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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
西部同盟発足編
29/82

28.海賊襲来

 リーランド王国に奴隷貿易をやめさせるため、ガルド伯爵も巻き込んで王宮に乗り込んだら、国王に謁見するはめになった。

 しかし国王は奴隷貿易を続けるよりも、俺の協力を得る方向で考えているようだ。


 王国の要求を把握した俺は、交渉窓口のアレックを引き連れ、カガチへ舞い戻った。

 アレックは正式に西部同盟との交渉役に任命され、めでたく2等書記官に昇進もしている。

 これも国王へのお願いの成果だが、おかげで彼は今、やる気に溢れている。




 戻るとすぐに諸部族の代表をかき集め、ガサルで会議を開いた。


「それでは第2回西部同盟会議を開催する。なお、今回はリーランド王国の2等書記官 アレック・ガワルド殿がゲストとして参加される」

「初めまして。この度、西部同盟との交渉役に任じられたアレック・ガワルドです。今までは帝国を介して奴隷貿易に関わってきた我が国ですが、デイル殿の熱意に動かされ、それを見直そうとしております。本日は奴隷売買に頼らない交易について、相談させてください」


 この挨拶に、同盟側の出席者達からどよめきが湧き起こった。

 こうも早く人族が歩み寄ってくるとは、思ってもいなかったのだろう。

 俺はさっさと会議を進めるよう、議長のガサルカを促した。


「ゴホンッ。まずは街道の整備状況をシュウ殿から報告してもらおう」

「は、はい。まずガサルから猫人族、狐人族の村までの道路を整備中です。おそらく2ヶ月ほどで馬車の往来が可能となる見込みです。それから狼人族、虎人族、獅子人族の村への道もすでに整備に掛かっていますが、こちらはさらに2、3ヶ月掛かると思われます」


 ミントの死でひどく自分を責めていたシュウだが、街道整備の監督を任せたら、のめり込むように取り組み始めた。

 魔大陸の繁栄はミントの夢でもあり、集落間の往来を活発にすることで、それを実現しようと頑張っているのだろう。

 今はガサルを主な拠点にして、工事の監督に走り回る毎日を送っている。


 彼の報告を聞いた鬼人の代表、つまりカインの親父さんが感心したように口を挟んだ。


「ずいぶんと順調に進んでいるようですな」

「ええ、普通ならもっと掛かりますが、難しい所は土魔法で支援しているので、ハイペースで進んでいます。サンドラさんも活躍してますよ」

「ほー、あのサンドラがのう」


 基本的には諸部族から作業者を出してもらっているが、難所の工事には俺とサンドラ、ドラゴが駆り出される。

 これは工期の短縮のみならず、普通なら大きく遠回りする難所の地形を変えたり、川に橋を掛けたりすることで経路短縮にもつながる。


「ええ、デイルさんやサンドラさんが土魔法で地形を変えてるおかげで、ほとんどの道の行程が半分くらいになりそうです。さらに鬼人族、竜人族、両エルフ族の集落への道も、順次整備していきます。さすがに馬車は通れませんが、今までより圧倒的に早く行き来できるようになるでしょう」

「なんとまあ、凄い世の中になったものだ」


 各種族の代表が口々にぼやいている。

 俺の隣にいたアレックが話しかけてきた。


「集落間の行き来が楽になるのなら、商品の流通が良くなりそうですね」

「そのとおりです。さらに各集落で特産品も検討してもらってます。議長、特産品の話にいきましょう」

「うむ、それでは各集落で検討している特産品について報告してくれ。まずは狐人族から頼む」


 その後、各集落から報告があった。

 主な特産品の候補には、狐人、猫人は薬品や農産物、狼人、虎人、獅子人は中型以上の魔物素材、鬼人は大型魔物や薬草、エルフは薬品と魔道具、そして竜人は奥地でしか採れない特殊な薬草や鉱石などが上がった。

 やはり集落の立地条件や種族特性で差が出てくるが、同盟内であまり格差が生まれないよう、調整していけばいいだろう。


「ふむ、それなりに検討が進んでいるな。実際に商品が出回れば、同盟内が活気づきそうだ」

「そうですね、同盟内ならこれで問題ないでしょう……しかしアレックさん、この中に奴隷に替わるような商品はありますか?」


 ここでアレックに話を振ると、ちょっと渋い顔で答えてきた。


「予想以上に多彩な商品があることには驚きました……しかし、これで奴隷貿易の穴を埋められるかといえば、少々疑問ですね」

「やはりそうですか……それなりに価値のある魔物素材や魔道具であっても、わざわざ船で1ヶ月も掛けて運ぶとなると、魅力に欠けるってことですね」

「ええ、そうです。これだけでは、我が国の上層部を納得させるには弱いと思います」


 アレックが真剣に奴隷売買の替わりを探そうとしてくれているのは嬉しいが、これでは手詰まりだ。

 何か良い手はないものだろうか?


