ヒトカタと揉める。
「レスリー! あれは何だ!」
「判りません!」
ええい、判らんから聞いていると言うのに。
とにもかくにも、今はこの狭い遺跡地下からどうにかして上まで脱出せねばならん。
「A、B、Cはどうした?!」
「Cが上に戻りました、A、Bは後方で待機してます!」
「とにかく上へあがれ! このままじゃ良くて窒息死、悪くて焼死だ!」
「どっちもどっちだと思います!」
騒ぎながら一目散に残った団員で地下に作られた階段を駆け上がる。後ろからは先ほどの古代兵器が追ってくる音まで聞こえてきた。
「くそっ、追ってきてるな!」
「そのようです。ですが先ほどの火炎は出してきませんね」
「射程距離が短いのか? 走ってはこないようだ、逃げ切れるかも知れん」
途端に目の前の壁に穴が開いた。というより、壁が溶けているようにも見える。
「……レスリー。これは何だ」
「どうやら熱線を発射したようですね。凄いな、どこから撃ったんだ?」
「わくわくしとる場合かあああああ!」
どうやら古代兵器殿は遠距離武器も持ち合わせておられるようだ。しかもかなり威力が高い奴。
空気の薄い地下、それも階段を駆け上がるというのは、幾ら鍛えに鍛えた我らグランス騎士団と言えど息が切れるのも時間の問題だ。
いずれ追い付かれるか、動けなくなった所を狙撃されるだろう。
「どうする、どうすりゃいい! このままじゃ殺される!」
「落ち着いてください、副団長がそんな事でどうするんですか」
「お前は落ち着き過ぎだ! 何か逃げ切れる方法は!?」
前を走るレスリーに出ない答えを求める。
こんな状況でまともな考えを導き出せるのはコイツくらいしか居ない。となれば、俺のやる事は一つ。
「しょうがない、俺がヤツを引き留める。お前はその間に何でもいいから最善策を考えろ!」
「了解です。死なないでくださいよ、私にまで危害が及びますから」
ふざけた態度に思えるが、レスリーの凄い所はどんな状況でも瞬時に意識を集中させ、思考を巡らせる事が出来る。その間は完全な無防備状態になる訳で、大体はこの俺が囮やら何やらを引き受ける形になる。
立場が逆転している気もするが、これが今まで騎士団を何度も危機から立ち直らせた方法なのだ。
「さて。仮にあの古代兵器を彼女と呼ぶことにして、彼女の持つ兵装で判明している物は二つ。一つは火炎放射、もう一つは熱線射撃……」
問題点を挙げるとすれば、ぶつぶつとうるさい事くらいだろうか。それも今の状況では些細な事だ。俺は思考を回転させ始めたレスリーを背にして元来た道へ振り返る。
「くそっ、来るなら来てみやがれ。俺の剣で真っ二つにしてやる」
――髪の毛が燃えた。
「どわあっちちちぃい!?」
とっさに剣を落として頭の火を振り払う。どうやらさっきの熱線とやらが頭をかすめたようだった。
「ちくしょう! 整えるのが大変だってのに!」
くすんだ茶色のくせっ毛のせいで、今まで苦労したのだ。これ以上に酷くなってたまるか。
「照準修正完了。距離修正完了。次弾充填完了」
女の声に混じって異質な音が聞こえる。どうやら古代兵器が発しているようだ。人間を真似た姿の兵器が、暗闇の奥からゆっくりと歩いてきた。
真っ直ぐに俺を見ている。その瞳は、青かった。
この世界では見た事の無い、青い瞳。吸い込まれる。それほど、美しい瞳だった。
「わぉ、ゲキマブ」
「排除開始」
古代兵器の手首が折れ、腕の中から螺旋状に突き出た何かが現れる。それは嫌な音を立てながら超高速で回転を始めた。言われなくても判る。あれに当たったらヤバイ。
「多彩な武器をお持ちのようで……!」
距離はおよそ六歩半。どう対処しようか考えあぐねていると、向こうが先手を打ってきた。態勢を取ると一瞬にして間合いを詰めてくる。走ってきた? いや、跳んできたのか!
