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異界の旅人 ~己が為に彼らは旅をする~  作者: 鈴風飛鳥
第2章 「仲間」  ~そして共に歩むもの~
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第17話 「サーカス一座」

 新たな異界にやってきた奏多たち。そこで出会ったのは――?


 第2章の幕開けです!


 追記:新たなブクマ登録ありがとうございました。第2章も引き続きお付き合いいただけるように頑張ります。

 追記2:脱字を訂正しました。内容は変わらないのですでに読んでしまわれた方は読み直さなくても大丈夫です。

追記3:誤字訂正  国名【ファルーレ】○ 【ファルファーレ】×

 青く澄み渡った空に、控えめな太陽の光。湿気も少なく心地よい風が国の中を吹き抜ける。すると、ゴーンと国中に響き渡る鐘の音が聞こえてきた。国の一番北に位置する時計塔の鐘の音だ。鐘の音に驚いたハトや鳥たちが一斉に空に飛び立ち、黒い点となりながら青い空を飛び回っている。時計塔はこの国を代表する建物の一つで、国のどの建物よりも高く、国のどこからでもその姿を捉えることができた。

 今は昼時。規則正しいリズムで鳴っていた鐘の音は水の波紋が広がるように最初は大きく、時間が経つにつれてだんだん小さくなっていく。約一分間鳴り続けた後も耳の奥では微かにキーンという音がまだ残っている。


 鐘が鳴りやんだ直後、国の中央に位置する大聖堂前の広場に二人の旅人が降り立った。


 「新しい異界にとうちゃーく!」


 奏多は背伸びをしながら大きく息を吸う。湿ってもいなければ渇いてもいない空気が肺いっぱいに流れ込んでくると、それを限界まで吐き出す。


 「今度は前の世界の二の舞にならないようにね」


 奏多に一言釘を刺しながらアスカも身体が凝ったのか肩や首回りをほぐしていた。

 

 「わかってる。さすがに自分でも反省してる。だから今回は気を引き締めるようにするさ。それより、この世界には魔力があるのか?」

 「さっそくね……う~んと」


 アスカは目をつむって神経を集中させると、自分の身体に変化がないかどうか調べる。自分の身体の奥底にある魔力の器。空気と同じで自然と取り込まれるような感覚があればこの世界に魔力はある。


 「――奏多くんに嬉しいお知らせです。この世界、魔力があります」

 「うおっしゃー!! さすが人力魔力探知機!!」

 「そんなこと言ってると殴るわよあんた」


 魔力があると分かりはしゃぐ奏多。先ほどの真剣な雰囲気はどこへやら。

 彼にこき使われているようであまりいい気分でないアスカは、今度同じことを言ったら本気で殴ろうと心に決めた。


 「はぁ……でも、これでしばらくテュフォンのところに戻らなくても大丈夫そうね……」


 一人安堵するアスカに対し、奏多は何やら周りをキョロキョロと見回している。何かを探しているようだ。しかし、周りにこれと言って珍しいものは見当たらない。奏多たちが立っている広場の目の前には立派な大聖堂が建っているが彼はそれに目もくれず、歩いている人や空をやたらと気にしていた。すると、


 「でも、箒に乗って空飛ぶ魔女とか、そこら辺で魔法使っている奴いねぇぞ?」


 奏多がいた世界なら痛い子発言になってしまうであろうセリフを彼は平気で口にする。

 周りを見回していたのは魔法を使っている人を探していたらしい。


 「……奏多あんた、前の世界でも思っていたけど夢見すぎ。いくら魔力がある世界で魔法を使えるからってしょっちゅう使う訳でもないのよ?」


 彼のそのファンタジーな発想はどこからくるのかと呆れ気味のアスカ。

 奏多は漫画やゲーム、アニメや映画で培った知識が異界でも通用すると思っていたが全くの見当違いだったようで、


 「炎や水の魔法が使えたとしてそれを生業にして働いているならともかく、日常で使う場面なんてそうそう無いわよ」


 アスカが正論を言う。


 「あー……確かに。戦って使うならともかく日常ってなると……使わないわな」


 納得する奏多。彼が今まで見てきたものは全て戦闘シーンが多いものだった。それに感化されてしまったのだろう。常識的に考えて日常で魔法を使いまくっていたら、それこそ魔法世界大戦が勃発する世界になるはずである。


