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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
魔族介入編
38/82

37.魔族からの挑戦状

 ゲッコー商会の差し金で、俺たちは帝国最強の冒険者パーティ”流星団”の襲撃を受けた。

 高ランク冒険者を殺したりすれば、帝国との関係悪化は必至のため、ほとんどは殺さずに仕留めた。

 残るはリーダーのアスベルだけだが、彼はリュートと絶賛斬り合い中だ。


 アスベルはパワーとスピードを併せ持つファイタータイプに見えたので、同様のスタイルを持つリュートに任せた。

 その目論見は見事に図に当たり、実にいい感じに噛み合っている。


 アスベルが凄いスピードで動き回り、身の丈ほどの大剣を振り回すと、リュートが塊剣でそれを迎え撃つ。

 2人の剣が噛み合うと、盛大に音と火花が発生して実に賑やかだ。

 その技量はほぼ拮抗しており、まるで永遠に勝負が続くようにすら見えた。


 しかし、思わぬ形で勝負は決まってしまう。

 最後に剣をぶつけ合った瞬間、アスベルの剣が半ばからポッキリと折れたのだ。

 おそらく魔鉄製であろう彼の剣も、塊剣の鉄量には敵わなかった。


「ゲーッ、俺の魔剣が~~!」


 リュートに剣を突きつけられながら、アスベルが悲痛な声を上げる。

 そりゃあ、衝撃を放つような貴重な魔剣が折れれば、受けるショックも大きいだろう。


 そんなアスベルを尻目に、俺たちは捕虜を縄で縛り上げてから、ケガ人の手当てをしてやった。

 と言っても、血が出てる所に布を当てるくらいだ。

 わざわざチャッピーの正体を晒して治療してやるほどの仲でもないので、適当にやっておいた。

 そのうち僧侶のねーちゃんが気がついたら、自分たちで治すだろう。



 この頃になって、ようやく口が聞けるようになったアスベルと話をする。


「さてアスベル、俺たちの完勝なんだが、これからどうする?」

「どうするって……ひょっとして、命を助けてもらえるのかい?」

「それはそっちの出方次第だな。本当は殺して埋めるのが1番楽なんだろうけど、できるならそれはしたくない」

「とんでもないお人好しだね、君は。ひょっとして、無償で同盟に協力しているって噂は本当なのかな?」

「なんだ、そういう噂になってるのか。まあ、ほとんど利益は求めてないから、そう言われてもしょうがないな」


 そう言う俺の顔を見つめていたアスベルが、急に笑い出した。


「ククククッ、フハハハハハッ……負けだ負けだ。敵わないよ、君には」

「なんだ、負けたショックでおかしくなったか?」

「そうじゃないよ。あんまり君の器が大きいんで、馬鹿馬鹿しくなったってところかな」

「馬鹿馬鹿しくなったか?」

「ああ、これでもSランク冒険者として、けっこう自信を持ってたのに、完全に叩きのめされた」


 すると、横にいた冒険者もそれに追従した。

 たしかサンドラと斬り合ってた奴だ。


「そのとおりだ。俺だってAランクになって久しいのに、そっちの鬼人のねーちゃんには全然敵わなかった。たぶん、殺さないように手加減してくれてたんだろ?」

「我が君に殺すなと言われたからな。それほど危険も感じなかったので、様子を見ていただけじゃ」

「マジかよ……俺たちだって迷宮攻略者なのに、そんなに差があるのか?」


 ここで思い出したように、アスベルが聞いてきた。


「そう言えば、ガルド迷宮の最終守護者はドラゴンだったって噂があるけど、本当なのかい?」

「ん? ああ、迷宮管理者の気まぐれに巻き込まれてな。火竜ファイヤードラゴンの相手をさせられたよ。そっちはなんだった?」


 そう言ったら、”流星団”のメンバーが固まってしまった。

 そしてヒソヒソと彼らが囁き合う。


「ファイヤードラゴンって中位の竜種じゃん。そんなの、10人ぽっちで倒すなんてあり得るの?」

「いや、彼らは倒したって言ってるし、実際みんな強いからアリじゃね?」

「ワイバーンを使役してるし、他の使役獣も凄かったぞ」

「あっちの女の子なんか、私たちの魔法を吹き飛ばしたのよ。アシュリーの障壁も簡単に破られちゃったし」


 いろいろと彼らの常識をぶち壊してしまったらしい。


「やっぱり迷宮と言ってもいろいろだね。僕らが攻略したアリア迷宮の最終守護者は、単眼巨人サイクロプスだったよ」

「サイクロプスだけだったのか? 俺たちも7層で何匹か倒したけどな」

「……なるほど、道理で簡単にやられるわけだ」

「あんたらも相当強いとは思うけどな」

「1人も殺さずに降伏させておいてそれは、嫌味にしかならないね」


 たしかにこの状況では、そう取られても仕方ない。

 それよりもこいつらをどうするかだ。


「それで、俺はできればあんたらを殺したくない。Sランク冒険者なんて殺したら、帝国が激怒するのは目に見えてるからな。ちょうど今、交易の道を探ってるから敵対したくないんだ」

「それは本当なのかい? 帝国が亜人と交易を結ぶなんて、ちょっと信じられないんだけど……」

「今でもドワーフとは交易してるじゃないか。とにかく同盟は、帝国に奴隷狩りをやめて欲しい。そのために、鮮度を維持した食料品を新たな交易品にできないかって、トンガの総督に売り込んだとこなんだ」


 そう言うと、アスベルが考える顔になった。


「……それならなんとかなるかもしれないな。ご存知のようにBランク以上の冒険者は、国に囲われてる面がある。同盟が帝国に利益をもたらすのなら、その重要人物の暗殺依頼は破棄できるかもしれない」

