第22話 「サーカスショー2」
サーカスショー開幕。
追記:誤字を訂正しました.
追記2:文章を少し訂正しました。
「いよいよだな……」
「えぇ、楽しみだわ……」
二人ともサーカスは初めての為、どんなものが見られるのかと興味津々でステージを凝視する。もっとも、ここは異界なので奏多がいた世界のサーカスショーとは違うのだが。
他の観客も同様、拍手を終えるとステージに集中しようと静かになった。
完全に無音となったところで、司会進行に役を移した団長のシュバインが、
「一番手は、当サーカスの名物!! 我がバイエルサーカス団一のイケメンと言われるジェラルドとその相棒、ペーガソスのブルーノでっす!!」
するとステッキを握っている方の手を、ステージ中央へと向ける。
「「「きゃああああぁぁぁぁ!!!!」」」
割れんばかりの黄色い歓声に包まれる。そのほとんどが女性によるものだった。甲高い声に頭が割れそうな程痛くなった奏多とアスカは耳を塞ぎたくなる。
「……まるでアイドル並みの反応だな。今から出てくる奴そんなに人気あるのか」
「何? 『あいどる』って」
「語源は英語で意味は偶像だった気がする。なんでそこからアイドルって言われたのは知らないけどな。ま、俺から言わせてみれば? 外見的魅力値の高くて歌って踊れるスーパースター様ってとこだな」
羨ましくないと思いつつも、どうもチヤホヤされている人を見るといい気分がしない奏多。世のイケメン男子の顔を思い出しながら嫌味たっぷりに説明する。
アスカは不機嫌気味の奏多の心情がいまいち分からないようで、
「奏多はアイドルじゃないの?」
「俺がこの顔でアイドルやれていたら、ほとんどの奴らはアイドルだろうよ。そもそもあぁいうの興味ないしな。三次元より二次元派なんだよ」
「その三次元とか二次元とかも意味が分からない……」
「アスカが知らなくてもいい知識だよ……」
と、二人がしょうもない会話をしているとステージの奥、団員たちがステージの出入りをする通路から一人の男が現れた。
「レディース&ジェントルメン!! バイエルサーカス団にようこそお越しくださいました!! 今しがた団長からご紹介頂きましたジェラルドと申します!」
爽やかな笑顔を辺り一面に振りまいている男は、青髪に漆黒の瞳、衣装は団長のシュバインが着ているテールコートの白バージョン。全体的に高身長の細身で、いかにも女性が好みそうな外見をしている。
そして奏多の目には、彼の周りにキラキラとしたエフェクトが付いているように見えた。
「きゃあああぁぁぁ!! ジェラルド様ぁ!!」
「今日もかっこいいわぁ!!」
「こっち向いてぇ~!!」
彼のファンであろう女性たちの声が観客席の至る所から聞こえてくる。中には立ち上がって自分をアピールする迷惑な客もいたが、当の本人はジェラルドにしか目がいっていないようだ。
ジェラルドはステージの中央に立つと、声援に応える様に観客席全体に向かって笑顔で手を振る。すると二度目の黄色い歓声。
その様子を見ていた奏多はモヤモヤと自分の中に何かが溜まっていくのを感じた。
「なぜだろう……あいつに対する俺のヘイト値がどんどん上がってる気がする……」
「何? 嫉妬? 男は見た目じゃなく中身よ、中身!」
そう言いながらアスカは奏多の背中を強く叩く。
叩かれた勢いで前のめりになりそうになった奏多だが何とか踏みとどまった。同時に自分の中のモヤモヤとしたものも幾分軽くなったように感じる。
「そしてこの子が僕の相棒――ペーガソスのブルーノだぁ!!」
ジェラルドがステージの出入りをする通路の方を向くと、それが合図だったかのように通路の奥の方から何かが走ってくる音が聞こえてきた。その音は段々近づいてきて、やがて……、
「ヒヒィィィィイイイイン!!!!」
鳴き声と共に通路からステージに向かって、勢いよくその姿を現した。
