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六畳一間の暖かい空間

両親からどうやって逃げ切るか。

それが当面の目標だった。

しかし、いつまでたっても両親が俺を追いかけてくることは無かった。


「ケイ、飯食おうぜ飯!!」

「お前な、誰が稼いだ金だと思ってる」


今は俺がギャンブルで稼いだ金で生計を立てている。

相変わらず負け越しなしで、金銭面は上々だった。

小さなアパートで、コウと二人きり。

幸いコウは料理やら掃除やら、家事全般はこなせたので生活面でも安心だ。

両親の追っ手から逃げ切る、なんていうのはこんなにも簡単だろうか。

無駄に金持ちで顔の広い両親のことだ。探そうと思えば世界中どこだって探すことも可能だろう。

しかしいまだに追っ手らしい者は俺のところに来てはいない。


「あ、テレビつけていい?」

「勝手にしろ」


家から離れていないこの町だ。

あの両親が探せないはずが無い。


―――ケイの失踪にたいし、二人は完全に絶縁を表明しました。


「……え……?」

「これ、ケイの家の親なのか?」


ニュースを見れば、内容はこんなものだった。

俺を探す気が無いということ。

失踪した俺と両親には、もう戸籍上のつながりは無いということ。

俺は死亡者扱いになるということ。

家督は弟が継ぐらしいということ。

何年か前、俺が自殺を図ったときに必死で止めたのは、家を継ぐものが居なくなるかという理由からだったということ。

両親は俺をはなから『子供』としてではなく、『後継者』としてしか見ていなかったということを理解するには充分すぎる内容だった。


「そうか。あいつらにとって俺は、そんな存在でしかなかったのか……」

「……ケイ……」

「そうだよな。自惚れて、馬鹿みたいだな、俺」

「ケイ」


自惚れて、悲観して、馬鹿みたいだった。

産まれたときからこんな存在なんだと、改めて思い知らされた。

産まれてきた意味を全て否定された気分だ。


「所詮俺なんてその程度の人間だよ。親からも、誰からも認知されない、生きてる意味なんて無いような人間だよ」

「ケイ!!」


突然の怒鳴り声と、右頬に走る鋭い痛みに我に返った。

見ればコウが眉間に皺をよせ、こっちを睨んでいた。


「自暴自棄も大概にしやがれ、馬鹿ケイ!」

「じゃあお前に俺の気持ちが分かるって言うのか!?」

「他人の気持ちなんか分かるわけねぇだろ!」

「だろうな!血の繋がった両親から捨てられて、もう俺の存在を見てくれている人がいなくなった!そんな気持ち、分かるわけないだろうな!!」


誰も俺という存在を、産まれてきた意味を分かち合ってくれる人がいなくなってしまった。

あんな両親、大嫌いだったはずなのに、何故だかとても悲しい。

もう本当に死んでもいい。

悲しむ人なんか、いない。


「ふざけるな!!俺が、何でここにいると思ってるんだ!!」

「……は……?」

「俺がお前と一緒に居るのは何でだと思う!?お前を一個人として認めてるからだろが!!」

「俺を?」

「血の繋がった親?そんなの信用できなかったら意味無い存在だ。そんな奴等に捨てられたからって、いちいち自棄になるな!!」


ケイの言葉が、響いた。

本当に魔力が働いてるんじゃないかと思うほどに。


「……俺が居るだろ」

「……コウ。さすがにその台詞はクサイとおもうよ」


コウの言葉は、何故か俺の心に残った。

吃驚するほど心が落ち着いた。

この一瞬が、今までで一番に心が穏やかだったと思えるほどに。


「てめぇ、たまには素直に感謝の言葉の一つくらい……」


妙に人の温かさが恋しくなったから、正面からコウに抱きついてやる。

思った通りに狼狽するコウを見るのは、凄く楽しい。


「俺の声、コウに届いてる?」

「届いてる」

「俺の手、コウに触れられてる?」

「触れられてる」

「俺、此処に、居る?」


「居る」


「……そっか。良かった」


安心した。

とても安心した。

コウの手が、おもむろに俺の頭に乗っけられて、そのままわしわしをと頭を撫でられる。

撫でられるというか、髪をぐしゃぐしゃにしてくる。

でもその感触が、とても気持ちよかった。

まだ小さくて、子供だったころをおもいだした。

よくこうして両親に、頭を撫でられていたことを。


「……ありがとう……」

「あ?何か言ったか?」

「なんでもないよ。コウの馬鹿って言ったんだ」

「その口閉じろアホ!」


ありがとう、と。

コウの胸に顔を埋めたまま、俺は呟いた。

コウには聞こえてなかったみたいだけど、気持ちはきっと伝わったって信じてる。

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