8.神に仕えたカメ
海底神殿の異変について調べるため、神に仕えたというカメの所までカガリママに案内してもらった。
そしてとある島をカガリママがどついたと思ったら、巨大なカメの頭が浮き上がってきたのだ。
なんと、この島が丸ごとカメだったらしい。
(なんじゃ、メルディーヌ。騒々しいのう)
(あら、もうくたばったかと思ってたけど、まだ元気そうじゃないの。今日はある人を紹介に来たざます)
(紹介? ここにおる人間どもか?)
ポッポスの頭が回転し、甲羅の上にいる俺たちを見た。
そこで俺は念話をイメージしながら挨拶してみた。
「ポッポスさん、こんにちは。俺は人族の冒険者 デイルと言います。海底神殿のことについて聞きたくて、メルディーヌさんに連れてきてもらいました」
(ふむ、多少は礼儀を知っておるようじゃな。何を聞きたいのだ)
「実は、海底神殿から闇の瘴気が漏れていて、周辺に悪影響を与えてるらしいんです。そうなった原因と対処法について、知っていたら教えてください」
そう言ったら、ポッポスの動きが止まった。
目の焦点が合わなくなって、まるで意識が途切れたかのようだ。
しばらく待ってみても、まるで動かない。
あまりに反応がないので不安になり、チャッピーに聞いてみた。
「チャッピー、あれって、眠ってるのか?」
「ん? いや、たぶん過去の記憶を掘り起こしているんじゃろう。神話級の存在ともなると、ああいうことも珍しくないんじゃ」
「やっぱこれって神話級なんだ?」
「それはそうじゃ。神に仕えておったんじゃぞ」
「珍しくないってことは、他にもああいうの見たことあるの?」
「フフン、伊達に旅はしておらんからの。最初の契約者と一緒に、古龍と会ったことがあるぞ」
チャッピーが珍しく、自慢げに胸を張った。
まあ、古龍とか、凄い珍しいだろうからな。
そんな話をしていたら、やがてポッポスが戻ってきた。
(おお~、そういえばそんな話を聞いたことがある。たしか、神殿には魔素の浄化機能があるんじゃが、それが損なわれると瘴気が出てくるとかなんとか)
(あの神殿にそんな機能があったざますか?)
(うむ、あの神殿の下には、冥界へつながる道があっての、放っておくと瘴気が溢れ出すんじゃ。しかし、あそこには管理者がおるはずじゃから、そんなことになるはずがないんじゃがのう)
「管理者? なんです、それ?」
(文字どおり、神殿を管理する者よ。たしかハイエルフが交代で当たってたはずじゃ)
「ハイエルフっ!」
思わずその言葉に大きく反応してしまった。
以前、妖精女王から俺のルーツにはハイエルフが絡んでいるんじゃないか、と言われたことがある。
それから手掛かりを探し続けていたが、一向に成果が上がっていない。
それがこんなところで関係してくるとは。
(なんじゃ、ハイエルフがどうかしたか?)
