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魔境探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
第1部 魔大陸上陸編
2/82

1.カガリ

本作は”迷宮探索は妖精と共に”の続編です。

前作がお読みになりたい方は目次ページでタイトルの上のシリーズリンクからどうぞ。

 ガルド迷宮を完全攻略した俺たちは、かねてからの計画どおりに魔大陸へ渡り、奴隷狩りと戦うことにした。

 結果的に俺の迷宮攻略に貢献したとはいえ、カイン、サンドラ、リューナ、リュートは魔大陸からさらわれてきたのだ。

 そんな人の尊厳を踏みにじるような仕組みなんか、ぶっ壊してやる。

 俺はそう決意していた。


 そして今、俺はリーランド王国の植民地再建調査官として、魔大陸へ向かっているところだ。

 こうでもしないとSランク冒険者を国外に出してくれそうになかったし、ガルド伯爵に迷惑を掛けるのも本意ではない。


 かくして俺たちは国が用意してくれた船に乗り、10日でテプカという島にたどり着いた。

 ここは元住んでいた大陸と魔大陸のほぼ中間地点に当たり、水や食料を補給するのに都合がいい場所だ。


 乗ってきた船が補給のため明日まで港に停泊するそうなので、俺たちは陸へ上がった。

 久しぶりに美味い料理を食った後は、近くの浜辺を散策した。

 3人の嫁を連れながら、のんびり浜辺を歩く。


 第1夫人のレミリアは、銀髪をサイドテールにした紫の瞳の優し気な狼人の美少女だ。

 その剣の腕と俊敏な機動力から、”疾風のレミリア”と呼ばれる凄腕でもある。


 第2夫人のサンドラといえば、腰まで掛かる青い髪と赤い目を持つ、妖艶な鬼人の美女だ。

 その豪快な性格と剣の腕から、”斬鉄のサンドラ”と呼ばれている。


 そして第3夫人のリューナは、肩に掛かる黒髪に緑眼の、可憐な竜人の美少女だ。

 その魔力と竜人魔法の威力は凄まじく、巨大な水塊で活躍したことから”爆水のリューナ”として知られる。

 そんな絶世の美女たちと一緒に散策していたら、レミリアが声を上げた。


「旦那様、あそこに何かあるみたいです」


 彼女が指差した波打ち際には、何か白っぽいものが打ち上げられていた。

 なんの気なしに近寄って確認すると、それは蛇のような生き物だった。

 特に危ない感じはしなかったので両手で持ち上げると、それが目を開き、弱々しく”クー”と鳴いた。


「おっ、まだ生きてるな」


 改めて確認してみると、それは白銀の鱗が虹色の輝きを放つ、美しい生き物だった。

 体長は俺の腰の高さくらいまでで、背びれの付いた蛇のような体に、ヒレ状の足が4本、頭部には角のような突起も付いていた。


「チャッピー、これなんだか分かる?」

「うーむ……よく分からんが、明らかに魔物じゃな。ひょっとすると、海蛇竜シーサーペントの幼体かもしれんのう」


 妖精のチャッピーに聞いてみても、はっきりとは分からないらしい。

 一見、幼児のようなチャッピーは、実は100歳オーバーで実によく物事を知っているのだが。


「シーサーペント? それって凄く大きくなるんだよな。下手に触らない方がいいかな?」

「旦那様、せめて少し元気にしてから海に放してやりませんか? とても弱っていて、他人事とは思えないのです」


 蛇もどきを捨てようとしたら、レミリアに止められた。

 彼女も昔、死にかけてたところを俺に拾われたから、見過ごせないのだろう。

 しかし中途半端に助けても、ろくなことにはならないような気がするのだが。


「でも、どうやったらいいか分からないし……って指を吸うんじゃねーよ」


 捨てる言い訳を考えていたら、蛇が俺の右手の親指をくわえてチュウチュウと吸い始めた。

 それも、さっきまで瀕死だったとは思えない勢いで。


「デイル、そ奴はおぬしの魔力を吸っているのではないか? 試しに使役スキルを使いながら魔力を注いでみたらどうじゃ? たぶんその方が効率が良いじゃろう」

「まあ、『契約コントラクト』までやらなきゃいいか。それじゃあ『接触コンタクト』……『結合リンケージ』」


 使役スキルで思念がつながった途端、蛇もどきの意識が流れ込んできた。


(ママ~、ママ~、どこにいるの? さみしいよぅ、おなかすいたよぅ)


「うおっ、いきなり念話が成立したぞ、こいつ」

「ふむ……この幼さで念話が成立するとは、かなり高位の魔物じゃろう。やはりシーサーペントかもしれんな」


 その後、意図的に魔力を親指から放出してやると、蛇もどきが凄い勢いで取り込み始めた。

 チュバチュバと音を立てながら、貪欲に指に吸い付いてくる。

 さすがに途中でやめるのは可哀想だったので、砂浜に腰を下ろして魔力を与え続けた。

 しばらくそうしているとようやく満足したのか、指から口を放してクルルルルルーと鳴いた。


「ようやく満足したみたいだな。おい、お前。どこから来たんだ?」

(わかんな~い)

「まあ、赤ん坊じゃ分からないか。それじゃあ、ママはどうした?」

(うーん、あるひ、ママのいえのちかくに、てきがきたの。それでママがやっつけにいったら、あたしがながされちゃった)


 蛇もどきが、辛うじて覚えていることを伝えてくる。


「母親が何かと戦ってる最中に、流されたのか」

「まあ、そんなとこじゃろう」

「それにしてもこいつ、どうする? お前、ママを呼んだりできないか?」

(わかんな~い)

「めんどくせーな……お前、もう元気になったから、独りで生きていけるよな?」

(……あたし、すてられちゃうの? いらないの?)


