第28話 「力の差」
アスカvsシュバインな28話。戦闘シーン苦手ですがやれるだけの事はやってやりました。が、後程加筆修正加えるかもしれません。何卒、ご了承願います。
それと新たなブクマ登録ありがとうございました! 励みになります! この場を借りて御礼申し上げます。
追記:誤字を修正しました
◇
睨みあったままのアスカとシュバイン。双方の手には得意とする武器を構えている。
防音魔法の所為か周りの音も無く、静かな時間が刻一刻と過ぎていく――。
ジリジリと睨みをきかせながら先に動きを見せたのはアスカの方だった。
アスカは右手に握った鉄扇を大きく振りかざすと、数十キロもある鉄扇をシュバイン目掛けて投げつける。
回転鋸の如く放たれた鉄扇はシュバインに目掛けて真っ直ぐに飛んでいくが、シュバインは左に避けて躱す。丸々と太った体に反して、動きはかなり軽快のようだ。
どうだと言わんばかりのシュバインは余裕の表情を見せつける。
一方のアスカは攻撃を躱されてしまい動揺――はしなかった。
ニヤリと笑うとシュバインに対して後ろを指差す。
シュバインは眉を顰めながら後ろを見返すと、どういう原理か鉄扇は後方でブーメランのようにUターンし再度シュバインに向かってきた。
これには対応しきれなかったのかシュバインは躱す余裕もないまま持っていたステッキで鉄扇を弾き返そうと身構える。
鉄扇とステッキとがぶつかり合い、ガキンッ――と金属同士を衝突させた高い音。
だが、ステッキに阻まれようとも鉄扇の勢いは止まらず、力に押し負けたシュバインの顔面を数センチ掠める。
「くっ――」
シュバインの頬に横一線の切り傷をつくり、鉄扇は再びアスカの手中へと収まった。
「見た目に似合わず動きが機敏なのね」
次の攻撃に備えて身構えながらシュバインに話しかける。
「元とはいえ旅人をしていましたもんでねぇ。身体が鈍らないように今でも鍛錬は続けているのですよ」
頬の切り傷から垂れる血を手で拭いながらシュバインは答えた。
攻撃されてなお冷静なのは旅人だった頃の経験からだろう。挑発した時と違って、今は顔色一つ崩さない。戦闘慣れしているのもあってか動きも機敏でわずかな隙も見せる様子もなく、崩れた体制を即座に立て直す。
「その真面目さを普段の行いに費やすことはできないのかしら?」
その勤勉さを他へと向けて欲しいものだと思いながら、シュバインの間違った努力の方向に呆れてしまうアスカ。
「できるだけ早く降参してほしいんだけど」
「それは無理なご相談ですなぁ」
「だから対人戦嫌いなのよ……」
諦めの悪さに嫌気が差す。
過去にも何度か同じように対人戦を繰り返してきたアスカだが、皆揃いも揃って諦めの悪い連中だった。現に目の前にいる悪人も他の人と同様に諦めが悪く、それでいて、たちが悪いことこの上ない。
そんな彼女の心中を余所にシュバインはやる気満々のようで、
「ではでは、お嬢さんの技を見せていただいたところで今度はこちらの番……」
持っていたステッキを掲げる。すると、
「『鋼鉄の鎧を纏いし変幻自在の魔獣』――いでよ! “カミーリャン”!!」
詠唱と共に手に持っていたステッキから魔法陣が出現した。
魔法陣はゲートを開くときのものと酷似しているが、所々書かれている文字や図式が異なっている。
「――!!」
出現した魔法陣に影のようなものが収束していき――それはやがて巨大な魔獣となってアスカの前に立ち塞がった。
「召喚魔法……ってことは召喚士――!!」
シュバインを見据えながらアスカは答える。
出現した魔獣は爬虫類のような見た目で全長は尾を含めて10メートルほど。四つん這いの状態で背中は黒光りする鱗で覆われており、まるで鉱石そのものを背負っているかのようなゴツイ見た目をしている。手足の爪も鋭く尖っていて、特徴的なギョロっとした大きな目玉は鮮血の如く赤く染まっており左右で違う動きを見せている。唸り声等の威嚇や荒々しい息づかいは無いものの、その風格からかなりの強さであることが見てとれるほどだ。
奏多がこの場に居たならば”でっかいカメレオン”と例えただろう。もっともカメレオンより遥かに凶暴で獰猛なのは間違いないが。
「おやおやぁ? どうなされたのですか? 先ほどの威勢が見られませんが?」
「うるっさいわね!」
からかう様にするシュバインに対して声を荒げるアスカ。
「しかも召喚された魔獣は上・中・下の内の中位……ほんっと嫌になる!」
目の前のカメレオンに似た魔獣――カミーリャンに対してアスカは悪態をつく。
アスカの声に反応したのか左右別々に動いていたカミーリャンの真っ赤に染まる目玉がアスカを捉えて離さない。どうやら彼女を”敵”として認識したようである。
巨大な体躯による威圧感と敵意にアスカの顔が若干ではあるが引き攣った。
