雨の話
小人が死んでいる。
私は、こみ上げる悲鳴を必死に堪えていた。周りの目を気にする為ではなく、まだこの辺りに犯人がいるのかもしれないという恐怖の為だった。
数瞬の静けさの後、私は震える体をなんとか動かし、小人の小屋から校庭まで駆けた。校庭の中心まできて漸く後ろを振り返る。ブランコ裏の藪は死体の存在を隠すように普段どうりの姿だった。ありえない、小人が、どうして。
「どうした?」
まだ混乱の最中にいる私に声がかかった。抑えていた悲鳴が小さく漏れる。そこにいたのはネズミだった。
「どうしたんだ。様子がおかしいぞ」
私は未だに声を発することができない。あぁ、と藪を指差すだけだ。
ただ、その表情と身振りでなんとなく察したのだろう。ネズミは真剣な面持ちで小人の住処まで駆けていき、戻ってきた。
「だめだ。死んでいる。どういうことだ?」
「わからない……」
私はやっと声が出た。
「あのことを話そうと思ったの。小人はトカゲと仲が良かったから。でも私が行ったらもう」
「犯人は見たか?」
私は首を振った。
ネズミは何かを考えているようだったが、結局
「後は俺に任せて、お前はもう帰れ」
と言うに留まった。
家に帰るともう夜だった。部屋に入ると同時にベッドに倒れこむ。小人との思い出がどんどん浮かび上がるが、涙は流れなかった。緊張からの解放のせいか、無気力が私を支配していた。どうして、小人は死んだんだろう。事故だろうか、もしかして殺人だろうか。
ふと、私の頭に思い浮かんだのはあの噂だ。
蘇ったトカゲが、屍肉を集めている。
ほんの数時間前まで一笑に付していた話だ。ただ、今となってはそうとしか思えない。私はモソモソとベッドから起き上がり考えた。
「トカゲを探さないと……」
夕飯とシャワーをそこそこに済ました後、机に向かって今日のことを考えていると、部屋の窓をノックする音がした。またネズミだった。外は雨らしく、びしょ濡れだった。
「葬儀は明日だ。お前も来るか?」
「行く。あのさ、あれは、事故じゃないよね?」
だろうな、とネズミ。
「あの部屋に、原因となるような物は見当たらなかった。大型の動物の形跡もない。事件だろう」
「それってさ、トカゲが関係あると思う?」
「俺も同じことを考えていた。あの噂があってのこれだ。トカゲがやったのかはわからんが」
何かしらの関係はあるだろうということか。
「やっぱりさ、私、トカゲを探そうと思う。"探偵"として」
「俺も探す。トカゲがこの事件の鍵を握っているのは間違いない」
「うん。それで、考えたんだけど、まずナツメグに会おうと思うの」
どうして、とネズミは怪訝な表情だ。
「あいつは動けないし、トカゲと仲が良かったわけでもないだろう」
「そうだけど、私はまず、ネズミがどうして蘇ったのかを調べるベキだと思うんだ。ナツメグは、そういうの詳しいでしょう」
ナツメグは通称"魔女"。誰かを生き返らせるなんて、ありえない話だけれど、"魔女"ならもしかしたら何かを知っているかもしれない。ネズミも納得したようだ。
しばらくこれからの予定と状況を確認して、ネズミはまた雨の中を帰っていった。
私が寝ようと電気を消すと、今までまるで聞こえなかった雨の音が、部屋に溢れた。