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異界の旅人 ~己が為に彼らは旅をする~  作者: 鈴風飛鳥
第2章 「仲間」  ~そして共に歩むもの~
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第25話 「自分がやるべきこと」

追記:誤字・脱字を訂正しました。

 「よっしゃ、任せとけって!! 大船に乗ったつもりでどんと来い!!」


 アスカから今回の目的を聞いた奏多はビシッと親指を立て、やる気十分なところをアスカに見せつける。


 一方のアスカは奏多の軽そうなノリに若干の不安を覚えた。


 「前回の事があるからあまり任せたくないのだけれど」

 「うっ、またその話……だ、大丈夫だって今回は!!」

 「そうね。それに今回はしくじったらどうなることやら……」

 「どうなるんだよ?」


 なんとなく軽い気持ちで聞き返した奏多だが、アスカの表情は真剣そのもので


 「とりあえず命はないと思っておいた方がいいわよ」

 「――!!」


 返ってきた答えは重いものだった。


 ――命はない。つまり下手をすれば死ぬ。


 「当たり前でしょ? 相手は平気で異界のルールを破るような奴なのよ?」


 表立ってはサーカスの団長という立場だが、裏を返して言えば法律違反をする犯罪者のような存在なのだ。何をしてくるか分からない。


 先ほどアスカが言っていたが相手はハンターで、しかも元旅人の可能性が高い。戦闘ともなれば一筋縄ではいかないだろうことは予想できる。


 「そうだったな。しっかり心得た」


 相手が相当の手練れである可能性をしっかり頭に叩き込み、自分に緊張感を持たせる。


 「んで、俺は何をすればいい? 団長の顔面に拳一発いっとくか?」

 「なーんでそう脳筋思考になるのかしら……奏多にはやってもらいたいことがあるのよ」

 「やってもらいたいこと?」


 アスカの様子から察するに、団長を相手にする内容のものではなさそうだ。

 少々残念がりつつも、やってもらいたいことの内容を確認する。


 「そう。私があの団長をひきつけておくから、奏多には狼の檻の鍵を探して狼を保護してほしいのよ」

 「アスカ一人じゃ危険じゃないのか?」


 自分がやるべき内容よりも先にアスカの方が気になる奏多。

 真っ先に彼女の心配をしたが、


 「逆に今の奏多がいたところで足手まといなだけよ」


 奏多の心配を一蹴されてしまう。しかもかなりはっきりと。

 

 「それに、今回はやることが二つもあるんだからスムーズに事を進めないとね」

 「……わかったよ。でも、もし危険になったら呼べよな」

 「奏多に戦う力があるなら喜んで助けを呼べるけどね」

 「……」


 先ほどから棘のある言い方をするアスカに対して険しい顔つきになる奏多。アスカを睨みつけ、不機嫌そうにする。


 その様子を見てか、アスカは「まぁまぁ」と不機嫌そうにする奏多をなだめた。


 「そう怖い顔しないで。仕方ないわよ、力がないのは奏多の所為じゃない。本当は時間があれば稽古でもつけてあげるんだけど、今はそんなことしている暇はない」


 ここに来て早々に問題解決する羽目になってしまった。こんなに早くに異界の問題に直面することになど思っても見なかったので準備も万端という訳ではない。しかし、準備をできる時間も限られている以上余計なことに時間を割くわけにもいかない。


 「タイムリミットは夜明け前まで。それまでには全て終わらすわよ」

 「明日じゃダメなのか?」

 「ジェラルドさんも言ってたでしょ? 行動を起こすなら今夜だって。明日にはこのサーカス団はここを発ってしまう。国から出ていってしまう前にケリをつけましょう」


 あの狼が売られてしまってからでは遅い。また別の特有動物を捕まえてきてしまう。

 

 さらに言えば二人(特に奏多)はショーの中で一瞬とはいえ目立ってしまった。顔を覚えられている可能性がある。


 長引けば長引くほど状況は悪くなる一方なのだ。早い方がいいのは間違いない。


 「わかった。それで、檻の鍵ってのはどこにあるんだ?」

 「それが分からないから探すんでしょ。一応見当はつけてるけど」


 アスカはテーブルに置いていた目盛りやら単語やらが描かれた紙を裏側にして紙をひっくり返す。真っ白な裏地の紙が現れると再びペンを握り、今度もまた図形のようなイラストを描き始めた。

