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【短編集】白紙の地図  作者: 吾妻巧
1時間SS
9/19

[かばん]取り違え


「やばい、間違えた」

 帰り道、家まであと五分と迫ったところでその事実は発覚した。

 かばんを取り違えた。

「やべー、どうしよう」

 相手は分かってる。さっきまで一緒だったあいつだろう。

「しっかし、なんで気付かなかったかな……。あー、今日に限ってどこにも寄り道とかしなかったからなぁ」

 寄り道をして、何か買いものでもすればすぐに分かることだった。

 俺はかばんの中に財布を入れてる。だから取り出そうとすれば違いに気付くのだ。

 事実、家に帰る直前になって、ふと教科書の忘れ物でもないかとかばんの中身を確かめて初めて気付いたのだ。

「あー、どうしよう。宿題はー……まぁ、こいつの教科書があれば出来るが……」

 幸いにもかばんの中身は今日の俺の構成と同じ。理由は簡単、同じクラスで同じ授業を受けているからだ。

「見られて困るもんなんてないし、ま、そう焦らなくてもいいか。宿題は教科書を借りさせて貰おう。そもそも、携帯が無いから連絡も取れん」

 ひとりごちながら、確かにそうだ、と自分で納得をする。俺は自分のかばんの中に携帯を入れていた。番号もアドレスもあの携帯の中だ。覚えているはずなんてない。つまり連絡の取りようもない。

「――ん、これ……」

 仕方なくかばんを閉じようとした、その時。教科書の間に挟まれたものに俺の目が留まった。

 好奇心が先走る。他人のかばんの中身である、というストッパーを越えて、手が伸びた。

 するり、と紙がかばんから抜き取られる。小さな、便箋だった。

「……まさか、ラブレターか?」

 思わず口を突いて出た言葉が、ゆっくりと思考を固めていく。

 ラブレター? 誰の? あいつの?

「宛名は……無い」

 表と裏、両方を確かめるが、何も文字は書かれていない。ただ一つあるのは、裏面に封をするための小さなシールが貼られていることぐらい。

「……ってことは、開けられてないってことか」

 開けられてない、ということは中身を読んでないということ。俺は頭の中で「あーあ」と声を吐く。出したやつも可哀そうだ。折角出したというのに、中身も読まれていない。同情してしまう。気を確かに持てよ、知らん奴。

 まぁ確かに、と思い返せばあいつはラブレターを貰ったということを噫にも出してなかった。

「いや、余計可哀そうだな、それ。普通、ラブレター貰ったら大なり小なり、プラスであれマイナスであれ感情を揺さぶるだろう。家で読もうと思ってた、ってのも有り得る選択肢だが、それにしてもなぁ。何なんだ、あいつは鉄人か」

 鉄のハート。固そうだ。並大抵の力じゃ響かないだろうな。頑張れ、見知らぬ人。

「しっかし。あいつにラブレター出すなんてどこの物好きだよ」

 すまない、見知らぬ人。と適当に心の中で謝って俺はラブレターだと思われる小さな便箋を天にかざす。あー偶然にも中身が透けて見えてしまったーこれは仕方ないよなー。

「……へ?」

 中身は見事に透けて見えた。透け透けの見え見えだった。驚くほどに。

 そして実際驚いた。

『見たなバカ』

 五文字が大きく並んでいた。でも、驚いたのは実際そこではなく――

 その下に小さく並ぶ四文字の言葉。

「……ちくしょう。初めからそのつもりかよ」

 小さく俺は、ここに居ないあいつに呟く。

「俺もだよバカ」

1時間SS:お題『かばん』

執筆:2012年

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