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異界の旅人 ~己が為に彼らは旅をする~  作者: 鈴風飛鳥
第2章 「仲間」  ~そして共に歩むもの~
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閑話3「寝床争奪戦ー再びー」

 おまけ話。読まなくても本編に支障はありません(多分)。


 アスカと奏多の寝床争奪戦に乱入者が……。

 鬱蒼とした森の中。日が傾き、辺りが暗くなり始め暗闇で数メートル先が見えない。森にいるであろう動物たちの自分の住処に戻って息をひそめ、虫の鳴き声だけがひと際目立って暗闇の中に響き渡る。


 そんな暗い森の中、少し開けた場所に小さな明かりが灯っていた。明かりの近くには二人の男女と一匹の狼の姿がある。


 「なぁアスカ、枝こんくらい集めりゃ一晩持つか?」


 光源のもととなる焚火、その近くで両手いっぱいに小枝を抱え込む奏多とズィルバーンヴォルフの姿があった。焚火を挟んだ向かい側では、寝床となるハンモックの紐を木に結んでいるアスカの姿も見られる。


 「そうね、それだけあれば持つでしょ。ありがとね、奏多」


 ハンモックの準備を終えたアスカは、暗い森の中、焚火の火を維持し続けるのに必要な小枝をかき集めてきた奏多に礼を言う。最初は渋った奏多だったが、仲間になったズィルバーンヴォルフの子供が護衛にとばかりに足元にくっついてきたので安心して資材集めをしてきたのだ。


 「しかし、なんでまたギルドに直接向かわずにこんなところに……」

 「旅の同行者が増えたし、ちょっと食料を調達したくてね。異界によって物価が違うから食料を一々買い揃えるの大変なのよ。だったらその辺で食料調達したほうが早いし、何よりお金がかからない!」


 この異界――正確にはこの世界の森について早々、アスカは森に生っていた木の実やキノコを採取し、鳥やイノシシ(に似た生物)を狩猟していた。今まで一人で旅をしてきたアスカのハンティング能力はすさまじく、あっという間に二人と一匹分の食料を確保してみせた。


 「お前結構そういうところマメなんだな」

 「あんただって無料(タダ)で手に入るもんなら欲しいでしょ?」

 「まぁな、無料(タダ)ほど安いものはねぇしな」


 そう言うと、焚火から少し離れたところに集めてきた小枝を置き、よっこいせと地面に腰を下ろす。足元で護衛をしていたズィルバーンヴォルフも、任務を終えたとばかりにあくびをしながら地面に伏した。


 寝床と焚火のための枝集めを終えた二人は、アスカが狩猟したイノシシに似た生物を調理し、夕飯とした。調理のほとんどがアスカの手によってスムーズに行われた。近くにあった川で血抜きや内臓の処理などを一通り終えた後、焚火でじっくりこんがりと中心部まで焼いた肉の表面には油が滴っていた。少しばかりの獣臭と血生臭さも残っていたが、空腹感によって上書きされる。


 「ところでよ、そのギルドってどんな奴らがいるんだ?」


 捕獲したばかりの肉をむさぼりながら、奏多はアスカに問いかける。がっついているためか、口の周りが油でテカって見えた。その横ではお行儀よく食べているズィルバーンヴォルフもいる。

 

 「外見のことを言ってるんだったら、そりゃもう様々よ。私たちと同じ人間のような見た目もあれば、獣人や亜人、種族も出身地も恩恵を授けた魔女もバラバラ。目的はどうであれ、みんな自分のために旅人になることを選んだ人ばかりよ」

 「へぇー、そりゃ楽しみだ!」


 ギルドでの出会いに期待し胸躍る気分の奏多。一方アスカは、少し浮かない表情で考え込むしぐさを見せる。


 「うーん、まぁ、でも、見た目で判断しないことね。あと、あんたに対して一部突っかかってくる輩もいるでしょうけど、無理して喧嘩買うんじゃないわよ」

 「わぁーってるよ。俺だって短気じゃない。よほどのことがない限り、喧嘩なんて買わねぇよ」

 「はぁ……そうだといいけど」


 小さくため息をこぼしながら、明日のギルドメンバーと奏多の顔見せに不安を覚えるアスカ。しかし、見えないことばかり不安に思っていても仕方ない。

 気持ちを切り替えるようにして、両手でパンッと鳴らしながら、奏多とズィルバーンヴォルフに声をかけた。

 

 「さて、明日に備えてもう寝ましょ。朝起きて朝食済んだらすぐに此処を発つんだから」

 「おう!んじゃ、寝床はー……っと、ん?」


 寝床に目をやる奏多だったがおかしなことに気づいた。

 先ほどアスカが用意していたハンモック。それが一つしかないように見える。てっきり二つ分用意されていると思い込んでいた奏多は、自分の目がおかしいのかなと目をこすりながらアスカに尋ねる。


 「アスカさん、アスカさん?俺、疲れてるのかな。アスカさんが用意していたハンモックが一つしかないように見えるのですが……」

 「やだなぁ奏多くん。見間違いじゃないわよ、正真正銘ハンモックは一つよ?あんたはこっちで充分」


 笑顔で返すアスカ。彼女の方は既に寝る準備を整え終えているようで、普段より身軽な恰好。そして奏多に向けて差し出された手には登山やキャンプなどで使われるシュラフがあった。

 だが、今この状態を奏多が見逃すはずもなく、不満げに異を唱えた。

 

 「いや、おまっ、おかしくね!?なにこの扱いの差!」

 「しょうがないでしょ!元々一人旅だったし予備があれしかなかったのよ!前の世界でもう一つ購入しようとしたけど、売ってなかったのよ!」


 先日の異界で自由行動をとったとき、奏多用の寝床も探していたアスカだったが結果むなしくハンモックは置かれていなかった。それどころか、野宿用の寝具が置かれていなかったのである。仕方ないので今回は予備の分で我慢してもらおうと今の今まで何も言わなかったのだが、前回の経験からある程度予想はついていた。また寝床争奪戦になるな、と。


