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異世界革命の戦乙女~ヴァルキリー~  作者: 北斎 侑紀
第一章 湖の女神
6/6

 砂漠地帯にてデススコーピオンと呼ばれる、大サソリに襲われているルビット族の少女を助け僕達は今『サザフラント』に向かっている。



「そう言えば、君、名前は?」



 不意にジークが少女に名前を聞く。



「まだ言ってませんでしたね。すみません。

 わたしは、ビレッタ・ベレールです」

「ビレッタか、宜しく。俺はジーク・ハザルドだ」

「ジークさんですね。とてもカッコイイ名前です!」

「そ、そうか?」

「はい!」



 嬉しそうに返事するビレッタちゃん。先程からずっとジークに付き添い熱い視線を向けている。対して、僕の方へは全く見向きもせず、二人で会話を楽しんでいた。

 僕は今、完全なる蚊帳の外である。


 二人、仲が良いことはいいんだけど…………、僕とも仲良くしてくれると嬉しいんだけどなぁ。


 

「あ、あの! お姉さんのお名前聞いてもいいですか?」



 肩を落とし、しょぼくれているとビレッタちゃんから声がかかった。



「ぼ、僕は早乙女遥だよ。ビレッタちゃん」

「サオトメさんですか、不思議なお名前ですね」



 名乗ると、やはり似た反応。

 もう、慣れましたよ。



「僕の事は、ハルカって呼んでね」

「はい、ハルカさん!」



 眩しいくらいの笑顔を振り撒く彼女を見ていると、

 心が安らぐ。純粋な笑顔って良いものだ。

 僕にも、こんな時期があったかな。

 

 ぐぅー、ぎゅるるるるるっ。


 と、忘れかけた空腹が襲い来た。

 音に驚いたビレッタちゃんが目を見開く。

 は、恥ずかしいぃぃぃ!!

 よりにもよって、ビレッタちゃんに聞かれた!


 恐る恐るビレッタちゃんの方を見ると、何やら腰袋を探っていた。



「あの、ビレッタちゃん?」

「はい、ハルカさんこれを」



 渡されたのは、甘い香りのする四角いクッキーのような物だった。



「これは?」

「知らないんですか? ウルマです。小麦粉と砂糖、卵を加え捏ねた物を焼いたお菓子です」



 なるほど、クッキーみたいなものか。

 確かに、クッキーに見える。それになんか、美味しそう。甘い匂いに刺激され、自然と口から涎が…………。



「これで、結構お腹が膨れるんですよ」



 苦笑しつつ、ビレッタちゃんが言う。



「そ、そうなんだ。では、一つ頂きます。…………はむ」



 んん!? こ、この味は!!

 それに、この食感。サクッとしていて、噛み砕くと口の中に控えめな甘味が広がる。

 


「美味しい…………美味しいよビレッタちゃん!」

「良かった。上手に焼けたみたいで」

「これ、ビレッタちゃんが焼いたの?」

「はい、サザフラントに行くまでに小腹が空いたら食べようと思って、焼いたんです。

 まだ、ありますけど食べますか?」

「うん! 食べる!」



 渡されたウルマを次々と口の中へ放り込む。

 確かに、腹が膨れる。しかも、美味しいと来たもんだ。こりゃ体重増加に拍車が掛かるな。

 

 ここに来て、初めてまともな食べ物にありつけた気がする。ウサギやらサソリやらで飢えを凌ぐより菓子で凌いだ方が、よっぽどましだ。



「そろそろ、着くぞ」



 砂漠の中に建造物が立ち並ぶ様子が見えてきた。

 石床で作られた道。そこには、大勢の人々が行き交っていた。



「ここが、サザフラント?」

「そうだ。この先の『アルフェ』に向かう物流の中継地点であり、砂漠で唯一のオアシスだ」



 辺りを見渡すと、通行人の殆どが荷車を馬で引いている。商人か運び屋達だろう。

 ふと、何処からともなく香ばしい匂いがしてきた。通りを挟むように、露店が立ち並んでいる。



「すごい!! 人族の人が一杯ですぅ!!」



 ビレッタちゃんが目を輝かせ、歓喜に奮えている。年相応の笑顔を浮かべ、今にも駆け出して行きそうだ。

 そんな、興奮ぎみのビレッタちゃんにジークがいつの間に手に入れたのか分からないが、茶色い素朴なフード付きの外套を被せた。



「あまり、はしゃぐな。君達ルビット族を良く思っていない奴等もいるんだ。そんな奴等に見つかったら即座に厄介な問題へと発展するぞ」



 ハッとなり、フードで顔を隠すビレッタちゃん。

 ルビット族が人族に対し行った所業を鑑みれば、今ビレッタちゃんがここにいるのは非常に不味い。難癖付けてくる輩もいるだろう。それどころか、集団リンチを仕掛けてくるかもしれない。

 

 幼女が集団リンチされる画。

 …………うぁ、見たくない。気分が悪くなる。そんな画、好きなのはコアな変態ぐらいだ。



「分かったなら、それで顔を隠しておけ」

「……………………(コクリ)」



 ジークの言い付けに、ビレッタちゃんは素直に頷いた。



「そう言えば、ビレッタちゃん。サザフラントに来たけどこれからどうするの?」



 と、言うとビレッタちゃんの動きが徐に固まった。

 どうやら、先の事は考えていなかったらしい。

 なんとも行き当たりばったりな。



「まずは、宿を取ろう。活動拠点がなければまともに動くことが出来ない」

「そうだね。街中を見回るのはその後でもいいかもね」

「はいっ!」



 そうとなっては話は早い。さっそく宿屋を探し僕達は歩き始めた。

 途中、香ばしい匂いに誘われビレッタちゃんがフラフラと露店に行ったり、僕が怪しげなおじさんに声をかけられ引き留められたりと色々あったけどなんとか宿を見つけることが出来た。