 蛇もどきが涙をポロポロ流しながら、俺を見上げてきた。

 そんな目で見られたら、捨てにくいじゃねーか。

 この幼さでこれって、けっこうあざといな、こいつ。


 するとレミリアが意外なことを言いだした。


「旦那様、この子を仲間にすることはできないでしょうか? 水の双剣が、この子を求めているように感じます」

「え、マジで? 水の双剣がシーサーペントを求めるなんてこと、あるのかな? チャッピー」

「……ふーむ、シーサーペントは水の化身とも言われる魔物じゃから、あながち無いとも言い切れんな。炎の短剣がバルカンとつながっているのと同じように、水の双剣がそれを求めておるのやもしれん」

「ふーん、それならいっそ仲間にしちまうか? 『契約コントラクト』までやって名前を与えたら、俺の眷属になると思うけど」

「はい、それがいいと思います」

「まあ、よいのではないか」


 レミリアもチャッピーも賛成なら問題ない。

 俺は蛇もどきに使役契約を打診した。


「おい、お前、俺の眷属になるか?」

(けんぞくってなーに? それおいしいの?)

「ママみたいな家族になるってことだ。たぶんこのまま独りで生きてくよりは、楽しいと思うぞ」

(もっといっぱい、まりょくもらえる?)

「ああ、分けてやるぞ」

(それなら、けんぞくになる)

「よし、それじゃあ『契約コントラクト』っと」


 なんの抵抗もなく契約が成立した。


「さて、それじゃあ名前を付けるか。そういえばお前、オスメスどっちなんだっけ?」

(メスだよっ!)

「メスか……それじゃあ、俺たちがこれから向かうカガチにちなんで、”カガリ”でどうだ?」


 そう言った瞬間、俺の魔力がごっそり持っていかれ、気を失いそうになった。

 バルカンに名前を付けた時に似てるが、あれより遥かにひどい。


「ウオッ、すっげえ魔力持ってかれた」

「シーサーペントのような高位の魔物に名付けすれば当たり前じゃ。ほれ、おぬしの魔力で急激に成長しおったぞ」


 そう言われてカガリを見ると、たしかに彼女が大きく変化していた。

 体長は俺の背丈と同じくらいになり、背びれや角、足ひれが伸びて立派になっている。

 しかもその瞳には知性の光が宿り、明らかに別の存在になっていた。


(ふわ~、しゅごいよ、ママ~。あたし、なんか生まれ変わったみた~い)


「俺はお前のママじゃないからな。俺のことはご主人様とか、主って呼ぶんだ」


(分かった~、ご主人様。私はシーサーペントのカガリ。ご主人様に忠誠を誓う第1の眷属だよっ!)


 第1の眷属って、いきなり知性レベルが上がったな。


 そんなことを考えていたら、バルカンが割り込んできた。


(産まれたばかりのシーサーペントが第1の眷属などと付け上がるな。汝はせいぜい5番目だ)


 バルカンは元々は火精霊サラマンダーだったのが、俺と契約してから飛竜にまで進化した眷属だ。

 その凄まじい攻撃力から、”爆炎のバルカン”と呼ばれるが、先輩として黙っていられなかったのだろう。

 カガリとケンカを始めてしまった。

 まあ、順列ってのは大事かもしれないが、もっと仲良くしてほしいもんだ。



 ケンカが落ち着いてから改めて話を聞くと、カガリはずっと遠い所で母親と暮らしていたらしい。

 しかしある日、その母親に勝負を挑む存在が現れた。


 シーサーペントといえば海の王者みたいな存在だから、それに挑んだのも相当な魔物だったんだろう。

 その激闘の余波でカガリは強い海流に巻き込まれ、親とはぐれてしまった。

 そして延々と流されてきた挙句に、ようやくここの海岸に打ち上げられ、死にかけてたとこだ。


 彼女はまだ産まれたばかりなので、親から魔力を分けてもらえないと生きていけない。

 そんな状態で俺に拾われたってのは、やはり何かの縁なのかね。

 ひょっとすると、レミリアの持つ”水の双剣”が相棒を求めたため、カガリと出会ったのかもしれない。


 いずれにしろ、海の王者を仲間にできたのは心強い。

 これから向かう魔大陸でも、何かの役に立つだろう。


 ちなみにチャッピーによれば、シーサーペントは海に適合した亜竜の1種なんだそうだ。

 つまり飛竜ワイバーンのバルカンとはライバルみたいなもので、それで対抗意識が強いんだろう。


 元気になったカガリを海に放してやると、彼女は楽しそうに泳ぎ回り、魚を取ったりしていた。

 使役リンクでいつでも連絡は取れるので、そのままにして俺たちは船に戻った。





 そして翌日から、カガリは船の後に付いてきた。

 いかに子供といえど、帆船よりは速いから問題はない。

 しかし、船の周りではしゃいでるカガリを見て、船員たちがパニックに陥ったのには参った。


 実はしばしば、シーサーペントにじゃれつかれて沈む船があるらしい。

 俺の使役獣であることを伝えたら、ようやくその騒ぎは収まったのだが、船員に恐れられるようになってしまった。


 とにかく、こうして俺たちは新たな仲間を加え、改めて魔大陸に向かったのだ。

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新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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