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異界の旅人 ~己が為に彼らは旅をする~  作者: 鈴風飛鳥
第2章 「仲間」  ~そして共に歩むもの~
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第18話 「交渉」

 聞き込みをしながら質屋へやってきたアスカと奏多。

 大聖堂前広場から一旦離れ、国を散策しながら奏多たちは質屋を目指した。周りの家はカラフルな塗装が施されているものが多く、赤や青、黄色や緑の外観、中には赤と紫の屋根の家もあった。

 途中、少し聞き込みをしながら歩いた二人は、ある程度この国の事情を把握できた。


 二人がいる国は『ファルーレ』と呼ばれる国で、国の一番北にある時計塔はこの世界で最も高い時計塔ということで有名らしい。二人がいた広場の大聖堂はこの国で一番古く、時計塔に並んでこの国を代表する建物だと、先ほどおしゃべり好きな奥様が話してくれた。


 聞き込みをしている中でアスカはあることに気づく。


 「――あのぉ、ちょっとお話いいですか? この国の事で聞きたいことが……――」


 なんと、奏多も積極的に自分から聞き込みをしていたのだ。どうやら前の世界での反省を活かせているらしい。それを見たアスカは口だけフッと軽く笑った。


 二人で聞き集めた情報を整理しながらアスカは『DR』にこの国の情報を入力していった。彼女は情報を入力しながら、奏多が聞き込み調査に積極的だったのをからかってみる。


 「今回は積極的ね。前まではなーんにも興味を示さなかったのに。それとも魔力がある世界だから張り切っているだけ?」

 「うるっせ、それだけじゃねーよ……情報収集しないと前の世界の二の舞、だろ?」


 少しは成長したんだぜ、と誇らしげに彼は笑う。前の世界で自分がどうすればよかったかを学んだらしい奏多。


 そう、彼は無知だった。何も知らない世界で何の情報もなく行動することがどれだけ危険か。知っていれば自分の生存率は上がる。無人島に一人だけ放り出された時もナイフ一本あるだけで生存率が違う様に、異界を旅する上での情報は最大の武器となる。だから旅人達は情報共有を怠らないのだ。


 「そうよ。自分で見聞きして体験して学んだことが本当の事よ。沢山ある情報の中から自分が必要と思ったものを学ぶの」


 奏多の成長が少しだけ嬉しいアスカ。だが、褒めたら調子に乗りそうなのであえて褒めなかった。


 「前の世界じゃ話を聞こうとしても逃げられたりしたからな~一般人だと聞きやすいんだが」

 「人によって聞き方を変えるの。声の抑揚、仕草、顔の表情や角度、目線……どれか一つが違うだけで相手に与える印象や雰囲気が変わってくる。普通の人ならともかく、警戒している人に対して笑顔を作っても相手に不審がられるだけよ」

 「……まさか『ラパーシ』の時、そこまで見ていたのかよ」

 「奏多の聞き込みの仕方なんて見ていなかったけど、『ラパーシ』のあの辺で聞き込みをするって言っても相当人が限られるでしょ」


 自分の行動が読まれていたようで複雑な気持ちになった奏多。少しだけアスカとの距離を取りながら、


 「うっわ、見ていないのに当たってるのがなんか腹立つ」

 「奏多の行動が単純っていうのもあるけどね」


 言い返したかった奏多だが、ここはぐっと堪えて自分を落ち着かせた。アスカはその様子がおかしくてつい笑いそうになったが、彼が真剣なのを見てそれ以上はからかわなかった。


 情報の整理を終えると、道行く人に質屋の場所を聞いたところで二人は質屋前までやってきていた。

 先ほどアスカは異界の交渉術と言っていたがどういうことなのだろうと、奏多は黙って見守ることにした。店入ると、


 「いらっしゃい!!」


 店の店主らしき人物が勢いよく駆け寄ってくる。


 (やけに明るいおっさんだな……)


 店主は先ほど見たテールコートを着た白髭の男より少しだけ痩せていると言った感じの男で、体型はほぼ似ている。よく見ると黒色の腰エプロンをしていたが、体型が横長すぎて奏多にはふんどし(・・・・)にしか見えなかった。


 (ふんどし……エプロンっ……っ)


