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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
魔族介入編
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閑話1.チャッピーと呼ばれて

 儂は今、チャッピーと呼ばれておる。

 この名は契約者のデイルが付けたものじゃ。


 あやつとの最初の出会いは、牢獄じゃった。

 それまでの契約者が酒飲みのギャンブル好きじゃったから、酒場で問題起こして放り込まれたのよ。

 あまりにだらしなかったんで、散々文句言ってやったら、奴はこう言いよった。


「うるせーからどっか行け。こんなのを引き取ってくれる物好きがいるんならな、ゲラゲラゲラッ」


 あの時は、怒りで目の前が真っ赤になったのう。

 儂を騙して契約させておいて、なんという言い種じゃ。

 あのろくでなし、契約する前は完璧にいい人を演じておったんじゃぞ。

 しかし、契約してからは悲惨の一言よ。


 奴は儂の幸運効果を当てにして、ギャンブルにのめり込んだんじゃ。

 実際は、儂に契約者の運を直接左右する力なんて、ないんじゃぞ。

 ただ、少し好感度を上げるくらいなんじゃ。


 なのにあのクズ、そんなことお構いなしにギャンブルをしおって。

 それで借金がかさむと、儂にイカサマの手伝いをさせたり、泥棒に入る家の偵察までさせよったんじゃ。

 なんたる恥辱!


 しかし、1度交わした契約には逆らえん。

 迂闊うかつにも、そういう契約を交わしてしまったからの。

 何度、この身を消し去ろうと思ったことか。



 しかしあの牢獄で、儂はデイルに出会ったんじゃ。


 最初は妙な視線を感じるな、ぐらいのもんじゃった。

 しかし、普通の人間に儂の姿が見えるはずはない。

 儂を奪われるのを恐れた元契約者から、いつも隠れているように厳命されていたからの。

 じゃから、よほど魔力の扱いに熟達しているか、よほど相性の良い者にしか儂は見えないんじゃ。


 そんな儂を認識できる人間が、こんな所におるとは。

 しかも元契約者は、儂の再契約を認める発言をしたばかり。

 契約できるんならやってみろと言ったじゃろ、あのクズ。


 これこそ最初で最後のチャンスと確信し、怪しむデイルを説得したんじゃ。

 思ったとおり、新たな契約は成立し、儂は新たな契約者を得た。


 しかしあやつ、こともあろうに、儂にチャッピーと名付けたんじゃぞ。

 儂、犬じゃないっちゅうねん。

 アポロンとかアレキサンダーとか、もっとかっこいい名前があるじゃろうに。


 最初、絶対に変えさせようと思ったんじゃが、すぐにどうでもよくなった。

 考えてみると、キュートな儂にはお似合だと思えたからの、フヒヒッ。



 それからデイルとの冒険が始まったんじゃ。

 あやつは親の名前すら知らない孤児で、体格も貧弱じゃ。

 そんな者が迷宮に挑むと言った時には、どうなることかと思ったわい。


 それで儂が妖精魔法を教えてやったんじゃが、意外に筋が良かった。

 さらにあやつは魔力が多いうえに、いろいろと工夫して新たな使い方を編み出すのが上手い。


 しかもあやつの使役スキルが、これまた変わっておる。

 普通は1,2匹の魔物を従わせるのがいいところなのに、あやつは多くの存在と契約し、しかも感覚共有や意思疎通まで可能にしよる。

 噂では、いにしえのハイエルフが同じ技を使ったと聞くが、何か関係があるのかのう。



 あやつはキョロとシルヴァを仲間にしてから、迷宮を攻略し始めた。

 その後、レミリア、カイン、サンドラ、リュート、リューナ、バルカン、ドラゴと仲間を増やしつつ、着実に下層へ進んだのじゃ。

 あれよあれよという間に、”妖精の盾”はいつしかトップチームに名を連ね、さらに到達階層を更新していった。

 本当に世の中は分からんもんじゃ。



 やがてデイルは将来の夢を語るようになった。

 魔大陸に行って、奴隷狩りをやめさせたいと言うんじゃな。


 自分にとって何の得にもならんのに、アホな奴じゃ。

 しかしカインやサンドラ、リュート、リューナを家族にしたデイルらしいと言えば、らしいか。

 その後、奴隷や孤児を引き取って2軍を育成しながら、あやつはとうとうガルド迷宮を攻略してしまいおったわ。



 そして本当にこの魔大陸に来たんじゃ。

 こちらでは想像以上に奴隷狩りが横行しておった。

 魔大陸に植民地を持つ帝国がそれを推進しておるんじゃから、それも当然じゃ。


 だからデイルが奴隷狩り撲滅を説いて回っても、エルフや一部の獣人の反応はかんばしくなかった。

 しかしあやつはそれにもめげず、妖精迷宮を攻略して妖精女王の後ろ盾まで得たんじゃ。

 提案したのは儂だったが、本当にやり遂げるとはのう。

 まったく、馬鹿には勝てんわ。


 その後、デイルは本当に魔大陸西部をまとめ上げて、奴隷狩りを摘発し始めた。

 そしたら帝国の総督府や大商人が、怒る怒る。

 それでいろいろと脅しも掛けられたが、無視して奴隷狩りを逮捕してたら、今度は魔族が出てきよった。


 あれにはびっくりしたのう。

 まさか魔大陸制覇を狙う魔族がおったとは。

 それで反撃されて、さらにこっちがやり返したら、とうとうアスモガインの登場じゃ。


 降伏したら使ってやるとか言っておったが、デイルがそんなの聞くはずないわな。

 それで、魔物の大暴走を起こすから防いでみろって話になって、見事に撃退してやったんじゃ。

 それどころか、さらに敵の本拠地に殴り込みを掛けてやったわい。

 圧倒的に不利な状況であったにもかかわらず、デイルは仲間と力を合わせ、見事にアスモガインを討ち取ってみせた。



 そんでその後は帝国とも話を付けて、魔大陸ではもう敵なしじゃ。

 そりゃあ、ワイバーンを15体も使役できたら、そうなるわな。


 そのくせ、あやつは権力を求めないんじゃ。

 魔大陸全土を征服することも、決して夢ではないというのに。

 本当におかしな奴よ。


 今後、デイルは交易をしながら魔大陸を探検して回るそうじゃ。

 儂にも付いてきて欲しいと言うておる。

 儂、実年齢は100歳超えとるんじゃがのう。

 そんなジジイに何させるつもりじゃ? あやつ。


 大方、儂のキュートな顔を見れんのが寂しいんじゃろう、フヒヒッ。

 まったく、仕方ないのう。


 この先、何年生きるか分からんが、儂が飽きるまでは付き合ってやろう。

 なんてったって、儂らは相棒じゃからな。

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新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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