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13.竜神御子の里帰り

 サキュバスクイーンに拉致された翌朝、俺は彼女の転移魔法で拠点に送り届けられた。

 さんざん俺をもてあそんだミレーニアは、嫁に睨まれると言ってそのままとんぼ返りしやがった。


 さて、レミリアたちになんて言い訳しようか?

 そんなことを考えながら拠点のドアを開けると、間の抜けた声が掛かる。


「あれ、ご主人、なんで歩いてるの?」

「……俺が歩いてることの何がおかしいんだ? ケレス」

「おかしいに決まってるじゃん。あたいのかーちゃんに拉致されたら、精気吸い取られて2、3日は使い物にならないんだよ」


 そうなのか?

 たしかにさんざん搾り取られたが、それほどひどくはなかったぞ。

 しかし待てよ、これは使えるかもしれない。


「いや、ミレーニアさんとは一晩中お喋りしてただけで、そんなことはなかったぞ」

「うっそだ~。かーちゃんがそれで満足するはずないよ~……でも普通に歩いてるってことは本当にそうなのかな?」


 そんな話をしていたら、レミリアが険しい顔で駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか? 旦那様。あの女に一晩中弄ばれたのではないですか?」

「いや、そんなことないって。ほら、こうやってピンピンしてるだろ?」

「でもいつもと違う臭いがします」


 そう言って、レミリアが俺の臭いを嗅ぎ回る。

 鋭い指摘だが、ここはしらばくれよう。


「ああ、お風呂を使わせてもらったからな。高級そうな石鹸が置いてあったから、それじゃないか?」


 実はお風呂の中でも搾り取られてたんだけどね。


「そうですか……別人のようにやつれて帰ってくると思ってたのに、本当に大丈夫なんですね?」

「ああ、徹夜で喋ってたから疲れたけどな。悪いけど少し寝かせてもらうよ。昼食の時に起こしてくれ」


 よかった~、なんとか誤魔化せたみたいだ。

 いまだに”おかしいな~”とか言ってるケレスを尻目に、俺は自分の部屋に引っ込んで仮眠を取った。



 昼食前に起こされ、みんなと一緒に飯を食う。

 その後、お茶を飲みながらこれからの話をした。


「これがサキュバスクイーンにもらった”つなぎ石”だ。長距離での念話を補助してくれる」


 そう言いながら、ミレーニアからもらった石をテーブルに置いた。

 親指の先ほどの水色の石が20個ある。

 それを手に取ったカインが話しかけてきた。


「これがつなぎ石ですか。これを持っていれば、遠くにいても念話ができるんですよね?」

「そうだ。使役リンクでつながっている俺たちなら誰でも使える。とりあえず俺とカイン、ケレスが常備するとして、残りは外出時にリーダーが持てばいいだろう。石の管理はボビンに頼むな」

「任せときいな、デイルはん」


 このつなぎ石、あくまで念話を補助するだけなので、念話が使えない者には何の役にも立たない。

 元々、魔大陸中に分散している魔族が、連絡を取りやすくするために開発されたらしい。


 ほとんどの魔族は念話が使えるが、やはり近距離でしか通じない。

 しかしこのつなぎ石を持った者同士ならその距離が無視できることが判明し、その後改良が重ねられた。

 もらってきた石は同じ塊から削り出され、同調処理を施されているので、かなりクリアーに会話ができるって話だ。


 これがあればミントがさらわれた時のような非常時にも、すぐ連絡が取れるだろう。

 ミントだって攫われてすぐに動いていれば、助かったかもしれないのに。

 いや、それは今言っても仕方ない。


「それで今後の予定だけど、俺は今からカインの故郷に行く。今晩はそこで泊めてもらって、明日から竜人の里へ向けて出発する予定だ。同行者はレミリア、リュート、リューナ、シルヴァ、バルカンだな」

