11.軌道修正
ミントを殺したゲッコー商会を叩き潰した翌日、朝食後に改めてみんなを集めた。
「それじゃあ、現状を確認してから、今後の方針について相談しようか。まず各種族の訪問だけど、こっちは順調に進んでいて、残るは竜人族、エルフ族、ダークエルフ族のみだ。ただし虎人族と獅子人族の協力を得るには、全種族の協力が前提条件になっている」
「我ら鬼人族は全面的に協力させてもらいますが、それでも及び腰のところはありますからね。それで、次はどこに行かれるのですか?」
「次は竜人族を訪問する。ここは竜神の御子が誘拐された点を強調すれば、それなりの協力は期待できると思うんだ。問題なのは、残るエルフ系なんだよな」
「エルフの何が問題なんですか?」
ケンツが質問してきた。
「エルフ系は、あまり開放的じゃないって噂だからな。実際、セシルたちはどう思う?」
ここでエルフのセシルと、ダークエルフのレーネ、チェインに話を振る。
セシルはガルドの孤児、レーネは孤児院の後輩、チェインは”女神の盾”の一員だった。
そんな3人が、浮かない顔で答える。
「……たしかにエルフは閉鎖的です。私のように一旦外に出た者の言うことも、あまり聞いてくれないと思います」
「ダークエルフも同じです。彼らは里を魔法で隠せばいいと考えているから、余計に外との付き合いを嫌います」
「あたしが里を出たのも、そんな体質が嫌だったからだからねえ」
「やっぱ、そうなるか」
実際に会ってみないと分からないが、やはりエルフ系種族は閉鎖的らしい。
しかも、彼女たちは自発的に村を出たタイプだから、その言葉に耳を傾けてくれる可能性も低いときた。
「そういえばチャッピーは昔、エルフと長いこと暮らしてたんだよな。何か彼らを説得できそうな材料ってないか?」
「うむ、心当たりがあるぞ」
「そうだよな、知らないよな……って、心当たりあるのかよ?」
駄目元で聞いてみたのだが、何かあるらしい。
「エルフというのは元々、妖精から分かれた種族じゃ。だから妖精女王の力を借りられれば、従う可能性が高い」
「妖精女王ってのはどんな人で、どこにいるんだ? なんとなく、エルフよりも説得が難しそうなんだけど……」
「妖精女王ティターニアは、魔大陸中央部の妖精迷宮に住むと言われておる。おぬしが想像するように、簡単には説得できんじゃろう。しかし女王は、妖精迷宮を攻略した者の願いを叶えてくれると聞くぞ」
「なるほど。力を借りるには、妖精迷宮を攻略すればいいってことか……」
「そのとおりじゃ」
また迷宮攻略か。
魔大陸中央部の迷宮って、かなり手強いんじゃないかね?
しかし、なんの目算もなく玉砕するよりは、マシなのかもしれない。
「手段としては十分に検討の余地はありそうだな。でもそれって、難易度高くないか?」
「困難なのは当然じゃろう? しかしデイルであれば可能だと信じておるぞ」
「厚い信頼をありがとさん、チャッピー。いずれにしろそれは、エルフとダークエルフの集落を訪問してから考えよう」
「ご主人、協力者を集めるのはそれでいいとして、奴隷狩りをどう阻止するかも考えなきゃ」
「ああ、そのとおりだ、ケレス。とりあえずゲッコー商会で集めた情報をみんなに話してくれ」
その後、ケレスから奴隷狩りの情報が語られた。
現状、魔大陸で奴隷狩りをしている商会は主に4つある。
俺たちが潰したゲッコー商会の他に、ゴクド商会、ハッサン商会、テバル商会だ。
奴らは複数の奴隷狩りチームを抱えており、そいつらが内陸部まで出向いて奴隷を調達している。
普通なら広大な内陸部まで行って帰るだけでも大変なところを、どうやら魔族が転移魔法で手助けしているらしい。
そのため、かなり広範囲に奴隷狩りが入り込んでいることが予想される。
しかし現状はそいつらの居場所を知る手段さえなく、”奴隷狩り撲滅なんてどうやるの?”って状況だ。
それを聞いたカインが感想を漏らす。
「仮に魔大陸側の協力が得られたとしても、厄介なことになりそうですね」