 「そういうこと。そもそも魔力を持っていても普段使わない人の方が多いしね。でも、それだけここは平和ってこと。のんびりできそうだわ」

 「なぁ、アスカ……その、俺も魔法を……」


 前の世界で厄介ごとを片づけたアスカ。今回はその分ゆっくりしようと考えていた。

 そこへ奏多は彼女の顔色を窺う様に恐る恐る尋ねる。


 「あぁ、そうだったわね。仕方ないから、約束通り魔武器を使った魔法実験でもしましょう。私も気になるし、いざという時に奏多が役に立つか立たないか早めに見ておかなきゃね」

 「なんかイラッと来る言い方だけど……いいか。じゃあ、さっそく魔武器を売っている店に……」


 と、その時だった。二人がいる広場の何処からかファンファーレの音と共に愉快な音楽が聞こえてきた。ラッパやらシンバルやらドラムやらがリズムを奏でながら徐々に二人に、正確には広場に向かって近づいてくる。


 「なんだ、アレ?」


 奏多は音楽が聞こえる方向に視線を向けた。アスカも奏多と同じ方向を向く。すると、広場の入り口にあるアーチを潜り抜けてパレードのような騒がしい団体がやってきた。先ほどまで静かだった広場も賑やかになる。


 彼らはキラキラとラメが入った華やかな衣装を身に纏い、次々とアクロバティックな演技を決めている。彼らの演技に広場を歩いていた人々も足を止め、凝視するほど見事なものだった。

 ある者はバク天をして周りを驚かせ、ある者は魅惑的なダンスで注目を集めて、観ている人々を魅了していた。中には魔法を使っているのか手から氷の結晶を出したり、複数の光の球を出してカラフルに点滅させたりしている者もいた。

 奏多とアスカも周りと同じように彼らに注目し、華麗に技が決まった時には拍手を送る。


 「見事なものね」


 アスカは興味津々で彼らの演技に熱中している。その顔は子供が何かに熱中するような無邪気な顔で、いつもの大人びた表情とは違う顔だった。奏多はチラッと彼女の方を見る。


 (アスカもこんな楽しそうな顔するんだな……)


 まだほんの数日しか一緒にいないが、ここにきて初めて見るアスカの楽しげな表情に奏多はパレードの事など忘れ、思わず見とれてしまう。だが、アスカはそれに気づかない。

そこへ、華やかなパレードの団体の後に続いて音楽隊、そして数十頭の象や馬が何やら大きなシートで覆われた荷物が乗った荷車を牽いてやってきた。


 「さぁさぁ、今夜は楽しいサーカスのショーがあるよ!! よっていらっしゃい見てらっしゃい!!」 


 その上では、黒いシルクハットに赤い蝶ネクタイ、肩にフリジンがついている赤いテールコートを着たぽっちゃり体型の白髭を生やした人物が宣伝をしながらビラをばら撒いている。広場は辺り一面ビラだらけとなった。

 

 「サーカス? サーカスってあのピエロとかが空中ブランコや綱渡り、ライオンの火の輪くぐりとかするやつかな?」

 「へぇ、奏多はサーカスってやつを知ってるんだ? 私は今まで見たこともないわ」

 「アスカは娯楽とか興味なさそうだもんな。と言っても、俺もテレビやネットの知識だけど」


 魔法のある世界なら普通のサーカス芸ではないだろうが、少なくとも奏多の中ではある程度のイメージがあった。大きなテントや舞台の上で次々とアピールをするサーカスの業師たち。スポットライトの光を一身に浴びて人々を驚きと感動へと誘うエンターテイナー。


 (ってことは、あの馬鹿でかい荷物はサーカスで使うテントや小道具……といったころか)


 考えながら奏多は運ばれてきたに荷車を横目で見る。

 広場の中央に置かれたそれらは、サーカスの団員らしき人たちが荷物に張られたロープを解きながらシートを外している。おそらくこの広場でショーが行われるのであろう。


 すると、先ほどまで荷車の上でビラをまいていたぽっちゃり体型の白髭の男が二人のもとへと近づいてきた。

 間近で見るその男はシルクハットで誤魔化しているだろう低身長に、首を絞めるというよりは絞められているという表現の方が近いキツそうな蝶ネクタイ、テールコートの中の服のボタンは今にも弾けそうなほど腹が前に突き出ていた。