「そうしてくれると助かる。でも、ゲッコーの会長はなかなか諦めないんじゃないか?」

「それは僕が直接会って事実を伝えるさ。相手はSランクを軽々とあしらう化け物だったってね」

「それだと、あんたの経歴に傷が付くけど、いいのか?」

「多少は評判が落ちるだろうけど、実際に負けたんだから仕方ないよ。命を救ってもらったお礼はしたいからね」

「ならそれで頼むよ。それでも諦めないようだったら、俺のワイバーンが本店を焼き尽くしにいくぞって脅してやれ」

「支店だけじゃなく、本店も容赦しないぞって?」

「ハハハッ、だから支店を燃やしたのは俺じゃないって」


 ひとしきり笑い合った後、彼らの拘束を解いて、馬車で総督府まで送ってやった。

 総督にも事情を話し、協力をお願いしておいた。

 あわや全面戦争になるとこだったが、なんとか1人も殺さずに済んで良かった。

 ゲッコー商会の方は、たぶんこれでなんとかなるだろう。





 その後、新しい家を造りながら魔族の情報を待っていたところに、サキュバスから連絡が入った。

 クイーンの拠点に飛ぶと、調査を依頼していたアリアとベネッタに出迎えられる。


「デイル様、アスモガインの拠点はまだ見つからないのですが、ベネッタから報告があるんです」

「うん、私がいろいろ探ってたら、アスモガインがデイル様に会いたいって言ってきたんだ」

「俺に会いたいって? 一体、何を考えてるんだろ?」

「さあ。なんかデイル様に興味津津だったから、仲間になれとか言うのかも?」

「俺の抱き込み?……まあ、それはあり得るのか。もしくは何かの罠かな?」

「うーん、トンガまで出向くって言ってるから、それはないんじゃないかな」

「トンガまで来るって? ますます分からないな。日時はいつですか?」

「明日の正午にトンガの総督府前だって」

「正午か……分かりました。アスモガインに会うと伝えてください」

「オッケー。それじゃあその前に報酬もらえる? ムフーッ」


 今回もしっかり搾り取られたけど、夕刻前には帰らせてくれたよ。

 なんか俺も慣れてきたな。





 そして翌日の正午前、俺はトンガの総督府前へ来ていた。

 護衛はレミリアとケレス、そしてキョロ、シルヴァ、バルカンがペットサイズで控えている。

 もちろんチャッピーも一緒だ。


 しばらく待っていると、小型の飛竜ワイバーンが飛んできた。

 バルカンよりだいぶ小さいから、おそらく子供なのだろう。

 しかし馬のように鞍とか手綱が付けられていて、まるで家畜扱いなのが可哀想だ。


 俺たちの目の前にそいつが着陸し、背中に乗っていた男女が降りてきた。

 現れたのは黒マントを付けた偉丈夫と、赤毛の軽装な女だった。

 男の方は黒髪で金色の眼に青白い肌、そして頭には牡牛のような立派な角が生えていた。

 その服装は人族の着るタキシードに似ていて、なかなかダンディないでたちだ。


 女の方は赤髪に金色の眼で青白い肌の美女で、小ぶりな角とコウモリのような羽を持っている。

 服装はレミリアのビキニアーマーにも似た扇情的なモノで、豊満な肢体を惜しげもなく晒け出していた。

 サキュバスに似てるけど、これもデーモン族なのかね。