「「「おおおおぉぉぉぉ!!!!」」」
観客席からは先ほどの黄色い歓声とは違う驚きの声。
姿を現したのは全身が真っ白の肌、背中に大きな翼の生えた馬。動くたびにサラサラと揺れるたてがみは優雅であり、その目は凛々しく力強い。
「すげぇ!! ペーガソスってペガサスの事か!! ペガサス初めて見たぁ!! マジで馬に翼が生えてる!! 天馬だぜ天馬!!」
そう、奏多の世界で言うところの『ペガサス』という存在が今、目の前に姿を現したのだ。
いきなりとんでもない物を目にしたとばかりに興奮を抑えきれず、身を乗り出す勢いの奏多。
「私は馬の頭に角が生えた一角獣、ユニコーンの方なら見たことあるけどペガサスは初めて……どちらも幻獣と言われているから遭遇しにくいのだけれど、こういった形で目にするなんて夢にも思わなかったわ」
一方、アスカも奏多ほどではないものの好奇心に満ち溢れた目をしており、生き生きとした表情をしている。
「えっ、異界にはユニコーンもいるのか!?」
「滅多に姿を現さないけどいるわよ」
「いいなぁ、俺の世界にはどっちもいねぇよ。空想上の存在でしかなかったからなぁ……」
「といっても、あれって単に馬に翼が生えているか角が生えているかの違いじゃないの? だったら一頭の馬に翼と角の両方を生やした方がお得じゃない?」
「現実的に考えるのやめてくれない!? 夢が壊れるんだけど!! そもそも両方生やしたところで損得の問題じゃねぇからな!?」
アスカの言葉に興奮が冷めてしまった奏多は思わずツッコミを入れてしまった。ペガサスとユニコーンは混同されてしまうことが多々あるが、それぞれ別の存在だからこそ価値がある。それを一つにまとめてしまっては夢がない。
「冗談よ。でも見た目に反して、ペガサスやユニコーンと言った幻獣は本来扱いがとても難しいとされているの。気性が荒かったり獰猛と言われていたり……彼らは自分が認めた相手以外は触らせることもしないはずよ。よっぽど懐かれているか、魔法で操っているか……どちらかでしょうね」
冗談はさておき、と目の前にいるペガサスを冷静に分析するアスカ。
ステージいるペガサスのブルーノはというと、ジェラルドの隣に佇んだまま彼の指示を待っているようだ。
次の瞬間、ジェラルドが指を鳴らすとブルーノの翼が大きく横に開く。全長二~三メートルといったところだろうか。神々しさというものもあってか、かなり迫力がある。翼を広げるとステージ上を円を描くように徐々に走りながら加速していき、ある程度加速しきったところで翼をはためかせると、足が地面から浮きあがり上空へ飛翔した。
ステージの上や観客席の真上を旋回しながら飛翔するブルーノ。翼がはためくたびに風が巻き起こり、その風は時に観客席の元まで届くほど。
それの光景を目で追う観客席からは盛大な拍手と称賛の声が上がった。
奏多とアスカはその姿に見惚れ、言葉が出ない。
ブルーノが数分間飛び回った後、ジェラルドが口笛を吹く。すると、ブルーノは高度を下げながらステージ上にいるジェラルドの隣へゆっくりと着地した。
ジェラルドは観客席に向かって一礼し、自分たちの演目が終わったことを伝える。
観客席からは再び拍手が起こり、徐々に熱気が増してきた。
「皆様、お気に召していただけましたでしょうか……続いて、当サーカス一番のエンターテイナー! ペインティング・ジョーとその相棒ドローモンキーのコンラストです!!」
次の演目の紹介をしたジェラルドは、ブルーノを引き連れステージ奥の通路へと消えていく。
彼と入れ替わりで、今度はピエロのような恰好をした小太りの男が現れた。
「ど~もぉ~! ジェラルド先輩に紹介されたペインティング・ジョーだよ~ん!!」
じっとしていられないのか、常にリズムを取っているように小刻みに手や足を動かして落ち着かないでいる。
