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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
西部同盟発足編
30/82

29.ケレス海賊団

 帝国の差し金で海賊がカガチを襲撃してきたのだが、そんな奴らに負ける俺たちではない。

 しかし、あっさりと降伏させたはいいが、こいつらの処理が問題だ。


「さて、こいつらの始末はどうしようかな?」

「全員始末すればいいんじゃないすか?」

「とりあえず、あたいの尋問で引っかかった悪党は殺そうよ」

(あたしが食べてもい~い? ご主人)


 ケンツとケレス、そしてカガリまでが当然のようにこの場での処分を提案してくる。


「まま、待ってくだせえ、旦那。俺たちはこれでも、腕利きの船乗りですから役に立ちますぜ。同数なら海軍とも渡り合えやす」

「別に軍艦の1隻ぐらい、お前たちに頼る必要なんかないからな。見てのとおり、こっちには海蛇竜シーサーペントだっているんだ」


 俺の脅しに合わせてカガリが首を伸ばし、シャーッと海賊どもを威嚇する。


「ヒィッ! そ、それなら交易はどうですかい? 帝国には行けやせんが、リーランド王国なら入れますぜ」

「う~ん、それはありかもな。手駒が増えるのは悪くない」


 実を言うと、帝国に楯突いたおかげでトンガに入れなくなり、物資調達が不便になっていたのだ。

 もちろんこれを予想してそれなりに蓄えはしてあるし、ガサルで買い物もできるのだが、不便なのは間違いない。

 いずれ王国と交渉が成立して交易が始まるだろうが、手駒の船があればいろいろと便利だろう。


「たしかに手駒が増えるのはいいけど、海賊を野放しにするのはまずいですよ。やっぱ、殺すしかないっしょ」


 ケンツの言うことはもっともなのだが、全て殺すのはもったいないような気がする。

 俺が迷っていたら、海賊どもを尋問していたケレスが意外な提案をしてきた。


「ご主人、こいつらの処遇はあたいに任せてくれないかな? ちょっとこいつらの記憶を探ってみたけど、意外に悪い奴らじゃないんだよ。そりゃあ、海上戦闘で殺しはやってるけど、必要以上には殺してないみたい。おかげで足がついて、こっちまで逃げてきたんだって」

「ふーん、そうなのか? でも先のことは分かんないしな。何か枷をはめなきゃいけないけど、さすがに俺の使役スキルは使いたくないぞ」

「だからあたいに任せてよ。夢魔サキュバスの力を見せたげるよ。ムフーッ」


 珍しくケレスがやる気になっているので、任せることにした。

 まず赤ひげのドライフを連れて、彼女が拠点の中の1室に消える。

 ちょっと時間が掛かりそうなので、他の海賊どもには傷の手当と食事を与えておいた。


 やがて半刻ほどで出てきたドライフは、すっかり毒気が抜けてケレスのとりこになっていた。

 おそらく彼女が魅了して、ついでに精を絞り取って性的にも虜にしたってとこか?

