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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
魔族介入編
34/82

33.襲撃の爪痕

 今回の騒動を引き起こしたとおぼしき魔族を捕らえた俺は、とりあえずそいつをふんじばって倉庫にぶち込んだ。

 いかに魔族といえど下っ端は大した力を持っていないので、これで逃げられる恐れはないだろう。


 そうこうしているうちに、村を襲った魔物の掃討が終了し、ケガ人の救助や避難した人たちの世話に忙殺される。

 あちこち駆けずり回ったり、他の村の状況を確認するのに忙しくしていたら、今度は家付き妖精ブラウニーのボビンから念話が入った。


(デイルはん、なんや知らん人間がここに忍び込んできとるで。あっ、あいつらが門を開けよった。20人くらいゾロゾロと入ってきよるわ。わしら、どないしょ?)


 やられた。

 各集落を襲うだけでなく、カガチまで襲撃されたようだ。

 俺が村の救助に向かうのを見越して、拠点が空になると見たのだろう。

 しかし今からバルカンで向かっても半刻ぐらいは掛かるし、こちらも放ってはおけない。


(ボビン。とりあえずドラゴとカガリに迎撃させてくれ。よほどの敵がいなけりゃ撃退できるだろ)

(わしらにできるやろか?)

(亜竜が2体もいれば大丈夫だって。万一、勝てそうになかったら海に飛び込んで逃げろ。死守する必要はないからな)

(それもそうやな。ほいじゃ、適当に頑張りますわ)

(ああ、片付いたらまた知らせてくれ)


 ドラゴは土魔法が使えるから、カガリの助けがあれば拠点を守れるだろう。

 それにしても帝国と魔族さんよ、やってくれるじゃないか。

 この礼は十倍にして返してやるぜ。



 夕暮れ間近になってようやく被害の全貌が見えてきた。

 恐ろしいことに今回の襲撃で、100人以上の村人が亡くなった。

 これは襲われた村の人口の1割近くにもなる損害だ。


 さらによく調べると、各村で数人の行方不明者がいることも分かった。

 遭難したにしては多すぎるので、奴隷狩りに捕まった可能性が高い。

 どさくさに紛れて奴隷狩りまでやるとは、徹底してるぜ。



 ここまではやられっ放しだったが、成果もあった。

 俺と同様に、ケンツとシルヴァが魔族を見つけて捕虜にしていたのだ。

 そいつらをケレスのいる猫人族の村に集め、いつもの尋問ごうもんを開始した。

 俺とケレスの尋問ごうもんの前では、下っ端の魔族に秘密を守れるはずがない。


 これで判明したのは、やはり裏でアスモガインが糸を引いていたことだった。

 まず奴らは200匹近い魔物を隷属魔法で支配下に置き、各村を襲うよう仕向けた。

 さらに奴らは魔物を狂わせる香料で魔物をおびき寄せ、村の真ん中で香料をぶち撒けたらしい。


 その結果、隷属魔法と香料で狂わされた魔物が暴走し、村を蹂躙したのだ。

 それでも死者が1割程度で済んだのは、強化された自警団が警戒に当たり、それなりに備えていたためだ。

 同盟が発足する前だったら、確実にもっと多くの死者が出ていただろう。


 そして、行方不明者の原因はやはり奴隷狩りだった。

 俺たいが混乱している間に奴隷狩りどもが村の周辺で待ち受け、必死に逃げてきた村人をさらっていったのだ。

 魔物の暴走で森の中が騒がしかったせいか、妖精の監視網も上手く機能しなかった。


 つくづく虚仮こけにしてくれるじゃないか、アスモガインさんよ。


 尋問ごうもんを終えた後は、重傷者の治療のためチャッピーと一緒に村々を飛び回った。

 チャッピーの治癒魔法を施すことで、多くの命が救われた。


 そんな中で、ドラゴとカガリが無事に敵を撃退したってのは、数少ない朗報だった。





 翌朝は日が昇ると同時にドワーフの町ガサルに飛び、そこで待っていた医者と大工を乗せて村へ舞い戻った。

 彼らは事前に町長のガサルカに依頼して、かき集めてもらっていた人たちだ。


 医者や大工を各集落に送り届け、ケガ人の治療と村の補修をしてもらう。

 襲撃された全ての村で門が破壊されているし、建物も大きな被害を受けていた。

 多くの大工を送り届けるため、3往復してようやく手当てが付いたほどだ。



 さすがにこれだけ働いていると、俺もバルカンもヘトヘトだ。

 3刻ほど眠ってから起きてくると、村の中もだいぶ落ち着いてきていた。



 そこからまた各集落に飛んで長を拾い、狼人族の村で会議を開いた。

 今回は鬼人族やエルフの長も呼んである。


「今回は本当にひどい目に遭った。しかしデイル殿のおかげで本当に助かっておる」

「そのとおりじゃ。魔物の撃退に始まってケガ人の治療、門の修復まで面倒を見てもらって、なんと礼を言えばよいか」

「困った時はお互い様ですよ。頑張って早く復興させましょう」

「そのとおりですな。ところで、今回も魔族が絡んでいるとの話ですが?」

「はい、アスモガインというデーモン族の差し金なのは間違いありません」


 そこで今回の捕虜から得た情報を、参加者に伝えた。


「なんと、隷属魔法と香料で魔物を操ったと? しかも逃げ出した村人を捕らえて連れ去るとは、なんと卑劣な」

「なんとか連れ去られた者たちを、取り戻す方法はないものか?」

「それについてはトンガの周辺に厳重な監視網を敷いて、逃げ込まれる前に取り返すつもりです。最悪、逃げ込まれたらトンガを襲撃しようと思ってます」


 俺がトンガの襲撃を仄めかすと、多くの人が血相を変えた。


「それはあまりに無謀ではありませんか? 帝国との全面戦争もあり得ますぞ」

「いいえ、これは帝国を先に脱落させるための策です。魔族と帝国を同時に相手取るよりも、そっちの方がいいでしょう。なーに、1発ガツンとやってやれば、交渉に応じますよ」