クルクルと巻かれた真っ赤な髪に白塗りの顔。丸く大きい取り外し可能の真っ赤な鼻を付けており、眼元には左右それぞれに星とひし形のカラフルなペイントをしている。口元も赤く塗られており、常ににこやかな笑みを崩さない。衣装は少し大きめで、赤地に白の水玉模様になっていた。
「今夜は皆の思い出に残るような素敵なショーにするからね~!! カモ~ン、コンラスト!!」
ペインティング・ジョーがその名を呼ぶと、
「キッキィー!!」
奏多の真上から鳴き声がした。と、同時にフサフサとした何かが多の肩の上に落ちてくる。
「うわっと!!」
気を抜いていた奏多は驚きのあまり落ちてきた何かを振り払おうとしたが、落ちてきた何かの方から奏多の肩の上を離れていった。
ソレは観客一人一人の頭の上を渡って移動し、ペインティング・ジョーの肩に留まった。
奏多の上に落ちてきたものの正体は、小さな体に長い尻尾の猿のような生き物。全身が赤や黄、緑や青と奇抜な色の毛で覆われており、尻尾の先は白くフワフワとしている。
「ずっと真上にいたのかよ、あの猿……。人の肩に乗っかりやがって……」
「これもパフォーマンスの一つでしょ。観客を巻き込んだ方が盛り上がりやすいし……。それにしてもあの猿、見たことないわね。この世界特有の生き物かしら……」
「俺もあんな色の猿、見たことはないな。なんか尻尾が絵筆みたいにフサフサしてたけど」
落ちてきた時にチラリと見えた尻尾を思い出す。カラフルな体の方に目がいきがちになるが、奇抜な見た目と対照的に真っ白な尻尾が気になった奏多。これから行うパフォーマンスと関係があるのではないかと予想する。
ペインティング・ジョーは自分の相棒が戻ってきたことを確認すると、観客に向かってポーズをとる。
「僕らが見せるのはとぉ~ってもカラフルなものだよぉ~!! コンラスト準備はいいかい?」
肩に乗ったドローモンキーのコンラストに尋ねると、それに応えるかのように元気な返事をする。
「ウッキィ!!」
「それじゃいくよぉ……そぉれ!!」
肩に乗ったコンラストを掴むと、勢いよく空中へと放り投げた。放り投げられたコンラストはテントの真上から垂れ下がっていたロープに起用に尻尾を巻きつけて落ちないようにする。
それを見届けたペインティング・ジョー。今度は何もなくなったはずの手から赤と青色の2つボールをポンッと出現させた。
(――!!)
驚いた奏多。手品か何かと思うがその仕組みが分からない。
ペインティング・ジョーは出現させた赤と青のボールをジャグリングし始めた。すると、ジャグリングしているうちに、赤と青のボールから黄、緑、ピンク、水色、白……と徐々に分身していくように様々な色のボールを増やしていく。
色のついたボールが十個程になったところでジャグリングをやめ、赤のを上空にいるコンラストに向かって投げる。
観客が見守る中、コンラストは尻尾で掴んでいたロープを手に持ち替えると、投げられた赤色のボールに向かって自身の尻尾の先をぶつけた。赤色ボールは跳ね返ることなく水風船が割れる様にボールが割れ、赤色の液体をまき散らす。白くフサフサとしていた尻尾の先は赤い液体で塗れてしまったが、コンラストは気にしていないようだ。
コンラストは赤色の液体が付いてしまった長い尻尾を起用に使い、空中に絵を描き始めた。絵は消えることなく宙に浮いている。
「はっえっ? 空中に絵が浮かんでんぞ!?」
今起きていることの仕組みが理解できず、アスカに解説を求める奏多。
アスカはペインティング・ジョーの持っているボールに注目しながら答える。
「それは魔法で作られた特殊なカラーボールの所為ね。文字や絵を宙に浮かす魔法があるんだけどそれを応用したものかしら」
「な、なるほど……」
納得した奏多は再びパフォーマンスに集中する。魔法に慣れていない奏多は、目の前で起きていることが魔法によって引き起こされているという思考になかなか辿りつかないのだ。
