11.魔神族
海底神殿に侵入した俺たちは、ケルベロスを倒しながら探索を進めた。
そして階層を3つ上がると、何か重要そうな場所にたどり着く。
そこは巨大な扉に守られていて、内部から禍々しいものが噴き出ている感じがした。
「ゴクッ……なんかあの扉の先が怪しいよな?」
「はい、旦那様。禍々しいものを感じます」
とりあえず扉に近寄ってみたが、開け方が分からない。
「どうやって開けるんだろ?」
「ポッポスにもらった鍵はどうですか?」
「あっ、そうか」
レミリアに言われて鍵を取り出し、掲げてみたら本当に扉が開いた。
巨大な扉が手前に開いてきて、人が通れるぐらいの隙間ができる。
中を覗いてみると、奥の方に祭壇のようなものがあり、巨大な水晶がその上に置かれていた。
しかし、その水晶からは間断的に瘴気が噴き出ているようにも見える。
用心しながら部屋に踏み込み、祭壇に近づく。
やがて手が届くほどに近づくと、水晶をじっくり観察してみた。
「なんか、瘴気が出てるみたいだけど、これが原因かな? この神殿にはそれを浄化する機能があるはずなんだけど」
そんなことをしているうちに、手に持っていた神殿の鍵が光った。
すると水晶もそれに反応して、明滅を繰り返す。
俺は試しにと思って、鍵を水晶にかざそうとしたら、背後から声が掛けられた。
「そこで何をしている? 人間よ」
「なんだっ!」
振り返って身構えると、部屋の中央に巨大な人影が見えた。
それは人間の形をしてはいるのだが、身長は俺の5倍近い。
その顔色はサンドラのように青白く、髪の毛は銀色、瞳の色は金だった。
さらに言えば、蝙蝠のような翼を背に持ち、到底人には見えない存在だ。
「俺たちはこの神殿の異変の原因を調べにきたんだ。何か知っているんなら、教えてもらえないか?」
と問うたものの、巨人は黙ったまま冷たい表情で俺を見下ろしている。
やがてポツリと呟いたと思ったら、いきなり攻撃してきやがった。
「下賤な地上人が」
言葉と同時に黒い矢のようなものが、俺たちに降り注ぐ。
すかさず魔盾の障壁で防いだが、その威力は強烈だった。
それに負けないように障壁を維持するだけで、魔力がガリガリ削られていく。
「グウウッ……問答無用かよ」
「旦那様、大丈夫ですか?」
「今はなんとかなってるけど、長くは持たない。リューナ、でかいの一発ぶちかませ」
「はいです、兄様。キョロちゃん、手伝ってなの」
(りょうか~い。久しぶりに凄いの、いっちゃうよ~)
リューナが精神を統一し、雷撃の杖を両手で水平に掲げる。
キョロがその前に進み出ると、2人の間で凄まじい魔力の高まりが発生した。
やがて魔力が障壁の中に満ちたとみえた瞬間、障壁を解除する。
「今だ、やれっ、リューナ」
「雷の滝!」
その瞬間、リューナを中心に凄まじい雷撃が発生し、巨人に降り注いだ。
まさに雷撃の滝といえるもので、巨人もダメージを負っているようだ。
「グウッ、小癪な」
さすがの巨人にもけっこう効いたようで、防戦一方になった。
俺はすかさず次の手を打つ。
「バルカン、こっち来い。火炎弾をぶち込むぞ。リューナは守りを頼む。そしてシルヴァとキョロは”暴風雷”を準備だ」
((了解))
「はいです、兄様」
魔盾をリューナに渡し、駆け寄ってきたバルカンの背中に炎の短剣を押し当てて魔力を送った。
それを受けたバルカンが、間断的に火炎弾を発射しはじめる。
チュドン、チュドンと、いつもの3倍は強力な火炎弾が巨人に命中する。
雷撃の次は、火攻めだ。
巨人くんが忌々しそうに反撃してくるが、大した勢いじゃないのでリューナが防いでくれる。
そうこうするうちに、”暴風雷”の準備が整った。
(食らえ、下郎)
(いっくよ~!)
次の瞬間、室内に生成された雷雲から怒涛のような風と雷撃が叩きつけられた。
相変わらず凄い威力だ。
いや、以前より強力になってるかもしれない。
こんな魔法を室内でぶっ放したら、俺たちまでやられるところだが、魔盾の障壁で防いだ。
この辺の使い方は、俺たちもうまくなったもんだ。
やがて魔法の余波が治まり、視界がはっきりしてくると、巨人が翼で体を覆って跪いているのが見えてきた。
それなりにダメージは受けただろうが、まだ戦闘力は残していると見た。
「チッ、まだ生きてるか。こうなったらバルカンに――」
「待て! もう十分だ。話し合いをしようではないか」
「今さら話し合いだと?」
急に物分かりがよくなった敵が、話し合いを求めてきた。
ふいに巨人の姿が霞んだと思ったら、俺たちと同じくらいのサイズに変化した。
青白い男がこちらへ歩いてきたので、こちらもゆっくりと近づく。
やがて4,5歩の距離で向かい合った。
「いきなり攻撃して悪かったな。ハイエルフの登場を期待していたのに違ったので、いらだってしまった」
「最初からそう言えばいいものを……俺の名はデイル。冒険者だ。あんたは?」
「我は魔神族のバルデス。冥界神アルダヌス様に仕えている」
「魔神? 道理で強いわけだ。あれだけの攻撃を食らって、ピンピンしてるんだからな」
「それは嫌味か? まさか地上人に膝を着かされるとは、思っていなかったぞ」
バルデスが嫌そうに顔をしかめる。
意外に人間臭いやつだな。
「それは悪かったな。こっちもおとなしくやられるわけにはいかないんだ。それで、ハイエルフを期待してたってのは、どういうことだ?」
「うむ、この神殿の管理者が死んで、こちらも困っていたのだ。何やら動きがあったので、新任が来たかと期待したのだが……」
「やっぱり死んでたのか。実は外の海にも影響が出てるんで、調べにきたんだ。知ってることがあれば、教えてくれないか?」
「いいだろう。こちらへ来い」
そう言ってバルデスが俺たちを誘う。
ついていくと、祭壇の右横の辺りに入り口が見えた。
バルデスがその扉を開けると、中の様子が目に入る。
「キャアッ!」
中を見たリューナが悲鳴を上げる。
無理もない。
部屋の中にはミイラになった死体があったのだから。
「これは……」
俺は部屋に入り、机に突っ伏した状態のミイラを観察した。
金髪で耳がやけに長いことから、エルフだったらしいことは分かる。
話の流れからすると、ハイエルフなのだろう。
その手にはペンが握られており、死ぬ寸前まで書き物でもしていたようだ。
「この人が前の管理者ってことだよな?」
「そうだ。様子がおかしいと思って調べにきてみたら、もうこの状態だった」
「ていうことは突然死、か。ハイエルフにもそんなこと、あるのかな?」
「そりゃあ、生きてる限りはそういうこともあるじゃろう。ハイエルフといっても、寿命が長いだけで不死ではないからな」
俺の疑問にチャッピーが答える。
まあ、それもそうか。
「おぬし、デイルと言ったか?」
「ああ、そうだけど」
「この状況を打破するためにおぬし、天空郷へ行ってくれんか?」
「はあっ?」
久しぶりの投稿ですが、まだ先のシナリオについては思案中です。
また新作を始めたので、こちらはボチボチ更新になります。
新作の”七王召喚!~無能エルフが祖国を再興するまで~”もよろしくお願いします。
下のリンクから行けます。