 

 しばらくして書き終わった紙を見ると、大小丸い図形がいくつかあり、中央に一番大きな丸が描かれていた。一番大きな丸の中にはショーテントという文字。上には大聖堂前広場と書かれている。


 「これは?」

 「大聖堂前広場のテントの位置を表したもの、おそらくこんな配置だったはず」

 「おまっ! おぼえてるのか!?」

 「奏多が来るまでに時間あったしねぇ。ぐるっと見て回ってテントの数と位置を記憶しておいたのよ。それにジェラルドさんと会ってテントを後にするときも確認したから大体の位置はあってる筈よ」


 奏多が来るまで時間があったアスカは広場に集まった人々を観察していた。その時にテントの数も把握していたのだ。


 手際がいいなぁ、と感心する奏多に対し、アスカはとある一つの丸をペン先で突く。

 それはショーテントからそう遠くない場所に位置するテントだった。


 「今指しているのが団長が寝泊まりしていると思われるテント。ここにいるとみて間違いないわ」

 「なんでそこにいるってわかんだよ」

 「奏多が来るまでの間にこのテントを何度も出入りしている団長を見たのよ」


 するとペン先で示していた丸をグルグルに囲む。


 「おそらく他の団員に見つからない様に自分が寝泊まりしているこの小テントに隠していると思う。団長自身が檻の鍵を所持している可能性もあるから、その時は悪事を働いている証拠を見つけ出してちょうだい」

 「檻の鍵と犯罪の証拠か。了解した! あと他になんかあるか?」


 アスカの負担を減らすべく、自分にできること聞く。

 

 アスカは悩んだ後、


 「奏多のすべきことが終わっても、私が帰ってきていなかった場合は助けを呼んできて。一般人とかじゃなく、できればこの国の治安を守る自警団的な人」


 自警団と聞きなれない単語に一瞬ピンとこなかった奏多は首をかしげる。

 

 その様子をみたアスカは彼にも伝わるような言葉を探し、


 「あ~、民間の人を守る人たちって言えば分かる?」


 ざっくりと説明する。

 それで奏多の方は伝わったようで、


 「つまり警察を見っけてこいってことだな。でも、それなら最初から助けを呼んで応戦してもらえばいいじゃんか」


 人数は多い方がいいと提案する奏多。むしろ手伝ってもらった方が早く片付いて楽なのでは、と思ったがアスカは首を横に振った。


 「証拠もないのに動くはずないでしょ。このサーカス団は何度も国を出入りしているから信頼もあるようだしね。見ず知らずの私たちが訴えたところで証拠がなければ門前払いされるのがオチよ」


 おまけに貴族たちも出入りするような大きいサーカス団である。信頼を勝ち取っている相手に対し、何の信頼も実績もない二人では最初から動いてはくれないだろう。


 「そのための証拠探しか」

 「奏多が鍵と証拠を見つけて助けを呼ぶのが先か、私が団長を捕まえるのが先か……できれば助けを呼ぶ前に終わらせたいところね」


 簡単にはいかないだろうけど、と難しい顔をするアスカ。

 

 そんな彼女に、奏多は一つの提案をする。


 「ガラードのおっさんはどうだ? 駄目か?」


 ガラードも団長の事を怪しんでいる様子だったし、武器屋を営んでいるのなら話し合いになっても戦闘になってもそれなりの対応はできるはずだ。事情を説明すれば協力してもらえるかもしれない。


 「……ガラードさんにまで迷惑はかけられないわ。やっぱり私たちで解決するべきよ」


 ほんの一瞬だけ迷ったアスカだが、奏多の提案を却下する。


 確かに団長を快く思っていないガラードに頼めば手伝ってはくれるだろうが、彼は旅人を引退した身だ。引退して尚、危険な目に合わせてしまうのはあまりよろしくない。


 アスカの返事を聞いて「そうか」と少し残念そうにする奏多。


 「でも、本当に一人で大丈夫か?」


 いくらアスカが慣れているとはいえ、心配になってしまう。やはり援護しに行くべきではと思ったが、

 