そうしている間にも、ペインティング・ジョーが色のついたボールを一つずつ投げては、コンラストが尻尾にボールをぶつけ、色を変えて絵を描いていく。
全てのボールが無くなったところで、空中には巨大な一枚の絵が完成した。
綺麗なオーロラの夜空と鏡のように反射した湖が描かれたそれは、一度見たら決して忘れられない程に幻想的で美しい風景画であった。
絵が完成すると、掴んでいたロープを離してペインティング・ジョーの肩に舞い戻ったコンラスト。
ペインティング・ジョーと肩に乗ったコンラストが深々と一礼すると、盛大とはいかないまでも観客の控えめな拍手が送られる。中にはまだ絵の魅了されたまま戻ってこない観客もいた。
「動物アーティストって感じ?」
「尻尾で器用に描くのね……あの猿が集団で絵を描いているところとか見てみたいものだわ」
二人も絵の魅力に惹き込まれながらも、パフォーマンスを終えた彼らに対して拍手を送る。
宙に浮かんでいた美しい絵は時間と共に薄くなり、やがて消えてしまった。
切ない気持ちになりながらも美しかった絵の余韻に浸りながら、ショーは次の演目へと移ろうとしていた。
「むふっふふ~♪ 僕たちの演出はここまで! 次は相棒を持たないエリート猫!! その名もシャルレット!!」
またも、入れ替わりで登場したのは二足歩行の黒猫。腰にダガーベルトを巻き、数本のダガーを装備している。だが、履いているのは長靴でなくブーツでもない……サンダルである。
「……ニャウラ」
渋い雰囲気を出しながら格好つける黒猫のシャルレット。サンダルで雰囲気が台無しである。
観客たちもどういう反応をしていいか分からないのか、ざわざわとしている。
奏多も観客たちと同様でどういう反応をしていいか分からず、軽く頭を抱えた。
「…………俺はここで『なんで長靴じゃないんだよっ』ってツッコミを入れた方がいいのか……あいつカッコつけているけど履いてるのサンダルだからな。ダサいからな」
「どう見ても二足歩行の猫にサンダル履かせただけじゃないの? サンダル取ったら普通の猫じゃない?」
「いや、二足歩行する時点で普通の猫ではない……けど……」
前二つのパフォーマンスが凄かった分たった一匹で、しかもサンダルなんか履いて大丈夫かと心配になる奏多。なんで、ここにきて登場してしまったのかと疑問に思う。
「ニャイーン!!」
シャルレットが合図すると、空中に五つのバルーンが出現した。それらは意思を持ったかのように自由に動き回りながら、一か所に留まってくれない。
シャルレットは腰に装備したダガーを抜くと、
「ニャッニャッニャッニャッ」
狙いを定めながら的確にバルーンに当てていく。
最後に残ったバルーンがステージ中央、シャルレットの真上に来ると、
「ニャッ」
最後のバルーンも外さずにダガーを当てた。バルーンにダガーが当たり、割れた瞬間、中から大量の花束が会場に降り注いだ。
「……ニャッ」
決めのポーズをとるシャルレット。だが、サンダルである。それに対して観客たちの反応は、
「「「可愛い~」」」
ショーの内容よりも、シャルレットの見た目に惚れたようであった。
「「……どこが(だ)よ」」
観客たちの反応に共感できずに声を合わせながら突っ込む二人。
短いながらも、シャルレットの演目は終わりを迎えた。
◇
その後もダンスを披露をする二頭ゴリラや、サーカスの団員が魔法でいくつかの火の玉を作った後、それを輪のようにして羽の生えたライオンに潜らせるなど様々なパフォーマンスが行われショーは益々盛り上がりを見せる。
アスカと奏多もそれなりに楽しんでは会場と一体となって拍手を送ったり感嘆の声を挙げたりしていた。
――そしてショーもいよいよ大詰め。すると、団長のシュバイン・モジールがステージの中央に現れた。
