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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
西部同盟発足編
28/82

27.王国との交渉

「ふむ、そうですか……それならいっそ、今から一緒に押しかけて交渉しましょうか?」

「はあっ?」


 とんでもないことを言われて固まるアレックに、さらに追い込みを掛ける。


「仮にアレックさんが船で王国に戻って、またここに来るとすると、3ヶ月は掛かりますよね?」

「まあ、最低でもそれくらいは掛かるでしょうね」

「そんなことするくらいなら、さっきのワイバーンで王国に飛んで、直接交渉した方がいいと思うんですよ」

「ちょ、私にワイバーンに乗れと言うんですか?」


 アレックが露骨に嫌そうな顔をする。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。飛ぶ時は専用の箱の中だし、たぶん1日ぐらいで着きます」

「船でひと月の距離を、たった1日でですか?」

「空を飛ぶってのは、それぐらい有利なんですよ」


 実際に王国まで飛んだことはないが、バルカンの感覚ではそれぐらいで着くらしい。


「しかし……私たちだけで押しかけても、本当に偉い人はなかなか会ってくれませんよ」

「Sランク冒険者の肩書でも駄目ですか?」

「建前上はSランクが男爵相当と言われますが、やはり冒険者は低く見られます。難しいでしょうね」

「何か後ろ盾が必要ってことか……そんなの俺にはないからなあ」


 そんな話をしていたら、レミリアが口を挟んできた。


「旦那様、ガルド伯爵を巻き込んではいかがでしょうか?」

「伯爵? 力を貸してくれるかな?」

「旦那様を調査官に推挙したのは伯爵です。後ろ盾になるには十分な理由かと」


 そう言いながら、レミリアが悪い顔で笑う。

 ああ、文字どおり巻き込んじゃうわけね。


「なるほど……たしかに伯爵は、俺の後見人みたいなもんだ。よく教えてくれた」

「ウフフッ、お役に立てて幸いです。王国へ行くなら、私も連れていってくださいね」

「ああ、護衛兼相談役で連れてってやる」


 レミリアとの悪だくみを終え、アレックに向き直った。


「アレックさん。先に迷宮都市ガルドに寄りましょう。そこで伯爵を味方に付けられれば、少しは話が進むでしょう」

「ガルド伯爵、ですか?……たしかにそれだけの後ろ盾があれば心強いですが、本当に力を貸してくれますかね?」

「たぶん大丈夫ですよ。そうと決まればとっとと出発です。荷物を準備してください」


 それから最低限の荷物を整えると、バルカンの抱える飛行箱に乗って旅立った。

 同行したのはアレックの他、レミリアとキョロだ。

 万一、何かのトラブルで囲まれた場合には、キョロの雷撃が有効だし、見た目が可愛いくて油断させやすいからな。





 途中、点在する島で休憩を取りながら、予想どおりにほぼ1日でガルド郊外に到着した。

 飛行箱を近くの森の中に隠して町の中に入ると、まずは2軍の住み家だった倉庫を目指した。

 偽竜フェイクドラゴンのアイスとグレイを置く関係で、ヒルダたちは今ここに住んでいるのだ。


 幸いにも在宅していた彼女たちに事情を話し、1晩泊めてもらった。

 久しぶりに話をしたが、彼女たちの活動は順調なようだ。

 さすがに戦力が激減したのであまり迷宮には潜らず、後進の育成にいそしんでいるらしい。


 つなぎ石をヒルダに渡しておいたので、今後は彼女とも連絡が取れるようになった。

 万一、王国との関係が悪化しても、これで救いに来れるだろう。





 翌日、アイスがく馬車で伯爵邸まで送ってもらい、面会を申し込むと、伯爵はすぐに会ってくれた。


「デイル、なぜお前がここにいる? 何か問題でも起きたのか?」

「ちょっと、落ち着いてくださいよ、伯爵。まあ、問題と言えば問題なので、相談に乗ってもらおうと思いまして」


 そこで事情を話したら、伯爵にめっちゃ怒られた。


「ばかもーんっ! 奴隷貿易をやめろとか、何様のつもりだー、お前はっ!」

「そんなにおかしなことですか? 一方的に魔大陸の住人を奴隷にしてる現状の方が、間違ってると思いますけど」

「奴隷制うんぬんの話ではない。王国の命令で調査に赴きながら、植民地政策に口を出すその態度が傲慢だと言うのだ」

「えーーっ。だって最初から奴隷狩りをやめさせるために、魔大陸へ渡ったんですよ、俺」


 それを聞いた伯爵が頭を抱える。


「それがお前の目的だったのか……もしこれが王宮に伝われば、儂の立場も悪くなるのだぞ」

「だから、先にここに寄ったんですよ。いきなり王宮に乗り込んでも、話を聞いてくれないだろうってのもあるんですけど」

「当たり前だっ! おのれ、忌々しい…………それで、儂に何をさせようと言うのだ?」

「とりあえずここにいるアレック書記官と一緒に王宮に乗り込んで、どうしたら奴隷貿易なしで植民地が経営できるかを検討するよう、申し入れてください」


 俺が悪びれもせずそう言うと、凄い顔で睨まれた。

 しかし俺が全く意に介さないのを見て、諦めたらしい。


「ハーーーッ。ほんっとに面倒なことを持ちこんでくれるな。そんなことが可能だと、本気で思っているのか?」

「当たり前じゃないですか。魔大陸自体はほとんど未開発なんですよ。真面目に探せば、船で1ヶ月掛けても成り立つ商売はあるはずです。すでに向こうの住人を巻き込んで、商品の開発を始めてますしね」


