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異界の旅人 ~己が為に彼らは旅をする~  作者: 鈴風飛鳥
第1章 「遭遇」 ~そして物語の幕が上がる~
3/36

第2話 「きっかけ」

 前回に引き続きありがとうございます。今回は少し長めで説明ばかりなので読みづらいかもしれません。


 遅くなりましたが、評価・ブクマ付けてくださった方、本当にありがとうございます。まだまだ至らぬところはございますが、少しでも長くお付き合いいただければと思います。


追記:少し修正しました。

「……まずいことになった」


 その日、奏多は自分の大学生活において最大の危機に直面していた。


 秋も終盤に近づき、冬に入ろうかとしている季節。奏多は憂鬱な気分でバスに乗り、憂鬱な気分で運転手の後ろの座席に座り、憂鬱な気分で大学へと向かっていた。現在、午前十一時二十五分。いつもなら午前十時半から始まる授業に出席している時間である。とことん憂鬱な彼がなぜ、一時間近くも遅れてバスに乗っているのか。答えは単純なもので、昨日、夜遅くまでゲームをしていた挙句、本日付で提出するはずのレポートの存在を忘れていた為、急遽寝る間を惜しんで作業をしていたからである。その後、午前九時前にレポートを終え、仮眠を取ろうとした矢先、ぐっすりと眠ってしまった為、今に至る。


 (今から遅れていったところでなぁ……。レポートの締め切りが授業終わりの十二時までだしなぁ……。けっこうぎりぎりだな)


 急いで家を出てきた為か、奏多の髪はボサボサ。特に、前髪の金髪部分が右へ左へ好き放題にはねていた。おまけに、寝巻に使用している運動用のジャージ姿なので、端から見るとダサいことこの上ない。とても大学生には見えない姿である。いつもはゲームやらスケボーやらと授業に関係のないモノまで入れているリュックも、余計なモノまで入れる暇がなかったため、必要最低限のモノしか入っていないので軽い。世間一般の人にしてみれば、それが当たり前なのだが。


 奏多の実家から学校までバスでおよそ二十~三十分。つい五分ほど前にバスに乗り込んだばかりなので、学校に着いてもレポートの提出時間にギリギリ間に合うかどうかといったところである。


 「ついてねぇなぁ……」


 誰に言うでもなく、一人つぶやくように言うと、ズボンのポケットに手をやってスマホを取り出す。電源を入れ、待ち受け画面(愛犬のハヤブサとのツーショット)を開いた。現在時刻は午前十一時二十七分。ふと、メールのアイコンに視線が移る。そこには小さく1と数字が表示されていた。


 奏多は「はぁ……」と不安交じりのため息をつくと、恐る恐るメールのアイコンをタッチし、受信BOX一覧を開いた。画面にはメールの題名がずらりと表示される。まず、目についたのが受信BOXの一番上、題名のところに『大学からのお知らせ』と書かれているメール。しかし、それはすでに既読済みだった。そこから少し下に下がると、友達とのくだらないメールのやり取り、通販の発送のお知らせなどが並んでいる。少し下がったところで画面のスクロールを止めた。視線の先のメールの題名には『母より』と書かれていた。一瞬メールを開こうかどうか迷ったが、意を決し『母より』と書かれたメールをタッチする。すると、メールの本文が表示された。そこには、


 『朝、部屋まで起こしに行きましたが、それでも起きなかったので先に家を出ます。遅れてでも必ず学校へ行くこと。朝食はリビングのテーブルの上に置いてあるので食べてください。その隣にはお昼のお弁当も置いてあります。夜は、お父さんもお母さんも仕事で帰りが遅くなるので、要と一緒にご飯を食べてください』


 一通りメールを読み終えると「……はぁ」と二度目のため息を漏らし、スマホの電源を落とした。


 (兄貴と一緒……ねぇ、――めんどくせぇ。兄貴は仕事で夕方に帰るはずだし、先に飯食って後は部屋にでも籠もってゲームでも……)


 目の前に迫るレポート提出を尻目に、奏多はバスの窓からの景色を眺めながら、家に帰ってからのことを考え始めた。




 両親が共働きだった奏多は、幼い頃から2つ年上の兄、要の後をくっついてばかりいた。


 友達がいなかった訳ではない。頼れる存在が、守ってくれる存在が、何かあった時に助けてくれる近くにいる。無意識にそう感じることで、自分の居場所を作っていた。


 しかし、それも中学生までのことだった。


 奏多が高校2年生の時、兄の要は大学へは進学せずに、大手の広告代理店に就職した。

 それからというもの、毎日忙しそうにしている要を見ているうちに、奏多にとって要は大きく、遠い存在となった。今まで一緒に、隣にいた存在が、居なくなる。遠くなる。自分から離れていく。言い知れぬ不安が奏多を襲った。いずれは兄も自立し、家庭を持ち、子供ができて……。そして、高校2年生の夏、就職か進学かの選択を迫られるこの時期。

 奏多は、ふと疑問に思った。


 (――俺の居場所はどうなるんだ?)


