1.謎の遭難事件
とりあえず冒頭3話は以前投稿していた話を改稿したものです。
なので今日中にまとめて投稿しますが、以降は週一更新となります。
並行して書いてる”俺の周りは聖獣ばかり2”に注力するためなので、ご理解をお願いします。
西部同盟の名誉大使もやりながら、それなりに忙しい日々を送っていたある日、カガチに意外な訪問者が現れた。
「え、トンガの総督が訪ねてきたって?」
「そうなんすよ、兄貴。ぜひ相談したいことがあるからって言ってます」
カガチの拠点責任者であるケンツを通して、面会依頼があったようだ。
「珍しいことがあるもんだな。今は暇してるからいいぞ」
「それはよかった。応接室で待たせてますから、一緒に来てください」
ケンツに促されて、応接室へ向かう。
応接室に着いてドアを開けると、総督の顔が見えた。
「これは総督、お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな。それにしても、なんだここは? また大きくなっとるじゃないか」
そうなのだ。
今、このカガチにはリーランド王国の人間だけでなく、魔大陸の住人も入ってきてどんどん膨張しているのだ。
これも俺があちこちで商売していることを聞きつけた各集落の有力者が、自分の子弟に修業させてくれ、と送りつけてくるせいだ。
実際に修業が主目的で来ている奴らもいるのだが、ほとんどは同盟の影番と呼ばれる俺と関係を持つのが狙いだ。
最初は面倒臭いので断っていたのだが、名誉大使という立場もあって、全ては断りきれなかった。
一旦受け入れてしまうと、雪崩をうったように希望者が殺到し、みるみるうちにこの町の住人が膨れ上がったってわけだ。
ただし使えない奴はすぐに追い返すので、ここにいるのは優秀な奴ばかりだ。
おかげで商売の方は順調で、売り上げはどんどん増えている。
そこで儲けの一部を惜しみなく同盟に還元したら、ますます俺の声望が高まって修業希望者が増える、という悪循環だ。
なんとか歯止めを掛けたいのだが、今のところ妙案はないのが実情だ。
「ええ、お陰様で商売が繁盛してまして」
「いくら商売繁盛といっても、限度があるだろうに……」
「そういう総督だって、かなり羽振りがいいらしいじゃないですか。魔大陸産の食料貿易に食い込みたい商人が、連日通って総督に貢いでいるって、もっぱらの噂ですよ」
「ブホッ……人聞きの悪いことを言うな。交易量が増えてそのやり繰りに大変なんだぞ」
奴隷貿易の代わりに提案した鮮度維持食品の輸出は大当たりし、今やトンガの主力商品になっている。
精霊術で1ヶ月経っても新鮮なままの肉や果物は、人族社会で大きな需要を喚起し、常に供給が不足しているほどだ。
「それで、お忙しい総督がなんの御用ですか?」
「そうだ、今日は折り入ってデイル殿に相談したいことがあってな……実は最近、交易船の遭難が増えておるのだ」
「遭難、ですか。それは大変ですね」
遠く離れた人族の大陸と行き来する船は巨大で高価なものだし、多くの船員も乗せている。
巨大な帝国にとっても頭の痛い問題だろう。
「以前はめったになかったのが、最近は月に1件以上発生しているのだ」
「原因は分かっているんですか?」
「西に半日ほど進んだ岩礁地帯で発生していることだけは分かるのだが、原因はさっぱりだ。岩礁は遠くから見えるし、暗礁の調査も進んでいるから、普通なら避けるはずだからな」
「生き残った人は?」
「座礁して救命艇で逃げてきた者は多い。しかし、気がついたら座礁していて、なぜそうなったか分からんと言うのだ」
「ふーん……それは、魔物か何かが関わってるのかもしれませんね」
「やはりおぬしもそう思うか? 儂もそんな気がしたので船を1隻、調べにやったのだ」
「どうなりました?」
「何も見つけられずに座礁して、救命艇で逃げ帰ってきおったわ」
総督がガックリとうなだれる。
「へー、それで俺にどうしろと?」
「おぬしの方で改めて調査してくれんか?」
「すでに調査失敗してるのに、なんで俺が?」
「おぬしは魔物とか魔族に強そうだからな。サキュバスクイーンとも懇意にしてるらしいじゃないか」
「そりゃまあ、多少はそういう付き合いもありますけど、海は全くの専門外ですよ」
「中型の交易船で商売もしとるんだろう? もうおぬししか、頼れる者がおらんのだ。頼む」
俺しかいないって、どういうことだよ。
また船を座礁させるのが嫌なだけじゃないのか?