「皆さん、楽しんでいただけていますでしょうか? 盛り上がりも最高潮に達したところで今夜のメインをご紹介いたしましょう……きっと皆様のお眼鏡にかなうものかと思います……では登場していただきましょう!! 『フェアリュクットヴォルフ』の登場でっす!!」
「「「わああああぁぁぁぁ!!!!」」」
「やっとお出ましか。長かったな」
「最後の最後まで引っ張っておいてショボかったらどうするのかしらね」
「さすがにそれはないんじゃないか。だってこの公演、何度もやってるんだろ?」
「それもそうね」
ステージ奥から団員らしき人物が箱のようなものを運んできた。よく見ると檻のようである。檻の中には銀色の毛を身に纏った小さな動物がいた。「グルルルルゥ……」と低い唸り声を出しながら周りを警戒しているようだ。
「……なんだ? まだ子供じゃないのか?」
「しかも、檻に入れられているわよ……」
「しかし、あの輝かしい銀色の毛並!! 今までに見たことが無い!!」
「迫力はなくても、見た目は美しいわね」
「それにあの海色の瞳。吸い込まれそうな程の深い青!!」
檻に閉じ込められた動物に対して、観客たちがざわつき始める。
奏多はよく見ようと少しだけ前に身を乗り出すと、檻の中の動物が奏多の方を向いた。
尖った鼻先に鋭い牙、ピンと立った耳と犬のようだが体勢が低いそれは、子どもの狼のようだった。美しい銀色の毛並に深い青の瞳がどうやら観客たちの心をつかんだようである。
「なるほど、ヴォルフって狼ってことだったのかぁ、カッケーな。でも、まだ子ども……アスカ?」
「……」
奏多はアスカの方を見るが、彼女は黙ったまま檻に閉じ込められたフェアリュクットヴォルフを一点に見つめている。周りの風景も見えていなければ、声も聞こえていないようだ。
「――アスカ?」
「……違う」
「は?」
「私はアレをどこかで……」
「おい、何を言って――」
先を言おうとした奏多だが、団長の演説に遮られてしまう。
「いやぁ、皆様!! お気に召していただけましたかな? なにぶんまだ新入りなものでして……こういう大勢の人の前に晒すのは初めてなのです。何卒大目に見てやってください……」
団員が運んできたフェアリュクットヴォルフが入れられた檻に近づきながら説明するシュバイン。
「見ての通り、これは『フェアリュクットヴォルフ』の子ども。我がサーカスに入ってまだ間もないので少々緊張しているようです、ハハッ」
緊張というよりも警戒心むき出しのフェアリュクットヴォルフだが、観客は気にしていない様子。
団長はさらにフェアリュクットヴォルフに関する説明を続ける。
「この『フェアリュクットヴォルフ』の特徴は青の瞳と、何といってもこの美しい銀色の毛並!! 一瞬で人々の心を虜にしてしまうこの毛並はあらゆる災いから身を守ると言われています!! 雨で濡れることもなければ、炎によって燃やされることもない!! 体長は成長すれば四~五メートルとかなり大きく、信頼関係が築ければ背中にも乗れるそうで。ただ、それは大人の『フェアリュクットヴォルフ』の話。しかし、この子はまだ子ども。もう少し時間が経てば、それはそれは優美な姿を皆様にお見せできることでしょう!!」
テレビショッピングの販売員さながらの話し方をするシュバイン。
「しかもこの銀色の毛並、ある条件を満たせば太陽の光にも勝るほど美しい金色に光り輝くと言い伝えられております!!」
「「「「おおおおぉぉぉぉ」」」」
このやり取りも奏多にはテレビショッピングのように見えてしかたがない。
「さすがに太陽に勝るっていうのは誇張しすぎだと思うけど」
「……」
「アスカ、さっきからどうしたんだよ? あの狼が出てきてから変だぞ」
様子のおかしいアスカを心配する奏多だが、次にアスカが発する言葉に衝撃を受ける。
「……私、あの狼をどこかで見たことあるわ」
「……はぁ?」
意味が分からずに首をかしげる奏多。