 ふんどしを思い浮かべた瞬間に奏多は吹き出しそうになったが、それを察したアスカがまたしても肘で彼の脇腹をど突く。


 「う゛っ」


 吹き出しそうになったのは収まったものの、二度目の肘打ちを喰らった奏多。脇腹をさするようにして黙り込む。今度喰らってもいいように身体にタオルでも巻きつけておこうかとそろそろ考え始めていた。

 そして何事もなかったかのように、アスカは店主と話を進める。


 「こんにちは。私たち先ほどこの国に着いたばかりで、換金をしたいんですけど」

 「どうぞどうぞ、売れるものはなんでも売って下さい!!」


 店主は奏多の様子に気づいておらず、ポケットから時計屋などが修理で使う片目のルーペと白い手袋を取り出す。


 「それではこちらをお売りしたいんですが、いくら位になりますか?」


 アスカは店の奥のカウンターまで行くと、異空間と繋がっているウエストポーチから何かの袋を取り出してカウンターの上に置いた。瞬間、重いような金属が擦れ合ったようなジャラッという音がする。

 店主は置かれた袋を開けると、次々と中身を取り出した。

 出てきたのはこの世界とは別の異界の金貨や銀貨や銅貨と言った硬貨、宝石、指輪、時計、宝石がついた金色のネックレス、そして淡い青色の鉱石のようなものだった。


 「……ほぉ、見事な金細工のネックレス……それにこの宝石……これはどこで?」


 店主は白い手袋をするとルーペ片手にアスカが持ってきたものをまじまじと鑑定し始める。今、鑑定しているのは宝石がついた金色のネックレスだが、角度を変えるたびに宝石の色が七色に変わる。


 「以前、別の国へ赴いた時に買ったものなのですが、私には不釣り合いかと思いまして」

 「ふーん……加えて魔鉱石の原石……」


 次に店主が手に取ったのは淡い青色の鉱石だ。それが噂の魔鉱石の原石らしいが、独特な青みに加えて少しだけ透き通っているように見える。大きさは店主の手のひらをはみ出るほど大きくズッシリとしている。

 一通り鑑定が終わった後、すまし顔の店主は手袋を外し、ルーペを拭きながら鑑定結果を伝える。


 「ま、この量だと精々6000ユールってとこ」

 「12000ユール」


 店主が結果を告げ終わる前に、アスカが話に割って入る。


 「……は?」


 話を遮られた店主は眉をピクッと動かすとルーペを拭くのをやめ、アスカの方を見た。


 アスカの方はというと――笑っている。それも飛び切り悪そうな笑みだ。それを見た奏多は少しだけ身を引く。店主の方も彼女の謎の威圧感にたじたじになっているようだった。


 「それは純度の高い魔鉱石です。魔鉱石は純度が高ければ高いほど壊れにくく強力な魔武器が作れるし、その分値が張る。貴方もご存じ、ですよね?」

 「……」


 ペラペラと解説を始めたアスカ。店主に確認するように目をまっすぐ見て言うが、店主はアスカと視線を合わせずに黙ったままだ。


 「しかもその大きさのものだと、本来なら18000ユールはくだらないはずです。それを12000ユールに。悪くないでしょう?」

 「……7000ユール」

 「加えてその金細工のネックレス。一緒に付いている宝石は魔除けとして旅人の間ではとても貴重とされていて魔鉱石と合わせても20000ユール以上は……」

 「8500ユール!!」

 「……ここは妥協して9500ユールにしておきましょう?」


 アスカは最後、店主の目の前まで来て言うと店主は軽く舌打ちをする。


 「ちっ、わかったよ。これだから旅人は……」

 「あんまり旅人を舐めない方がいいですよ? 旅人の中には怖ーい先輩もいらっしゃるんですから」


 アスカの怖い笑みとは対照的に先ほどの店主の明るい笑みはどこへやら。カウンター傍の椅子に腰を掛けると足を組み、カウンターに肘をつきながらだらけ始める。こちらがこの店主の本性らしく、今までは営業スマイルのようだった。


