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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
第2部 海中探索編
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3.人魚たちとの和解

(ようこそ、人族の勇者。私が人魚女王マーメイドクイーンのナターシャです)


 乱闘の最中に親玉とおぼしき人魚の前にたどり着くと、相手が念話を送ってきた。

 しかも人魚の女王ときたもんだ。


(こんな形で押しかけてしまってすみません。俺は冒険者のデイルと言います)

(ウフフ、乱暴な人族にしては、礼儀正しいのですね。今日は何用ですか?)


 彼女がすぐ近くまで来たので、改めてよく見ると美しい女性だった。

 真っ白な肌に長い金髪がまとわりついていて、ひどく艶めかしい。

 しかしその顔立ちは優れて美しいのだが、白目の無い青い瞳が人との違いを感じさせる。


 頭にはシンプルな冠を、胸には貝殻を加工した胸当てブラジャーを身に着けている。

 そして腰から下は足ではなく、青銀色の鱗に覆われた尾びれになっていた。

 しばらく彼女に見とれていたら、怪訝な顔をされた。


(これは失礼。つい女王の美しさに見惚れてしまいました。それでこちらの要件なのですが、最近頻発している船の座礁事件についてです)


 すると、やはりという表情で女王がため息をついた。


(やはりそうでしたか。むやみに船を沈めないよう注意はしているのですが、人間の食料に味を占めてしまい、私の制止もいき届かないのです)

(はあ……それでは船を沈めている事は、お認めになるのですね)

(ええ、それは認めますが、そちらにも責任はあるのですよ)

(我々の責任、というと?)

(そもそも、そちらの海獣たちが我らの漁場を荒らしたために、我らは遠くまで食料を探しに行かなければならなかったのです。さらに好奇心旺盛な子供が船の航路に近づき、人間に襲われたのが事の発端です)

(え、ちょっと待ってください。今、こちらの海獣が漁場を荒らしたと言いましたか?)

(ええ、まさにそこにいる海蛇竜シーサーペントの一味がこの周辺を荒らしているのです)


 俺はまさかと思ってカガリを見ると、彼女がサッと目を逸らした。

 お前かっ!

 お前が原因なのか~?


(カガリ、ちょっとこっちに来い)


 俺が手招きすると、彼女が渋々と近づいてきた。


(女王の言うことは本当か?)

(え~、たまにこっちへは来るけど、食べ尽してなんかいないよ)

(残念ながら、この子がちょくちょく来るために、この辺りには大きな魚がいなくなりました。おかげで私たちは、ここから離れた場所まで行かなければならなくなったのです。そして半年ほど前に人間の航路に近づき過ぎた子供が襲われ、一族の者が激怒したのです)

(それで人魚の歌で船をおびき寄せ、座礁させたんですか?)

(そうです。普通ならそれだけで終わるところだったのですが、その時に手に入れた食料に味を占めてしまい……)

(その後も船の襲撃が止まらないと……)


 それが本当なら、彼女たちだけを責めるのは酷というものだ。

 ましてや、うちの食いしん坊カガリが絡んでいるとなれば、他人事ひとごとではない。


(なるほど、いくつかの不幸が積み重なったようですね。しかし、このまま襲撃を続けていれば、いずれ人間も軍隊を差し向けてくるかもしれませんよ。そうなると、あなたたちの犠牲も増えるでしょう?)

(そうですね。あなたのように話し合いを優先する人ばかりではないでしょう)

(ご理解に感謝します。それで、この大食らいに近辺での食事を控えさせれば、問題は解決しますか?)

(それはとてもありがたいのですが、難しいかもしれません。船を沈めれば美味しい物を食べられる、と考える者もおりますから)


 やっぱりか。

 人の味を覚えた魔物は厄介だって聞くからなあ。


(しかし人間が食われてると知ったら、我らも黙ってはいません。人食いの魔物を絶滅させようと、意地になって攻撃してくるでしょう)


 そう伝えた途端、女王は心外だという表情で強く否定した。


(ええっ、私たちは人間を食べたりはしませんよ。船に積まれている食料を奪って食べているのです。最近は新鮮なお肉や果物が多く、あの味を思い出すとまた食べたくなるようで……)

(あれっ、座礁した船の乗員はどうしてるんですか?)

(何もしません。彼らが溺れるか逃げるかした後に、船の中から食料や武器などを奪うだけです)


 アチャー、勘違いしてたわ。

 俺はてっきり人魚や半魚人サハギンが人間の肉を食らっているのかと思ったが、積荷の食料の方だったとは。

 これって、鮮度維持食品の輸出が増えて、それに味を占めたってことだよね。


(それは失礼しました。なるほど、陸上の肉や果物が食べたいんですね。それなら私の方で準備できますよ。もちろん、対価は頂きますが)

(対価には何を望むのでしょう?)

