17.妖精迷宮
妖精女王の後ろ盾を得るため、俺たちは迷宮に挑むことになった。
しかし、せっかくこれを見越して最強メンバーを揃えてきたというのに、キョロ、シルヴァ、バルカンの参加は禁止されてしまう。
上位精霊クラスの彼らを使えないというハンディを抱え、残りの仲間だけで攻略するはめになった。
最初に出迎えてくれた戦鬼妖精のレヴィンに案内され、俺たちは妖精迷宮へ向かった。
おそらく転移魔法の1種であろう不思議な扉を抜けると、薄暗い空間に出る。
「ここが迷宮の入り口だ。ここから先に1層が広がっていて、そのどこかに2層へ続く階段がある」
「分かった。案内感謝する」
「フッ、じっくり観戦させてもらうから、簡単にリタイアなどしてくれるなよ」
俺たちの迷宮攻略を観戦しようと、今ここに多くの妖精が集まってきてるそうだ。
もちろん妖精女王も、サキュバスクイーンと一緒に観戦している。
俺たちは改めて装備を点検し、いよいよ妖精迷宮に踏み込んだ。
迷宮の中は、ゴツゴツとした岩壁に囲まれた洞窟だった。
そこら中に光を放つ鉱石みたいなのが埋まってるので、行動に困ることはない。
しかし遠くまで見通せるほどではないし、あちこちに枝道があって油断はできない。
「それじゃあ、手はずどおりに進もう」
あらかじめ決めてあった陣形は、カインとサンドラが前衛、俺とレミリアとリューナが中衛、リュートとジードが後衛だ。
この迷宮はあちこちに枝道があるので、後ろからの攻撃も考慮しての陣形だ。
そしてこの中で最も感覚の鋭いレミリアが敵を探知し、チャッピーも魔力の流れを見てそれを補佐する手はずになっている。
しばらく進むと、レミリアが何かを感知した。
さらに進むとカタカタいう音が聞こえてきて、前から白骨戦士が3体現れた。
どれも骨だけの魔物だが、剣と盾を装備している。
その武装に最初は警戒したのだが、カインとサンドラのひと薙ぎであっさりと砕け散った。
どうやらそれほど強くはないらしい。
まあ、まだ1層だからな。
砕けた骨はすぐに黒い霞となって消え失せ、後には魔石が残されていた。
小指の先ほどの魔石を拾い、探索を再開する。
その後も現れたスケルトンを片端から薙ぎ払って進むと、2刻ほどで下への階段が見つかった。
ガルド迷宮に比べれば、ずいぶんと狭い造りだ。
まあ、この迷宮は10層まであるらしいから、これぐらいでないと時間が掛かってしょうがない。
2層にも同じような洞窟が広がっていた。
適当な方向に進んでいくと、チャッピーから警告が発せられる。
「何か来るぞ」
立ち止まってしばらく前方を窺っていたら、なにやら黒っぽいものが4つ現れた。
それは黒いローブを来た人型の魔物で、宙を飛んでこちらへ向かってくる。
「おそらく悪霊じゃろう。物理攻撃は効かんから気をつけい」
「物理は効かないってことは、魔法が必要か。魔力斬ではダメージ入らない?」
「多少は効くじゃろうが、核を砕かんと倒せんぞ」
「よし、とりあえず前衛は魔力斬で攻撃。リュートとジードはリューナを守ってくれ」
「「了解」」
俺、レミリア、カイン、サンドラはそれぞれの魔剣に魔力を通し、迎撃態勢を整えた。
リューナは後ろに下がって雷撃の杖を構え、リュートとジードが彼女の両脇を固める。
先頭のレイスがサンドラに襲いかかったので、彼女が剣で薙ぎ払った。
しかし剣がレイスの頭部らしき部分を直撃しても、手応えなくすり抜けてしまう。
とはいえ、魔剣に込められた魔力が多少は効いたのか、レイスが後ずさった。
続いて別のレイスが迫ってきたので、俺は炎の短剣を振るう。
俺の場合は短剣とはいえ、火魔法で小剣並みの炎の刃を形成していた。
この刃はまさに魔法攻撃に相当するので、魔力斬よりよく効いた。
身悶えして固まったレイスを、さらに踏み込んで大上段で斬り捨てる。
すると胸の中心辺りを薙いだ時に、パキンッと何かを砕いた感覚があった。
レイスはそのまま悲鳴を上げて消え去り、後には魔石だけが残された。
「今の見たか? 胸の中心辺りに核があるみたいだ」
「了解です」
「了解じゃ」
アドバイスに従ってサンドラがレイスの胸を切り裂く。
さすがに1発では当たらなかったが、何回目かの斬撃で核を砕いた。
その横でレミリアも、水の双剣でレイスを切り刻んでいる。
手数が多い分、彼女の方が早く核を潰していた
しかし、カインは苦労していた。
彼なりに風の魔槍を振るっても魔力斬が不完全なのか、なかなか核を壊せない。
リューナもそれを援護しようとしていたが、雷撃はレイスをすり抜けるだけでダメージになっていない。
じれったいので、俺の近くに寄った時に核を潰してやった。
初めての対霊戦闘で混乱していたので、しばし休憩を取る。
「さっきはすみませんでした。せっかくの魔槍なのに、俺はまだ使いこなせません」
「うーん、カインはやっぱり肉体派だから、魔力を使うのが苦手なのかな。レイスに対しては、手数を増やせるメイスで戦った方がいいんじゃない?」
