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10.デーモン族

 仲間のミントをさらって殺したゲッコー商会に殴り込んだ俺たちだったが、実行犯のバダムが予想外の抵抗を見せた。

 しかしさらなる追い討ちで奴を拘束し、今は椅子に縛りつけてある。

 残りの気絶してる奴らも椅子に座らせ、同様に縛りつけた。


 とりあえず他の奴らは放っておいて、まずはバダムを尋問する。


「さて、バダムさんよ。どういう了見でウチのミントを攫ったんだ?」

「フン、お前が先にうちのジャミルをりやがったから、お返ししただけだ」

「ジャミル? あー、あの鬼人族の兄ちゃんか。奴がどうかしたのか?」

「ハッ、白々しい。お前らと揉めた翌日に狩りに行って戻らねえんだ。お前らが殺ったに決まってる」

「何か証拠でもあんのかよ?」

「証拠なんて関係ねえ。最近は奴隷狩りが低調だったから、見せしめにあのガキを攫ってやったのさ。ザマーミロ! グアッ、アバババババッ」


 あまりに腹が立ったので、奴の肩に短剣を突き立ててえぐってしまった。

 いかん、いかん、殺すのは確定だが、簡単に楽にはしてやらない。


「ふーん、一応痛みは感じるんだな。しかし、なんでお前は雷撃に耐えられたんだ? 普通の人間なら一瞬で気絶もんだぞ」

「グウッ……だから言っただろ。鍛え方が違うってな」

「い~や、それだけじゃないな。ケレス、こいつから情報を吸い出せ」

「りょうか~い」


 ケレスが嬉々ききとしてバダムの頭に手を当て、記憶を探った。

 しかし、彼女は不思議そうな顔で異常を訴える。


「あれっ、ご主人。こいつなんか変だよ。おかしな抵抗があって、記憶が読めない」


 その後もしばらくやっていたが、どうも上手くいかないようだ。

 それを見たバダムがニヤニヤ笑いやがったので、俺も手を貸すことにした。

 俺にも精神干渉系の魔法の素養があると言われてから、少し練習していたのだ。

 ケレスのように記憶を読めたりはしないが、精神に負荷を掛けることぐらいならできる。


 俺はバダムの頭を両手で挟むと、魔力で精神を圧迫し始めた。

 対象の頭部を魔力ですっぽり覆い、じわじわと締め付けるようなイメージだ。


「グガッ、グガガガガガッ」


 しばらくやっていたら奴が苦しみ始め、その外観に変化が生じた。

 白かった肌が青黒いうろこ状の皮膚になり、耳は細く長く、そして蛇のような金色の瞳に変化した。


「あーっ、こいつ魔族だぁ。ご主人、こいつ悪魔デーモン族だよ。たぶん下っ端の方だけど、それでも1流の冒険者並みの実力がある」

「ほー、道理でキョロの雷撃にも耐えられたはずだ。しかしなんで魔族が、人間に化けて奴隷狩りをやってんだ?」

「さあ? 魔族って言ってもいろいろあるからね。こいつに聞くのが早いよ。ご主人が圧力を掛けながらやれば、情報が取れるかもしれない」

「そうだな。やってみるか」

「や、やめろ。触るな、グオーッ」


 またもや俺がバダムに圧力を掛け始めると、奴が騒ぎだした。

 その隙にケレスも頭に手を当て、情報を探ろうとする。

 俺はバダムが死なない程度に圧力を掛けながら、言葉で尋問していった。

 言葉を投げかけると、奴がそれに反応して情報を取りやすくなるのが分かったからだ。


 そんなことをしていたら、他の野郎どもが気がついて騒ぎ始めたので、猿ぐつわで黙らせる。

 やがてバダムが長時間の尋問に耐えられず気絶したので、ケレスに情報をまとめてもらった。


「うーん、どうやらデーモン族の一部が、奴隷狩りを裏から操ってるみたい。理由は分からないけど、奴らが帝国を後押しして、獣人やエルフを捕まえさせてるんだ。総督府にも入り込んでるらしいよ。それとやっぱり、遠距離の移動には奴らが手を貸してるみたいだね」

