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15.精霊術の改良

 ダークエルフの里で奴隷狩り撲滅への協力を申し入れたが、里の長には断られた。

 しかし里の精霊術師の1人、ガナフの協力を得ることには成功した。

 そこにはこの里の精霊術師が減りつつあるため、後輩の育成が急務だという背景もあった。


 そこでまず、ガナフに正統な精霊術を見せてもらうことにした。

 レーネやチェインの精霊術は我流の中途半端なものだから、何か発見があるかもしれないと思ったからだ。


「それでは今から、土属性の精霊術を披露しよう。まずは土柱アースピラーじゃ」


 家の裏手に移動し、彼が呪文を唱え始めた。

 幸いなことに、彼も土精霊ノームと契約しているため、レーネたちにとっても都合がよかった。

 やがて詠唱が終わると、地面からモコモコと柱が立ち上がる。


「その呪文は古代エルフ語なんだよね?」

「うむ、古代エルフ族が使っていた言語じゃな。精霊術自体が彼らによって作られたものなのじゃから、それも当然じゃ」


 チェインの問いかけにガナフが答えるが、これは俺も聞いたことのある話だ。

 それこそ気の遠くなるような大昔、古代エルフ族っていう凄い存在がいたらしい。

 それが弱体化して残っているのが、今のエルフ、ダークエルフ族になる。


 ちなみに俺たちが普段喋ってるのは世界共通語と呼ばれ、古の神に授けられた言葉だと言われている。

 実際、異なる大陸でも通じるところを見ると、神が絡んでるってのもまんざら嘘ではなさそうだ。


 まあそれはおいといて、普通の精霊術ってけっこう発動に時間かかるのね。


「レーネ、ちょっと魔法使ってみな」

「はい……土柱アースピラー


 次にレーネが呪文抜きで土柱を出してみせたら、凄い反応があった。


「な、なんじゃと! おぬし今、何をした?」

「えっ、別に、ただ柱を作っただけですけど」

「呪文はどうした?」

「古代エルフ語を知らないから、使いようがありません」

「なんで呪文なしで、魔法が使えるんじゃ~っ!」


 興奮したガナフがレーネに掴みかかったもんだから、レミリアが剣を突きつける事態にまで発展した。

 その後、ようやく落ち着いた彼と話をすると、俺たちとのギャップが明らかになる。

 結局のところ、魔法に対する概念と、精霊との付き合い方の違いだ。


 そもそも精霊術ってのは、精霊にお願いをして現象を引き起こす魔法だ。

 お願いと引き換えに精霊に魔力を渡す必要はあるが、自身の魔力のみで現象を引き起こす魔術よりは少なくて済む。

 その代わりに精霊との交信能力に優れた者しか使えないので、術者はあまり多くないのが実状だ。


 これを編み出した古代エルフ族は誰でも使えたって話だから、やっぱり凄い存在だったんだな。

 その後、種族的に弱体化が進み、エルフとダークエルフに分かれながらも精霊術は継承されてきた。

 しかし精霊との交信能力を持つ者は徐々に減り、呪文や術式の意味も形骸化しているので、術の質や規模は衰退するばかり。


 それに対して俺たちは一部とはいえ、自然のことわりや魔法の原理を理解している。

 そのうえで精霊と契約しているもんだから、複雑な呪文を使わなくても簡単な意志疎通で魔法が行使できてしまう。

 つまり部分的にではあるが、俺たちは古代エルフ族の精霊術を実現してるって寸法だ。


 では従来の精霊術に学ぶべき点がないかというと、さにあらず。

 実は魔法を行使する時の手順とか、お願いの仕方にはコツがあって、その点においては古来の手法にも見るべき点があるようだ。

 普通の精霊は自我が薄いから、そういう細かいコツまでは教えてくれないのだ。


 いずれにしろ、このノウハウは凄い可能性を秘めている。

 従来のやり方に凝り固まった老人には難しいかもしれないが、未熟な術師ほど大きく魔法力を向上できるかもしれないのだ。

 ひいてはそれがダークエルフ族の戦力向上につながり、彼らの地位向上にも役立つだろう。


 この結論に行き着いた俺とガナフは、精霊術の進化を促すことで一族を動かすべく、協力体制を組むことになった。




 翌日、俺はレーネとチェインに、呪文の解読と同志集めを指示して里を後にした。

 ダークエルフは想像どおりにかたくなであったが、互いに協力し合える可能性は見えた。