 「心配性ね大丈夫よ。こういう事態は何度も経験しているし、それに……」


 アスカは奏多の上から下まで隈なく見つめる。


 「奏多は対人戦には向かないわ」

 「……どういう意味だよ? 魔力がないから戦いには不向きってことか?」


 ――魔力もない自分では力不足ということか、と自分の非力さに落ち込みかける。が、


 「――そのままの意味よ」


 目を伏せがちにアスカは答えた。

 どうやらまた別の意味らしい。


 「それで、奏多がすべきことは分かったかしら?」


 気持ちを切り替えて、奏多がやるべきことが分かっているのか確認しようとするアスカ。

 奏多はそれに対して頷くと、


 「俺がやるべきは檻の鍵を見つけて狼を保護することが第一。鍵が見つからなかった場合は第二の課題の証拠探し。それらが終わって尚且つアスカの要件が終わってなかったら証拠片手に応援を要請する、ってところか?」


 団長と対峙しない分、奏多の方がいくらか余裕があるが早く事を済ますほどアスカに対する負担も少なくなる。早急に自分がやるべきことをこなさなければならない。


 一方でアスカは団長を引きつけておかなければならないのだ。話し合いで解決できるのが最も穏便に済むが、そうもいかないだろう。最初から話し合いで解決するならジェラルドも悩む必要はなかったはずだ。


 「今のところそれでいいわ。あとはそっちでなんかあれば臨機応変に対応してね」


 奏多が自分のやるべきことが分かっているようで一安心のアスカ。これで心置きなく自分の方に集中できる。


 「臨機応変、ね。何事もなくうまくいってくれるとありがてぇんだが」


 そういう訳にもいかないだろう。何事もトラブルはつきものである。それに対して対応できるようにしておかなければ――、


 「……」


 と、先ほどから視線を感じる奏多。アスカの方を見ると、彼女は黙ったままじっと奏多の方を見つめている。


 「……なんだよ」

 「それでいいの?」

 「はぁ? いきなりなんだよ?」


 何の脈絡もなく疑問を投げかけられて困惑する奏多だが、アスカの目には先ほどのやる気に満ちたものとは違った不安の色がチラチラと見え隠れする。


 「だって、今からやることだって何があるかも分からないし下手すれば命を落としかねないのよ? ここまできて私が言うのもなんだけど、奏多は怖くないの?」


 躊躇いもなく異界の問題解決に協力する奏多に対して疑問を抱いている様子だった。


 無理もない。奏多は何度か危険な目にあって尚、さら危険なことに首を突っ込もうとしているのだ。危険だと分かっていながら、それでも協力の意思を見せる奏多の行動がアスカには理解できない。


 協力してもらうと言い出したのはアスカの方だが、実際にはそれを断って待っているという選択肢も可能と言えば可能なのだ。そうなれば彼女は今までと変わらず一人で解決するだけである。


 「あぁ~なんだそういうこと……まぁ旅人になるって時点である程度覚悟決めたしなぁ」


 奏多はこれまでの出来事を思い出す。旅立ってほんの数日だが、もう何日も何年も旅をした感覚だ。

 

 「……自分が住んでた世界でも前の世界でも確かに怖い思いをした。両方とも死ぬかと思った」


 一度目は抗い様もない死の恐怖。二度目は抗って尚、避けることのできなかった死の恐怖。特に二度目に関しては一度目の物とは比べ物にならない程だった。


 ――だが二回だけ。それもたったの二回(・・・・・・)だけ、だ。


 「でも、アスカはこういう恐怖がいつも隣にありながら、今まで一人で頑張ってきたんだって思ったら、な? そんなんでビビッて俺がここで留守番してたんじゃ恰好がつかねぇし」


