7.海底神殿の異変
すみません、遅れました。
異変調査で遭遇した黒い海蛇竜は、なんとカガリのママだった。
そして彼女が真っ黒になって暴れてた理由を聞いてみたら、どうやら心当たりがあるようだ。
「なんか心当たり、あるんですか?」
(あるざます。これは海底神殿の周囲に漂っていた謎物質ざ~ます)
「海底神殿って?」
(北の海には、海神ネプタルノス様を祀った神殿があるざます。本来なら海の中の澱みを祓い、平和を保つための神殿なのに、最近おかしくなってたざます。それで様子を見にいったらこの謎物質に囲まれて、そこから記憶があいまいなのざ~ます)
「メルディーヌさん、さっきまで狂ったように暴れ回ってたんですよ。ひょっとして北から魚や魔物が逃げてきてたのって、そのせいだったのかな」
(その可能性は高いですね。シーサーペントほどの魔物が暴れ回っていれば、大抵のものは逃げだしますから)
「ですよね~」
どうやら今回の騒動はカガリのママが原因だったらしい。
しかし彼女はそれを覚えていないらしく、何やら謎の瘴気に侵されて暴れていたようだ。
となると、問題はまだ完全に解決したことにはならない。
「今回の騒動の元はメルディーヌさんだとしても、原因は他にありそうですね。ところでイレーネさんは海底神殿の話って、知ってます?」
(はい、見たことはありませんが、噂はかねがね。我ら海に住む者にとって、聖地のようなものですね)
「ふむ、聖地なのに闇の瘴気に包まれてるのか……それは絶対、何か異変が起きてるよね」
「はい、成体のシーサーペントが狂暴化するほどの異変、とても見過ごせません」
「見過ごせないったって、あたしらに何ができるのさ? それこそ海の住人の領域だろ」
「え~っ、でもカガリちゃんにも影響あるかもしれないのです。それと人魚女王だって、絶対に頼ってくると思うし」
リューナの指摘でイレーネの方を見ると、コクコクと頷く彼女がいた。
まあ、そうなるだろうな。
「でも、実際に何が起こってるか分からないと、どうしようもないしな……メルディーヌさんは何か調べる宛とかないですか?」
(うーん、神の領域の話ざますからねえ…………はっ、そうざます。昔、ネプタルノス様に仕えていたとかいうカメがいたざます。あれなら何か、知ってるかもしれないざます)
「カメですか。それって、どこにいるんです?」
(この魔大陸の反対側ざます。わたくしが全力で泳いでも、2日は掛かるざ~ます)
大陸の反対側へ2日で行けるだけでも凄いけどな。
バルカンだったら1日で飛べるけど、それは何もない空を行くからだ。
さすがは深海の女王といったところか。
「そうですか。お手数ですけど、話を聞いてきてもらえたりします? 俺たちは足手まといになるので、お任せしたいんですけど」
(いやざます)
「そうですか、ありが、えっ、やっぱ駄目?」
(当たり前ざます。あなた、深海の女王に何させようとしてるざます。女王はそんなチマチマしたことなんて、しないんざます)
メルディーヌが、ドヤ顔で言いきった。
この脳筋野郎、単純にめんどくせーだけだろうが。
俺はちょっと考えてから、妥協案を提示した。
「それじゃあ俺たちもそこへ向かいますから、メルディーヌさんはそのカメを紹介してもらえませんか。ちなみに俺たちは空から追いかけますけど」
(最近の人間は空を飛べるざ~ますか?)
(違うよ、ママ。ご主人にはバルカンっていう飛竜の眷属がいるの。そいつに乗って飛ぶんだよ)
(あら、そうなの。それならわたくしより速いかもしれないざます。でも、別々に行って、どうやって連絡を取るざますか?)
