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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
西部同盟発足編
23/82

22.ドワーフを巻き込め

 俺が妖精女王の後ろ盾を得たことにより、魔大陸西部の主要集落が奴隷狩り撲滅で協力し合うことになった。

 事ここに至り、俺たちの計画は次の段階へ移行することになる。


 次の段階では各種族の代表を集め、奴隷狩りに対抗する同盟を形成することになる。

 そのうえで帝国へ抗議文を突きつけると共に、実力で奴隷狩りを排除する仕組みも作り上げる。

 そして抗議文を出す窓口としては、帝国との外交チャンネルを持つドワーフ族が望ましい。


 そこで俺はガル、ガムの祖父であるガランの紹介で、ドワーフの町ガサルの長に面会させてもらった。


「初めまして、冒険者のデイルです。今日はお時間を取っていただき、ありがとうございます」

「フンッ、ガランの紹介だからな。儂がこの町の長、ガサルカだ。忙しいので早くしてもらおう」

「分かりました。それでは手短に――」


 俺はガサルカに、人族による奴隷狩りをやめさせたいこと、それについて魔大陸西部の住人に協力を取りつけてあること、そしてドワーフ族に帝国への仲介を頼みたいことを説明した。

 最初、ガサルカは黙って聞いていたが、聞き終わると激しい言葉を返してきた。


「馬鹿か、貴様は! 黙って聞いていれば好きなことをほざきおって。めぼしい種族の協力を取りつけたうえに、妖精女王の後ろ盾まで得ただと? たわ言もいい加減にせい」


 あれ、おっかしいな?

 ドワーフの巫女にも、女王から神託が下ってるはずなのに。


「嘘ではありません。ドワーフ族の巫女にも、妖精女王から神託が下っているはずです。至急、確認してください」

「ああん? そう言えば老いぼれ巫女からそんな連絡が来とったかのう。しかしそんな話、信じられんな。大方、あの耄碌もうろくババアが夢でも見たんだろう」


 神託をガン無視とは、恐れ入った。

 ドワーフ族の巫女ってのは、権威が低いのだろうか?