脳裏によぎるのは、愛娘と今は亡き妻の姿。楽しかった思い出が巡る。あぁ、これが走馬灯って奴か。それじゃあ、皆さんさようなら。
「いやだぁ死にたくなぁぁぁああい! 助けてくぁwせdrftgyふじこ!」
「マスターコードを確認。対象の種別を変更します。変更完了。行動を中止します。待機モードに移行」
余りの恐怖に出てきた謎の言語を叫んだ途端、ヤツの動きが止まった。
高速回転する何かが俺の目の前でゆっくりと動きを止めていく。
「……は?」
状況が飲み込めない。助かった、のだろうか。
呆然とする俺に向かって、ヤツは恭しく頭を下げ、言った。
「貴殿をマスターコード保持者と認定しました。保持者の指揮下へ入ります。ご命令を」
「……で、あるから、この動きに対して……おや?」
レスリーが事態に気付き、顔を向ける。
「……おぉ。どうやら制御に成功したようですね、副隊長」
ポンと手を打ち、そう言うと眼鏡をくいと持ち上げた。
「すぅぅぅぅぅ……はぁぁぁ~~~~~~~~」
思わず大きな溜息をついてしまった。気が抜けたのだろう。
どうやら先ほど叫んだ謎言語が、ヤツにとって鍵となるものだったようだ。未だ頭を下げ続ける古代兵器に向かって、声をかける。
「取り敢えず頭を上げてくれ。幾つか質問したい、いいか?」
「了解。保持者の質問に答えます」
「まずその、保持者って何だ?」
「お答えします。保持者とは、マキナワークス・カンパニーに登録された認定戦闘機、デウス・エクス・マキナを制御する為のマスターコードを保持・記録する者です」
「まきな、何だって?」
「ほう。つまりマスターコードを叫んだ副団長を、デウス・エクス・マキナである君の上司と認定した、という事かな?」
「その通りです」
何を言ったかさっぱり理解出来ない俺に代わって、レスリーが聞くと古代兵器はレスリーへ向き直り答えた。
「だそうですよ、副団長」
「なるほど、わからん」
「要は、彼女は戦闘機で、副団長の命令をきくって事です」
頭が痛くなってきた。何がどうしてこんな事になったんだ。
俺は古代遺跡の地下から異音がすると聞いて、調査に来たんだ。
それの正体が謎の古代兵器の入れ物で、その入れ物から出てきた古代兵器が俺を攻撃して、叫んだら言う事をきく部下になった。
自分で考えておいてなんだが、何を言ってるのかさっぱり解らねぇ。
「取り敢えず……帰るか」
「そうですね。彼女はどうするんですか?」
「あー……置いていく訳にもいかんな。……連れて帰る、のか?」
「まぁ、そうなるでしょうね」
こんなもん連れて帰って大丈夫なのか。
だが、こうしてこいつを見ていると普通の少女にしか見えな……。少女……普通の……。
「おい待て。こんな恰好した奴を連れて歩いたら大問題じゃないか」
「そういえば服を着てないですね。でもまぁ、大丈夫じゃないですか?」
「どうしてそう思うんだ」
「裸とは言っても人間とは違って、表面には何もありませんし」
「そりゃそうだが……あぁもういい! 解ったよ連れてくよ!」
どうして俺が怒るのか心底わからない、と言った風にレスリーが両手を上げ大げさに首を振る。
ちらり、と古代兵器の顔を見ると、何を考えているのかさっぱり判らない顔で俺を見上げていやがる。
「……こんな小さい身体にどんだけ武器が詰まってるんだ……」
「208です。詳細な説明を聞かれますか?」
ぼそりと呟いた言葉に、律儀に答えてきた。耳は悪くないらしい。
「いらんいらん。それより、あー、えーと、お前……名前とかあるのか」
「個体名:Dexm79-Sp4です」
「何だって?」
「先ほど言っていた、デウス・エクス・マキナでは無いんですか?」
「デウス・エクス・マキナは認定戦闘機の総称です。個体名はそれぞれに完成日と、並びに機体性能等級を記したものになります」
「つまり、何か名前をつけないと呼びにくいって事だな」
「でしたら『マキナ』で良いのでは」
「なるほど、それでいこう。お前はマキナ。解ったか?」
「了解しました。個体名変更。変更完了。マキナとお呼び下さい」
「よし、それでいい。そうそう、俺はジェイクだ。様とかいらんからな」
「私はオデロ・レスリーです。好きに呼んでもらっていいですよ」
「了解しました。保持者名登録完了。保持者指揮下人物名登録完了」
「あ、私は指揮下人物で扱われていたんですね。マスターコードを言っていないのに、どうして話を聞いてくれるのかと思っていましたよ」
「そういう事か。そうだ、マキナ。お前どうしていきなり襲ってきたんだよ?」
「起動時、正面に武装兵が刀剣を構えて居たので、敵性体と判断しました」
そりゃそうだ。俺だって寝て起きて目の前に武器持った女が居たら敵だと思う。誰だって思う。
「それじゃ帰るとするか。取り敢えず俺たちについてこい、いいな?」
「了解しました、ジェイク」
「むむ、私ですら副団長を名前で呼んで居ないと言うのに……」
「変な張り合いをするんじゃない。戻ったら大変だぞ、全く」
こうして古代遺跡から突如として現れた古代兵器・マキナと共に俺たちはグランス王国へと帰還する為に、後の事を考えて重くなった足を引きずりながら、遺跡の外へと向かうのだった。
「あ、先輩! 無事だったんスね!」
「ジェイクさんはしぶといからね。ところで、後ろのお嬢さんはさっきの?」
後方で待機していたAとBが戻った俺たちを見るやいなや、口々にまくし立てる。こいつらの事をすっかり忘れていた。
まぁいい、帰りの道中で説明すれば良いだろう。今日は疲れた。とにかくこの狭い地下をさっさと抜け出て、休みたい。
どうしてこんな事になったんだ……。
二話です。
長く続く予定はありません。
此処まで読んで頂いて有難う御座います。