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異界の旅人 ~己が為に彼らは旅をする~  作者: 鈴風飛鳥
第1章 「遭遇」 ~そして物語の幕が上がる~
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第13話 「初めての異界の旅3 『無関心』」

 港へとやってきた奏多たちは、異界調査のために市場の時と同じように聞き込みをしていくが……。


追記:セリフ等修正しました

 市場で骨董輸入品店の男店主から話を聞いた奏多たちは、国の東にあるという港を目指し歩き始めた。

市場を歩いている途中、何度か店の客引きの人に呼び止められそうになったが、金が無いと言うと、皆自分の仕事に戻っていってしまった。文無しに構っていられるほど暇ではないらしい。


 「こんだけ賑わってるんだから、スラム街があるなんてとても思えないんだけどなぁ」


 市場を歩きながら骨董輸入品店の男店主の話を思い出す奏多。市場の雰囲気を見た限り人々は明るく、何事もなく生活を送っているように見えた。


 「知ってて見て見ぬふりをしているんでしょ。自分が知らない、行ったことが無い、経験したことがないだけで、どの異界の国や町にも表の顔と裏の顔があるわ。むしろ、何もないほうが返って怖いわよ」

 「まぁ、俺がいた世界の発展途上国にもスラム街はあったしなぁ。でも、なんで貿易が始まってから悪化したんだろうな?」

 「……」


 何も言わないアスカ。何も言ってこない彼女に対し、奏多もそれ以上は追及しない。そこからしばらく二人の会話は途切れた。


 市場を東に向かって歩いた奏多たちは、しばらくすると市場の通りを抜けて大きな港に辿りついた。

 港には停泊中の漁船が横一列に並んでおり、すぐ傍の倉庫のような建物の中では漁師たちが威勢の良い声を張り上げながら魚市場を開いている。倉庫から離れた場所にいるアスカたちにもその声が聞こえてきた。


 そして、港のすぐそばにある海に、感嘆の声を漏らす奏多。


「おぉ……海はどこの世界も海なんだなぁ」


 奏多たちの目の前には何処までも続く広大な青い海が広がっており、海に反射した太陽の光が波で揺れながらキラキラと絶え間なく輝いている。その青く広大な海の上を、カモメや海鳥たちが餌となる魚を欲して飛び回る。ひんやりと冷たい風が、潮の香りと共に奏多たちのもとに運ばれてきた。


 すると、汽笛の音と共に水平線の遠くの方から、漁船とは比べ物にならないほどの大きな船が港に近づいてきているのが見えた。


 「でっけぇ船だな~。豪華客船ほどはありそうだ」


 遠くに見える船は奏多がいた世界のような船と酷似しており、何十トンもの鋼鉄の塊が海に浮いているといった感じだった。進行方向に向かって突出した先端は、海をかき分けながら港に向かっている。この世界は機械技術も発達しているらしい。


 「他の国から訪れている貿易船でしょ。そんなことより、さっきと同じように聞き込みをするけど、おとなしくしてなさいよ」

 「はいよ」


 先ほどの奏多の行動をたしなめるアスカに適当な返事を返す奏多。どうせ俺には関係ないしな、と無関心な様子でそっぽを向いた。


 二人は魚市場が開かれている倉庫へとやってきた。アスカたちが先ほどまでいた市場に負けないくらいの大勢の人で賑わっている。魚市場には大小様々な魚や貝、海産物などが多く売られており、威勢のいい漁師たちがあらん限りの声をあげて客寄せをしていた。


 アスカは、あまり客が寄ってきていない暇そうな漁師を見つけて声をかける。奏多はその様子を後ろから見守った。


 「お忙しいところ申し訳ありません。私たち、ついさっきこの辺りに来たばかりなんですけど、よかったら詳しい話を聞かせてもらえませんか?」

 「あぁ、いいよぉ。どうせこっちも今は暇なんだぁ」


 暇そうな人を選んだので当たり前なのだが、ありがとうございますと丁寧にお礼を言うアスカ。

 声をかけられた漁師は市場にいた骨董輸入品店の男店主とは違い、丸顔の優しそうなおじさんだった。頭にハチマキをし、防水エプロンに長靴、両腕にはゴム手袋を装備している。