 「へいへい、肝に銘じておくよったく。ほれ10000ユールだ。持ってけ泥棒」

 「おっ、おじさんわかってるねぇ……毎度あり!!」


 店主はカウンターの上にあったレジから、アスカが交渉した額よりも少しだけ上乗せされた5000ユール札を二枚、計10000ユールを取り出し、彼女に渡す。

 アスカは先ほどの怖い笑みとはまた違った嬉しそうな笑顔で店主から10000ユールを受け取った。


 アスカと奏多は店主に頭を下げると店を出ていく。店に残された店主は買い取った品を見つめながら、


 「……ったく、とんだ旅人だなありゃあ……」


 アスカの悪そうな笑みを思い出し、一人寂しく敗北感を味わった気分になった。





 ◇


 「話が分かる店主でよかったわ~。他じゃこんなの滅多にないものね」


 アスカは歩きながら受け取った10000ユールを満足そうに見つめていた。

 奏多は隣からその様子を見ながら、アスカと店主のやり取りを思い出す。


 「最初は半額以下で買い取ろうとしていたんだろ、あのおっさん。意外とせこいな……それにしても6000ユールから10000ユールとはまたすげぇ。12000ユールまでにはならなかったけど」


 もうちょっと待っていれば12000ユールまでいったかもしれないのに、と残念がる奏多だが、


 「元々私の狙いは9500ユールよ」


 アスカは狙い通りといった表情をしていた。


 「えっ、でも最初に12000ユールって……」


 彼女の最初の発言を思い出す奏多。元値が18000ユールと言った後12000ユールで交渉をし、さらに合計が20000ユール以上と言ったところで、一気に9500ユールにまで引き下げていた。


 「人は最初に大きなお願いをされると断りやすいわよね?」

 「はい?」


 突然話題が変わり、聞き返す奏多。

 アスカはそのまま続けて話す。


 「私がいきなり奏多に何十万もする宝石を買ってくださいって言ったらどうする?」

 「アスカが宝石を欲しがるなんて想像できないけど……無理って言うだろうな。」

 「じゃあ、続けざまに安い宝石でいいから買ってって言ったらどうする?」

 「うーん、最初のよりは買おうか検討するかもな。どちらにせよ俺は金を持っていないから買わないがな」

 「それと同じよ。人は最初に頼みごとを断ると次の頼みごとを聞きやすくなる。最初に高い額を設定しておいて後から安い値段を出したのも作戦のうち。あらかじめ18000ユールの元値をいった後、私は最初にあえて狙いより高めの12000ユールと提示した。次に店主がギリギリまで値段を上げたのを見計らって10000ユール達しない9500ユールを提示した。最初に高く買い取ってくれと頼まれたものが結果的に少ない出費で向こうは手に入るんだもの。向こうだって断りづらいはずよ。10000ユールにしてくれたのはサービスだろうけど。ただし、この方法は同じ相手に何度も使える手ではないから注意が必要ね」


 旅をしている間に身に着けたのであろう交渉術に感心させられた奏多。奏多がいた世界で値切り交渉術講座でも開いたらいいのではという考えが頭に浮かぶ。世の奥様方が欲しがりそうな交渉スキルである。


 「へぇ、そこまで狙っていたのか」

 「他にも小さな頼みごとから段々大きな頼みごとにしていく方法もあるけど、使い方は時と場合によるわね」

 「でもこう言っちゃなんだけど、はたから見るとアスカがすげぇ悪そうに見えたぞ」


 店主とアスカの交渉バトルを外側から見ていた奏多にとってどちらが悪役だか分からない程黒い戦いだったのは間違いない。交渉の闇は深いと感じさせられた奏多。


 「これも旅をしていくのに必要な事よ。それに、私が旅人と気づきながらあんな安い値をつけるんだからお相子よ、おあいこ(・・・・)


 アスカは持っていた10000ユールを懐にしまい、奏多より一歩先に出ると、


 「さて、金が入ったことだし次行ってみましょうか」


 彼の手を掴み次の目的地へと誘う。


 「何処に?」

 「奏多が行きたいって言っていた魔武器を売っている店に、ね。そこで奏多に合う魔武器を選びましょう」

 

 ここまで読んでくださっている方々、ありがとうございます。

 アスカは今までの世界もこうやって交渉してきたんだと思うと腹ん中黒いですね。旅をする上で節約は大事なので仕方ないのですが。


 次の投稿も間が空きます。次の話も早く投稿できるように頑張ります。

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