 それを聞いた伯爵が、しばらく腕組みをして考えていた。

 やがて決意した表情で口を開く。


「よかろう。お前らと一緒に王宮に赴いて、提言してやろうではないか。どの道、このままではお前を推挙した儂の立場がない。いいか、これは貸しだぞ」

「今までさんざん貸してきたと思うんですけどねえ。しかしいいでしょう。上手くいけば、伯爵に損はさせませんよ」




 その日の内に伯爵の馬車で王都へ向けて出発し、翌々日には到着した。

 そして伯爵の政治力を駆使し、財務大臣との会議を設定してもらった。


 その席上で奴隷貿易をやめろと言ったら、もちろん非難の大爆発だ。

 しかしバルカンの変身を見せることで、それを黙らせた。

 大臣たちを外に連れ出して、ワイバーン化させた時のあいつらの顔と来たらもう。


 こうして新たな貿易品目を検討させた結果、いくつかの候補が浮かび上がった。


1.エルフ謹製の魔道具

2.魔鉄、アダマンタイトなどの希少鉱石

3.魔大陸独自の魔物素材

4.食料品


 やはり一番期待度が大きいのが、エルフ謹製の魔道具らしい。

 それから希少鉱石、魔物素材、食料の順になるが、食料はほとんど期待してない感じだ。

 1ヶ月ももつ食料とか、限られるからな。



 こうしてようやく王国の要求を把握した後、伯爵に呼び出された。

 何かと思って付いていくと、どんどん王宮の奥に進んでいく。

 なんとなく察しがついてきた頃、ある部屋に通された。

 部屋の中には、豪華な衣装を着たおっさんと、執事みたいな爺さんだけがいる。


「デイル、こちらが国王陛下だ。内密に話をされたいとのご要望だ」

「ああ、やっぱり。初めまして、国王陛下。Sランク冒険者のデイルと申します」

「フハハハハッ、全く物怖じしないのだな、おぬしは。儂がアインズ・ウルド・リードバルトだ。ガルド迷宮を完全攻略した英雄が、何やら面白いことを言いだしたと聞いてな。ここは私的な場所なので、あまりかしこまらずに座るがよい」

「これはどうも、陛下」


 勧められるままに国王の前のソファに座った。

 伯爵は俺の不作法に目をむきながらも、隣に座る。


「して、奴隷貿易をやめさせたいそうだが、それはなぜかな?」

「私の仲間には、奴隷として売られていた獣人が数人いるのです。魔大陸から攫われ、半ば死にかけていた者もいました。そんな仲間たちの家族を、守ってやりたいと思いまして」

「なぜそんなに亜人に肩入れをする?」

「仲間を愛しているからです。それに、私は人族と他の種族に優劣の差はないと思っていますし」


 そう言ってのけると、国王が悩ましそうな顔をした。


「ふむ、それは危険な思想だな。我が国の権威に逆らうものだ」

「ご心配なく。少なくともこの国で、それを言って回ったりはしませんよ。海の向こうで勝手にやらせてもらいます」

「たとえ海の向こうでやっていても、それはこちらに伝わるぞ」

「その辺は上手く情報を管理してください。表向きは、魔大陸の住人が団結して奴隷狩りに抗議していることにすればいいでしょう。そのうえで私が植民地を再建し、新たな交易品を開発したと公表すれば、王国の権威は保てるのではありませんか」

「口を慎まんかっ、デイル」

「構わんよ、伯爵。これは非公式の会談だ……しかし、王国の権威を一顧だにしないその態度、やはり危険だな。いっそ消えてもらった方がよいか?」


 国王が危険な表情で、そう言い放った。


「そのような脅しは無用です、陛下。陛下の背後に5人ほど兵士が潜んでいるのも分かっていますが、使うつもりはないのでしょう?」


 これはチャッピーが教えてくれた情報だ。

 不可視の相棒が、周辺の仕組みを見抜いて俺に教えてくれたのだ。


「なぜそう思うのかな? 儂は国のためになら、なんでもするぞ」

「本当にそうなら、Sランク冒険者と直接会ったりはされないでしょう。おそらく陛下は私の申し出に利益を見い出しながら、思い上がった若者に少し釘を刺しておこう、とでもお考えになったのでは?」


 内心はビクビクもんだったが、精一杯虚勢を張って言ってやった。

 すると、少し間を置いて国王が笑いだす。


「クックック……ウワーッハッハッハッハ……こんなこと言っておるぞ、ガルド。面白いのう……もしこの国に留まって働いてくれるのなら、貴族として取り立ててもよいぞ」

「とても高く評価していただき光栄ですが、あちらでやることがあります。植民地を通して貢献させていただきますので、ご容赦を」

「そうか。まあ、ワイバーンを操る猛者を、これ以上引き留めても無意味よな。せめて表向きだけでも従ってくれることで良しとしよう。今後も頼むぞ」

「心得ました。あ、それから窓口になってるガワルド事務官を、出世させてもらえませんか?」

「ちゃっかりしとるのう。しかし交渉がまとまるようなら、それなりに報いるつもりじゃ」

「ありがとうございます」


 こうして俺は国王にも認められたようだ。

 あとは、なんとか王国に利益をもたらす貿易体制を、確立するだけだな。

魔大陸とリーランド王国との距離は5千kmくらいを想定しています。大西洋を横断するイメージですね。バルカンが時速200kmで飛ぶので、1日ちょっとで着く計算です。

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