「ようやく里に帰れるんだ……」

「うん、ようやくだよ、リュート。本当にありがとうなの、兄様」

「ああ、そうは言ってもまだ道のりは長いけどな。俺はしばらく戻れなくなるから、カインの方は今までどおり、周辺の調査を進めておいてくれ」

「了解しました」


 竜人の里は相当奥地にあるらしく、カインたちの故郷から同族の村を経由してさらに歩かなければならない。

 今回はかなりの長旅を覚悟した方がよさそうだ。



 そう思っていたのだが、カインの故郷で良い情報が聞けた。

 中継地点になる同族の村までは、普通に歩けば10日も掛かるが、幸いなことに大きな湖のほとりにあるらしい。

 大体の方角は分かっているので、バルカンに乗って飛んでも見つけられる可能性が高いそうだ。

 空路を使えば旅程が大幅に短縮できて、ずいぶんと楽になるだろう。





 そして翌朝、鬼人族の案内人を伴って飛び立った。

 俺たちは飛行箱の中から地形を確認しつつ、慎重に進んだ。

 バルカンにしてはゆっくり飛んだにもかかわらず、1刻足らずで目的の湖を発見した。

 やっぱり飛べるって凄い。


 そのまま目的の村の近くへ着陸したら、いきなりの飛竜ワイバーン登場でパニックが起こりかけた。

 案内人が大急ぎで事情を説明してくれたので、なんとか事なきを得る。

 落ち着いたところで、リュートが村人に尋ねかけた。


「すみません、ここはイバ村ですよね?」

「ああ、そうだが、君は?」

「2年ほど前に、竜人の里からお邪魔させてもらっていたリュートです」

「2年前って……あの奴隷狩りに攫われた子供か? しかしあの少年はもっと小さかったと思うが……」


 出会った時は幼児にしか見えなかったリュートだが、迷宮で鍛えたことで肉体は大人並みに成長している。

 身の丈ほどの塊剣を軽々と扱う彼は、”閃撃のリュート”と呼ばれる無双の戦士なのだ。

 それにしても、ここがリュートたちがお世話になっていた村なら都合がいい。

 ここからなら竜人の里もそう遠くないだろう。


「俺があの時の竜人です。こっちは妹のリューナ。あの後いろいろあって、背が伸びたんですよ」

「竜人ってのは成長の遅い種族じゃなかったか? しかしまあ、たしかに面影は残っているような気はするな」


 村人は半信半疑だったが、とりあえず村長むらおさに会わせてもらった。

 そして村長に事情を話して竜人の里への案内をお願いすると、2つ返事で了解してくれた。

 どうやらリュートたちを預かっておきながら、みすみす攫われてしまったことに負い目を感じてるようだ。


 ついでに奴隷狩りを撲滅しようとしていることも話すと、大賛成してくれた。

 すでにカインの故郷の協力は取り付けているが、味方は多いに越したことはない。

 その日はその村に泊めてもらい、いろいろと情報交換をしながら親睦を深めることができた。




 そして翌日、案内人に先導され、竜人の里へ向けて出発した。

 竜人の里は山深い所にあるので、さすがにバルカンで飛ぶのは難しかった。

 まともな地図も、めぼしい目印もない状況では、案内しようがないからだ。

 やむを得ず、地道に歩いていくことになった。




 険しい山道を1週間も歩き、ようやく竜人の里へ到着した。

 初めて見るその里は、不思議な場所だった。

 まず目を引くのが、通常の集落のような防壁がないことだ。


 こんな状態でどうやって魔物の襲撃を防いでいるのかと聞くと、この山に眠る古竜が1種の結界を張っている、という噂らしい。

 そんなことを話しながら歩いていると、里の入り口で槍を持って立つ人物が見えてきた。

 やがてその男に気がついたリューナが、急に走り出す。


「叔父さん、リューガ叔父さん! 私、リューナよ、帰ってきたの」


 いきなりリューナに抱きつかれた男が、驚いて立ち尽くしている。


「ちょ、ちょっと待て。俺が知ってるリューナは、こんな美人さんじゃないぞ。誰だ、お前は?」

「叔父さん、リューナですよ。そして俺はリュート。ちょっと事情があって背が伸びたんです」

「リュート、だと……そんなバカな。しかし本当なのか? たしかに、昔の面影がある…………ウオゥッ、ウオオオオオッ!」


 疑いながらも、リュートたちに以前の面影を認めた男が、その場に泣き崩れた。

 彼は泣きながら、何度も何度もリュートたちに謝る。

