24.始動! 西部同盟
【告】
西部同盟は人族に対し、魔大陸内での奴隷狩りを即座に中止することを要求する。
もしこの要求が叶えられない場合、我々は独自の判断で奴隷狩り集団を逮捕し、処罰を与えることとする。
逮捕された犯罪者は初犯者のみガサルに預け、1ヶ月の鉱山労働の後、放免となす。
ただし再犯者については、その場での処刑を含む厳重な処罰で臨むことをここに宣告する。
尚、ドワーフ族は本件に関し中立を保ち、同盟・帝国間で仲介の労を取ることをここに付す。
竜人族代表 1の庄のリューデン
鬼人族代表 サジ村のオルガ
エルフ族代表 1の庄のラナウス
ダークエルフ族代表 1の庄のダイン
狼人族代表 ナカ村のウォルト
獅子人族代表 ジガ村のライアス
虎人族代表 ラナン村のティグラ
狐人族代表 サトリ村のフォルス
猫人族代表 チッタ村のカラム
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西部同盟が発足すると、すぐにトンガの総督府と、奴隷狩りを牛耳っている4大商会に抗議文が届けられた。
これに対し、総督府はガサルの役所へ使者を送り、強烈な抗議をしてきた。
奴ら曰く、アッカド帝国は奴隷狩りを推奨するものではないが、一方的な中止要求は受け入れられない、と。
さらにドワーフ族が同盟に協力するのなら、帝国との商業活動に支障が出ることは避けられないうえ、ドワーフ族を奴隷狩りから守れないかもしれない、とまで言ってきたらしい。
これに対して町長のガサルカは、”あくまでドワーフ族は中立であり、帝国と同盟の友好を橋渡ししたい”、と回答してやったそうだ。
これくらいの脅しは想定の範囲内だったし、ドワーフの中でも人族の横暴に対して反感が高まっていて、町長の判断は案外支持されているんだそうな。
まあ、俺が簡単にガサルの産業に打撃を与えられる、と知ってるのも大きいんだけどね。
一方、4大商会も激怒していた。
4大商会とはゲッコー、ゴクド、ハッサン、テバルの名を冠し、長らく奴隷貿易を牛耳ってきた奴らだ。
ただし、ゲッコー商会は俺たちのかわいいミントを殺してくれたので、関係者を全員始末して支店の建物ごと焼き払ってやった。
また懲りずに支店を再建しようとしているらしいが、当面は再建だけで精一杯なので放っておいていい。
残る3商会をチャッピーや猫妖精のナゴに偵察してもらったところ、どこもカンカンになって怒ってたそうだ。
そりゃあ、奴らの最大の収益事業を、すぐにやめろと言われりゃ怒るのも当然だ。
しかし、奴隷狩りという犯罪行為を棚に上げ、逆ギレするような奴らに遠慮するつもりはない。
あまり言うことを聞かないなら、容赦なく叩き潰してやろう。
抗議文を届けた翌日、さっそく狼人族の村周辺で、奴隷狩り発見の知らせがもたらされた。
俺はレミリア、ケレス、キョロ、シルヴァを引き連れ、バルカンに乗って出発した。
半刻足らずで現場に到着してシルヴァに探らせると、すぐに見つかった。
5人の冒険者風の男たちが、3人の狼人を連れ歩いていたので、前方に回り込んでお出迎えする。
「どうも、こんにちは~。あんたら奴隷狩りやってるみたいだけど、昨日から禁止されてるって、知らないの?」
「ああん、誰だお前? 亜人どもが奴隷狩りをやめろと言ってきたのは聞いてるさ。しかも俺たちを逮捕するとか言ってるらしいけど、馬鹿じゃね~の。やれるもんならやってみろってんだ。ギャハハハハッ」
「ふーん、その口ぶりだと、わざわざ抗議文に対抗するために出てきたみたいだな。まあ、1度は痛い目に遭わなきゃ分かんないか。でも初回は鉱山労働で済むけど、再犯はその場で処刑もあり得るから、覚えといてね」
「うるせー、だから捕まえてみろってんだ!」
「じゃ、そうさせてもらうよ。キョロ、やれ」
(りょうか~い)
次の瞬間、キョロの雷撃が迸ると、5人の丸焼きができ上がった。
俺たちは手際よくそいつらを武装解除して縛り上げると、ケレスに尋問させてみた。
するとこいつらは、ゴクド商会に雇われた身で、過去にも相当ひどいことをしてきたことが判明する。
ぶっちゃけ、この場で始末した方がいいような奴らなんだが、さすがに最初から処刑すると、帝国との関係がこじれると思ってやめた。
隷属の首輪をはめられていた捕虜はその場で解放して、村まで送ってやる。
すげー、感謝されたよ。
頑張って同盟を立ち上げた甲斐があったというもんだね。
その後、ガサルの鉱山に罪人を送り届け、強制労働の手続きをして帰った。
それから1週間、ポツポツと監視網から連絡が入り、新たに7組の奴隷狩り集団を拘束した。
全て鉱山に送り届け、雇い主の商会にも連絡してある。
この処置に対し、帝国側から交渉の申し入れがあったので、ガサルで会議を開いてもらった。
同盟側は俺とカイン、そして狐人族代表のフォルスが出席することにした。