場の空気が重くなるのを感じる。鉄扇を握る手には汗が生じる。肩で呼吸しながら全身の感覚を研ぎ澄ませる。
――――集中しろ。敵は召喚士一人と中位の魔獣一体。魔獣は本体を倒すか、サモナーが魔獣を召還するのに使用した杖を破壊すれば消える。慌てるな――――。
頭の中で言い聞かせるとゆっくりと息を吸い上げる。
体勢を低くし鉄扇を持った両腕を後ろに引くと、全体重を乗せるかのようにそのまま勢いよく前に突きだし、
「《かまいたち》!!」
以前化け物に対して使った技を繰り出す。
ステージや周りの観客席をも切り刻むほどの烈風。見えない無数の風の刃が予測不能の動きを見せながらカミーリャン目掛けて放たれるが、カミーリャンは逃げようとはしなかった。
無数の風の刃はカミーリャンにぶち当たると、その巨大な体をものの見事に分解し辺り一面は肉片と鮮血で塗れ――ることは無かった。
「――!!」
無数の風の刃はカミーリャンの身体に覆われた鉱石のような鱗によって傷一つ付くことなく弾き返されてしまい、烈風が吹き止んだ後も何事もなかったかのようにその場に佇んでいる。
「硬っ!」
カミーリャンの圧倒的防御力の高さに驚くアスカ。
《かまいたち》の風の刃は予測不能の動きを見せ、その威力は鋼鉄であったり時には最高ランクの魔鉱石で作られた武器をも切り刻んでしまったりするほどだ。それさえも弾き返してしまうということは相当の硬度な鱗なのだろう。
「侮ってもらっては困りますなぁ。何せコイツは魔獣の中でもトップクラスの硬度を誇っているんですよ?」
「だったら召喚士本人を狙うのみよ!」
今度は目の前のカミーリャンに向かって走るアスカ。そのまま足に力を込めると強靭な脚力を頼りにカミーリャンを踏み台に勢いよく飛び上がった。
宙に浮いた状態のまま目でシュバインの姿を捉えると、
「《エア・ドライブ》!!」
身を翻しながらステージ上にいるシュバイン目掛けて鉄扇から巨大な竜巻が放つ――が、踏み台にしたカミーリャンがシュバインを庇う様に前に出て、またしても自身の鱗でアスカの《エア・ドライブ》を防いだ。
「あぁもう邪魔!!」
イラつくアスカはシュバインとカミーリャンから離れた位置に着地する。
《エア・ドライブ》を受けてなお傷つかないカミーリャンに打つ手なしのアスカ。
そんな彼女に対し、今度はシュバインが挑発しにかかる。
「どうです? 盾にするには最適でしょう」
「えぇ、ほんと、ムカつくくらいにね」
「防御力だけではありませんよ……行きなさいカミーリャン!!」
シュバインの呼びかけにカミーリャンが反応する。
すると、カミーリャンが一瞬のうちにして姿が消えた。
「――なっ!」
驚くアスカはカミーリャンを目で追おうと周りを見渡すが、何処にも姿が見えない。
「一体どこに――――、」
何かの気配を察知したアスカはその場から前方に向かって回避行動をとった。
――前方へ飛び退いた直後、ドゴォ!!と何かが衝突したような衝撃音。
よく見ると、先ほどまでアスカがいたステージの部分がめり込んでおり、地面の奥まで貫通していた。
「――っ!!」
攻撃された方向に目をやる。
場所からして後方の上。ショーテントの骨組みとなる部分を器用に掴み、長い舌を鞭のようにして器用に扱うカミーリャンの姿があった。左右の目玉は相変わらず赤いままで、今は左右で違った動きを見せている。
「なるほど……消えた訳じゃなく、周りと同化させて姿を消したのね」
「その通り。しかもカミーリャンの硬質で特殊な鉱石鱗は光を透過・屈折させる能力も持っていましてねぇ。ある種の透明化ってやつですよ」
「でも、完全に消えた訳じゃない。攻撃すれば当たるし、気配さえ分かればこっちのものよ」
「確かに。だが、攻撃が当たってもダメージが通らなければ意味がない。お嬢さんの攻撃は鱗によって弾かれているではありませんか」
「……」
シュバインの言葉にアスカは答えない。
彼の言っていることは正しいし、現にアスカの得意分野である風魔法が二度も阻まれたのだ。こちらが今言い返したところで負け犬の遠吠え程度にしか聞こえないだろう。
それを察してかシュバインは厭味ったらしく鼻を鳴らす。
「ふんっ。お嬢さんはどうやら召喚士が苦手なようで」
「苦手っていうか、余計な魔力消費するし面倒が増えるから嫌なだけよ」
「それは実に愉快愉快。こちらにとっては好都合と言うものですな――カミーリャン!!」
シュバインが再び呼びかけると、カミーリャンのギョロッとした目玉がアスカを凝視した。
そのままテントの骨組みにしがみついたまま、大きく口を開ける。すると今度はカミーリャンの口からアスカに向かって黄色い液体の塊ようなものを吐きかけた。
「――!!」
アスカは鉄扇を盾にし、その後ろに身を隠すとカミーリャンから吐き出された液体を防ぐ。