 アスカは八年以上もの間旅人を続けていると言っていた。慣れているとはいえ、いつも死の恐怖との隣り合わせの中を生きてきたのだ――それも一人で。


 ここで自分が何もしなければ、何のためここにいるのか分からなくなってしまうではないか。

 それに、ここで心がくじけてしまってはこの先やってはいけないだろう。いくら魔力なしのハンデを背負おうとも自分は旅人になったのだから。


「それに――」


 と、奏多は誇らしげに答える。


 「お前がいるからな。大丈夫だ」


 曖昧な理由だ。それでも奏多にとっては十分すぎるくらい、安心できる理由なのだ。自分の勘がそう言っているから間違いない。


 「何よそれ。結局は私に頼ってるじゃない」

 「あぁ、今は頼るしかねぇんだ。二回死にそうになって気づいた。俺は無力なんだ、力不足なんだって」


 自分は無知で無力でできることはアスカに比べて圧倒的に少ないだろう。

 逆に言えば自分だからこそ(・・・・・・・)できる何か(・・・・・)を探さなければならない。


 「今この時は、俺ができることをやる。それに俺ができない様なことをアスカが頼むはずもないしな」

 「……」


 この前と違った奏多の変わり様に、アスカは思わず目を丸くした。

 自分で知ろうと行動を起こそうとさえしなかった彼だが、この短期間で劇的に変りつつある。よほどこの前の事が悔しかったのか。それとも――、


 「これが片付いたら稽古つけてくれよ。魔法とあと体術も。その方が一人の時も何かと対応できるし、役に立つことも増え――」

 「私は少し誤解していたようね」


 奏多の話を遮ると、アスカは奏多に対して尊敬の眼差しを見せる。


 「ん? なにが?」

 「奏多の事。旅人には向いていないとか言ったけど……その順応の速さと自分でできることをしようとする意志。それは旅人にとって必要な事よ」

 「別に……ここで足踏みしてても始まらないしな。それにお前が胸ぐら掴んだ時に言っただろ? 今のままの俺じゃ死ぬって。いつまでもお荷物扱いじゃ俺自身が後悔することになっちまう。そんなのは御免だぜ」


 ――あの時。アスカが諭してくれたあの時。言われていることすべてが理不尽なことのように感じられた。自分が何もできないから叱られているだけなのだと。


 だが、今なら少し分かる。自分は本当に何もしてこなかった。しようとしていなかった。いつまでも傍観者気分で、自分がその場に(・・・・・・・)いない(・・・)ように感じたのだ。

 ここへ来てからは自分なりに聞き込みもしたし、考える努力もした。そうすることで自分が今この時をこの場所にいる実感(・・・・・・・・・)ができた(・・・・)気がした。


