強制的に手を取られて
俺が此処に居る理由―――
「理由なんて……無いなぁ……」
「は?何の話?」
「俺の身の上話、だろ?此処に居るのに理由は無い。あえて言うなら、そうだなぁ。……ここに生まれたせい、かな?」
子供は親を選べない。
この城に産まれて、育って、隔離された。
六億人もこの球体の上で暮らしていれば、一人や二人くらい、思考パターンがおかしい人間くらい居るだろう。
例えば、殺人をいけないことだと理解できない。
例えば、命の重さが理解できない。
例えば、他人を信じることが出来ない。
まさに俺は、その典型なんだろう。
他人とのかかわりを拒んで、信じられなくなって、自殺に走った。
過保護な両親がすぐに病院に駆け込んで一命は取り留めたけど、何も出来ない部屋に閉じ込められて。
生きる意味も見出せないのに、そうまでして生きている価値なんて、俺にあるのだろうか。
この世の中から逃げることが、そんなにもいけないことなのだろうか?
俺が生きていることで、この世界に何か影響はあるのだろうか?
そんなことを考えながら、この何も無い虚無の中で、俺は生きてる。
「コウならどう思う?」
「……」
「コウ?」
「理由が無いわけ、無いだろ」
「え?」
「お前がここにいる理由、無いわけ無いだろ。大体、逃げようと思えばこんな所、すぐ逃げ出せただろ。それをしなかったのは、お前が此処から出ることを恐れているからじゃないのか?」
「そんなことない!」
「そんなことあるね。他人とのかかわりが面倒くさくなって、逃げてるだけだ。」
だから、死のうとしたんじゃないか。
逃げることが、そんなにいけないことなのか?
死のうがこの城から逃げようが、どうせ大差ないだろ?
他人といちいちかかわっていかなきゃいけないのか?
「俺が言いたいのは、精神的に逃げるなって話だよ」
「どういう意味だよ」
「こういう意味だよ」
いきなり右手が引っ張られた。
一瞬の内に体が投げ出される間隔に苛まれる。
気がつけば、体は宙に浮いていた。
「な……!」
「安心しろ、しっかり受け止めてやる」
また雷獣の力とやらで俺より先に地面に回りこんで、受け取る気満々、と言って感じだ立ってる。
「ほら、お前が望みさえすれば、こうやって逃げることも出来たんだ」
難なく俺を受け止めて、また右手を取って走り出す。
「ったく。助けてなんて言ってないのに」
「あ?減らないのはこの口か?」
「残念。口はもともと一つです。でも……ありがとな」
こうやって走り出して見ても、まだ俺の心はあまり変化はない。
でもなぜか清々しい気持ちだけは、心の底から湧き上がってきたんだ。