「やっぱり転移魔法か?」

「うん、あちこちの洞窟に魔法陣が仕込んであって、行き来できるようになってるみたい。ガサルとトンガの間の森の中にもそれがあるんだって」

「なるほど、これで謎が解けたな……ところで、お前らはデーモン族が協力してたのを知ってたのか?」


 最も豪華な服を着た男に問いかけながら、猿ぐつわを外してやった。

 すると、そいつが偉そうに喋り始めた。


「貴様~、俺が誰だか分かっているのか? 帝国でも最大級の豪商、ゲッコー商会の跡取りだぞ。こんなことをしてただで済むと思うなよっ!」

「ほー、そうするとあんたがここの責任者か。今日はウチの従業員を取り返しにきたんだが、あんたも関与してたのかなあ?」

「お前の従業員なぞ知らんわ……ん、ひょっとして、あの緑髪の小汚い猫人か? 残念ながらあれは死んだぞ。一足遅かったな、ワハハハハハッ」

「そんなこと知ってるよ。それよりもお前、なんでこの状況でそんな態度が取れるんだ? お前って馬鹿なの?」

「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは。この建物には20人近い猛者がいるんだ。すぐに駆けつけるわ」

「ばーか、そんなの全部始末してあるよ。これだけ騒いでも誰も駆けつけないのを、おかしいと思わねえのかよ?」

「なっ、そんな馬鹿な。野郎ども、こそ泥だ! 俺を助けに来い!」


 ギャアギャアうるさかったので、殴って黙らせた。


「それで、さっきの質問だ。お前らはデーモン族が奴隷狩りを操ってたの、知ってたのか?」

「グウゥ、し、知らん。バダムは人間だとばかり思っていた」

「ふむ、そうか……いずれにしろ、尋問すれば分かるけどな。ケレス、頼む」

「了解。だけど、さっきのやり方の方が楽だから、ご主人も手伝ってよ」

「ああ、いいぞ」


 まずは下っ端の捕虜を使い、効率的な尋問方法を模索してみた。

 やはり人族でも俺が精神に圧力を加えながら言葉を掛けると、ケレスが読み取るイメージが鮮明になるらしい。

 ただし圧力の掛け方がけっこう難しくて、やり過ぎるとすぐに気絶してしまう。


 傍から見るとまるで拷問のように見えるため、他の捕虜がびびって自分から喋ってくれたのは楽だった。

 それでも尋問ごうもんしたけどな。


 そうやって順繰りに尋問ごうもんしていくと、奴隷狩りの組織や奴らの悪事がだいぶ分かってきた。

 基本的に奴隷狩りなんかやってる奴らは、魔大陸の住民を家畜程度にしか考えていないのもよく分かった。

 なので俺たちも遠慮なく、奴らの息の根を止めてやった。


 ゲッコーの跡取りは最後まで偉そうだったので、ていねいな尋問ごうもんで実家の情報を聞き出した。

 さすが帝国最大級の商会だけあって、国との関係も深いらしい。

 いずれ帝国と組んで敵対してくることも考慮しておくべきか?