 ようやく何かを掴みかけているのだ。ここで何もしないで今までと変わらないままの自分でいるのは嫌なのだ。


 「旅を始めてこの短期間でそれが学べただけでも素晴らしいことよ。ちょっと見直したわ」


 怖いくらい素直に褒めるアスカ。本来ならここで照れるなりの反応を見せるべき場面なのだが奏多は、


 「えっ、マジで? そんなにすごいこと? もっと褒めてもいいんだぜ? なぁ? なぁ?」


 滅多に褒めないアスカに褒められて調子に乗る。先ほどまでの真面目な雰囲気は何処へやら。しつこくアスカに聞こうとすると、


 「前言撤回!! やっぱりあんた旅人に向かないわ! そうやってすぐ調子に乗る」


 気を悪くしたアスカは先ほどの発言を取り消そうとする。褒めてから前言撤回するまでの時間わずか7秒だった。


 「なんだよ! どっちなんだよ!」

 「あんたはまず、子供っぽいところと人を信じやすいところと行動と中身と髪型を直しなさい!」

 「最後の方関係なくね!? 特に髪型!!」

 「ずっと思っていたけど前髪金髪はどうかと思うわよ。目立つし」

 「これは髪を染める時に少し失敗しただけだ!! 次に美容室行く時に直そうと思ってたんだよ!!」


 話が脱線してしまい、気が抜けてしまったアスカはため息を漏らす。


 「はぁ~……ちょっとでも気にかけた自分がアホらしく思えてきた……そんな奏多に背中預けなきゃいけないと思うと命がいくつあっても足りない……」

 「なんだよ!! さっきまでのやる気はどこ行った!?」


 真面目なのか不真面目なのか……どっちともつかない様子の奏多に振り回されたアスカの顔には早々に疲れが見え始める。


 「――やっぱり誰か一緒にいるとダメだなぁ……ちゃんとしなきゃいけないってのに調子が狂う……一人の時の方が楽だったなぁ」


 こめかみを抑えながら独り言のように呟いた。


 今まで一人で旅をしてきた。もちろん異界の問題の解決も一人でこなしてきた。こなせてきた(・・・・・・)のだ。

 思えばそれが今度から二人で協力していかなければならないとなると……一人でやることになれていた彼女にとっては今さらながら面倒くさいことこの上ないように感じられた。


 奏多を置いて一人で乗り込んでも良いのだが,彼が一人の時に何かあったら対応しきれるとは思えない。


 加えて彼はまだ旅人初心者なうえに戦う術も身に着けていないのである。ガラードから魔武器であるお古のダガーを譲ってもらったとはいえ、まだ魔法が使えるかどうかの実験もしていない。


 それに,はぐれるようなことがあったら永遠にこの世界を彷徨うことになる。連れて行って問題解決に協力してもらう以外の選択肢は無さそうだった。


 「……考えようによっちゃやる気があるだけまだまし、か」


 この前のやる気のない奏多よりはいくらかいい――と無理やり前向きに考えることで狂ってしまった自分の調子を取り戻そうとするアスカ。

 

 そんな彼女の気持ちも知らずに、


 「なーに一人で考え込んでんだよ? 早くケリつけんだろ? だったらさっさと乗り込もうぜ」

 「時間的に早いわ。少なくなってきたとはいえ、まだ人の往来もある。国の人々が眠りにつく深夜に作戦決行よ」


 時間はまだ夜の九時を回ったところである。所々店が閉まってきてはいるもののまだ十分に明るい。そんな中で不審な行動をしたらすぐ目に留まってしまうだろう。


 それにサーカス団のショーが終わって広場に集まっていた人々は皆自分の家に戻っていったが、ちらほらと人影は見えることから全員がいなくなったわけではなさそうだった。これでは忍び込もうにも忍び込めないので人々が寝静まるのを待つ他にない。


 「でも、いつでも動けるようにはしておいてね」


 ここまで来た以上はやるしかない。

 奏多は迷いなく即座に頷く。


 「おうよ。こちとら初任務だからな」


 そう言うと奏多は右手に拳を作って前に突きだした。


 「……?」


 アスカは奏多の行動の意味が分からず黙ったままだ。すると奏多が同じようにやれと言う仕草をしたのでそれに応じる。

 

 彼女も同じように右手に拳を作ると奏多の拳にこつんと優しくぶつけた。奏多の世界で言う“グータッチ”というやつだ。


 「えっと……この拳をつきつけ合う行動に何か意味はあるの?」

 「大事なことを行う前の儀式みたいなもんだと思っとけ」

 

 本当は漫画のようなこの行動を大事な局面でやってみたかった、などとは言い出せない奏多はそれらしい理由をつけて適当に誤魔化す。


 「へぇ、奏多のいた世界では変わった儀式を行うのね」


 そんな事とはつゆ知らず、間違った異界の知識を教え込まされるアスカだがこのことが訂正されることは一生ないだろう。


 「じゃあ儀式も済んだところで行きましょう。必要なものだけ揃えてサーカスのテントが見える付近に張り込むの」

 「分かった、よろしく頼むぜ」


 全ての話が終わってアスカは紙とペンを片づけてテーブルに紅茶とコーヒー代を置き、奏多は床に置いていた自分のリュックを背負うと二人は店を後にする。


 店から出る時、奏多は一歩前を行くアスカに向かって、


 「――相棒」


 と言ったがあまりにも小さなその声は彼女の耳に届くことはなく、二人は夜の帳の中へと姿を消したのだった。


 ここまで読んでくださっている方々、ありがとうございます。そして投稿を遅らせてしまい申し訳ありません。ひとまず落ち着いたので投稿しました。


 いよいよ次は乗り込みます。もう別行動が当たり前の二人ですな。

 おそらく各々の視点でパートを区切るかと思います。長くなりそうな予感です。


 2章サーカス編も中盤くらいだと思います。長い目で見ていただければ幸いです。


 次の投稿ですが、少し書き貯めますので少々お待ちください。なるべく早く投稿できるように頑張ります。

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