32.魔物大襲来
奴隷狩りを逮捕にいった俺たちは、介入してきた吸血鬼との戦いを、辛くも切り抜けた。
捕まっていた虎人の捕虜は解放し、逮捕した犯罪者は鉱山に預けてから、ようやくカガチに戻る。
ただし、捕虜にしたヴァンパイアは尋問のために連れてきていた。
「さて、ケレス。いつもみたいに拷問しよっか」
「拷問だなんて人聞きが悪いよ、ご主人。それにしても、6人ものヴァンパイアを倒して、捕虜まで捕まえてくるなんて、相変わらず変態だねえ……うわっ、気持ち悪うぅ。見てるそばから手足が再生してるよ、これ」
彼女が言うように、捕虜の手足は根元からシルヴァに食いちぎられたにもかかわらず、ジュクジュクと徐々に再生していた。
実にとんでもない生命力だ。
しかしさすがに四肢を失ったダメージは大きいらしく、捕虜はおとなしくしていた。
そんな奴にケレスと一緒に尋問してやると、ある程度状況が見えてきた。
まずこの捕虜くん、いいとこの坊ちゃんらしい。
ヴァンパイア族の有力者であるドラキュラ家の3男だそうだ。
名前はマリック君、98歳。
ケレスによれば、ヴァンパイアってのは非常に強い種族だが、数が少ないので表舞台にはほとんど出てこないらしい。
そんな中でもドラキュラ家ってのは別格で、現当主はサキュバスクイーンに匹敵する実力を持つそうだ。
ちなみに当主のお歳は2千歳オーバーとか。
しかしマリック君は、親父さんが何もしないのを不満に思ってたようだな。
魔族の中でも最強に近い力を持つドラキュラ家が、歴史の陰に隠れてひっそり生きるとは何事だ~、って感じ?
そんで、似たようなことを考えてた悪魔族のアスモガインと意気投合した、と。
たぶんアスモガインにおだてられたんだろうな。
獣人たちが奴隷狩りに抵抗してるから、ちょっとこらしめてきてくれって言われてホイホイ出てきた。
1度邪魔してやれば、次は最強の布陣をぶつけてくるだろうから、それを叩き潰せばいいと思ってたみたい。
狙いは悪くなかったけど、俺たちのことを甘く見すぎだ。
まあ、ヴァンパイアが6人もいれば、並みの獣人なら100人でも勝てなかっただろう。
しかし、マリックたちが比較的若かった(100歳前後)のもあり、俺たちの完全勝利になった。
さすがに千歳以上となると、けた違いの強さらしいからな。
そんな奴らとは絶対に戦いたくない。
ちなみにアスモガインの拠点をマリックは知らず、敵の居所は分からずじまい。
幸いなのは、ヴァンパイア族で協力してたのは今回の6人のみで、これ以上は出てきそうにないことだ。
まあ、デーモン族は丸々残っていて、他にもいろいろいるらしいんだけどな。
「さて、大体知りたいことは聞けたけど、こいつの始末をどうしようか?」
「ああ、それならあたいのかーちゃん経由でドラキュラ家に連絡取って、引き取りにきてもらうよ。こいつを生かしておいたのは僥倖だったね。もし殺してたら、敵対することになってたかもしれないよ」
「マジ? 5人ほど殺っちまったけど」
「それは仕方ないよ。向こうから仕掛けてきたことをこいつに証言させれば、ドラキュラ家が取り成してくれるでしょ」
「なるほどね。なら、それで頼むよ」
「了解」
かくしてサキュバスクイーン経由でドラキュラ家に連絡が行き、その日のうちにお迎えがきた。
「お初にお目に掛かる、ドラキュラ家が当主、ブラドゥである」
馬鹿でかいコウモリが舞い込んできたと思ったら、黒衣の紳士に変身して挨拶をしてきた。
肌は青白いがカインをも凌ぐ偉丈夫で、物凄い威圧感を放っている。
「これはご丁寧にどうも。責任者のデイルです」
「うむ。こちらに愚息がお世話になっていると聞いてきたのだが」
「はい、お預かりしています。すぐにお連れしますので、しばらくお待ちください」
俺は別室でマリックを見張っているリュートに、彼を連れてくるよう念話で指示した。
やがてリュートに抱かれるようにして、マリックが現れた。
ちぎられた手足が、すでに2割ほど修復されているが、それを見たブラドゥが目をひそめる。
「愚息が貴殿らを襲ったとの話だが、真か?」
「はい、我々は人族の奴隷狩りを阻止しているのですが、一部の魔族が奴隷狩りを支援しているのです。おそらくこの大陸の住人の力を弱めるためだと思いますが、ご子息はそれに協力していたようですね」