 俺がそう言って覚悟を示すと、レミリアの祖父じいさんが後押ししてくれた。


「そのとおりじゃ。これはもうすでに戦争よ。ここで日和ひよったら、ますます付け込まれるぞ」

「たしかに。我ら鬼人族も全面的に支持しよう。しかし、暗躍する魔族にはどう対処したものか……」

「それについてはこちらで対処します。各種族では、集落の守りを固めてください」


 それから夜遅くまで、今後の対応について話し合った。





 翌日になってようやくカガチに戻ってこれた。

 ボビンの報告どおり、拠点はほぼ無傷だった。

 少々防壁や門が破損していたが、それはまた直せばいい。


「ボビンたちはお手柄だったな。ケガとかないか?」

「平気ですがな、デイルはん。ドラゴとカガリが頑張ってくれましたわ」

(マスターの帰る家は僕が守るのです)

(あたしも活躍したんだよ~、ご主人)

「ああ、ありがとうな、みんな」


 無事に拠点を守り通したボビン、ドラゴ、カガリをねぎらう。

 特にケガもないようで何よりだ。


「さて、奴隷狩りの集団はまだ捕捉できないのかな?」


 すると行方不明者の捜索を指揮しているレミリアから報告があった。


「はい、鼻の利く者に探させていますが、発見の報告はありません。妖精の監視網にも引っ掛かりませんし……」

「どうせ転移魔法で逃げられたんだろうな。もう捜索隊は撤収させてトンガ周辺に配置しよう。トンガに逃げ込まれる前に捕まえられるといいんだけどな……」


 奴隷狩りの捜索隊を出したものの、広大な森の中では成果が出ていなかった。

 あとはトンガに逃げ込まれる前に見つけるしかないが、はたして捕捉できるかどうか。





 拠点に戻った翌日、魔族の調査を依頼したサキュバスから連絡が入った。

 俺だけでクイーンの拠点に飛ぶと、アリアとベネッタというサキュバスに出迎えられる。

 2人とも妖艶な美貌と肢体の持ち主だが、さすがにクイーンほどではない。


 中堅のサキュバスらしいので、年齢は数百歳ってとこか?

 そんなことを考えていたら、2人が挨拶してきた。


「初めまして、デイル様。いつも妹がお世話になってます。私のことはアリアとお呼びください」

「ヤッホー、デイル様。あたしがベネッタだよ。よろしくね~」

「あ、どうも、デイルです。それで、アスモガインについて何か分かりましたか?」

「もちろんですわ。あんな奴ら、私たちに掛かればちょろいものです」


 彼女たちはアスモガインに近いと思われる魔族の何人かに接触し、情報を引き出してくれていた。

 やはり魔族も綺麗なネーチャンには弱いらしく、想像以上の成果を持ち帰っていた。


 アスモガインは想像していたとおり、20年前から帝国とつるんでいたらしい。

 奴はトンガを占領して魔物の処置に困っていた当時の総督に近づき、ドワーフとの和解を提案した。

 以前から魔大陸に来ていた冒険者、という触れ込みで総督に接触したらしい。

 そして奴は当時のガサルの町長に知り合いだと思い込ませ、見事にドワーフを交渉の場に引きずり出した。


 講和条約が成立して信用を得たアスモガインは、その後も帝国を陰から操り、奴隷狩りと移民が増えるよう誘導してきた。

 そのために部下を総督府に紛れ込ませ、情報を集めてるんだろうな。

 それと並行して人族から隷属魔法の技術を仕入れ、独自に研究を進めているらしい。

 どうやらその技術で魔物の軍団を作ったようだが、さすがにその詳細まではよく分からなかった。


 ちなみに総督に取り入ったり、部下を紛れ込ませるため、弱い精神操作魔法を使っているようだ。

 あまり強力な洗脳を掛けると周囲から怪しまれるが、帝国とアスモガインの方針は合致していたので、ちょっと誘導してやるだけで十分ってところか。


「なるほど、奴らはそうやって裏から帝国を操ってるんですね。俺たちの動きについては、何か言ってましたか?」

「ええ、せっかく奴隷狩りが盛り上がってきたのに、亜人が結束して楯突いたって怒ってましたわ」

「ふむ、それについて、どうするつもりだとかは?」

「まだまだ手はいくらでもあるような口ぶりでしたわ。それに、準備は整ったとかなんとか……」


 ふむ、その手ってのが先日の魔物大襲撃だったんだろうが、まだ他にもあるのか?

 とりあえず、魔族と帝国の関係がはっきりしただけでも上出来か。

 あとはこの情報をどう活かすかだな。


 報告を終えたアリアとベネッタには、後日食事に招待すると伝えて帰ろうとしたのだが、そうは問屋が卸さなかった。

 そのまま寝室へ連れ込まれ、お相手をさせられてしまう。

 もうサキュバス2人の相手とか、勘弁して欲しい。


 ヘロヘロになりながらも自力で帰ったら、またケレスに呆れられたのは別の話。

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