「だってお前この世界初めてだろ? どこかで似たのを見かけただけじゃないのか? 俺がいた世界にも狼くらいはいたし」
「でも、あの海のような深い青色の瞳、何より銀色の毛並、そして金色に輝くとされる伝説……間違いない」
「間違いないって……じゃあ、この世界に来たこと――」
「ないわ。『DR』にもこの世界の情報提供もなかったってことは今までココを訪れた旅人はいない。でも、探せばあの狼の情報はあるはずよ」
「わっけわかんね!! この世界に一匹しかいないんだろアレ!! でもアスカはこの世界に来たことないなら一体なんな――!!」
はっきりしないアスカに今の状況を忘れて声を荒げる奏多だったが、
「奏多!! 声、声!!」
と、アスカに言われてハッとする。だが、時すでに遅かったようだ。
「お客様、どうかなさいましたか?」
――恐る恐る周りを見る奏多。ステージ中央にいた団長のシュバインの視線が奏多の方を向いている。シュバインだけでない。この場にいる人々の視線が奏多の方へと集中していた。
(まずい……)
そう思いながら、この場を切り抜けようと慌てて言い訳を考える奏多。思考をフル回転させ、どうにか言葉を絞り出す。
「い、いやぁ……すげぇ珍しいんだなぁって……昼間のビラにもあったけど、そいつ世界に一匹しかいないんだろ!?」
言葉につっかえながらも檻に閉じ込められた『フェアリュクットヴォルフ』を指差しながら答える。
少し間が空いたが、シュバインが「そうそう!」といいながら再び説明を続けた。
「お客様の言う通りですとも!! 実はこの『フェアリュクットヴォルフ』、元は個体数が少なく幻の狼とまで言われていたのですが、先日群れで大量に亡くなっているのが見つかり生きていたのはこの子どものみ……今やこの世界にはたった一匹で……」
シュバインが話し始めたことにより、奏多に向けられていた観客たちの視線がシュバインの方へと向けられる。
ほっとした奏多は一息つきながら、激しく動く鼓動を鎮めようとする。
「ふぅ、何とかごまかせ――」
「嘘ね」
奏多が言い終わる前に、アスカが言葉をかぶせる。
「ん? 何が?」
「あの団長の言っていること。個体数が少ないのは本当だけど、群れで大量に死んでいたっていうのはきっと嘘。この世界に一匹しかいないっていうのは本当」
またしても訳の分からないことを言っているアスカ。彼女の中では何かが繋がっているようだが、奏多にはアスカの考えが読めないでいる。今度は声を荒げぬように声を抑えながら彼女を追及する。
「アスカが何言っているのか全く分からねぇ。結論から言ってくれ、結論から」
「教えはしないけどヒントはあげるわ。一つ、私はあの狼を見たことがあるけどこの世界には来たことが無い。二つ、あの団長が言う『この世界にたった一匹しか存在しない』という言葉」
「ヒントが少ねぇ!! 答えを言った方が早くない!?」
「……それはこのショーが終わって用事が済んでからね」
そういうと、再びステージの方に集中してしまったアスカ。こうなってしまうと、話は聞けない。
答えが出ずに訳が分からないまま放置され、モヤモヤとする奏多。
「なんなんだよ……一体」
とりあえず、アスカが出したヒントは頭の片隅に置いて奏多もショーの続きを見ることにした。
ここまで読んでくださっている方々、ありがとうございます。遅くなってしまって申し訳ないです! そして予告すると次の投稿も遅れます。おそらく来週の金曜日か土曜日辺りです。
サーカスショーをもっと書きたかったのですが一話に収めました。次はショーが終わったあと辺りからとなります。
遅れてしまい本当にすみません。無理しないように週2投稿から週1投稿にしようか検討中。代わりに内容を増やそうかなと。試行錯誤しながら落ち着いた形にしたいと思います。
次の話も早く投稿できるように頑張ります。