鉄扇に張り付いた液体はアスカに届くことなくステージへと伝っていくと、じわじわとステージを融かしていき、地面が露わになった。
「酸の毒……触ると骨まで溶けるって訳ね。遠距離にも優れている、か」
冷静に分析するアスカは酸の毒が降り注がれる中、今の戦況を確認する。
「鉄扇――《芭蕉扇》じゃ傷一つつけられない……武器を変えるって手もあるけど、斬撃や打撃、銃撃の物理攻撃なんかじゃ無意味……上位の精霊を召喚すれば少しはまともに戦えるだろうけど今はメンテ中」
独り言をつぶやきながら頭の中を整理する。
その間、酸の毒の影響で周りのステージが解けていき足場がどんどん崩されていってしまう。
「召喚杖であるステッキを破壊するのが手っ取り早いけど、あれも一筋縄では壊せそうにないし」
身を乗り出さない程度にシュバインの方を振り向く。
先ほど芭蕉扇を放り投げた時、ステッキとぶつかり合って芭蕉扇は弾き飛ばされた。そのステッキはと言うと傷付きはしたものの原形をとどめ、シュバインの手中に未だ収まったままだ。
「……はぁ、時間との戦いになりそうねぇ」
苦肉の表情を浮かべるアスカ。頬には嫌な汗が垂れる。
「とりあえず相手の弱点探しといきますか」
◇
「はっ、はぁ――待てっ! おい待てよ!」
息を切らしながら、奏多は自分の前方を走るズィルバーンヴォルフに静止を促した。だが、ズィルバーンヴォルフの子どもは奏多の言葉を気にも留めず、ただひたすらに何処かに向かって走っている。
「くそっ!」
悪態をついた奏多は自分がいる場所が何処かすら分からないまま無我夢中でズィルバーンヴォルフの子どもを追いかけた。
しばらくして奏多の体力が限界に近づいたところで、ズィルバーンヴォルフの子どもが足を止めた。見失わなかったのが最大の救いである。
「はぁ、はぁ……あぁ、やっと追いつい――!!」
膝に手を置き、息を整えながら自分が何処にいるのか確認しようとした時だった。
「アスカ――!!」
奏多の視界の端にアスカの姿が映る。数十メート先ではアスカと向かい合う形でシュバインが立っている。どうやら二人とも戦いに集中しているせいか奏多とズィルバーンヴォルフの子どもに気付いていないようだ。
「ってことはショーテントの中か」
アスカを見つけたことで現在地を把握する奏多。
奏多は今、観客席の最後の列の通路からアスカたちを見下ろす形となっている。アスカたちから見ても観客席の陰に隠れている奏多とズィルバーンヴォルフの子どもは見えない状態だ。
そんな観客席の陰から見つからないようにステージ上の二人の様子を窺う。
「うっわ、何だあれ……でっかいカメレオン? なんか鉱物みたいなの背負ってんぞ」
自分が現在いる位置の向かい側の上部、ショーテントの骨組み部分にカミーリャンが張り付いているのが見える。
自分がいた世界では見たことのない魔獣に息をのむ奏多。
「バウッ!」
「しっ、なんだよ!」
吠えるズィルバーンヴォルフの子どもに対して、声を押し殺しながら軽く叱る。チラリと横目でアスカたちの様子を確認した。戦闘に集中しているせいかこちらに気付く様子はない。
するとズィルバーンヴォルフの子どもは奏多の傍まで来ると太ももに取り付けてあるダガーを鼻先で軽く小突いた。
「ん? ジジイにもらったダガー……まさかお前――」
目の前のズィルバーンヴォルフの意図することを読み取った奏多は、信じられないといった顔で問いかける。
「――俺に戦えっての言ってるのか? この俺に!?」
「バウッ!」
奏多の問いかけに答える様にズィルバーンヴォルフの子どもは吠えた。
「無理だ! 俺じゃあ役に立たない! 助けを呼びに行くんだ!」
「ガルゥ……」
奏多の弱気な姿勢に怒るように唸る。
「無理なんだよ! 俺は魔力も持ってないし、戦える技術も持ち合わせていない! 前の世界で散々思い知らされたんだよ! 身の程を知ったんだ!」
「グルルルゥ!!」
「なんで、お前はそこまでして、俺に……」
「……グゥ」
「だって、俺じゃ……俺なんかじゃ……役には」
俯く奏多。非力な自分ではできることが限られる。今の自分には助けを呼びに行き、事の結末を見届けることしか――。
「――あっ」
その時ふと、視線を落とした先でガラードから譲り受けたダガーに目が留まった。
そのまま鞘の部分に軽く触れる。
「強くなれ」
声に出して、自分に言い聞かせるように言葉を発する。
「強くなれ。強く、自分の為に……自分の――」
自分に言い聞かせながらガラードの言葉を思い出す。
『自分を守るために強くなれ。自分の為に強くなれ。自分の為に生きろ。それが旅人だ』
「……今の俺には自分の為の強さなんてよくわかんねぇよ、ジジイ。でもよぉ……今のまんまじゃ強くなれねぇのは確かだ」
自警団に助けを呼びに行けば確実に解決するだろう。
――だが、それでいいのか?
