4.人魚女王からの依頼
船の遭難問題が落ち着いてしばらく後、カガチを人魚女王が訪れていた。
彼女は最近、俺たちの出すお茶に味を占め、しばしば訪問するようになってるのだ。
最初は人魚が地上でお茶を?と思ったが、彼女は女王というだけあって平気で地上でも活動できるんだな。
別にいつも俺が相手をするわけじゃないんだが、今日はたまたま暇だったので茶飲み話に付き合う。
「最近の海の中はどうですか? カガリの奴がまた迷惑を掛けてないといいんですが」
「いいえ、最近はカガリさんも友好的ですよ。暴れん坊さんたちも、すっかりおとなしくなっちゃって」
「そいつはよかった。ならこの辺の海は、なべて平和ってことですね」
すると女王は、何か気に掛かるような顔をした。
「それが必ずしもそうじゃないの。最近なんだか、普段はあまり見かけない魚を見るようになったのよね」
「へー、海流の変化でもあったんですかね?」
「うーん、その可能性もあるけど、どちらかというと何かから逃げてるような感じね」
「それは、何か危険な魔物とか、大食らいの魔物が近くに来たとか?」
「その可能性はあるわね。まだ私たちの活動範囲には入ってないけど、来たら困っちゃうわぁ」
そう言いながら、上目遣いに俺を見る女王。
瞳の白目部分がなかったりと、人間の美女とはけっこう違うのだが、媚の売り方はなかなか堂に入ったものだ。
豊満な体をくねらせながら俺を誘う仕種が、またあざとい。
「ははあ、今日はやけに俺に会いたがると思ったら、その話でしたか?」
「うふふっ、そんな実も蓋もないこと言わないの。ただちょっと、力を貸して欲しいかなあ~って思って」
ペロリと舌を出す仕種がまたかわいいのだが、それぐらいで便利に使われては敵わない。
「まあ、原因が分からないんじゃ、どうしようもないですよね。何か事が起こったら、相談に乗りますよ」
「え~っ、のんきに構えてて被害が出たら嫌じゃない。だからお願い。手を貸して」
「手を貸すって、何するんですか?」
「ちょっと北の方へ調査隊を出そうと思うの。だけど私たちだけじゃ心細いから、護衛をお願いしたいのよ」
そう言う女王自体はそこそこの強者だが、並みの人魚や半魚人は弱い部類だ。
女王自ら調査に出るのも不用心なので、カガリの配下を護衛に欲しいって相談だった。
さて、どうしようかね。
「うーん、カガリを護衛に出してもいいけど、あいつは食いしん坊だからなぁ。何か報酬を……」
「もちろんそれは考えてるわ。最近、真珠を集めてるから、それを20個でどう?」
「調査が終了した時点の成功報酬ですか? 何日掛かるか分かりませんよね?」
「うーん、それなら5日で引き返すとして、それ以降は1日につき真珠5個でどう?」
「ふむ……まあ、いいでしょう。カガリに相談してみますよ」
「よろしくね」
その時は気楽に引き受けたが、思わぬ障害があった。
「だからさ、戻ってきたらいっぱい食わしてやるし、遊んでやるから」
(嫌だ。ご主人と一緒じゃなきゃ行かないもん)
カガリが俺にも付いてこいと言うのだ。
なんかまた、俺と一緒に冒険がしたいらしい。
しかしそんなことに5日も付き合うほど、俺も暇じゃない。
なんとか説得しようと試みたが、難航している。
するとチャッピーが面白いことを教えてくれた。
「そういえば、リューナとチェインが水に潜る魔法を研究しとったぞ。デイルと一緒に海に潜りたいとか言っての」
「へー、そうなのか? そういえば、魔盾イージスを貸してくれとか言われたな。ちょっと聞いてみるか」
リューナたちを探して、話を聞いてみた。
「リューナ、チェインさん。海に潜る魔法って、もう使えるのか?」
「え、なんで知ってるの? あ~、チャッピーが喋ったのね。兄様を驚かせようと思ったのに~」
「そうだったのか? ちょうどデイルがまた潜りそうだったので、喋ってしもうたわ」
「えっ、デイルさん。また海に潜るのかい?」
「ああ、マーメイドクイーンから北の海の調査を頼まれたんだ。カガリに護衛を頼もうと思ったら、一緒じゃなきゃ嫌だって言われてさ」
「そうなんだ。リューナ、ちょうどいいんじゃないかい?」
「え、まあ、たしかにほとんどできてるけど……」
なぜか自信なさげなリューナ。
「どんな魔法なんだ?」
「ああ、リューナがイージスの障壁で、水の中に空間を作るんだ。そしてあたしが空気を補給する役目。これなら複数の人間で海に潜れるだろ?」
「へー、面白そうだな。みんなで海底散歩と洒落込むってわけか」
「そうなんだよ。これをカガリの上で実現できれば、調査にも役立つんじゃないかな?」
「よし、それなら試してみようぜ。とりあえず外へ行こう」
俺はリューナ、チェインを港まで連れていくと、カガリを呼び出した。
(なになに~、ご主人。一緒に調査に行ってくれるの~)
「ああ、実はリューナが海に潜る魔法を開発しててな。これが上手くいったら、一緒に行ってもいいぞ」
(やった~。2人っきりじゃないのは残念だけど、ご主人と冒険できるならいいよ~)
「よし、それじゃあリューナ。試しにやってみてくれ」
「はいです、兄様」
それからまず、リューナがカガリの背中に乗り移って、障壁を展開した。
ちょっと海に潜ってみても大丈夫そうだったので、今度は複数人が乗れるかを試してみる。
すると、当然のようにレミリアも加わってきた。
「えっ、なんでレミリアさんが?」
「旦那様の護衛も必要でしょう? 私なら水精霊と契約しているので、いざという時にも動けますよ」
ニッコリと笑いながら言いきる彼女を止められる者は、そこにはいなかった。
結局、レミリアも実験に加わることになる。
カガリの頭部の少し後ろに俺、チェイン、リューナ、レミリアの順に座り、障壁を展開する。
「お、本当に水が入ってこないんだな。しかも障壁がカガリにピッタリくっついて安定してるし」
「はい、カガリちゃんと障壁が共存できるか心配だったけど、なんとかなるみたいです」
「そうそう、そして呼吸する空気はあたしが作ってるからね」
「うん、それじゃあ、ちょっと潜ってみようか。カガリ、頼む」
(きゃっほ~い、それじゃ行くね~)
「馬鹿、最初はゆっくりだ!」
そんな注意も無視してカガリが急に潜ったが、意外に大丈夫だった。
水精の衣を着て潜った時は水の抵抗がけっこうあったが、これなら海上と変わりない。
それからしばし海中の旅を楽しみ、異常がないことが確認できた。
これだけ快適に旅ができるなら、今回の調査行に加わってもいいだろう。
結局、夜は最寄りの陸上で野営することを条件に、カガリと一緒に出かけることに決めた。
まあ、かつてない経験だから、たまにはいいだろう。
そして翌日、簡単な野営道具を持って俺たちは旅立った。
メンバーは昨日と同じで、それに複数の人魚や半魚人と、カガリの手下がいくつか付いてきた。
今回は探索メインなので、動きのいい針海豹、鋭刃鮫、喋海豚が同行している。
さて、どんな旅になるかな?
こちらの作品もよければご一読ください。(毎日更新してます)
”俺の周りは聖獣ばかり2~世界帝国が攻めてくるようです~”
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