そう思ったが、けっこう必死なので追及はやめておいた。
海蛇竜のカガリを味方に付けている俺が、この手の調査に最適なのも事実だろう。
「仮に調査を受けるとして、報酬はどうなります?」
「原因の調査に帝国金貨20枚、もしその原因を排除してくれれば、さらに20枚払おう」
「もし船を沈められたりしたら、補償はしてもらえるんですか?」
「いや、船と船員はこちらで準備するから、調査に集中してくれればいい」
ふむ、それなりに考えてはいるようだな。
船が必要な時は手を借りるか。
いずれにしろ、カガリを入れて方針を相談した方がいいな。
「分かりました。やり方は仲間と相談するので、またこちらから連絡します」
「おお、受けてくれるか。さすが同盟の名誉大使殿は、義侠心にあふれているな」
調子のいいこと言いやがって、このおっさん。
しかしまあ、彼には奴隷貿易廃止で力になってもらったから、手を貸してやるか。
総督を帰した後、ケンツとケレスを呼んで相談をした。
チャッピーとレミリアはいつも俺の側にいるので自動参加だ。
さらに海の中で待機しているカガリにも、念話で参加してもらう。
俺は簡単に総督からの依頼内容を説明し、意見を求めた。
「というわけで、トンガの総督から頻発する遭難の原因調査を依頼された。どうも話からすると、魔物か魔族が裏にいるような気がするんだけど、どうかな?」
「それは魔物の可能性が高いね、ご主人。人魚とかセイレーンて奴が、船を惑わせるって聞いたことがあるよ」
「このカガチでも、船乗りがそんな噂をしてるらしいっすね。そのくせ、誰も見た者はいないみたいだけど」
「ふーん、人魚とかセイレーンってのがいるのか……カガリ、この辺にそういう魔物はいるのか?」
ここでカガリに話を振ると、すぐに念話が返ってくる。
(人魚ならたまに見るよ~、ご主人)
「人魚はいるのか……まあ、まだ決めつけるには早いけど、その可能性は考慮に入れておくか」
「そうだね。とりあえずあたいは配下の船乗りから情報を集めるよ」
「うん、ケレスの方はそれで頼む。あとは現地の調査をカガリに頼みたいんだが、できるか?」
(どうすればいいの~?)
「西の岩礁は分かるよな? あそこに交代で見張りを置きたいんだ。たしか、カガリには部下がたくさんいるんだよな?」
(うん、いっぱいいるよ。妖海馬とか、針海豹とか、鋭刃鮫なんかはけっこう強いよ~)
「うーん、できれば目立たなくて、頭のいい奴がいいな」
(それなら幽霊蛸とか喋海豚にお願いするね。遭難した船は助けなくていいの?)
「ああ、魔物に助けられても困るだろうから、見張るだけでいいや。もし犯人が分かったら、その住み家も分かるといいな。無理はしなくていいけど」
(分かった~。今からお願いしてくる~。うまく見つけたらご褒美ちょうだ~い)
「ああ、魔力でも食い物でも好きな物をやるぞ」
(やった~)
カガリが嬉しそうに、カガチから離れていく気配がした。
「まあ、とりあえずできるのはこんなとこか」
「そうじゃのう。しかし、もし人魚が悪さをしていたら、どうやってやめさせるんじゃ」
「それは何か分かってから考えればいいよ。変に先入観を持たない方がいい」
「それもそうか」
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