 その後も彼女は海賊の幹部を何人か部屋に連れ込み、同様に支配下に置いていった。

 下っ端の連中も、すでに傷の手当や食事で気持ちがほだされているので、これでほぼ完全に彼らを掌握できた形になる。


「なかなかやるじゃないか、ケレス。でも本当に大丈夫か? どっかで魅了が解けたりしないだろうな?」

「1度の航海ぐらいだったら、全然平気だよ。むしろあたいに会いたくて、急いで帰ってくるんじゃないかな」

「そうか。それなら交易ぐらい任せてもいいかな……よし、せっかくだから、ここの港湾機能を整えよう」

「港湾機能を整えるというと、桟橋を修理するんすか?」

「そう、それと荷物の積み下ろし設備とか、船員用の宿舎も作る」

「でも兄貴。いずれリーランド王国の人間がここに乗り込んでくるんですよね。勝手に改修したら揉めないすかね?」

「それもそうだな。けど、程々にやっときゃ、感謝こそされ、文句は言われないだろう?」


 その後はドライフや船大工を呼んで、港の改修案を練った。





 翌日、ドライフたちを船ごとトンガへ送り出した。

 表向きは彼らが無事にカガチを攻略したので、拠点整備のために資材を買い付けに戻った、という設定だ。

 ケレスにはボロを着せて捕虜のフリをさせ、監視として同行させてある。



 そして夕刻になると、ドライフたちが資材を満載して帰ってきた。

 彼らがトンガに入港した途端に例の使いが接触してきたらしく、カガチを占領して俺たちを捕虜にしてあると伝えたそうだ。

 当然、身柄の引き渡しを要求されたので、翌日に引き渡すことを約束して資材を積んで帰ってきた。


 ついでに報酬の一部として金をふんだくってきたらしい。

 なかなかやるじゃないか、ドライフ。





 そして次の日になると、約束どおりにトンガの役人が現れた。


「総督府のゲイル・ブライデンだ。捕らえた盗賊を引き取りにきたので開門せよ!」

「は~い、少々お待ちください」


 要求に応じてカガチの門が開かれると、50人近い人間が入ってきた。

 ゲイルとかいう役人を先頭に、装備の揃った兵士が30人と、冒険者らしき奴らが20人ほどいる。

 なんの疑いもなく入ってきた奴らだが、ドライフと並んで出迎えてやると、ようやく何かがおかしいと気がついた。


「おい、話が違うではないか。そいつらは捕虜にしているはずだろうが?」

「馬鹿野郎、デイルの旦那が、俺ごときに捕まるわけねえだろうが。お前らをおびき出す罠だよ~ん」

「うぬ、騙したな。魔法兵、やれっ!」


 冒険者かと思ってた奴らの中に魔法兵が混じってたらしく、3人が呪文の詠唱に入った。

 それに対して、こちらはチェイン、レーネの石弾と、セシルの氷弾をお見舞いしてやる。

 すると何発か弾をくらった魔術師がその場に昏倒し、あっさり無力化された。


「おのれ、小癪な。構わん、斬り捨ていっ!」


 ゲイル君が雑魚っぽい指示を出すと、兵士と冒険者が襲ってきた。

 しかし、そこに雷玉栗鼠サンダーカーバンクルに変身したキョロが広範囲の雷撃を浴びせると、あっという間に半分ほどが戦闘力を喪失してしまう。

 さらにバルカン、シルヴァ、ドラゴもその正体を現して威嚇すると、奴らはあっさり降伏した。



 とりあえず全員を武装解除し、地面に正座させた状態で尋問を行う。


「それで、今回の襲撃は誰の指示だ?」

「もちろん、トンガ総督のグスタフ卿です。私はただ指示を受けただけなんです。命ばかりはお助けをっ!」


 さっきまで超偉そうだったゲイル君が、躊躇なく総督を売って命乞いをする。

 忠誠心低いな~、ゲイル君。


「ふむ、総督は俺たちのこと、なんて言ってた?」

「え~と……人族の裏切り者~とか、亜人との合いの子のできそこない~とか、そんな感じですかね。もちろん全部総督が言ったことです」

「いちいち言い訳しなくていいよ……いずれにしろ、総督は俺を殺したくなるほど困ってるってことだよな?」

「はい、それはもう。最近は亜人の奴隷が調達できないので、商業活動が滞り、あちこちから突き上げをくらってます。噂では総督の頭に銅貨ほどのハゲができたとか」

「ハハハッ、それはいいや……今日のところは生かして帰してやるから、ありのままを総督に報告しろ。西部同盟では奴隷に替わる商品の検討もしてるから、そっちが望むなら交渉に応じるともな」

「は、はいっ、必ず伝えます。ありがとうございます、ありがとうございます」


 命が助かると分かったゲイル君が、喜んで帰っていった。

 もちろん、肌着と靴以外は身ぐるみはいでやったけどな。





 それからドライフたちと一緒に、カガチの港湾機能を整えた。

 数年間放置されていたとはいえ、元々あった設備を補修する形なので、3日ほどでそれらしい港になる。

 水際部分の修理も、カガリに手伝わせるとわりと早く済んだ。


 船乗り用の宿舎も建てたので、カガチの中が少し賑やかになっている。

 ドラゴの土魔法で簡単な建物を作ってやっただけなんだが、海賊どもはずいぶんと驚いていたな。




 港湾機能が整うと、すぐにドライフは交易に出掛けた。

 まずは俺たちがこの周辺で狩った魔物の素材を彼らに預け、リーランド王国の港湾都市セイスで売らせる。

 そしてその資金で必要な穀物や衣服、身の回り品を買いつけてくる予定だ。


 ちなみに奴らの船は外観をいじって、商船らしく見えるようにしてある。

 船の名前も”ケレス号”に変わり、船首にケレスをかたどった像まで飾ってある。

 ケレス海賊団の誕生だ。

 もちろん、海賊行為をさせるつもりはないけどね。





 海賊のゴタゴタが片付いてから、またリーランド王国の王宮を訪問した。

 特別にもらった通門証で王宮に入り、アレックを呼んでもらう。

 王宮の一角の部屋で待っていると、何人かを引き連れて彼が入ってきた。


「お待たせしました、デイル殿」


 アレックがにこやかに話しかけてくる。


「お久しぶりです、アレックさん。その表情から察するに、交渉は順調なようですね」

「そうなんですよ。鮮度維持食品の話が大うけで、すぐにでも輸入したいと言われてます。そのため、すでにカガチ再建団の編制が始められました」

「そうですか。それならあと2ヶ月くらいで、拠点を明け渡す準備をしておけばいいですかね」

「ええ、それくらいになると思います。拠点の整備費用などは、その時にお支払いしますね。やはり現物を見ないと査定はできませんから」

「それで構いませんよ。ちなみに最近、港湾機能も整備したので、それも追加でお願いします」

「それはまた、さすがというかなんというか……でも船からの荷下ろしが楽になっていいですね。分かりました、ちょっと多めに見積もっておきます」

「よろしく。ところで、やはりアレックさんも赴任されるんですか?」


 何気なく聞いたら、微妙な表情で答えた。


「アハハッ、ここまでやっておいて他人任せにはできませんよ。少なくとも交易が軌道に乗るまでは、帰れないでしょうね」

「ご愁傷様です。まあ、俺もサポートするんで、頑張ってください」


 これで王国との交渉には目処が付いた。

 あとは帝国をどうにかしないといけないな。

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