「このつなぎ石ってのを持ってると、遠距離でも念話ができます。これがあれば、向こうでも連絡取れるでしょ?」
俺はレミリアに預けてあったつなぎ石を取り出し、差し出した。
(あっ、それならあたしがもらう~。あたしもママと一緒に行くから)
「お前、大丈夫か? 足手まといにならないだろうな」
なんかちょっと心配だったのだが、ママは大喜びだった。
(それはナイスなアイディアざ~ます。死んだと思っていた娘と旅ができるなんて、今日はなんて良い日ざましょう)
「あ~……分かりました。カガリに持たせますね」
俺は即座に反対は無意味だと悟り、カガリにつなぎ石を預けた。
それから少々、細かいことを伝えると、カガリとママは嬉しそうに旅立った。
あまりに喜び過ぎたせいか、凄まじい衝撃波を残して。
あれって、周辺海域にかなり影響を与えてるんじゃなかろうか。
深海の女王を名乗るぐらいなら、もっと落ち着けと言いたい。
まあ、そうは言ってもカガリのママだからな。
あまり深く考えてないんだろう。
それから3日間は、カガチの拠点で仕事をしていた。
さすがにカガリを連れてると速度も落ちるのか、それなりに時間が掛かったからだ。
そして翌日には到着するだろうと念話で聞いたので、俺もバルカンに乗って飛び立った。
同行者はレミリア、リューナ、チェインに加え、サンドラにシルヴァ、キョロまで付いてきた。
まあ、何があるか分からないので、戦力は多い方がいいだろう。
バルカンの抱える飛行箱に乗って1昼夜も飛び続けると、魔大陸の反対側へたどり着いた。
海岸に着陸してカガリに念話を送ると、返事が返ってきた。
(あ、ご主人、久しぶり。あたしたちはカメさんの所に向かってる途中だよ)
(今、どの辺にいるんだ?)
(ん~とね、もうじき魔大陸の最東端だって)
(ふ~ん、もっと北みたいだな。俺たちもそっちへ行くよ)
(りょうか~い)
つなぎ石のおかげでなんとなくカガリのいる方向は分かるので、俺たちもそちらへ移動した。
しばらく海岸沿いに飛び続けると、沿岸ではしゃいでいるシーサーペントを見つけた。
「メルディーヌさん、こんにちは」
(あら、思ったより早かったざますね。そのワイバーンがあなたのペット? なかなか可愛らしいざ~ます)
(ふん、ペットではない。主の忠実な戦士だ。丸焼けにしてやるぞ、この海トカゲ)
(お~ほほほ、できるならやってみるざます、この空トカゲ。その翼膜を切り裂いてやろうか)
案の定、バルカンとメルディーヌがいがみ合いを始めた。
亜竜同士でライバル意識があるのか、カガリとバルカンも仲が悪いのだ。
俺はため息をつきながら仲裁をする。
「はあ……あまり煽らないでくださいよ、メルディーヌさん。バルカンも気にするな。それで、件のカメはどこにいるんですか?」
(ふふん、まあいいざます。ポッポスはここから少し東に行った所にいるざます)
「分かりました。今から向かいましょう」
ポッポスってのが、海神ネプタルノスに仕えていたカメらしい。
それからメルディーヌの案内で、沖合へ向かう。
上から見てると、カガリが嬉しそうにはしゃいでいるのが分かった。
ママの周囲をバッシャンバッシャン跳ね回り、大きな波を引き起こしている。
おい、周りに迷惑だろうが。
たぶん、ここに来る間もあんな感じだったんだろう。
被害にあった生物には、申し訳ないとしか言いようがない。
犠牲者が少なければいいのだが。
そんなこんなで1刻ほど東へ向かうと、やがて小さな島が見えてきた。
小さなと言っても、バルカンが何匹も休憩できるような広さがあるし、ヤシの木も生えている。
俺たちがそこへ着陸して顔を出すと、ふいにメルディーヌが尻尾を振るい、ビシャーンと島をはたいた。
(起きるざます、ポッポス。久しぶりに会いにきたざ~ます)
一体、何をするのかと思っていたら、ズゴゴゴゴッと島が振動し始めた。
やがて島の脇から何かが浮上してきて、海上に浮かび上がる。
(なんじゃ、メルディーヌ。騒々しいのう)
それは、巨大なカメの頭だった。