「それもそうですね。しかし俺もデイル様のように、槍から魔法を放ってみたいものです」
「まあ、得手不得手はあるからね。後で少し見てやるよ」
「ぜひお願いしますっ!」
ガルド迷宮で風の魔槍を手に入れたカインだが、いまだに魔法は上手く使えていなかった。
今までは必要な場面がなくて放っておいたが、今後を考えるとしっかり指導した方がいいのかもしれない。
「兄様、私はどうしたらいい? 雷撃だと上手くいかないのです」
「うーん、レイスとは相性が悪いみたいだな。少し範囲を絞った散弾の方がいいんじゃないか? 以前、1角餓鬼に撃ったようなやつ」
「あっ、そうか。最近使ってないから忘れてたのです」
そう言うとリューナは前に手をかざし、壁に向かって散弾を放った。
ズバンッという音と共に、人の頭ぐらいの範囲が無数の小石に抉られる。
「うーん、もうちょっと範囲を広げてもいいかな。さっきのレイスを想定して少し調整してみろ」
「はいです、兄様」
しばらくリューナに練習をさせると、使い勝手の良さそうな耐霊散弾がほぼ完成した。
目処が付いたところで、再び探索を始める。
その後も間断的にレイスの襲撃を受けたが、すでに対処法ができていたのでわりと簡単に殲滅できた。
リューナの対霊散弾も絶好調だ。
休憩を挟みながら進み、3刻ほどで3層への階段を見つけた。
階段を降りて3層の探索を始めると、前方からパカラッパカラッと蹄の音が聞こえてきた。
やがて黒馬に乗った首無し騎士が、俺たちの目の前に現れる。
2騎の首無し騎士が剣を振りかざし、凄い勢いで突っ込んできた。
しかし、カインとサンドラがそれを受け止める。
どうやらこいつには実体があるようなので、レイスよりはやりやすい。
馬上から打ち下ろされる剣をカインたちが盾で受け止め、逆に攻撃を放つ。
しかし馬上の騎士との戦闘は若干不利だったので、俺とリューナが強魔弾で援護した。
弾が当たって怯んだところを、カインとサンドラが騎士を馬から叩き落とす。
そこへリュートとジードも混じって袋叩きにした。
やがて胸の辺りを破壊された首無し騎士が、魔石だけ残して消え去る。
「フウッ、なんとか倒せたな。ところで、あれってなんて魔物だ? チャッピー」
「無首騎士じゃな。アンデッドの1種らしい」
「デュラハンねえ。まあ物理攻撃は効くから、レイスよりはやりやすいのかな。でも馬上からの攻撃は強力だから、油断しないよにな」
その後、1刻ほどの間に何回もデュラハンの襲撃を受けたが、全て撃退した。
最高で4匹同時に出てきた時は、リューナの竜人魔法で暴風を起こした。
これで態勢を崩した騎士を、各個撃破でなんとか殲滅する。
とりあえず今日の攻略はここまでだ。
妖精女王との取り決めで1日の攻略は6刻までとし、食事や休息も女王の館で与えられることになっている。
女王から預けられた水晶をその場に置き、”戻せ”と唱えると、次の瞬間には女王の館に戻っていた。
「まあ、皆さんお帰りなさい。ずっと見てたけど、デイル様って本当にお強いのね?」
「いえいえ、まだ3層ですから」
リビングに着くやいなや、サキュバスクイーンのミレーニアが抱き着いてきた。
相変わらず目のやり場に困るような肢体を、グイグイと押しつけてくる。
あっ、またレミリアの機嫌が……
「私も楽しく見させてもらったわ。ちょっとミレーニアさんがうるさくて困ったけど」
「だってぇ、私のデイル様が魔物に取り囲まれていたんですもの。おケガはありませんか?」
「ええ、まあなんとか……すみません、疲れてるんで放してもらえますか」
「あら、気が利かずにごめんなさいね」
案の定、女王たちは俺たちの攻略を楽しんでいたらしい。
まあ、こんな見世物、めったにないだろうしな。
その後、俺たちは装備を外し、汗を流してから夕食をご馳走になった。
当然、その場は迷宮の話で盛り上がる。
「デイルさんたちはお強いのね。規格外なのは使役獣だけかと思ってたけど、あなたたちも十分規格外だわ」
「そうですかね? 低層のわりにはけっこう苦労したと思うんですけど」
「初見でレイスとかデュラハンを倒しちゃうんだもの。それって凄いことよ」
「そうね、パーティ内に魔剣が4本あるのも驚きだわ。もっとも、デイル様以外は、まだまだ使いこなせてないみたいだけど」
ミレーニアが魔剣に興味を示しつつも、使いこなせていない仲間を揶揄する。
「この魔剣は、向こうの迷宮で階層を初攻略した時の報酬だったんですよ」
「なるほど。魔剣なんてお金で買えるものじゃないものね」
「そうですね。しかしおっしゃるように、まだまだ使いこなせてないのが悩みなんですが」
「フフフ、魔剣には大きな可能性が秘められているから、いろいろ試してみるといいわ」
そんなことを話しながら夜は更けてゆく。
とても迷宮を攻略している途中とは思えない状況だが、明日からはまた気を引き締めて頑張ろう。