「なるほど。普段から魔族が人を支配するべきだとかほざいているので、相違なかろう。世話を掛けた」
「いえいえ。ところで、彼の仲間を5人返り討ちにしたので、その親族に取り成しをお願いできますか? 我々はあくまで自衛しただけで、魔族と争うつもりはありません」
「……心得た」
そう言うと、ブラドゥはマリックをひったくり、そのまま転移してしまった。
さすが2千歳以上ともなると、転移魔法も使いこなせるのだろう。
やはり、絶対に敵には回したくないな。
ヴァンパイアの介入は叩き潰したが、まだ敵対する魔族は残っている。
それらに備えて迎撃態勢を整えていた時、それは起きた。
「兄貴、狐人族の村が魔物の大群に襲われた! すぐ助けにいかないと」
狐人族の連絡担当のケンツから、魔物襲来の報告が入った。
「落ち着け、ケンツ。魔物の大群って、どれぐらいだ?」
「ええっと……そういえば大群としか聞いてない」
「すぐに確認しろ。他のみんなは出動準備だ」
俺たちは防具や武器を装備してから、バルカンの飛行箱を準備した。
全て準備が整い、まさにバルカンが飛び立とうというその時、今度はリズから凶報が舞い込む。
「デイルさん、猫人族の村も襲われてるそうです。魔物の数は30匹以上」
「マジかよ? ほぼ同時に複数の集落を襲撃するなんて、ずいぶんと大がかりだな……いずれにしろ、まずは狐人族の村に向かおう。みんなは他の集落の状況を確認してくれ」
とりあえずバルカンで飛び立ちつつ、他の集落とも連絡を取る。
すると、狼人、虎人、獅子人の村も襲撃されているのが判明した。
どの村も30~50匹の魔物に急襲され、防壁内への侵入を許しているようだ。
魔物は恐暴狼、大豚鬼、剣牙虎、四手熊などが中心になっているらしい。
まもなく狐人族の村に到着すると、村内で戦闘が続いていた。
「ケンツ、レーネ、ガル、ケシャ、キョロはここで降りて魔物を殲滅しろ。ケンツは魔族の痕跡がないか探ってくれ。他は猫人族の村へ向かうぞ」
すぐに彼らを降ろし、次へ向かう。
やがて着いた猫人族の村も村内が蹂躙され、あちこちから火の手が上がっていた。
ここではカイン、ケレス、セシル、ガム、リズ、シルヴァを降ろし、迎撃に当たらせる。
その次は虎人族の村でサンドラ、リューナ、ザムド、ナムドを、さらに獅子人族の村ではジード、ダリル、リュート、アイラ、チェインをそれぞれ降ろして加勢させる。
そして最後の狼人族の村へは俺、レミリア、アレス、アニー、バルカンが駆けつけた。
ようやく到着した先では、狼人族が苦戦していた。
50匹近い魔物が突如襲来し、一気に門を突破されてしまったのだ。
自警団を中心に狼人の戦士が必死に防戦し、村民を逃がそうとしているが、あまりに魔物が多すぎる。
あちこちから火の手が上がり、遺体もちらほらと見えた。
そんな大混乱の村内にバルカンが舞い降り、俺が目的を告げる。
「狼人族の皆さん、今から加勢します! バルカンはフォーハンドベアを中心に片付けろ。レミリアたちはサーベルタイガーとオークを倒せ。俺はダイアーウルフを狩る」
言い終わる前にレミリア、アレス、アニーが飛び出していった。
レミリアの双剣とアレス、アニーの剣が、次々に魔物を切り裂いていく。
バルカンは巨大なフォーハンドベアに火球を叩き込み、俺は風弓射でダイアーウルフを片付けていった。
これにより、ほとんど壊滅寸前だった狼人族がにわかに息を吹き返し、魔物を押し返し始める。
めぼしい魔物を片付けたので、そろそろケガ人の救助に入ろうかと考えていた矢先、チャッピーが警告を発した。
「デイル、あそこに何か隠れておるぞ」
チャッピーが示した家の屋根の上に、何やら怪しげな光の揺らぎが見えた。
すかさずそこへ風弓射を撃ち込んでやると、黒っぽい何かが現れ、屋根から転げ落ちる。
すぐに駆け寄ってそいつを確認してみると、真っ黒なローブを身に着けた魔族だった。
青黒いうろこ状の皮膚に細長い耳、そして蛇のような金色の目は、以前始末したデーモン族のバダムそっくりだ。
思ったとおり、魔族が裏で糸を引いているようだな。