 「やぁやぁ、見て下さってありがとうございます! 素敵なカップルさんも今夜はぜひここで行われるサーカスを見に来てください!! では」


 胡散臭くも見える笑みを浮かべながら、ばら撒いていたビラと同じものを二人に渡して素早く去っていく。去り際に茶化された二人は口を揃えて、


 「「カップルじゃありません!!」」


 と強く訴えたが、白髭のぽっちゃり男はもう他の客への宣伝に行ってしまい聞こえていないようだった。


 「なんなんだ、あの髭おやじは……あとであの白髭根っこから引っこ抜いてやるからな」

 

 忌々しげに白髭の男が去っていった方を見ながら一人愚痴をこぼす奏多に対し、アスカは気にせず手渡されたビラに目を落としながら書かれている内容を読み上げる。


 「何々? 『バイエルサーカス団による愉快な動物ショー!! 今夜の目玉は世界に一匹しかいないフェアリュクットヴォルフをお披露目!! 場所はファルーレの大聖堂前中央広場。時間は夕方五時から。入場料は大人一人1000ユール』だって」


 奏多も配られたビラを見る。アスカが読み上げた内容と同じことが書かれており、端の方にはサーカス団と思われる可愛らしい絵と広場までの道のりが示された地図が描かれていた。どうやら先ほどのパレードは余興というやつで宣伝だったようだ。


 今夜行われるサーカスは動物たちがメインらしく、中でも赤い大文字で中央に書かれている『フェアリュクットヴォルフ』が今夜の主役ということを表していた。場所に書かれている『ファルーレ』というのは奏多たちがいる国の名前と思われ、場所も二人が立っているこの大聖堂前広場という訳だ。ユールというのはこの国の通貨と思われる。


 「なんだ? フェアリュクットヴォルフって?」


 奏多は今夜の主役であるフェアリュクットヴォルフについてアスカに尋ねた。少なくとも奏多がいた世界では聞き覚えのない動物名だ。が、異界を旅するアスカでもこの名前に聞き覚えはないらしく、首を横に振る。


 「知らないわよ。異界によっては私たちが認知している動物の名前と別な名前が付けられていることがよくあるの。この前のテュフォンの時だってそうでしょ?」

 「やめてくれ、あれは忘れたい……」


 奏多はアスカの話を遮るが、テュフォンがいた世界の時の事を思い出してしまった。朝食に出された『ニャムギョブル』の尻尾――奏多がいた世界でいう『トカゲ』の尻尾を食べそうになったあの時の事だ。いくら住んでいる世界や文化が違うとはいえトカゲの尻尾を食べることに抵抗を示した奏多は、いくら勧められても決して口にすることはなかった。


 切られた後もウニョウニョと動いているトカゲの尻尾を思い出してしまった奏多は、胃から何か出そうな不快感に襲われ「うぇっぷ……」と思わず口を手で塞ぐ。

 アスカは隣で奏多の様子を不思議そうに見る。ちなみに彼女はトカゲの尻尾を普通に食べていたようだった。


 「それにしてもサーカスね……世界に一匹しかいない(・・・・・・・・・・)、ね……へぇ」


 サーカスの事が気になっている様子のアスカ。それは興味を持ったと言うよりは、何かを疑う様な感じに近い。


 「興味あるのか?」


 深呼吸をして気分が落ち着いた奏多はアスカの様子が気になって話しかけたが、アスカは何でもないと言った感じで話を変えながら持っていたビラをポケットに突っ込む。


 「ちょっと、ね。それより、この世界で買い物する予定なら先に換金しに行くけどどうする?」


 アスカの提案に目を輝かせながら、


 「お願いします!!」


 敬語で答える奏多。

 それを見ていたアスカは得意げな笑みを浮かべると、


 「それじゃ、異界の交渉術をお見せしましょうか」


 二人は今いる広場を後にし、この国にあるであろう質屋を目指して歩き始めた。


 ここまで読んでくださっている方々、ありがとうございます。日曜投稿と言いましたが一日前倒ししました。

 新たに始まった第2章。二人の旅はまだまだ続きますので、どうか見守ってやってください。


 次の投稿も間が空きます。少しだけお時間下さい。

 次の話も早く投稿できるように頑張ります。

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