「いえ、ちょっと興味があって調べてるんですよ。もしいるんなら、会ってみたいと思って」
(ふーむ、それなら海底神殿に行ってみるがよかろう。本来、ハイエルフは天空郷にいるんじゃが、儂は陸のことは分からんからのう)
「天空郷……チャッピーは聞いたことないか?」
「むう、初耳じゃ」
新たな手掛かりを得てチャッピーに聞いてみたが、さすがの彼も知らなかった。
そうなると海底神殿が唯一の手掛かりになるが、ホイホイ行ってよいものか。
とりあえずその場にいる仲間に相談してみた。
「あのさ、俺、海底神殿に行ってみたいんだけど、絶対に何か起こってるよね? 管理者が倒れたとか、よそ者が入り込んだとかさ」
「うむ、冥界につながる道というのも気に掛かるのう」
「そうですね、メルディーヌさんみたいに狂暴化した魔物がいるかもしれませんし」
「うーん、私はあまり行きたくないのです」
「いや、でも原因を突き止めないと、また誰かが暴れるかもしれないよ」
「ハッハッハ、我が君が行きたいと言うなら、協力するぞ」
(我も協力したいが、あまり力にはなれぬかもしれんな)
(僕も同じかな~)
皆、消極的な意見だが、チェインが言うように、また第2のメルディーヌが現れるかもしれないのだ。
放ってはおけない。
俺はダメ元で海底神殿のことを、ポッポスにさらに詳しく聞いてみた。
「ポッポスさん、海底神殿って、中はどうなってるんですか? ハイエルフがいるんなら、空気があるのかな」
(ん?………………おお、たしかに中に入ると水がなかったのう。もう千年くらい昔なんで、忘れとったわ)
「どうやったら中に入れるんです?」
(中におる者が入り口を開くか、鍵で外から開けるかじゃな…………おお、そう言えば儂、鍵を持っとるかもしれん)
そう言ってポッポスの頭が海中に消えた。
しばらく待っていると、再び頭部が浮かび上がる。
(ほれ、これじゃ)
彼が頭を近づけると、その口に金属の板を加えているのが見えた。
受け取ってみると、それは本くらいの大きさで、ズシリと重い。
「これをどう使うと、神殿に入れるんですか?」
(入り口の前で掲げれば、扉が開いたと思うがのう)
「そうですか……ちなみに一緒に神殿に行くというのは、頼めませんか?」
(儂は大きくなり過ぎて中に入れんしのう。それにここから動くのは、もうおっくうなんじゃ)
「分かりました。それではこの鍵は預かります。今日はありがとうございました」
(何、神殿の問題を解決してくれるのなら、お安い御用じゃ。よろしく頼むぞ)
ポッポスはそれだけ言うと、また海中に頭を沈めてしまった。
また海中で瞑想でもするのだろうか。
「さて、なんだかんだ言って神殿に行くことになっちゃったけど、付き合ってくれるかな、みんな」
「もちろんです、旦那様」
「はいです、兄様」
「もちろんじゃ、我が君」
「まあ、仕方ないねぇ」
(海の中は苦手だが、できるだけ力を貸そう)
(我も主のためならば、労を厭わぬぞ)
(もちろんいいよ~、ご主人)
(やった~、またご主人と冒険だ~)
うむ、仲間は全員一致だな。
しかし、仲間じゃない者もいた。
「ところで、メルディーヌさんはどうします?」
(う~ん、わたくしはあなたの仲間じゃないけど、手を貸すざます。わたくしも神殿の瘴気に当てられたみたいだし、何よりマイベイビーが心配だから)
(あたしはもう赤ん坊じゃないよ、ママ)
(何言ってるざます。わたくしにとってはいつまでも赤ん坊ざます)
(そんなの横暴だ~)
結局、カガリ親子も手伝ってくれることになった。
俺たちはその晩、魔大陸の西海岸で野営をし、カガリママの話を聞いた。
2年前にカガリとはぐれた時の話だ。
2年前、産まれたばかりのカガリと一緒に暮らしていたママは、強敵の襲撃を受けた。
馬鹿でかいクジラの魔物だったらしいが、ちょくちょく縄張り争いみたいなことをしていたらしい。
普通なら生まれたばかりのカガリは丁寧に隠して戦うところを、奇襲されてその暇がなかったそうだ。
そんな状態で馬鹿みたいに戦ったもんだから、気がつけばカガリは流されて行方不明。
それで怒り狂ったママは、普通なら半殺しで帰すクジラ野郎をぶっ殺して、食っちまったらしい。
しかし、そんなことをしてもカガリは戻らない。
一応、彼女なりにあちこち探し回ったそうだ。
そうしてさすらった挙句、神殿の異変に気がついて赴くと、瘴気に当てられた。
その後の記憶は曖昧で、気がついたらカガリに起こされてたって顛末だ。
なんともまあ、大変な時間を過ごしてたようだな、カガリママは。
しかしこうして今は愛娘と一緒になれた。
そうすると、2年前にカガリを助けた甲斐があるってもんだ。
俺も神殿の異変の原因を突き止めるついでに、ハイエルフと会いたいものだが。