 「この国では貿易が盛んに行われているのですか?」

 「あぁ、何十年か前から貿易船が来るようになってなぁ。それまではこの国は漁業が盛んだったんだぁ。だがぁ、年々漁に出る船も減っていっちまってなぁ。今じゃぁ、貿易と漁業じゃ6:4ってとこだなぁ」


 語尾を伸ばし気味の漁師のおじさんが気になった奏多だが、おじさんは何も気にする素振りも見せずに漁師たちの現状を語る。

 辺りを見ると、確かに市場と比べると客は多いが店数は少ないことが奏多たちから見てとれた。


 「そうだったんですか。大変ですね……。ちなみに、他国から輸入されたものはどうしているんですか?」


 アスカは漁師の話に共感の意を表しつつ、話を続ける。


 「この辺の奴らが買い取って市場で売ったりぃ、中には買い取った輸入品をさらに別なところで売ろうと出稼ぎに行ったりする奴もいるよぉ」

 「そうですか。……おじさん、最後に一つだけいいですか?」

 「最後と言わずぅ、いくらでもどうぞぉ」


 アスカは声を低くし、まっすぐと漁師の目を見つめると、


 「貿易船が来始めてから、この国で変わったこととかありましたか?」


 アスカの最後の質問に、漁師は一瞬だけピクリと眉が動かした。すると、顎に手を当てて唸りながら話を進める。


 「ん~、変わったことねぇ。特にはぁ……いやぁ、でもぉ、なんて言うか国の雰囲気が変わったかなぁ……なんか西辺りで怪しい奴も増えたっていうかぁ……」

 「雰囲気……怪しい奴……」


 骨董輸入品店の話の時と同じように、考える仕草をしながら黙り込むアスカ。


 「ありがとうございました。もう少しこの辺を歩いてみます」

 「おう。分からないことがあったらいつでも寄っといでぇ。じゃあなぁ」


 漁師はアスカたちに別れを告げると、自分の仕事に戻っていった。

 その後も、暇そうな漁師を探しては同じような質問を繰り返したが、最初に話を聞いた漁師以外はまともに答えてくれなかったり、話を逸らしたりするばかりであまり情報は得られなかったアスカたち。まるで、その事に関わるなと言われているような異様な雰囲気さえ感じられる。


 「もしかして、この世界でも俺の時のような『異界の問題』が起こってんのか?」


 これだけ入念に聞き込みをしているのだ。何かあるに違いないと思った奏多は、自分の時のような事態にこの国が陥っているのではないかと考え、思い切って聞いてみた。


 「いえ、異界が原因の問題は起きていないわ。ただ……この世界が(・・・・・)原因の問題(・・・・・)がこの国では起きているけどね」

 「はぁ? それって、どういう」


 『異界が原因の問題』は起きていないが、『この世界が原因の問題』が起きている。意味不明なことを言っているアスカに混乱する奏多だが、彼女は首を少し横に振る。すると、


 「まだ確証がないから言わないわ。……奏多」

 「ん?」

 「私は今から西の方に行ってくるわ。あんたは大人しく、市場の通りで待ってなさい」


 突然何をいいだすのかと驚く奏多。だが、彼女は至って真剣な表情で奏多の顔を見ていた。


 「何言ってんだよ!? さっき市場のおっさんに西は近寄らない方がいいって言われただろ!!」

 「西と言ってもその手前のエリアまでよ。さすがに中にまでは行かないわ」

 「だったら、俺も一緒に」

 「あんたが一緒に行っても何もできないわ。それに知りたいことだけ知ったら早めに戻るし」


 うっ、と言葉に詰まる奏多。仮にも男である奏多が、女のアスカに一緒に行っても何もできないと言われてしまい精神的ショックを受ける。だが、先ほどから異界の調査の手伝いすらせず何の役にも立っていなかったのは確かだった。悩んだ末に何も言い返せなくなってしまい、渋々アスカ言うことを聞くことにする。

