9.瘴気を吹き飛ばせ!
更新速度が遅くてすいません。
本当は週2ぐらいにしたいんですが、筆が……。
海神に仕えていた亀 ポッポスから海底神殿の鍵を預かった俺たちは、異変の原因を突き止めるために行動した。
まず海底神殿に最も近い島まで移動し、カガリに乗り換えた。
カガリの後頭部にみんなが座り、それを魔盾イージスの隔壁で囲む。
隔壁は透明で外は見えるし、空気はチェインが風魔法で入れ替えてくれる。
そんな潜水魔法を披露したら、カガリママが驚いていた。
(うわ~、話には聞いてたけど、器用なことするざます。人間って面白いわねえ)
妙に感心するママを促し、海底神殿へ向かう。
1刻ほど海中を進むと、前方に黒い小山が見えてきた。
海底といえどそれほど深くないので、日の光は差しているのだが、それを全て吸い込んでいるようだ。
近寄ってみると、それはまるで雲のように不安定なものだった。
「あれが噂の瘴気か。たしかに何か、禍々しいものがあるな。メルディーヌさんは、あれ見てどうしたんですか?」
(即座に突っ込んだざ~ます。あんなの別に大したことないと思ったんだけど、その後の記憶がないざます)
うん、やっぱり脳筋なんだな。
しかし、そうなると不用意にあれに接触するのはまずいだろう。
「何か、あれを取り除く手がないかな? チャッピー」
「むう、それを儂に聞くか? 海のことはそれこそ、彼女たちに任せたらどうじゃ?」
「やっぱそうか……メルディーヌさん、あれをどうにかできませんかね? 突っ込むとかそういうのはなしで」
脳筋な答えしか想像できなかったのであえて避けていたのだが、仕方なく聞いてみる。
案の定、突っ込むとか言いそうだったので、先に釘を刺した。
するとちょっと悔しそうにしながらも、意外な答えが返ってくる。
(ぐぬぬ、それならわたくしの海流魔法を披露するざます。深海の女王の力、とくと見るざ~ます)
そう言うやいなや、彼女の体の周囲に水流が発生し、黒い瘴気に向かっていった。
そしてそれは雲を取り巻くように渦を巻き、瘴気を巻き上げようとする。
「おおっ、さすがは深海の女王」
「ふわ~、凄いのです」
(シルヴァの風魔法みたいだね)
(うむ、我よりも大規模な魔力を感じるな)
皆が褒める中、瘴気が動き始めたのだが、それは長く続かなかった。
(ぶは~っ、これ以上は魔力が続かないざます)
それはメルディーヌの魔力切れで、あっさりと中断してしまった。
期待させたわりにしょぼかったな、メルディーヌ。
しかし、それを見て奮い立つ奴もいた。
(ねえねえ、ママ。それってどうやるの?)
(はっ、ふがいないわたくしを馬鹿にしないざますか?)
(しないよ~。だってさっきの凄かったもん。だからあたしも手伝いたいんだ)
(なんて、なんていい子ざ~ます……だけど、あなたには魔力がほとんどないから、無理みたいねえ)
凄いと言われて大喜びしてるメルディーヌだが、そう簡単にできるわけでもないらしい。
たしかにカガリは水ブレスを吐くぐらいで、魔法のようなものを使ったのは見たことがないからな。
無理だと言われてしょげるカガリを見て、みんなが慰める。
「カガリちゃん、しょげないで。もっと大きくなったらできるわよ」
「そうそう、あまり気にしなさんなって」
しかし、そこにレミリアが疑問を投げかけた。
「この水の双剣を使えば、旦那様がサポートできるのではないですか?」
「ん? そういえば、炎の短剣でバルカンに魔力を分けたことあったな。試してみるか」
レミリアに水の双剣を借り、それをカガリに押し当てる。
「今、水の双剣を通して魔力を送ってるんだけど、分かるか? カガリ」
(ん~…………あっ、なんか入ってくるぅ。ふわぁ、しゅごいよこれ、ご主人~)
「こらっ、身悶えするな!」
彼女が初めての感覚に身悶えしたおかげで、俺たちが揺さぶられて参った。
しばらくして落ち着いたカガリに、魔力の使い方を教える。
昔、俺がチャッピーに習った方法を参考にしたんだが、意外に早く魔法が使えるようになった。
それは小さな水球を撃ち出す程度だったが、それを見たメルディーヌが大騒ぎする。
(ななな、なんざます、それ? マイベイビーがもう魔法を使ってるざます。わたくしなんて、魔法使うのに20年ぐらい掛かったのに。キーッ!)
「アハハ、まあ、俺らは妖精仕込みの特殊な練習をしてますから。それに、この魔剣の助けも借りてますしね」
(やっぱりその魔剣、ただものではなかったざますね)
(あたしのご主人は凄いでしょ、ママ。それで、さっきの魔法はどうやってやるの?)
(うーん、口で説明するのは難しいざ~ます)
その後、身振り手振りでカガリママが説明することを、みんなで読み解きながらさっきの渦巻き魔法を練習した。
なんでも、水に魔力を流し込んで、それを思うように動かすんだそうだ。
ちなみにママが魔法を使えるようになってから、この渦巻きを作れるようになるまでさらに30年ほど掛かったそうだ。
それを聞いたレミリアが、”それではママさんは一体、何歳なのですか?”と聞いたら、尻尾が飛んできた。
あぶねーじゃねえか。
どうやらシーサーペントでも歳が気になるらしい。
結局、その日は魔力切れになったので、近くの陸地へ移動して野営をした。
夕食はカガリが取ってきてくれた魚やら貝やらを焼いて食った。
そしたらそれをつまみ食いしたカガリママが気に入ってしまい、たくさん焼かされたのには参ったけどな。
まったく、マイペースなママさんだ。
翌日も渦巻き魔法の特訓をしたカガリは、ほぼそれを習得するに至る。
魔力を回復するためにもうひと晩野営をして、その翌日に改めて海底神殿へ向かった。
(いいざますか、マイベイビー。わたくしとタイミングを合わせて魔法を放つざますよ)
(うん、いいよ、ママ)
(それじゃいくざます。2連渦巻き!)
(ツインボーテックスぅ~!)
ママの放った水流に、カガリの放った水流が合流すると、それは凄まじい勢いで黒い瘴気に向かっていった。
ママ単独の渦巻きでは瘴気の一部をかき回しただけだったのに、今回はその全体を包み込んで持続している。
やがてそれはしつこい瘴気をかき乱し、周囲に拡散し始めた。
(ぐうぅ、まだまだ~)
(まだまだ~)
さらにママとカガリが気合いを入れると、瘴気の拡散が加速される。
もちろん俺も、水の双剣を通して魔力をカガリに注入中だ。
けっこうしんどい。
しかしその甲斐あって、やがて瘴気の中から神殿が見え始めた。
「やったぞ、カガリ。成功だ」
(う~~、魔力を使い過ぎて、頭がクラクラするぅ)
(わたくしも久しぶりに全力を振り絞ったざます。でも、その甲斐はあったざますね)
「ええ。メルディーヌさん、ありがとうございます」
こうして海底神殿を覆っていた瘴気が取り払われた。
しかし、神殿の中で何が起こっているのかを調べなければならない。
本当の冒険はこれからなのだ。