 しばらく泣き続け、ようやく落ち着いてきた叔父さんに話を聞いた。


 2年前、リュートたちが攫われたことが分かってから、叔父さんは必死に2人を探し回った。

 しかし広大な密林の中で2人を見つけることは叶わず、やむなく彼は里に戻ってそれを報告したそうだ。

 彼が責任を持つからということで外に出したのに、2人を守れなかった叔父さんは相当責められたらしい。


 しかもリューナは、何十年に1人しか選出されない竜神の御子である。

 強い自責の念に駆られた彼は、それから毎日里の入り口に立ち、よそ者が来ないよう見張りを続けていた、という話だった。

 たしかに彼に責任の一端があるとはいえ、それは辛く過酷な日々だっただろう。



 その後、竜人族の長の家に場所を移し、話を続けた。

 リュートたちが奴隷狩りに遭い、海の向こうに送られて死にかけていたこと。

 それをたまたま俺が見つけ出して治療し、さらに迷宮攻略で2人が大きく成長したこと。

 そして再び海を渡り、今ここに戻ってきたことまでを語った。


「なんと、成長の遅い竜人でも、迷宮で魔物を狩ると成長が促進できるとは。たしかに2人からは、何十年も生きた歴戦の勇士のような力を感じますな」

「それだけではないんです。デイル兄様に妖精魔法を教えてもらったおかげで、竜人魔法の腕前も大きく向上したんです。さらにこの雷撃の杖を得たことで、大きな魔法も操れます。たぶん今の私は、オババ様を追い越してますよ」

「儂を超えたとは、吹きよるわい……しかしおぬしに従う精霊の気配、ただのほら話でもなさそうじゃのう」


 一緒に話を聞いていた老婆が、リューナの力を見極めようと目を細める。


「今の彼女は大きな魔法をバンバン使えますよ。迷宮攻略ではいろいろと助けてもらいました」

「なんと、もしそれが本当なら後進の育成に役立つやもしれんな。いずれにしろリュートたちを助けていただいたこと、深く感謝申し上げる」


 そう言いながら長が頭を下げた。


「いえ、結果的に私もいろいろと助けられました。もし多少なりと恩に感じていただけるのなら、奴隷狩りの撲滅に協力してもらえませんか?」

「奴隷狩りの撲滅ですと? しかしそんなことをして、あなたになんの得が?」

「兄様は利益なんか求めてないのです。ただ不幸な子供を少しでも減らしたいだけ。もし協力してくれないのなら、私はこの村に2度と戻りません」

「リューナ、竜神の御子の務めを、なんと心得るか。そのような我がまま、許されんぞ!」


 リューナの挑発に、オババが興奮して雷を落とす。


「まあまあ、オババ。協力の中身にもよるが、長老会議で話し合うぐらいはしようではないか。実際に我らも奴隷狩りの被害に遭ったのじゃ。のう、リューガ」

「そのとおりです、長。仮に皆が拒んでも俺はやりますよ。奴隷狩りをやってる奴らは絶対に許せない」

「ホッホッ、竜神の御子だけでなく、最強の戦士まで手放すわけにはいかんのう」


 それから人族の奴隷狩りへの抗議文に署名することや、奴隷狩りの監視網構築について説明した。

 あえて人族と対立することに抵抗はあるものの、前向きに検討する、と長は言ってくれた。



 その晩は里を挙げての宴になった。

 最初はささやかな宴のはずが、噂を聞きつけた住人がどんどん集まってくる。

 成長したリュートたちに驚きつつも、皆が帰還を喜んでくれた。


 そして2年の間、自分を責め続けたリューガが、誰よりも嬉しそうだ。

 聞けば彼は人族の大陸にも渡ったことがある、Aクラスの冒険者だそうだ。

 Aクラスといえば1国に30人もいないくらいの実力者だから、彼の協力が得られれば心強いだろう。




 さんざん飲み明かした翌日、里の長老会議が開かれた。

 案の定、人族と敵対することへの忌避感は強かったが、リューナとリューガの脅しが効いて協力を得られることになった。

 これでまた1歩、大陸内の団結に近づいた。


 残るはエルフとダークエルフだが、はたしてどうなることやら。

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新作始めました。

新大陸攻防記 ~精霊はフロンティアに舞う~

インディアンの境遇に似た先住民を、日本から召喚された主人公が救います。内政もする予定。

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