「巫女の言葉が信じられないのなら、何があれば信じるんですか?」

「さあな、妖精女王がここに来て直接話したらどうだ?」

「ガサルカ、神聖なる妖精女王に対し、不敬だぞ!」

「やかましいガラン、こんなくだらん話に付き合わせおって。今後、お前の紹介は2度と受け付けんからな!」


 ガサルカはそう言うと、部屋を出ていってしまった。

 なんとも話の通じないおっさんだ。


「すみません、ガランさん。せっかく紹介してもらったのに」

「デイルさんのせいじゃないですよ。あいつがおかしいんだ。巫女どころか、妖精女王までないがしろにするなんて」

「それなんですけど、この町の巫女は権威が低いんですか?」

「うーん……町が豊かになるに従って信仰が衰えているのは事実ですが、それなりに影響力はあります。あんなに頭ごなしに否定されるはずはないんですが……」

「なんか事情がありそうですね。すみませんが、神殿に連れていってもらえますか」


 その後、ガランの案内で神殿に赴き、巫女さんと話をした。

 すると浮かび上がってきたのは、人族との交流を進める推進派と、ドワーフ本来の生き方を説く保守派の対立構造だった。

 さっき会ったガサルカは推進派の筆頭であり、人族との融和を積極的に進め、町を豊かにしてきた実績がある。


 それに対し、必要以上に自然を破壊し、貧富の格差を産み出す風潮に警鐘を鳴らしているのが、神殿を含む保守派だ。

 しかし、町が成長するに従って推進派の勢いは増すばかりで、主要ポストや権益を独占されつつあるんだとか。


「なるほど、人族との交流で大きな利益を得ている彼としては、人族に敵対する俺の提案は論外ってことですか?」

おっしゃるとおりです。私の方から神託があったことを何度伝えても、彼は握りつぶすでしょう」

「ふむ…………それなら、神託を無視した報いをくれてやるってのは、どうでしょう?」

「は? でも私たちにそんな力はありませんよ」


 神殿の巫女であるカレンは、俺の提案の意味が理解できないようだ。


「俺はすでに妖精女王の後ろ盾を得ているんですよ。そしてドワーフの社会だって、精霊のお世話になっていることはあるでしょ?」

「はあ、たしかに鍛冶仕事や採掘に使う魔道具などは、精霊の力を借りていると言われますね」

「それですよ。主に推進派が関わる産業で精霊の動きを止める一方で、神殿関係はそのままにしたらどうなります?」

「しかし、そんなことどうやって?」

「だから言ったじゃないですか、俺は後ろ盾を得ているって……ナゴ、精霊の動きを部分的に止めることは可能だよな?」


 すると猫妖精ケット・シーのナゴがその場に姿を現し、ガランたちを驚かせた。


「もちろん可能なのニャ。我輩は女王から指揮権を与えられているから、いつでもやれるのニャ」

「ということです。推進派に打撃を与える産業を絞り込んで、対象を選びましょう」

「しかし精霊を止めてから、どうするんですか?」

「町長が神託を無視したから罰が下ったと触れ回って、彼を交渉の席に着かせます。あまり抵抗するなら、辞めてもらってもいいですね」

「さらっと怖いことを言いますね。しかし、それくらいせんとガサルカは動かせないか……」


 それからガラン、カレンと一緒に、精霊の動きを止める業種や道具を選定した。

 基本的にこの世界では魔石を燃料とする魔道具が多く使われているが、これは精霊の力を利用している物が多い。

 最も身近なのは明かりを灯す照明器具だが、他にも鍛冶師が使う火を強める道具だとか、鉱山の坑道に風を送る道具など、いろいろとある。


 それらの多くは直接火を焚くことなどで代替できるのだが、なまじ普段から魔道具に頼り切っていれば切り換えは容易でない。

 特にこの町の主要産業である鉱山と鍛冶は、魔道具を大量に導入しているからダメージは甚大だろう。




 ターゲットを決定し、その日の内に精霊に根回しを済ませると、翌日から精霊のボイコット作戦を展開した。

 おかげで早朝から機能を停止したドワーフの町には、混乱と怒号が飛び交う。

 さらに神殿関係者が、”この騒動は町長が妖精女王の神託を無視した報いだ”と触れ回ると、怒りの矛先がガサルカに向かった。

 昼前にはドワーフの職人や鉱夫たちが役所前に詰めかけ、ガサルカを突き上げ始めた。



 そして日暮れ前には、憔悴しょうすいしたガサルカが俺を訪問してきた。


「魔道具を使えなくしたのは、あんたの指示だと聞いたが本当か?」

「ええ、そうですよ」

「そんなこと、一体どうやったんだ?」

「ちょっと精霊達に休んでもらっただけです」

「急にそんなことをするなんてひどいじゃないか。せめて事前に話を――」

「妖精女王の神託を無視して、話し合いを一方的に打ち切ったのはそっちですよね?」

「それは……すまん、貴殿を甘く見ていたようだ」


 昨日はあんなに高圧的だった彼が、今は見る影もない。

 そうとう吊るし上げられて弱っているようだ。


「町を豊かにするのも結構ですが、少し立ち止まって足元を見直すのも大事ですよ。私の提案はいいきっかけになるんじゃないですか?」

「馬鹿を言うな! 帝国にケンカを売るなんてこと、できるわけがない」

「違いますよ。私がお願いしているのはあくまで仲介であって、敵対じゃないんです。むしろ、中立の立場でいてもらった方がいい」

「いくら自分たちが中立だと言っても、帝国はそうは見ないだろう。敵対していると見做みなされれば、交易が減って町が衰えてしまう」

「帝国だってあなたたちとの交易で利益を得ているんですから、完全には無くなりませんよ。それにもし減ったとしても、この大陸内でカバーすればいい」

「大陸内で補うとは、どういうことだ?」

「今回の奴隷狩り撲滅運動で、私は大陸西部の住人と話を付けました。有効に奴隷狩りを阻止するためには、お互いの連絡を良くする必要があるので、各集落をつなぐ道を整備するつもりです。それによって交易も促進されるでしょう」


 そこまで話してやると、ガサルカが考える目になった。

 ようやく俺の目指す姿に気づき、そこから金儲けの臭いを嗅ぎつけたようだ。


「エルフや竜人族からも、協力を取りつけてるのか?」

「もちろんですよ。さっそくエルフとダークエルフの間で交流が始まって、精霊術を強化する研究が始まったとも聞いています」


 それを主導しているのは俺だけどね。


「なんだと、あの引き籠もり好きなエルフどもがか? 信じられん……」

「彼らが他の種族と交流を増やせば、魔道具も出回るでしょうねえ」


 なぜ彼がエルフたちに注目しているかというと、エルフ系は魔大陸で最も高度な文化を持っているからだ。

 獣人系はなまじ肉体が強いだけに、文化レベルはそれほど高くない。

 逆にエルフ系は体が弱い代わりに学問が盛んで、魔法や魔道具に強い。

 今までは交流が少ないために無視されていたが、今後は重要な交易相手になり得るだろう。


「仮に仲介を引き受けるとして、どんな流れになる?」

「まず各種族の代表に集まってもらって、この町で会議を開きます。その場で帝国への抗議文を作成し、交流促進や監視網の構築について議論します。あとは抗議文をトンガの総督府と主要な商会に送りつけ、実際に奴隷狩りを取り締まっていく流れですね」

「ドワーフが中立だというのは、どう証明するんだ?」

「抗議文の中でそのようにうたいましょう。ドワーフはこの同盟には属さず、帝国との仲介の労を取る、とでも書けばどうですか?」


 ガサルカはしばらく考え、ようやく納得したようだ。


「よかろう、幹部と話し合う必要があるが、前向きに検討しようじゃないか」

「ありがとうございます。話がまとまったら、会議の候補日を教えてください」

「分かった、それはすぐに連絡する……だから、だから精霊の動きを元に戻してくれ。頼む……」


 このおっさんもだいぶ参ってるようだ。

 これでドワーフ族の方はなんとかなるだろう。

 さて、いよいよ会議の本番だ。

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新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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