10.潜入! 海底神殿
海底神殿を取り巻く黒い瘴気を、カガリとそのママが協力して取り除いた。
そして露わになった神殿を丁寧に調べてみると、その下部に石造りの扉らしきものが見つかった。
カガリにそこに寄せてもらい、俺がポッポスから預かった鍵を近づけると、扉が重々しく横にスライドして開いた。
「本当に開きましたね、旦那様」
「ああ、だけどこの先、どうしたもんかな。さすがにカガリは入れないから、また分離するか……」
俺たちはカガリの後頭部に隔壁を作って乗っている形なので、そのまま入れるほど小さくない。
結局、隔壁だけならギリギリ入れそうだということで、カガリから切り離して水精霊に押してもらうことにした。
「それじゃあ、分離します」
リューナの操作で分離した隔壁に、わらわらとウンディーネが群がる。
レミリアの契約精霊だけでなく、リューナが呼び寄せた精霊もいる。
彼女たちに支えられた隔壁が神殿の入り口に向かう中で、俺はカガリに話しかけた。
「カガリ、メルディーヌさん、俺たちは中を調べるので、外を見張っててください」
(うん、でも気をつけてね、ご主人)
(なるべく早く帰ってくるざますよ。マイベイビーが悲しまないように)
彼女たちに見送られながら入り口をくぐると、その先には通路が広がっており、さらに前方に明かりが見えた。
そちらへ向かってしばらく進むと、少し広い場所になり、さらに上方が明るくなった。
どうやらこの上が空間になっているらしい。
ゆっくりそこで浮かび上がると、石造りの部屋に出た。
薄暗いが、壁がぼんやり発光していて見えないほどではない。
まるで迷宮のようだ。
俺たちは足場のある所に隔壁を寄せ、上だけ隔壁を消してそこへ降り立った。
「ふうっ、普通に呼吸もできるな」
「うむ、少し潮臭いが、わりと普通じゃのう」
「まあ、海神様の神殿ですからね」
「そのわりにはあまり、神聖って感じじゃないけどね」
チェインが言うように、何か重苦しい雰囲気は漂っていた。
まあ、外側が瘴気に包まれていたんだから、中も無事じゃないだろう。
「とにかくこの中を探索しよう。危険な敵がいるかもしれないから、油断しないようにな」
「はい、旦那様」
「はいです、兄様」
「フハハッ、久しぶりに腕が鳴るのう」
「全く、ここまでする必要があるのかねえ」
女性陣はチェインだけが疑問を口にするが、なんだかんだ言って付いてくるようだ。
そして眷属たちはやる気まんまんだ。
(フフフッ、主のためならどこまでもお供するぞ)
(ウフフフーッ、久しぶりの冒険だね~)
(フハハハハッ、主の敵は全て燃やし尽くしてやろう)
特にバルカンは過激だ。
ちなみに今は中型犬サイズのミニワイバーンになっている。
これでも火炎攻撃はできるので、戦力としては頼りになる。
「よし、それじゃあ出発だ」
みんなで陣形を組みながらジリジリと進む。
順番はサンドラとシルヴァを先頭に、俺とレミリアが2番手、チェインとリューナを挟んで最後尾をキョロとバルカンが守る形だ。
一応、シルヴァの探知能力は健在だが、どんなのが出てくるか分からないので慎重に進む。
しばらく進んでみて思ったのは、神殿の中は迷路みたいだってことだ。
いくつも分岐点があって、どちらへ進んだらいいか分からない。
仕方ないので、簡単な地図を作りながらしらみつぶしに探索していった。
幸い、それほど複雑な迷路ではない。
やがてシルヴァから警告が発せられたと思ったら、前方の十字路に何かが姿を現した。
「グルルルーッ」
獰猛な声を上げながら現れたのは、3頭魔犬だった。
以前、妖精迷宮で相手をしたことがある。
しかし、あの時の奴とはちょっと雰囲気が違った。
「あれって、ケルベロスだよな。だけど、なんか強そうじゃねえ?」