(そうですねえ……具体的なことは仲間と相談しなければいけませんが、人間が好きな海鮮物や宝飾品が考えられます。例えば、今あなたが身に着けている真珠は価値が高いですね)


 そう言いながら、女王のブラジャーに付いている真珠を指差した。


(これですか? 我々にとってはさして珍しくもありませんが)

(人間にとってはそれなりに貴重なんですよ。その様子だと、他にも良い物がありそうですね)



 人間が喜びそうな物をひととおり女王に説明してから、すぐにカガチへ舞い戻った。

 そしてケンツとケレスを呼び、今後の進め方を相談する。


「というわけで、今回の騒動はカガリたちの漁場荒らしが遠因となって、人間から人魚への攻撃があったらしい。それに人魚側が報復した時に、鮮度維持食品を手に入れて味を占めたんだ。その後も食品欲しさに襲撃を繰り返していたってのが、真相だな」

「……なんとまあ、俺たちも無関係じゃなかったんすね」

「そうだ。だから今後、カガリには無計画な狩りを禁じる」


 すでにカガリにはたっぷりお説教をしてあるが、改めて念話で彼女に命じた。


(ごめんなさ~い。でもお魚食べちゃダメなの~?)

「もちろん何も食べるなとは言わない。だけどお前たちが何も考えずに食いまくると、それで迷惑する者がいることをしっかり理解しろ。食べる所をこまめに変えればいいだろう」

(分かった~)


 カガリが納得したようなので、商売の話に移る。


「それで、人魚への攻撃は総督に言ってやめさせるが、人魚側は今後も新鮮な食料が食いたいそうだ。これを無理に押さえつけると、勝手に船を襲う奴らが出てくるから、俺たちから供給してやることにした。もちろん対価はもらうけど、その辺の条件はケレスが考えてくれないか」

「まあ、商売になるならやるけど、具体的にはどうなの?」

「こんなレベルの真珠なら簡単に手に入るらしいから、こういうのとの物々交換だな。他にもサンゴとか価値のありそうな物を、探して持ってくるよう言ってある。それからこの町やトンガで需要のありそうな海鮮物を調べて、それを取ってきてもらうのもアリだな」


 もらってきた真珠を見せながら構想を説明すると、ケレスも食いついてきた。


「ヒューーッ、それは今までにない商売ができそうだね。ところで向こうは女王が交渉に出てくるの?」

「いや、さすがに毎回女王が来るわけにはいかないから、それなりに知性を持った古参の人魚が交渉担当になる。ただし念話能力がないから、俺の使役術を受け入れてもらうことにした」


 その他にも細部を詰めてから、今度はトンガの総督に会いにいった。



 ドラゴの馬車に乗って総督府へ赴き、用件を告げると総督はすぐに会ってくれた。


「おお、デイル殿。また1隻、難破したらしいのだが、調査の方は進んでおるか?」

「もちろん。すでに原因を突き止めて対策を準備してますよ」

「本当か? さすがデイル殿だ。それで、何が原因だった?」

「事の発端は、交易船に乗っていた者が人魚を攻撃したことらしいんです。それに怒った人魚とサハギンが、例の岩礁に船を誘い込んで座礁させてたってのが真相でした」


 カガリが漁場を荒らしたのも原因のひとつだが、それは分かるはずがないので伏せておく。

 損害賠償とか求められたら厄介だからな。


「なんだと? 魔物の分際でけしからんな。人魚の討伐を計画するか……」

「海の中の魔物をどうやって討伐するんですか? 絶対に割に合いませんよ」

「むう、しかしそうでもしないと、また船が沈められるだろうが」

「人魚が何回も船を沈めたのは、彼らが積荷の鮮度維持食品に味を占めたからなんですよ。だから同じような食い物を供給してやれば、2度と船は襲いません。これについては、俺が人魚と取引きする準備を進めています」

「人魚と取引きだと? そんなもの、本当に成り立つのか?」

「真珠とかサンゴみたいな物と交換するんですよ。それなら互いに利益がある」

「さすが商人、ちゃっかり儲けるつもりだな?……しかし、本当にそれで船の遭難はなくなるのか?」

「悪さをしたら取引きを中止すると言えば、もうやらんでしょう。逆に船乗りの方にも、人魚やサハギンを襲うなって通達を出してください」

「それでもまた再発したら、どうする?」

「その時は俺がきっちり調べて、人魚側に過失があれば罪を償わせます。ただしそれをやるからには、人間が人魚に危害を加えた場合の責任も問いますよ」


 そう言うと、総督が考える顔になった。


「魔物相手に罪を問われるのも業腹ごうはらだが、それで航路の安全が保たれるのなら仕方ないか……具体的な処罰については、あとで案を持ち寄って決めるとしよう」

「さすが総督、話が早くて助かります」



 こうして謎の遭難事件は、人間と人魚の間で協定を結ぶという形で解決を見ることになった。

 この協定に反発する者はそれなりにいたが、総督府が毅然と対応したため、それなりに効力を発揮している。

 人魚やサハギンの方もしつこく言い聞かせたおかげで、船を襲う者はいなくなった。


 ちなみに原因のひとつであるカガリも人魚たちと和解し、最近は共生を考えるようになっている。

 まだまだガキな彼女だが、しっかりと考えて真の海の女王になって欲しいものだ。

 さすがに海の中までいちいち面倒は見きれないからな。


 もっとも、あれからちょくちょくマーメイドクイーンが来るようになったおかげで、海の情報も入るようになったんだけどな。

今日の投稿はここまでです。

以後、毎週水曜日に投稿していきます。

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新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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