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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
第2部 海中探索編
50/82

5.黒いシーサーペント

 北の海の調査に出かけた俺たちは、快適に旅を続けていた。

 昼間は人魚たちが散開して調査する後ろを付いていき、夜になると近くの陸に上がって野営をした。

 ずっと俺と一緒にいられるカガリは上機嫌だし、レミリアやリューナもいるから俺も退屈しない。


 そして予定では最後の5日目も、特に異変なく終わりそうだった。


「とうとう今日で終わりですけど、異変ありませんね」

(いいえ、本来はもっと北方にいる魚たちを多く見かけます。間違いなく異変は起こっているのです)


 念話で答えてくれたのは、イレーネという古参の人魚だ。

 古参だけあって知能が高く、俺との使役契約によって意志の疎通が取れるようになってる。

 しかし彼女からすると、今の状況は異常らしいのだ。


「ふーん、そうなんですか。そのうち何か――」

(あっ、先行している部隊から連絡がありました。何か大きな魔物と戦闘に入ったようです)

「大きな魔物ですか?……まあ、カガリもいるからなんとかなるかな」

(任せてよ、ご主人。あたしの強いとこ、見せちゃうから)

「そういうところが信用できないんだけど、無視はできないな。イレーネさん、案内してください」

(はい、付いてきてください)


 イレーネに従い、速度を上げるカガリ軍団。

 すると、チェインが不安の声を上げる。


「そんな巨大な魔物なんて、大丈夫かね? あたしらは海の中じゃ何もできないよ」

「まあ、そうなんだけどな。いざとなったら、この隔壁をカガリから分離できるよな? リューナ」

「はい、できるのです」

「なら、戦いはカガリたちに任せて、俺たちは後方で見てようぜ。無理することはないって」

「でも、もしカガリまでやられたらどうするんだい?」

「そんな不吉なこと言うなって……まあ、もしもの時はリューナにどでかいのぶっぱなしてもらって、逃げるとしようぜ」

「それはちょっと怖いねぇ。あたしらも巻き込まれないかい?」

「もうっ、私だって今ではけっこう制御できるんですよ」


 そんな無駄話をしているうちに、前方が騒がしくなってきた。

 暗くてよく見えないが、たしかに何かが暴れているらしい。

 やがて、蛇のように細長い何かが見えてきた。

 それはまるで、カガリを黒く大きくしたような存在だった。


「おい、あれって、海蛇竜シーサーペントだよな? カガリ、お前の知り合いか?」

(ん~? 分かんな~い)

(たしかにあれはシーサーペントですね。体の色は真っ黒ですが。それにしても大きな個体です。おそらくかなり高齢かと)


 イレーネがいろいろ解説してくれたが、そのシーサーペントが暴れ回っていた。

 多数の人魚や半魚人サハギンがまとわりつくのを嫌って尻尾を振り回し、水のブレスを吐き出している。

 その様はまるで狂ったような暴れ方で、とても近くに寄れない。


 しかし、それに闘志を燃やす奴がいた。


(あいつ~、好きなように暴れやがって~。この辺の女王はあたしなんだぞ~。ご主人、ちょっとやっつけてくるから待ってて)

「おいおい、大丈夫かよ。向こうの方がお前よりでかいぞ」

(ん~、手下もいるからなんとかなると思う~。とにかくあたしから離れてて~)

「うーん、仕方ないか。リューナ、隔壁を分離してくれ」

「はいです、兄様」


 リューナの操作で、海水を締め出してる隔壁がカガリから離れた。

 すると卵状の隔壁が浮き上がり始めたので、すかさずレミリアのウンディーネに押さえてもらう。

 そのまま海中に留まって見ていると、カガリとその仲間が敵の黒いシーサーペントに向かっていくのが見えた。


 まずカガリが正面から突っ込んでいくと、敵とつかみ合いになった。

 つかみ合いというか、互いの蛇体を絡め合って噛みつこうとしている。

 しかし、敵の方が何割か体が大きいため、カガリが不利だ。


 そこで配下の針海豹ニードルシール鋭刃鮫ブレードシャーク喋海豚チャットドルフィンなどが、黒サーペントに向かっていく。

 カガリよりさらに小さいが、数十匹が束になると、それなりの力になる。

 チマチマ黒サーペントにまとわりついていたら、やがて敵がキレた。


「ググガガガガガーーーッ」


 さっきまでも凄い暴れ方だったが、今度は狂ったように暴れはじめた。

 体をメチャクチャに振り回し、水のブレスを吐きまくる。

 敵に取りついているカガリも、かなり苦しそうだ。


(ぐうう~っ、このままじゃ敵わないよ、ご主人~。なんとかして!)

「海の中で海獣のケンカに割り込めとか、アホかお前は? でもこのままだと、カガリがヤバいな。何か手がないものか……」


 考え込む俺に、レミリアが提案をしてきた。


「旦那様、水の双剣の力で、頭を凍らせてみてはどうでしょう? 以前、大型魔物で効果がありました」

「ん? そういえば、そんなことがあったな」


 以前、遭遇した地竜があんまりタフだったもんだから、頭を丸ごと氷漬けにしたことがあった。

 さすがに竜種だけあってそれだけでは死ななかったが、気絶させることはできたので、今回も期待できる。


「よし、その手で行くか。カガリ、お前と配下はそいつの頭の動きを止めろ。一瞬でいいからな。そしたら俺とレミリアでとどめを刺す」

(う~~っ、大変だけど、なんとかするう~)

「任せる。リューナは、俺とレミリアを隔壁から切り離してくれ。レミリアは呼吸できないけど、我慢できるか?」

「しばらくの間なら耐えてみせます、旦那様」

「気をつけてくださいね、兄様。切り離しますよ~」


 ふいに俺とレミリアが海中に放り出された。

 俺の方は水精の衣に身を包んでいるからすぐに順応できたが、レミリアは生身だ。

 しかし、彼女はウンディーネと契約しているから、案外大丈夫そうだ。


 そしてレミリアが俺の腰を抱え、水中を突き進む。

 その先には暴れ回る黒サーペントがいた。

 カガリとその配下が、渾身の力で敵を押さえ込もうとしている。

 やがてその努力が報われ、わずかに敵の頭が止まった。


 その瞬間を待っていた俺は、レミリアの双剣に魔力を流し込んだ。

 そして黒サーペントの頭部を覆う形で、瞬間凍結魔法を行使する。


 ビキビキビキッ。

 そんな勢いで敵の頭部が氷に包まれると、やがて敵が動かなくなった。

 やがてゆっくりと、そいつが浮上し始める。


(カガリ、そのままこいつを海上へ運んでくれ)

(りょうか~い。さすがご主人だね、簡単に倒しちゃった~)

(いや、こいつはまだ気絶してるだけだからな。気をつけろよ)

(あ~い)


 カガリが敵を抱えたまま浮上し始めた。

 俺とレミリアもそれに便乗すると、さほど掛からずに海上へ出ることができた。

 リューナとチェインも続いて現れた。


「さて、こいつはどうしようか? とりあえず息の根を止めて、近くの陸で解体するかな」


 そう提案した途端、カガリが猛烈に反対してきた。


(待って待って、ご主人。このシーサーペント、あたしのママかもしれない)

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新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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