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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
魔族介入編
32/82

31.ヴァンパイア

「デイル、やはりトンガには魔族が入り込んでおるぞ」


 ガサルから戻った俺に、チャッピーが監視結果を報告してくれた。

 チャッピーと猫妖精ケット・シーのナゴに、トンガ総督府の監視をお願いしていたのだ。


「やっぱりそうか。何か分かったことはある?」

「いや、下手に近づくと勘づかれそうなので、詳しいことは探っておらん。しかし少なくとも3人はおったぞ」

「3人もか。バダムみたいに人間に化けてるんだよな?」

「そうじゃ。1人は総督の秘書で、残りは普通の役人じゃった。見た感じ、人族を操っているようではなかったがのう」

「ふむ、とりあえずスパイとして潜り込んでるのかな。もっと情報が欲しいけど、直接聞くわけにもいかないしなあ」


 するとケレスが助け舟を出してくれた。


「それだったらご主人、あたいの姉さんに頼んでみようか? アスモガインに近い魔族に接触して、何を考えているのか探るくらいはできると思うよ」

「ケレスの姉さんってことは夢魔サキュバスだよな。そんなことやってくれるのか?」

「実はご主人に会いたいっていう同族は、けっこう多いんだよ。かーちゃんがこの間の接待を自慢しまくったせいで、注目されてるの」

「お前の姉さんって、何人いるの?」

「全部で100人ぐらいかな。大丈夫、頼むのは2、3人だけだから」

「む、それぐらいなら接待できるか……頼むからあまり話を広げないでくれよ。それと、ミレーニアさんにも話を通した方がいいよな?」

「そうだね。まとめて話をするためにも、かーちゃんの所へ行こうか」


 結局その後、ケレスを連れてサキュバスクイーンの拠点へ飛んだ。

 ミレーニアにこの話をすると彼女も参加したがったが、さすがにクイーンが動いては怪しまれる。

 この任務に向いた能力と人脈を持っているサキュバスを2人選んでもらい、調査をお願いすることになった。


 本音を言うと、あまりサキュバスに借りを作りたくはない。

 多分、報酬として搾り取られるから。

 でも見方によっては、その程度で貴重な情報が得られるとも言えるのだ。

 だからレミリア、そんな不機嫌そうな顔するなって。




 サキュバスに調査を依頼する一方で、俺たちは次の襲撃に備えていた。

 1軍メンバーはなるべく多く拠点にいるようにして、いつでも出られるように準備してある。

 これをやると同盟の仕事が滞ってしまうのだが、そこは2軍メンバーと同盟の手を借りた。




 そして自警団が返り討ちに遭ってから7日目、虎人族の村の近くで再び奴隷狩りが見つかる。

 俺はすぐさま討伐隊を率い、バルカンで駆けつけた。

 同行メンバーはレミリア、サンドラ、リュート、リューナ、キョロ、シルヴァ、チャッピーだ。


 自警団の強化にいそしんでいるカインと、留守番のドラゴを除けば現状、最強の戦力だ。

 ちなみに監視網のオペレーターとしてナゴも付いてきた。


 半刻ほどで現場付近に到着すると、ナゴが奴隷狩りの位置を特定してくれた。

 そいつらの眼前にバルカンが木々をなぎ倒して着陸すると、8人の人族が虎人の捕虜を連れているのが目に入る。

 俺はバルカンの背から飛び降りると、奴らに話しかけた。


「おいおい、奴隷狩りは禁止されたのを知ってるだろ?」

「フンッ、亜人の決めたルールなど知らんわ」


 そう返事を返してきたのは、妙に肌が青白い男だった。

 金髪に青い瞳で容姿はまあまあだが、人形のように無表情だ。

 よく見ると8人の内6人が、似たような連中だ。


 こいつらが、ドベルの言っていた魔族なのだろうか?