 この調子でエルフも巻き込めないか、話をしてみよう。

 俺はセシルだけを伴ってカインの故郷へ飛び、そこからエルフの里を目指した。




 本来なら1週間は掛かるはずの旅程も、途中に分かりやすい目印があったため、空を飛んで3日に短縮できた。

 エルフの里の入り口らしき所に来ると、やはり狼煙のろしを上げて彼らを呼び出す。

 またもや急に現れたエルフに事情を話し、里の長に会わせてもらった。


 案の定、エルフの対応はダークエルフと似たようなものだった。

 村の規模としてはあっちよりも大きいようだが、人族と争うことを異常に恐れている。

 困ったら引き籠もればいいという考え方も同じ。

 しかしそれでは困るのだ。


「お手数ですが、どなたか精霊術師を呼んでもらえませんか?」

「む……私も精霊術を使うが、それがなんだというのかね?」

「それは話が早くて助かります。ならば外で、このセシルの術を見てください。ちなみに彼女は既に水精霊ウンディーネと契約を交わしています」

「その若さで契約を済ませているだと?……よかろう、私が見てやる」


 俺たちは場所を移し、セシルの水魔法を披露した。

 彼女自身は戦闘経験も少ないので大したことはできないが、水や氷の塊を作り出してそれを操ってみせた。


「なんと、呪文の詠唱もなしにここまでやるとは。セシル、どうやってそれを身に着けたのだ?」

「えーと、それはここにいるデイルさんと、妖精のチャッピーから習いました。それと、ウンディーネはリューナちゃんに紹介してもらいました」

「妖精だと? しかも精霊を紹介してもらった? お前は一体何を言っているんだ?」


 長が血相を変えてセシルに詰め寄ったので、俺が割り込んだ。


「まあまあ、長。あなたが不審に思うのも仕方ありませんが、セシルは嘘をついていません。実は私が妖精と契約しているからこそ、可能になったのです」


 そこでチャッピーが姿を現すと、長が驚愕の声を上げる。


「なんと、フェアリー種ではないか。人間と契約するとは、ずいぶん珍しいな」

「珍しいんですかね。まあ、それはおいといて、私やセシルはこの妖精に魔法を習いました。それはささやかなものですが、自然界の理にのっとっているため呪文が必要ありません」

「呪文が不要な魔法だと? それは太古に失われた秘術だ」

「そう、普通の人やエルフにはできません。しかし妖精にはできるんです」

「……ふむ、それがあのセシルのおかしな魔法と、どんな関係が?」

「彼女はこの妖精魔法で魔法の基礎を学びました。そして私の身内にいる竜神の御子から精霊を紹介してもらい、契約に至ったのです」

「なんだと、竜神の御子といえば竜人族の秘蔵っ子。それを身内にできるほどの力を、君は持っているのか?」

「それはご想像にお任せしますが、話はここからです。私はすでにダークエルフの里も訪れ、同じような話をしてきました。そのうえで、私たちはお互いに助け合うことができると感じたのです」


 それから従来の精霊術にも見習う点は多いことも説明し、精霊術の改良を示唆する。

 もしそれが成功すれば、精霊の紹介まで含め、エルフ族の戦力底上げを手伝えるだろうとも。


「ふうむ……我らの戦力が上がれば人族にも対抗できると、そう言いたいのだな? 私個人としては魅力的な提案に思えるが、それでも反対する者は多いだろうな」

「やはりそうですか。それでは仮に私が妖精女王の後ろ盾を得られれば、どうでしょう?」

「妖精女王だと? もしそれができるのなら、誰も反対はしないだろう。しかし、本当にできるのか?」

「今はまだ断言はできませんね。いずれにしろセシルを置いていきますので、新たな精霊術について研究させてください。そちらにも損はないでしょう?」

「よかろう、私も興味があるので協力しよう」


 こうしてエルフの里でも、精霊術の研究が始まった。

 あとは妖精女王の後ろ盾を得さえすれば、全てが上手くいくはずだ。

 さて、次は妖精女王に会いにいこうかね。

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新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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