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私の幼馴染は俳優です。

血の繋がった両親の顔を知らない私は、物心付いた頃にはすでに孤児院に居た。孤児院での生活は、とても貧しかった。それでも、楽しかったし、幸せだった。優しい院長先生、同年代の明るくて、いつも一緒に遊んでいた友達。学校ではいつも苛められていたけど、その度に、先生が「自分の事を自分で出来るあなた方は、とても凄いのよ」と言ってくれた。その理由は大人になった今になってようやく理解出来た。親の居る子の家事能力は極めて低い。掃除洗濯は出来ても、料理が出来ない子は沢山居た。クラスメートの子に「家に帰っても、何もないから今日もマックかな」と言われたのでごく普通に「材料買って、家で作ればいいじゃん」と言い返したら「え?」と驚かれ、「自分で作るのって当たり前じゃない?」と当然の事を言えば「それが出来たら苦労しません」「何、穂波出来んの?」「出来るよ」と押し問答したら、「穂波は良い子」「嫁に来い」と言われながら頭を撫でられた。

そんな私が引き取られたのは九つの時だった。二階建ての一軒家。優しい佐藤夫妻。幸せな日々が始まるかのように思えた。

隣は、他の家と比べると遥かに大きい三階建ての家。そこの家に住んでいたのは、悪魔のような男だった。





隣に住む、奴の名前は水内(ミズウチ) (アキラ)。綺麗な藍色に染まった髪は、光に当たると青く乱反射して綺麗。それに合わせるように、吸い込まれてしまいそうなほどに潤いのある綺麗な黒い瞳は、鋭くつり上がっていて、いつも私を睨み、見下す。高い身長に、見せびらかしているのかと思ってしまうほどにスラリとした長い手脚。そして、綺麗に整った顔はハンパなく私を恐怖へと包まれていく。

そんな外見で言うなら間違いなく、誰もがコロリと惚れてしまう彼は、今や人気俳優です。

そんな彼とは逆に、私は有名な缶詰め工場で働く普通の女。せっせと働いて、大好きな佐藤夫妻に楽してもらうため、いつも頑張っている。

「穂波ちゃん、今日も頑張ってるねぇ!」

「はい!」

頑張って頑張って、それで、給料貰ったら貯金するんだ。





その日、クタクタになって家に帰ってくると、笑顔でお母さんが出迎えてくれた。

「穂波ちゃん。おかえりなさい。早速だけど、お隣の光くんが、穂波ちゃんを呼んでたわよ?」

「うん、わかったよ。ご飯は?私、食べたいな!」

お母さんが言う光くんが呼んでいようと、私はお母さんとお父さんを優先する。ご飯が作ってあるなら、ここで食べたい。

「あら、そのまま光くんのとこ行ってくれて構わないわよ?光くんと穂波ちゃんはいつまで経っても仲が良いわね」

穏やかに笑うお母さんに、私も笑みを零すが、心の中では、

― 好きで仲良くなってんじゃねぇ!あのドS野郎が弄んでんだっての!!

っつーか、この間テレビで光の野郎が「芸能界入る前から付き合っている彼女が居る」宣言してたじゃん!私、行く必要ねぇじゃんっ!!!





そう思いながら来てしまった私はなんていい奴なんだろうか。バカ広い奴の部屋にノックなしで入ると、奴は電気も付けずにベッドで寝ていた。ベッドに近付いて、艶々の頬を撫でた。呼んだ本人が寝ているだなんて、これは神様が「お家にお帰り」と言っているようなものだ。ありがとう神様!大好き神様!私は諸手を挙げて喜んだ。寝てるんなら私は洋ナシ!(ノット誤字)部屋から出ようと、踵を返すと、腕を引っ張られ、奴の温もりがある布団の中へ引き込まれた。

きつく抱きしめられながら、固い胸板を両手で押し返そうとしても、ビクともしない。その代わり、私のお腹は正直なもので、グギュルルル~と切なく(豪快に)鳴る。

「なんだよ。腹減ってんのか?」

無駄に、低い美声を耳元で囁かれ、ゾクリと背筋に電気が流れたような感覚と、腹が鳴った事で羞恥により顔が熱くなり、涙が一つ流れる。別に泣きたいわけではない。

「相変わらずだな、穂波」

全体的にゆっくりとした動作で、声と、腹をさすられる。

「下腹が出てる。少しダイエットしたらどうだ?」

「余計なお世話!!」

頭の下にあった枕で、奴の顔にバフンッと殴りつけてやった。前言撤回。神様は意地悪だ。

「仕方ねぇな。俺の為になんか作れ」

「何が仕方ないの?」

なんで私が料理する事で妥協しなければならない。そうだよ。コイツ芸能界に入る前から付き合ってる彼女居るって言ってたじゃん。

「ていうか、彼女居るんだから彼女に作ってもらいなよ」

よく言った私!これで奴も黙るしかないだろう。

「あ?何。お前見たの?」

「見たよ。ていうか知らなかった。アンタに彼女居るなんて」

こんなに顔良いんだから、彼女の一人や二人、十人や二十人居て当然か。愛人とか不倫とか、人妻とかバラエティー豊かなんだろうな。

「それお前」

「……………」

「芸能界ってのはな。そこに入る前に結婚、又は付き合ってる彼女ってのが居ると、記者はあまり追って来ねぇもんなんだよ」

そんな話があるのかよ。

いや、確かに芸人の人で人気出る前に結婚して子供まで居る人に、女優やアイドルと密会?みたいな話は聞いた事がないような気がする。

「でも、逆効果なんじゃ…」

「バーカ。好感度アップするか、幻滅してファン辞めるってのが女だ。女は純愛ってのが好きだからな」

なるほど。そこまで考えているとは流石天下の光様だ。

確かに、私も純愛は好きだし、好きな人に付き合ってる人が居たら、まず間違いなく冷める。熱しやすく、冷めやすい。それが私だ。

「だからって、なんで私…」

「美人は三日で飽きるが、ブスは慣れるって言うだろ。確かに美人は見てて飽きる」

なんて贅沢な。モテない男に後ろからグッサリ刺されてしまえばいいのに。

ようは光が飽きっぽいだけなのではないだろうか。きっと性格も満点な美人な子が居るはずなのに、なんで私…。

「美人でも飽きない人だって居るよ」

「お前知らねぇだろ。俺、ブス専なの」

思わず目を点にして、奴に穴が空くのではないかと思うほど見る。本当に穴が空いてしまえばいいのに。

「……ブス専…………」

「ブスってのもな、限度がある。太りすぎず、痩せすぎず。化粧っ気がない女。努力すれば誰でもなれるだろ?」

「確かに………………ていうか、それってつまり…」

この天下の光様の好みのタイプがドンピシャで尚且つそれを昔から続けてる私って奴の射程範囲のど真ん中って事!?

「青ざめてる辺り、ようやく気付いたらしいな」

不適に笑う光。

「好きだよ、穂波。一生俺の愛奴隷だ」

なんでこんな顔だけ男に好かれなければならないのだ。しかも愛奴隷。意味がわからん!

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