 普通なら自分も、兄が辿るであろう人生を同じように辿ればよい。だが、ずっと両親と、兄と一緒という訳にはいかない。


 ―― 一つの居場所に固執してしまった奏多にとって、兄の存在が大きすぎた奏多にとって、自分の居場所というものがなんなのか分からなくなってしまったのだ。


 その後、奏多と要の溝は深まるばかりだった。自分で働いて金を貯金しやりたいことに向かって努力している兄。――家での食事の時や廊下で出くわした時など、段々と話をすることが少なくなり、要に対するコンプレックスが次第に強くなっていった。


 高校を卒業した奏多は、やりたいことも決まっていなかった為、都内の大学へ進学。友達もでき、ダンスサークルにも入った。飲み会、合コン、サークル合宿、文化祭、etc.……。他にも様々な行事に参加し、青春を楽しんだ……はずだった。


 ――だが、それは奏多が望んだ「居場所」の形ではなかった。





 自分の「居場所」は何処なのか、何なのか、誰なのか。……頭の中でその疑問がぐるぐるとまわっている。その答えに辿りつかないまま月日は過ぎて、奏多も成人を迎えてしまい、今に至る。


 (……来年から就職活動、か。やりたいこと……なぁ)


 現在、奏多は大学3年生。来年には本格的に就職活動を始めなければならない。迫りくる現実と辿りつかない答えに、ただただ流れていく時間の中で、奏多は先のことを考えるのが嫌になっていた。


 しばらくしてから再びスマホの電源を入れ、待ち受け画面に表示されている時計を見た。現在、午前十一時五十二分。そろそろ大学の正門前にあるバスの停留所が見えてくるはずである。すると、『ピーンポーン』という電子音。


 『――次は、峯が丘大学正門前、峯が丘大学正門前でございます。お降りのお客様はお近くの降車ボタンを押して……』


 バス運転手の車内アナウンスが流れると同時に、前方に取り付けてある液晶モニターにも『次は、峯が丘大学正門前』と表示された。


 奏多が窓際のバスの降車ボタンを押すと『ピーンポーン』という電子音。続いて、


 『次、止まります。ご乗車ありがとうございました……』


 車内アナウンスが流れ、降車ボタンが赤く光る。

 バスが道路を左に曲がると、緑の木々に囲まれた大きな建物が見えてきた。奏多が通う峯が丘大学である。広い敷地は緑豊かな自然に囲まれており、生徒数も全学年で一五〇〇人近くいる。


大学が近づくにつれ、バスの走行速度が徐々に遅くなる。

 奏多はバスを降りる準備をし、座席を立とうとした。……その時だった。


 ――ドンッ!!何か重いものを地面に思い切りたたきつけたような音と、同時にぐらぐらと立っていられない程の激しい揺れに襲われた。


 「きゃああぁぁ!!」

 「なんだ!? 地震か!?」

 「うっ、うわあぁぁ!!」


 バスの乗客たちが慌てふためく。奏多はとっさに、リュックを頭の上に持ち、頭を低くしてできるだけ身を縮めた。他の乗客はというと、ある者は悲鳴を上げ、ある者は座席から転げ落ちて尻餅をつき、ある者は持っていたスマホを床に落としてしまった。バスの運転手も、慌てはしたものの「お客様、落ち着いてください!」と今起こっている事態に対して冷静に対処しようと心がけていた。


 ――どれほどの時間が経っただろうか。激しい揺れの後、しばらく誰も微動だにせず周りの様子をうかがっていた。激しい揺れではあったが、幸いにも、バスは横転せずに峯が丘大学前の正門前に止まっている。揺れの影響せいか、バスのドアが開いていた。


 (……おさまったのか?)


 頭の上のリュックを下しつつ、他の乗たち客をみる。乗客たちは皆、茫然としていた。

ハッ、と思いついたかのように、ポケットしまったスマホを取り出す。電源を起動し、待ち受け画面の時刻を確認した。現在、十一時五十七分。レポート提出締め切りまであと三分。


 (走ればギリギリ間に合うか? ……なんて、のんきな事考えている場合じゃねぇ!他の人たちは無事なのか!?)

 

 唐突に不安に駆られ、すぐさまスマホの通話機能を起動し、電話帳を開く。父、母、兄の要、奏多の友人らの名前と電話番号が表示された。


 (とにかく誰かに連絡を!!)


 不安と混乱から手元が震え、思うように操作ができなくなる奏多。だが、無情にもスマホのアンテナの電波は『圏外』と表示されていた。


 「なんで圏外なんだよ! くそっ!」


 悪態をついた奏多は、リュックからバスの定期券を取り出し、律儀にもお金を払いつつバスを降りた。バスの運転手が「待ちなさい! 君!」と叫んだが、奏多の耳には届かず、大学の敷地内へと駆け出した。


 ここまで読んでくださっている方、ありがとうございました。 次も早く投稿できるように頑張ります。

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