 

 「……分かった。俺はそこら辺をぶらついてる。ただし、一時間で戻らなかったら探しに行くからな」

 「いいわよ。じゃあ、また後で」


 そう告げると、アスカは市場の通りに沿って西の方へ歩いて行ってしまう。一人取り残されてしまった奏多は、時間を潰そうと港周辺を当てもなく歩くことにした。


 一人になった奏多がしばらく港周辺をうろついていると、先ほど水平線の遠くに見えた貿易船が、碇をおろして港に停泊しているのが見えた。

 どうせ暇だしな、と奏多は暇つぶしに貿易船の近くまで行ってみる。


 近づくごとに段々とその姿の全貌が明らかになっていく貿易船。奏多が船の真下まで来るとその大きさの何たることか、奏多の背丈の何十倍もの高さがあり、全長も100メートル以上はある。後ろに積んである積み荷は、港のすぐ傍に取り付けてある巨大なクレーンを使って降ろしているようだ。そしてそれは、見れば見るほど奏多の世界の船に酷似していた。


 「……もうちょっと異界感出してほしいよな。せっかく旅に出たのにつまんねぇ。あーあ、早く次の異界にいきてぇな」


 現実に引き戻されたような感じがして、愚痴をこぼす奏多。自分が思い描いていた異世界像と違ってすっかり興ざめしてしまった。加えて、アスカから注意を受けてばかりだからかモチベーションも低い。もともと自分の興味があること以外はやる気の出ない彼にとって、今の状況は退屈以外のなにものでもなかった。

 

 貿易船から離れた奏多は、約束の一時間になったのでアスカと別れた場所に再び戻ってきた。が、アスカはまだ帰ってきていない。


 「遅い……」


 仕方がなく、近くに置いてあった木箱に腰を掛けて少しだけ待つことにした。

 しかし、15分ほど経ってもアスカが返ってくる気配が感じられない。


 「はぁ……とりあえず連絡してみっか。えーとスマホ、スマホ」


 奏多は背負っていたリュックの中から、充電の残りが少なくなってしまったスマホを取り出す。そもそも異界で電話が繋がるかも分からなかったが、物は試しとスマホの電源を点けた。右上の表示は圏外。当然の結果だった。


 「これじゃ連絡とれねぇ……あっ」


 友人に電話をかける感覚で電話帳を開いた奏多だったが、ここである重大なことに気がついてしまった。


 「そういや俺……アスカと連絡先交換してねぇ……つか、そもそもはぐれた時の連絡手段持ってねぇじゃん!!」


 頭を抱えながら勢いで木箱から立ち上がる。近所迷惑も考えずに叫んでしまった奏多。家の窓から怪訝そうな顔で彼を睨む人に気付いた奏多はハッとすると、静かに口を押えながら再び木箱に座りなおす。


 「つか、そもそも連絡できる手段をアスカが持っているかも疑問だな……」


 手を組みながら、うなだれる様にして考え込む奏多。アスカが携帯電話やスマートホンを持っていない以上、奏多と連絡する手段がない。彼女と離れるということを想定していなかったので気づくのが遅れてしまった。


 「ん? もしかしてだけど、俺、この世界においてかれた? いやいやいや、まさか、そんな……いや、ありそう」


 自分はこの世界に置いて行かれたのではないかという不安が襲ってきた奏多。アスカは奏多が旅に同行することを拒んでいたし、テュフォンに無理やり同行を許可されたのであってアスカ本人の意思ではない。テュフォンの前では渋々同行を許したが、テュフォンがいなくなった途端、奏多を見捨てる可能性があるということは十分に考えられることだった。


 「……行ってみるか、西側に」


 帰ってこないアスカの行方を捜すため、奏多は一人、アスカの後を追うようにして西の方へと向けて歩き出した。


 ここまで読んでくださっている方々、ありがとうございます。ここからシリアスパートが続きます。ちょっとだけご注意ください。

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