「そうなんだ。各集落を行商して回ったり、魔物狩りをしながら監視網を作ろうと考えていたんだけど、対象地域が広すぎてとても手が回らないんだよね」
「各集落から監視チームを出してもらったとしても、連携が取れなければ意味がありませんね」
「そう、監視の目と連絡手段。これが絶望的に足りないのが実状だ」
するとチャッピーが、またアドバイスをくれた。
「監視手段については、妖精女王に頼んでみればよかろう」
「女王は魔大陸全てを監視できるってのか?」
「さすがに全てではないが、妖精や精霊はそこら中にいる。その手を借りるだけでも、ずいぶん楽になると思うぞ」
「な~るほど、それは良さそうだな。それも含めて、妖精迷宮の攻略を真剣に考えるべきか」
「ご主人、通信手段については心当たりがないでもないよ」
今度はケレスが提案をしてきた。
「何かいい手があるのか?」
「うん。この大陸には”つなぎ石”ってのがあって、これを使うと遠距離の念話が可能になるんだよ」
「そんな便利な物があるのか? ぜひ手に入れたいけど、どうすればいい?」
「うーん、あたいのかーちゃんにお願いすればもらえるかもしれないけど、ちょっと面倒臭いことになるかもしれないよ」
「面倒臭いって、なんだそれ? いきなり襲われるとか、そんなのか?」
「いや、そうじゃなくて、かーちゃんは普段退屈してるからね。訪ねていったら、しばらく放してくれないかもしれない」
「それはたしかに面倒そうだな……だけど、それくらいだったら我慢できないでもない」
結局、後でケレスの母親を訪ねることになった。
「それから人族との関係だけど、今後も争いは覚悟しておいてくれ」
「具体的にはどのようにお考えですか?」
「目先では今後も関係者との対立が続くだろう。今回、ゲッコー商会の支店は潰したけど、どうせまたすぐに再建されると思う。他の商会も含めて、そいつらとの小競り合いは絶えないだろうな」
「目先、ということは、その先にもっと大きな争いが控えていると?」
「ああ、俺はこれから魔大陸の勢力をまとめ上げて、帝国に奴隷狩りの中止を要求するんだ。だけど連中、そんなの聞きやしないだろう? 最悪、帝国と戦争になるかもしれない」
「そこまでいきますかね?」
「国家の体を成してもいない亜人が生意気に、とか考える人間は多いと思う。もっとも、こんな海の向こうまで大部隊は派遣できないだろうから、それなりに団結すれば対抗できるはずだ。そのためにも早急に体制を整えよう」
今後も争いは絶えないだろうが、少しでも犠牲を減らすための体制作りが急務だ。
その道のりは険しそうだが、ミントの犠牲を無駄にしないためにも、俺はやり遂げるつもりだ。
翌日はケレスの母親に会いにいった。
彼女の母親は意外に近い所に住んでいるようで、ドワーフの町ガサルから少し東に行った辺りに拠点があるらしい。
まずバルカンに乗って近くまでいき、そこから徒歩で探し歩く。
しかしケレスも空から見たことはないので、探し当てるのに1日近く掛かった。
ようやくたどり着いた彼女の実家は、森の中にある岩山のような場所だった。
「たぶんいると思うんだけどなあ。おかーちゃーん、可愛いケレスが帰ってきたよー!」
ケレスがそう呼びかけていると、後ろから声が掛けられた。
「あらあら、ケレスちゃん。おかーちゃんなんて呼んじゃ駄目よ。お姉さまと呼びなさい」
振り向くと、そこには妖艶な美女が佇んでいた。
頭には羊のような角、お尻には細い尻尾、背中にはコウモリのような翼といかにも魔族的な容姿だ。
腰まで掛かるピンク色の髪と金色の瞳も目立つが、何より目立つのはその豊満な肢体である。
胸がスイカほどもあるくせにウエストはしっかりくびれていて、お尻のボリュームも凄い。
しかも身に着けているのは胸と腰を覆うわずかな黒い布だけ。
レミリアのビキニアーマーより確実に小さい、っていうかエロい。
この実にけしからんボディの持ち主がケレスの母親であり、超古参の夢魔らしい。
こいつはまた、いろいろと手強いことになりそうだ。