあるのかな?」
「それは否定できませんな。しかし、他のエルフ集落を回れば、誰か知っている者はいるかもしれない」
「うーん、やっぱり集落回りをしないといけないか。時間が掛かりそうだな」
「ご苦労様です。あいにくと他の集落には、私も伝手がありません。地道に回るしかありませんな」
苦笑いをしながら、ラナウスに同情された。
かくして俺の、隠れ里探しが始まった。