「我が新世代の魔族の統領アスモガインである。貴様が最近、亜人に味方しているという人族か?」

「いかにも、俺の名はデイル。西部同盟の顧問ってとこですかね」

「無礼だぞ、人間。偉大なるアスモガイン様の前で跪きもしないとは」

「今は捨て置け、ゼクシア。いずれ己の無力を思い知り、自ら膝を折るであろう」


 凄い自信家だな。

 新世代魔族の統領とか名乗ってるけど、そんなに凄い存在なんだろうか、こいつは?

 偉そうにしてるわりには、サキュバスクイーンの足元にも及ばない感じなのだが。


「さあ、どうでしょうね。こんな所で立ち話もなんですから、こちらへどうぞ。部屋を用意してあります」


 そう言って彼らを総督府の中へ案内し、お互いに腰を落ち着けてから話を切り出した。


「それで、今日はどういったご用件で?」

「今日は、ヴァンパイアを倒してのけた猛者の顔を見るついでに、お前たちに無駄な抵抗をやめるよう伝えにきた」

「それはまたどうも。しかし、俺たちに戦わずに降伏しろと?」

「そのとおりだ。未来の魔王たる我に逆らうなど、愚の骨頂。素直に従えば悪いようにはしない」

「はあ……仮におとなしく降伏したら、どうなるんです?」

「我の統治下に入り、魔大陸統一のために働かせてやろう」

「統一ってのは、魔大陸にいる全ての人系種族を従わせるってことですかね?」

「そのとおりだ。多少は状況が見えているようだな」


 こいつ、マジでやれると思ってるのかね?


「へー……しかし、本当にそんなことできるんですか? 多少、魔物を操れるからって、この大陸を征服できるとは思えないんだけど」

「フフン、これだから人間という奴は。先ほどのワイバーンを見たであろう。あのような魔物が何千と配下にいるのだぞ。お前らに勝てる可能性なぞ、万にひとつもないわ」

「何千もの魔物ですか……それは怖いな。しかし、本当にそんなに大量の魔物を操れるのかなあ?」

「信じられぬか? よかろう、そこまで疑うなら証拠を見せてやる。適当な集落をいくつか滅ぼしてやろう」


 また過激なこと言い出しやがった。


「そんなの、一方的過ぎます! もっと交渉の余地を――」

「弱者はおとなしく強者に従っておればよいのだ! それが嫌なら死ぬしかない」

「クッ……それなら、滅ぼす予定の集落を教えてください。あなたたちが本当に圧倒的な力を持っているのなら、俺たちの守りも簡単に蹴散らせるはずだ」

「ほう、面白い。たしかにただの村人を蹂躙しても、我らの偉大さは伝わらぬな。よかろう、準備が整い次第、連絡してやろう」

「こっちが態勢を整える猶予はもらえるんですよね?」

「連絡後、1日だけ待ってやる。せいぜい戦力を整えるといい」


 またサキュバスを介して連絡すると告げると、アスモガインは帰っていった。

 最後まで自信たっぷりで嫌味ったらしい奴だった。


 しかし、こっちは急いで迎撃態勢を整えなきゃならないな。

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新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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