 だけど…………、



「二人とも俺が怒っている理由、分かってるな」



 借りた部屋の床に正座させられる、僕とビレッタちゃん。

 そして、目の前には仁王立ちしているジーク。

 語気が荒く、ご立腹なのは一目瞭然。

 理由は当然、僕らの寄り道だ。



「うぅ…………面目しようもありません」



 ジークの鋭い眼光に内心ビビりまくり。隣にいるビレッタちゃんなんか、あまりの怖さに全身震え上がっていた。


 目立つような行動はするなと釘を打たれていたのに、この体たらく。ジークが怒るのも無理もない。



「俺は、言ったよな? 目をつけられたら厄介な事になるって」

「はい…………」

「ホイホイとふらついて、あんな厄介事背負わされてどうするんだ!」



 ジークの雷がビシャリと落ち、ビレッタちゃんが小さく悲鳴をあげる。


 確かに、寄り道なんかしなければあんなことにはならなかった。


 事の経緯を話すと、数十分前。


 僕とビレッタちゃんはつい物珍しい露店につられ、足を運んだ。見るからに怪しげな風貌の店主から、色々と見たことのない商品を紹介され僕たちは目を輝かせていた。

  見るだけにすれば良かった物を、好奇心に任せ別の場所にも面白い物があると言われ着いていくことに。


 そこは、街路地を外れ細い道を抜けた先にある古びた館だった。


 辺りには広大な砂漠が広がっている。ここが、ちょうど、サザフラントの端のようだ。



「ようこそ、“物欲の館”へ」



 商人に促され、館の中へ入る。


 内装は、貴族が好みそうな洋風の趣。目線を上に反らせば、巨大なシャンデリアが中に浮かんでいた!

 物珍しく辺りを見回して見ると、豪勢な装飾品や価値の高そうな骨董品がガラスケースに展示されていた。


 まさに、『物欲の館』の名に恥じぬ品の数。

 一際目についたのは、七色に輝く宝石が柄の中心に埋められた剣だった。



「それに目を付けるとは、お目が高い。

 それは伝説の戦乙女が使っていた剣です」



 これが、あの…………。

 自然と手が剣に伸びる。

 刃溢れもなく、光沢を放つ刀身。

 とても、千年前からある物とは思えない。

 ずっしりと重い。切れ味も良さそうだ。



「お気に召されましたか?」

「え、あ…………うん。でも…………」



 欲しい、けど、柄に付いている値札には0がいっぱい。

 手持ちどころか、お金すら持っていない僕には買えないよ。



「代金の事については、お気になさらず」

「え?」

「お客様に代金を頂く代わりに、私が提示する条件を満たして頂ければ、その剣をお渡しいたします」



 店主が一枚の紙を差し出してきた。


 何々…………。

 …………うん、読めない。

 こっちの世界の文字なんて読めないよ!

 言葉はわかるのに文字だけ読めない! どうして!?



「ごめん、ビレッタちゃん代わりに読んで」

「え、はい。分かりました」


 ビレッタが紙に書かれていた内容を読み上げる。

 ラティアラの地下迷宮の際深部にある、ロランの宝玉を持ち帰ってくること。と書かれているらしい。



「…………う~ん」

「ハルカさん受けましょうよ。迷宮(ダンジョン)攻略するだけで伝説の剣が手に入るんですよ!」



 隣にいたビレッタちゃんが興奮気味に言ってくる。

 確かに、タダで伝説の剣が手に入れれば得だ。

 迷宮ってのがどんなところなのか分からないけど。

 チラリと剣に目が行く。

 目映い光を放つ剣。すごく欲しい。



「分かりました。その条件呑みます」



 物欲に負け、受け入れてしまった。



「それは良かった。では、こちらの契約書に署名を」



 そう言い紙を手渡される。

 字も読めないのに名前なんて書けるか!

 どうしよう。



「ハルカさん、私が代わりに書きましょうか?」



 気を利かせたのかビレッタちゃんが代筆を申し出た。

 有り難い。



「うん、それじゃあお願い、ビレッタちゃん」

「はい、お任せください」



 筆を受け取りビレッタちゃんが署名する。

 店主に紙を渡す。

 


「では、これで契約は完了です。ご健闘の程御祈りしております」



 にこやかな笑みを浮かべ店主が館の奥へ消えていく。

 と、不意に店主が足を止め振り向いた。



「ああ、ちなみに期限は今週中でお願いしますね」

「え!?」



 そしてまた店主は奥へ歩き出した。



「サオトメ、ビレッタ。こんな所に居たのか」



 いつの間にか、この館にジークが訪れていた。

 どこで聞き付けこの館を知ったのか疑問だけど、まずは今しがた店主と話した内容をジークにも説明する。

 すると、ジークは血相を変えて店主の後を追って館の奥へ走っていった。


 数十分後。

 肩を落としながらジークが戻ってきた。



「なんて事してんだお前達は! ああもう! 

 契約までしやがって。どうすんだ!」



 ジークの怒声。

 腹にすごく響いた。こえぇ。

 後で知ったことだが、あの店主。客に逃げられないよう契約までして無茶振りし出来なかったら高額請求する。悪徳商人らしい。

 ハメられた。会話の内容からしても気付ける箇所は幾つもあったと思う。

 でも、目の前の品物に心を奪われ思考が至らなかった。


 で、宿につくなりジークからの説教と言うわけだ。

 ファンタジー世界で詐欺に会う。情けないよ…………トホホ。

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