 「ああああ!旅するうえで野宿は避けられないのは覚悟していたが、ここにきて寝床問題再び……」


 思えば旅に出てからここに来るまでの間に一度も野宿をしたことが奏多たち。多少の寝床の質に差はあったものの、雨風が凌げる屋根あり壁あり、おまけに風呂トイレ付と贅沢な旅続きであったといえるだろう。

 だが、そう何度も贅沢な思いができるはずもない。今二人と一匹がいるのは薄暗い森の中。近くに川はあるものの、体を清められるようなものではない。明かりも獣除け程度の焚火と、非常用に備えてランタンがあるのみ。唯一勝っているといっていいのは、自然豊かな景観と新鮮な食材をその場で採っておいしく頂けることくらいである。


 「今度買い足しておいてあげるから、そんなに深刻にならなくても……」

 「いや、余計な出費は抑えたいんだろ?それに寝床が足りてるなら、あとはやることは一つ!」


 首と手首をぐるぐると回しながら、バキバキという音を立てて気合を入れる奏多。前回のリベンジと言わんばかりに内心闘志を燃やす。


 「今回もジャンケンでケリつけたらぁ!」

 「いいわ、望むところよ」


 負けず嫌いのアスカは今回も勝ち(ハンモック)は死守して見せると気合を入れて指を鳴らす。

 準備が整ったところで、大人二人による第二回寝床争奪戦な戦いの火蓋が切って落とされた。


 「「最初はグー、ジャンケンポン!」」


 二人がお互いに出した手札はチョキ。そして間には肉球。次のあいこに持ち越される。


 「「あいこで……ん!?」」


 次のあいこに向けて準備をしていた二人の手が止まる。

 二人の視線は割り込んだ肉球に向けられており、伸ばされた腕の先にはズィルバーンヴォルフの子供の姿があった。ズィルバーンヴォルフは「俺も忘れるな」と言わんばかりに二人の寝床争奪戦の間に割って入っていたのだ。


 「おい、お前、その手はなんだ!?これはお手じゃないんだぞ!?真剣勝負なんだ!今は芸を仕込む時間じゃないんだぞ!」

 「バウッ!」


 予想外の乱入者に戸惑いをあらわにする奏多。だが、この狼の子供は大人顔負けの圧力で一歩も引かない様子だった。アスカも困惑しながら、今のズィルバーンヴォルフの行動を悟る。


 「ねぇ、奏多、もしかして……」

 

 ――この子もハンモックで寝たいんじゃない?

 そう言いかけたアスカの口を奏多が制止させる。


 「いやいやいや、待て待て待て!いろいろおかしいって!!お前そのまま地面で寝ればいいじゃんっ!その前にルール分かってる!?ってかそれ以前に手!肉球!!形分かんねぇよ!!」


 気になるところを次々と指摘していく奏多だったが、その様子にズィルバーンヴォルフはご立腹のようで「ウゥゥゥ……」と低い唸り声を出しながら今にも噛みついてきそうな勢いで奏多を睨みつけていた。


 その後、第二回寝床争奪戦ジャンケン大会は一時休戦。二人と一匹はああでもないこうでもないと話し合いながら、虚しい時間が過ぎていった。





 ――数十分後。


 「……それで、なんでこうなるんだよ!!」

 「文句言わないで。決まったことなんだから」


 結果、ズィルバーンヴォルフがハンモック、アスカがシュラフ、そして奏多は服が汚れないように地面にタオルを敷き、上着を掛布団のように被って寝る形となった。


 「納得いかねぇ……こんなの絶対おかしい……なんでこんな……」


 散々言い合った挙句、ズィルバーンヴォルフがハンモックの上に勝手に乗って寝てしまい、残ったアスカと奏多で再びジャンケンしたのだが負けてしまったのだ。無理やりハンモックの上から引きずり降ろそうとも考えたが、腕に噛みつかれかねないので諦めた。

 しかし、どうしても納得のいかない奏多はアスカに文句をぶつけるでもなく、ただただ行き場のない不満を地面に向かってぶつけていた。


 「だから、買い足しておくってば。それなら文句ないでしょ」


 そんな奏多を見かねてか、アスカが再度提案してくる。野宿する度に不満を言われては、たまったもんじゃない。これからの旅をスムーズに進めるためにも、多少出費してでも旅の同行者分の持ち物は揃えておくべきだ。

 だが、提案してくれたアスカに対して、奏多は首を横に振った。


 「なんかここまでくると負けた気分になる。それに、俺はまだ一度もお前に勝ってない」


 前回に引き続き負けた奏多。ここまで来た以上、一回でも勝たなければ男のプライドが廃る。ここでアスカの提案を承諾してしまっても、負けを認めたようで納得いかないようだった。


 「俺が勝ったら、新しく買い足そうぜ」

 「何よ、そのルール……ふっ、いいわ、もう寝ましょ」


 自分勝手なルールを押し付ける奏多に呆れるアスカだったが、どこか楽しげなようにも見える。が、奏多が彼女の秘めた感情に気づくことはなかった。


 明日はいよいよギルドに行くのだ。

 期待と不安を胸に、各々眠りにつくのであった。

 お久しぶりです、作者です。前回からなんと3年以上経っての更新。自分でも信じられません。途中消そうかなとも考えたのですが、彼女と彼の旅が忘れられずに戻ってきてしまいました。

 更新再開とまではいかないかもしれませんが、のんびりゆっくり続けられていけたらいいなと思います。

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