「たしかに以前、妖精迷宮で倒したのとは違うのう。しかし、言ってみればあれはまがい物よ。本物のケルベロスならさらに強いかもしれん。心して掛かるんじゃぞ」
「魔物に本物と偽物があるの?」
「迷宮の魔物はある意味、魔素で作り出されたコピーじゃからのう。この神殿が冥界につながっているとしたら、本物が出てきてもおかしくないのではないか?」
「マジかよ……」
チャッピーの言うことはもっともだ。
本物と偽物の間にどれくらいの差があるのか分からないが、ここは用心するべきだと思った。
しかし、そんな懸念を笑い飛ばす奴らがいた。
(心配するな、主よ。あれはそれほど大した存在ではないぞ)
(そうそう、僕らと大して変わらないよ~)
(うむ、我もそのように思う。妖精迷宮では役に立てなかった分、今ここで晴らしてみせよう)
そう言うやいなや、シルヴァ、キョロ、バルカンがケルベロスに向かっていった。
まずシルヴァが牛並みの暴風狼に変化し、敵に突っ込む。
しかしケルベロスも同等の体格を有し、さらに3つの頭で迎え撃った。
ケルベロスが3つの頭から炎を吐き出すと、シルヴァは軽々とそれを躱し、壁や天井を足場にして敵を飛び越えた。
後ろに回り込まれたケルベロスがそちらを向くと、今度は雷玉栗鼠に変化したキョロが雷撃を放つ。
バリバリバリーッという雷撃がケルベロスに命中すると、その体がビクンと硬直した。
さらにバルカンが火炎ブレスを吐き出すと、それが敵の頭のひとつに命中。
「ギャヒンギャヒンッ!」
ケルベロスが苦痛にのたうち回るが、俺の眷属たちは容赦しない。
シルヴァがその巨体を押し倒したと思ったら、残った2つの首のひとつを食いちぎった。
圧倒的な戦力差だ。
最後はキョロ渾身の雷撃を頭部に受け、ケルベロスはあっさりと息絶えた。
俺たちがその遺体に近づくと、キョロがすり寄ってくる。
(見た見た見た~、ご主人? ボク、活躍したよ~)
「あ、ああ、凄かったな。シルヴァもバルカンもよくやった」
頭をグリグリ押しつけてくるキョロを撫でてやると、シルヴァとバルカンが羨ましそうに注意する。
(こら、キョロ、主に手間を掛けるな。これぐらい当然のことだぞ)
(そうだぞ。いつもいつも主に可愛がられおって、けしからん)
おいおい、本音がダダ漏れだぞ、バルカン。
仕方ないので、素直でない2体も撫でてやった。
そんな眷属たちを見て嫁たちがぼやく。
「私たちがあれほど苦労したケルベロスを……」
「妖精女王が遠慮しろって言った理由が分かったのです」
「フハハハハッ、さすがは我が君の眷属たちよ。頼もしいのう」
「アハハハ、いろいろと常識が壊れるねえ」
その後、ケルベロスの遺体を確認すると、大きな魔石が発見された。
魔石を取っても遺体が残ってるところを見ると、やはり妖精迷宮のケルベロスとは違うようだ。
元々ここにいたとは思えないし、やはり異変の影響だろう。
それから半日ほど探索すると、何回かケルベロスに遭遇した。
大体は眷属たちが片付けたが、2体同時に出てきた時は俺たちも対応した。
幸い、妖精迷宮で対峙した経験があるので、あまり苦労しなかった。
探索しているうちに上階への階段を見つけ、その都度上へ上がる。
そして4階で俺たちは、奇妙な存在に遭遇した。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
思いつきで始めた続編ですが、書いていてあまり面白くならなそうだと感じています。
あまり構成を練らずに始めたのが原因ですね、はい。
そこで唐突で申し訳ありませんが、本作は一時更新を停止し、後日再開したいと考えます。
並行で書いている”俺の回りは聖獣ばかり2”の区切りがついてから、再開予定です。
中途半端なところで切ってすみませんが、しばしお待ち下さい。