 この頃になるとバダムも目覚めていたので、再び尋問ごうもんする。

 こいつはミントを殺した張本人なので、たっぷりといたぶってやった。


 しかし肝心の黒幕とか、デーモン族の拠点情報を聞き出そうとすると、どんなに圧力を掛けても分からない。

 何やら隷属魔法のような規制が掛かっているみたいで、苦痛にのたうち回るだけだった。

 そして奴もとうとう苦痛に耐え切れなくなり、最後は悶え死んだ。



 全ての始末を終えてから、ミントの遺体を回収して舟で海へ逃れた。

 最後にバルカンの火球を何発かお見舞いしてやったので、ゲッコー商会の建物は派手に炎上中だ。

 すでに死んでしまったミントにとって何の意味もないだろうが、これが俺たちのせめてもの手向けだ。




 ミントの亡骸を取り返し、ゲッコー商会を潰した俺たちはそのまま舟でカガチへ戻った。

 周囲を囲ませていたメンバーにも、すでに撤収を命じてある。

 その帰り際、ミントの誘拐に協力した雑貨屋の店員を、適当にボコらせた。

 さすがに命までは奪わなかったが、二度とあんなことができないくらいには反省してくれたようだ。


 途中から海蛇竜シーサーペントのカガリに船を引っ張ってもらったので、来た時よりも早くカガチに着いた。

 カガリはこの辺の海で獲物を狩りまくっているので、すでに体長が俺の3倍くらいに成長している。

 はたしてどこまで大きくなるのやら。



 カガチに着くと、ミントの葬儀の準備に取りかかった。

 しかし、ジードやザムドなどは故郷で同族を説得していたので、俺はすぐさまバルカンに乗って迎えにいった。


 彼らを回収してきてから、みんなでミントの葬儀を始めた。

 ここに聖職者はいないが、それぞれの方法でミントを弔い、拠点の近くに亡骸を埋める。


 みんな泣いていた。

 シュウは未だに自分を責め続けているし、一緒に外出していた奴らも同様だ。

 同じ商売組だったケレスやセシルも泣いているし、レミリアとサンドラも泣いている。

 比較的付き合いの短い”女神の盾”のメンバーだって、涙を流していた。


 もちろん俺も泣いた。

 ミントが事切れる瞬間の言葉が、何度も何度も俺の胸に甦る。


(お兄ちゃん、ごめんね、役に立てなくて……)


 役に立たないだなんて、そんなことはない。

 ミントは一番チビで、まだ仕事はあまりできなかったけど、明るくて、可愛くて、みんなを平和な気分にしてくれた。

 あのままガルドで商売を続けていれば、こんな死に方はさせずに済んだだろう。


 だけど、彼女は望んで付いてきてくれた。

 不幸な人を少しでも減らせるなら、その手伝いをしたいと言って。


 だから俺は止まらない。

 必ずやり遂げてみせる。

 それが俺にできる最高の弔いだ。


「さあみんな、いつまで泣いていても仕方ない。中に入って弔いのうたげをしよう」


 俺に促されたみんなが拠点の中に入っていく。

 そして準備してあった食事をテーブルに並べ、それぞれの席に着いた。


「それじゃあ、ミントの冥福を祈って」

「「……」」


 みんなが盃を掲げ、それを空けるとまた何人かが泣き出した。


「みんな聞いてくれ。ミントのことは本当に悲しいし、悔しい。俺自身、どんなに後悔しても足りない。だけど、後悔するのはもうやめよう」

「ぞんなごど言っだっで、どうずればいいんでずが? 俺のぜいでミントは死んだのに」

「そうじゃない、シュウ。ミントを殺したのはゲッコー商会だ。彼女を守れなかったことを反省こそすれ、この先も後悔し続けてちゃいけない」

「だげど、だげどっ」

「まあ聞け、シュウ。ミントは最後に、”ごめんね、役に立てなくて”と言って事切れた。せっかくこれから奴隷狩りをなくそうとしてるのに、それを手伝えないことを、彼女は気にしてたんだ。だから、俺たちがすることは後悔じゃない。夢を成し遂げることだ」


 ミントの最後の言葉を伝えたら、またみんな泣き出した。

 ただし、少し雰囲気が変わった。


「そうだよ、シュウ。ミントはそういう子よ。絶対に私たちのこと恨んだりしていない。きっと一緒に仕事できないのを悔しがってる。だから、だからもう自分を責めないで」

「そうだ、シュウ兄。ミントの分もおらたちが頑張るだ」

「お前ら、ありがとう、ありがとうっ。ウオオオオッ」


 セシルやガル、ガムの孤児組がシュウと抱き合って泣いている。

 俺が拾うまでは、ミントと5人で一緒に暮らしていたのだ。

 あいつらが一番悲しいだろう。


 セシルたちのおかげで、シュウはようやく自分を責めるのをやめる気になったようだ。

 今は泣けばいい。

 そして明日からまた頑張るんだ。

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