 俺は改めて王国が望んでいる商品のリストを配り、案を募った。


「このリストにあるように、エルフ族の魔道具はけっこう期待されてるみたいなんですが、どうでしょう?」

「ふーむ……あいにくと我々の魔道具は生産性が低いので、大々的な交易には対応できないでしょうね。ところでこの食料品ですが、精霊術で鮮度を保って輸出する、というのはいかがでしょうか?」


 そう提案してきたのは、エルフ族の長 ラナウスだった。


「精霊術で鮮度を保つって、そんなことできるんですか?」

「ええ、術自体はそれほど難しいものではありません。密閉された容器内であれば、ひと月やそこらは鮮度を保てますよ」


 この提案にアレックが食いついた。


「それが本当なら、魔大陸の肉類や果物なんかを輸出できますよね。上手くやれば、ちょっとした流通革命です。ぜひ前向きに検討させてください」

「分かりました。本来なら秘匿ひとくすべき技術なのですが、奴隷狩りがなくせるのならば、喜んで協力しましょう。幸い、デイル殿のおかげで順調に術者も増えていますから、それなりに数も出せると思います」

「ハハハッ、またもデイル殿のおかげですか。本当にいろいろとやっていますね」


 なんかアレックに笑われたが、良い提案だ。

 食品の鮮度維持ができるなら、同盟内の食料流通も活発になるだろう。

 王国の食品関係者から文句が出る可能性はあるが、たぶんメリットの方が大きいから押し切れるはずだ。


 その後、鮮度維持の魔法を掛けた食品サンプルを準備してもらう手はずを整え、会議は終わった。




 2日後にはサンプルを受け取り、アレックと一緒に王国へ送った。

 俺はそのままとんぼ返りして、1週間後にまた迎えにくることにした。




 こうしてカガチに戻ってきた翌日、海蛇竜シーサーペントのカガリから不審な船が接近中との連絡が入る。

 今のカガリは体長が俺の5倍以上にも成長し、周辺の海を警戒してくれている。

 不審船発見の報に、狩りに出ている仲間を呼び戻して臨戦態勢を整えた。


 やがて中型の船がカガチの沖合に現れ、そのまま入港してきた。

 船が埠頭に乗りつけた途端、わらわらと小汚い男たちが降りてきて、武器を抜いて威嚇する。

 およそ50人ほどと見えるその集団から、一際体格のいい男が進み出て、ベラベラ喋り始めた。


「ガッハッハ、なかなかいい港じゃねえか。ここは俺たちの拠点にするから、おとなしく投降しろ。そうすりゃ命だけは助けてやるぜ。女の方はたっぷり可愛がってやるからな、グヒヒヒヒヒ」


 レミリアやサンドラを見て、早くも嫌らしい妄想を始めたおっさんに、とりあえず名前を尋ねてみた。


「えーっと、あなたはどちらさんですかね?」

「フフン、俺の名を聞きたいか? 俺様はな、帝国の海域で名高い大海賊 赤ひげのドライフだ。余計な抵抗はしない方が身のためだぞ」

「これはこれは、やはり海賊さんでしたか。俺は冒険者のデイルっていいますが、いろいろと面倒臭いんで、これを見て帰ってくれませんかね」


 その瞬間、シルヴァとバルカンが本来の姿に変身した。

 暴風狼テンペストウルフ飛竜ワイバーンが大きな声を上げ、魔法を披露する。

 シルヴァのつむじ風が吹き荒れ、バルカンの火炎が船の一部を焼いて、海賊どもの度肝を抜いた。


「ば、馬鹿な、こんな所にワイバーンがいるはずねえ。野郎ども、構わねえからやっちまえ」


 おやおや、逆ギレして向かってきやがりましたよ。

 このまま帰ってくれれば楽だったのになあ。


「後始末が面倒だから、なるべく殺さないようにな」


 俺が指示すると前衛が海賊を迎撃し、後衛は弓や魔法でそれを援護し始める。

 キョロとドラゴも本性を現して暴れまわり、さらに海から現れたカガリも口から海水を噴いて薙ぎ払っていた。

 あっという間に敵の半数近くが戦闘不能に陥り、最後にバルカンがひと吼えしたら、残った奴らはあっさりと降参した。


 おいおい、大海賊だったんじゃないのかよ。

 弱すぎるぞ。



 降伏した海賊どもを武装解除して、地面に正座させて尋問を始めた。

 それによると、こいつらは最近まで帝国の周辺で海賊業をしていたそうだ。

 しかしちょっとやり過ぎて帝国海軍に狙われ始めたので、魔大陸まで逃げてきたらしい。


 とりあえず物資補給と情報収集を兼ねてトンガに入港したのだが、そこに接触してきた奴がいた。

 そいつはトンガ総督府の使いだと言い、カガチに籠る盗賊の討伐を持ちかけたんだそうだ。


 この話の中の盗賊ってのは、俺たちのことだな。

 その使いから、盗賊は20人くらいしかおらず、海側は無防備なので簡単に討伐できると吹きこまれたらしい。

 盗賊を討伐したら拠点はそのまま使っていいし、報酬も出すと言われ、ホイホイ出かけてきたってわけだ。


「そういうわけで、実は旦那が魔大陸の亜人を束ねて帝国と戦っているなんて知らなかったんですよ。全く帝国の奴ら、旦那のことを盗賊だなんて嘘つきやがって。今度会ったらとっちめてやりまさあ」


 本当のことを教えてやったら、ドライフの野郎がこびを売ってきた。

 どうせ表面的に従ってるだけで、あわよくば逃げ出そうとでも考えてるんだろう。


 さて、こいつらの始末、どうしようかね?

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新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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