 そんなことを考えていたら、いきなり攻撃が飛んできた。

 先頭の男が一気に距離を詰め、右の貫手を俺の顔に向かって突き出す。

 余りの速さに反応できないでいたら、横から割り込んだレミリアが双剣で切り払ってくれた。


「油断が過ぎますよ、旦那様」

「……あ、ああ、悪い。ちょっと予想を超えてた。この状況からすると、俺たちは誘い出されたってことか?」


 手を斬られた男が平気な顔で傷をなでると、もうそれは消えていた。


「クックック、思ったよりやるではないか。しかし貴様の考えたとおり、これは罠だ。そして貴様らはここで死ぬ。やれっ!」


 男の指示で残りの5人も動きだした。

 残りの奴らは捕虜と一緒に後ろで控えている。


 先頭の男は爪をナイフのように伸ばし、レミリアに襲いかかった。

 彼女がそれを双剣で払うと、キンッという硬質な音が響く。

 男はさらに攻撃を繰り出し、目にも止まらない斬り合いが始まった。


 他の男たちもサンドラ、リュート、シルヴァ、キョロと戦闘に入る。

 俺も炎の短剣を片手に、1人を相手取った。


 俺の相手も爪を伸ばして切りかかってきたが、さっきの男ほど速くはなかった。

 斬撃を躱しながら強魔弾をぶち込んでやると、ブスリと円すい形の弾が男の胸に突き刺さる。

 並みの人間ならそれだけで行動不能になるところを、そいつは平気な顔で弾を引き抜いてみせた。


 しかもひと撫でしただけで傷が消えちまうとは、インチキにもほどがある。

 しかしその行動で、なんとなく敵の正体が分かった気がした。


「チャッピー、吸血鬼ヴァンパイアって、どうやれば倒せるんだっけ?」

「なるほど。異常な怪力に再生能力とくれば、ヴァンパイアと考えるのが妥当か……それなら首を切り落とすか、心臓を破壊すればよいじゃろう」

「さすがチャッピー。聞いたかみんな。首か心臓だっ!」

「「了解!」」


 あっさりと正体を見破られたことに、目前の男が怒気を露わにする。


「クッ、こざかしい。しかし、正体を見破ったからといって、簡単に倒せると思ったら大間違いだぞ」

「ハハハッ、そうだな。キャーー、ヴァンパイア怖いーー!」

「我らを愚弄するかっ!」


 俺の挑発に乗って、敵がガンガン攻撃してきた。

 さすがに言うだけあってその攻撃は鋭く、なかなか反撃させてくれない。

 しかし俺は焦らずに攻撃を躱しながら、チャンスを窺っていた。


 やがて必死で躱し続ける俺に、援護射撃が入る。

 後ろで状況を見守っていたリューナの強魔弾が、敵の脚に命中したのだ。

 男は一瞬だけ体勢を崩したが、すぐに立ち直る。


 しかし俺にとってはその一瞬だけで十分だ。

 素早く奴に駆け寄り、心臓に炎の短剣を突き刺してから魔力を開放した。

 すると短剣の周囲に、紅蓮の炎が咲き誇る。


「ギャーーーーーーッ!」


 一瞬で心臓を焼き尽くされた男が、断末魔の声を上げながら倒れ伏す。

 心臓がないのに声を上げるとは、大したもんだ。


 周囲に目をやると、敵の後方にいた奴隷狩りが逃げだそうとしていた。

 捕虜に当てないよう、収束散弾をぶちかますと、奴らが倒る。

 並みの人間ならこれで動けないだろう。


 しかし他のメンバーはというと、ヴァンパイアの再生能力に少々手こずっていた。

 俺の仲間は歴戦の強者ばかりだから、敵に傷を負わせること自体は簡単だ。

 しかしそれが大したダメージにならず、すかさず鋭利な爪の反撃が返ってくる。

 そんな攻防の繰り返しに、うんざりしている様が見て取れた。


 しかし、俺とリューナが援護すれば、それも違ってくる。


「リューナはリュートとサンドラを援護してやってくれ」

「はいです、兄様」


 それから俺は、キョロに近寄りながら声を掛ける。


「キョロ、一瞬だけでいいからそいつの動きを止めろ!」

(りょうか~い)


 次の瞬間、凄まじい雷撃が炸裂すると、ヴァンパイアが一瞬だけ硬直した。

 その隙に俺は心臓を突き刺し、紅蓮の炎を解放する。


「ギャーーーーーーッ」


 そいつも断末魔の声を上げて崩れ落ちた。


「けりをつけろ、シルヴァ!」


 そう言いながら、シルヴァの敵に強魔弾をぶち込んだ。

 心臓辺りに弾を食らったヴァンパイアの動きが一瞬止まると、暴風狼テンペストウルフあぎとがその首を食いちぎる。

 盛大な血しぶきを上げながら、遺体が地面に転がった。


 ここで横に目をやると、ちょうどリュートが援護を受けて、敵の首を斬り落としたところだった。

 残るサンドラの敵はリューナに任せ、俺はレミリアの戦いに意識を向ける。


 そこでは相変わらず、レミリアとヴァンパイアの激しい戦いが続いていた。

 彼女の相手はどうやらボス格になるらしく、他よりも膂力りょりょくと俊敏性が頭ひとつ抜けていた。

 おかげでレミリアも苦戦しているが、まるで戦えていないわけではない。


 ただし手傷を負わせても、敵の肉体再生能力が凄すぎて致命傷にならないだけだ。

 一方、彼女も手足に多少の傷を負ってはいるが、戦闘に支障はないようだ。

 ここで俺が加勢に入った。


「レミリアはそいつの足を止めろ! シルヴァはその身柄を確保。多少は傷つけてもいいけど殺すなよ」


 俺の強魔弾がボス格の心臓に命中して動きが止まると、レミリアがそいつの足を切り裂いた。

 さらにシルヴァがそこへ襲いかかり、ボス格の手足を次々と食いちぎる。

 さすがのボス格もこれには堪らず、イモムシのように転がった。


「さて、話を聞かせてもらおうかね」


 俺はそいつの胸を踏みつけながら、炎の短剣を突きつけた。

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新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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