ガサルの会議室に着くと、すでに帝国の役人と4大商会の代表が顔を揃えていた。
席に着くと、町長のガサルカが会議を始める。
「それでは会議を始めよう。私はこの町の長ガサルカだが、まず最初に言っておく。我々ドワーフ族はあくまで中立であり、どちらかに肩入れすることはない、と」
「フンッ、本当に中立かどうか怪しいものだな。お前たちの鉱山で、我々の従業員を強制的に働かせているらしいじゃないか?」
「中立だからこそ罪人の扱いは公正に行っている。変な言いがかりはよして欲しいな、ゴクド殿」
ゴクド商会がいきなり噛みついたが、ガサルカのおっさんも堂々としたもんだ。
さすが西部最大の町を束ねているだけはある。
しかし今度は他の奴らがキレ気味に喚き立てた。
「そんなことよりも問題は、亜人の分際で我ら帝国人民を一方的に取り締まっていることだ!」
「そうだそうだ。亜人ごときが少々集まったからといって、我らアッカド帝国と対等にでもなったつもりか? お前らなぞ帝国にとってはゴミのような存在だ。そもそも亜人を奴隷にして何が悪い?」
さすがは帝国の関係者、実に傲慢な物言いだ。
そこで俺も反論を返す。
「もちろん帝国と争うことは、我々の本意ではありません。しかしここは魔大陸です。自国領でもない場所で現地人を奴隷にしようとすれば、報いを受けるのも当然でしょう?」
「若造が、分かったようなことを。そもそも、なぜ人族のくせに亜人の肩を持つ?」
「人族だろうが、他種族だろうが関係ありません。一方的に人族がこの地の住人を奴隷にするのが間違っていると思うからこそ、私はこちらにいます」
「この裏切り者めっ! 恥を知れ、恥をっ!」
「どうせ、亜人のメスにたぶらかされているんだろうが。それとも、亜人との合いの子か?」
いや~、清々しいほどゲスな奴らだ。
でも合いの子ってのは、いい点を突いてるかもしれない。
俺にはエルフの血が混ざってるかもしれないからな。
しかし、同盟側に人族の協力者がいると思わせることに意味があるので、それは内緒にしておく。
「いいか、お前ら。すぐに我々の従業員を返して、賠償金を払え。そうしたら許してやらんでもない」
とうとうゴクドのおっさんが、とんでもない要求をしてきやがった。
要求に応じなかったらどうなるのか、一応聞いてみる。
「そうしなかったら、どうなるんです?」
「帝国の軍隊がお前らの集落を蹂躙する。この辺の亜人は全て殺されるか、奴隷になるだろうな」
「へ~、トンガにそんな戦力があるとは知らなかった。せいぜい兵士が数十人しかいなかったはずだけどなあ」
「そんなもの、帝国本土からいくらでも呼び寄せられるわ。千人もいれば十分だろう」
「うわあ、さすがアッカド帝国だ……でも、本当にそんな余裕あるんですか? お役人さん」
「も、もちろんだ……千でも2千でも呼んでやるぞ」
役人らしき男が頬を引きつらせてホラを吹いているが、そんな大部隊を簡単に動かせるはずがない。
船で1ヶ月以上も掛かる遠隔地に千人も送ったら、一体どれほどの金が掛かるだろう。
せいぜい船1隻分、200人も呼べれば御の字だろう。
ただし、人族にも化け物みたいに強い奴はいるから、少数だけ送られてくる可能性はある。
そんなのを相手にすればこちらも被害は免れないので、なるべく避けたいところだ。
もっとも、そんな化け物を担ぎ出すにも金が掛かるから、それほど心配ないとは思うけど。
「お~、怖い怖い……しかし重ねて言いますが、我々も帝国と争いたくはないんですよ。にも関わらず、一方的に我らの権利を侵害するなら、命懸けで戦うしかありませんね」
「生意気な……後で泣きついてきても遅いからなっ!」
「この借りは何倍にもして返してやる!」
予想以上にこちらが強硬だったせいか、帝国側の関係者は怒って出ていってしまった。
そんな彼らの背中に、挑発的な言葉を投げ掛ける。
「再犯者を奴隷狩りに出さないでくださいね~。こっちも処刑なんてしたくありませんから~」
まあ、言っても聞きゃあしないだろうけどな。
「デ、デイルさん、あんな風に怒らせちゃ、まずいんじゃないかな?」
「現状で怒らせずに済む手なんてありませんよ、フォルスさん。こちらは宣言したことを実行できるところを、見せるしかありません」
「し、しかし、本当に軍隊を派遣してきたら……」
「こんな僻地に送れる軍隊なんて、せいぜい200人ぐらいですって。それぐらいならなんとでもなります。まあ、少数でも強力な戦力を送ってくる可能性はあるので、情報収集は怠らないようにしましょう。町長も協力してくださいね」
ついでにガサルカのおっさんにも頼んでおく。
「うちは中立だぞ」
「まあまあ。なんかそれらしい噂とか聞いたら教えてくださいよ。世間話として」
「ふむ、まあ世間話ならいいだろう」
彼が意外に協力的なのは助かる。
とりあえず、同盟の初動はこんなものでいいだろう。
あとは油断しないで、戦力強化を急ぎましょうかね。