今後も自分は助けを呼びに行ってお終い。危ないことは全て彼女が背負う。
果たしてそれに何の意味がある?
自分の為になる? 強さに繋がる?
――否。
人に頼るだけの行動では意味がない。自分も動かなければ意味がない。
例え危険な目に遭おうとも、最善の方法でなくとも、どうにかしようと模索することが大事なのではないか。だったら――、
「俺は、俺のやり方で強くなってやる。それはきっと他の旅人との言う強さとは違うかもしんねぇけど」
魔力を持つ旅人とは違う自分は、他の旅人とは違う方法でしか強くなれないだろう。だからこそ他の人には歩めない道、自分だけのやり方――それを見つける。それを示した先に強さがあるはずだ。そして、強さを追い求めた先に――『居場所の答え』もある――今はそう信じる。
「――ゲームでも現実でも経験値ってのは積まなきゃ強くなれねぇんだ」
結果に辿りつくまでの過程が人を成長させる。
「お前が俺を連れてきたのだって何か意味がある……そうだろう?」
目の前のズィルバーンヴォルフの子どもを見据えながら、自分が今ここにいる意味を問い質した。
「でなきゃ持たせてくれよ。”俺をここに連れてきた意味”を」
そう言って奏多はもう一度、今、自分がいる場所を確認する。
ズタズタになった観客席やステージ、自分の身体の何十倍もの大きさ・力を誇る魔獣、絶対的な悪意――そして、それに立ち向かう仲間。
「今の俺に戦う力はない。だから戦闘には参加しないし、参加する資格もない」
自分が、正義感が強く悪人に立ち向かえるヒーローのような存在ならまだよかったものの、そんなことはまるで無い。
悪人に立ち向かう特別な能力も無ければ人を守れるほどの強さも無い。おそらく旅人の中でも最弱。圧倒的敗者。
今の自分があの中に入り込む余地はないだろう。それは自分が一番よく分かっている。だからこそ――、
「今の俺にできることをする」
手のひらを見つめ、そのまま固く握りしめる。
圧倒的な力の差。だが魔力が無くともできることがある。
「きっと今からとる行動は端から見れば最善とは言えない。でも、失敗を怖がってちゃ人は前に進めない」
危険は承知。しかし、二度味わった恐怖が奏多を奮い立たせ、背中を後押しする。
「――アスカはきっと怒るだろうなぁ……でも、俺だって馬鹿じゃない」
先日のラパーシの件を思い出しながら、アスカが怒る姿を想像する奏多。
例え、今からとる行動が賢くなくても後々に意味を持つならばその行動は無駄じゃない。いや、無駄じゃなくする。無駄じゃなくさせる、きっと。
「それに、なんたってこっちには秘密兵器があるんだからな」
奏多はリュックを降ろしてジッパーを開けると中から日記、スマホ、アスカからもらった犬のぬいぐるみを取り出し、さらにファイルに挟んであった紙の束を取り出した。
「……力を貸してくれるか? こんな非力な旅人に」
最後に確認するように奏多はズィルバーンヴォルフの頭を撫でた。
「バウッ!」
ズィルバーンヴォルフの子どもは奏多の覚悟を見届けると、答える様に一吠えした。
ここまで読んでくださっている方々、ありがとうございます。
今作魔法を使った2度目の戦闘となりました。前(1章序盤)はすぐに終わってしまったので今回は少し長め。今回書いている中で新たな課題も見えたので、今後の展開をより良くできるようにしていけるように努めます。
次回、アスカが苦戦している中、奏多とズィルバーンヴォルフの子どもがどう動いてくれるのか……。次の話も早めに投稿できるように頑張ります。
では、失礼いたします。




