逢魔ヶ丘夏季特別短編~ある“夏の日”の事~前編
“日常編”終了後、さらに全てのエピソードが終わりを迎えたその後の話です。
相変わらず読み手に優しくない(爆)のでご注意を。
それは、外部都市より物資が届いたある日の事。
「布……?」
「布ねえ」
「すごいねえ、キラキラしてるみたいだよ」
「何に使うの、こんなにいっぱい」
「そりゃ……、切って使うんだろ?」
「だから何に?」
逢魔ヶ丘遊撃隊の面々は、送り付けられて来た大量の布を前に、頭を捻っていた。
「え?これが何なのか分かんないの?」
「ちょっと、もしかして知らないの?」
「お、『風の双子』」
「何だ、お前らも来てたのかよ」
「やっほー」
「来たよー」
陸戦隊のガタイの良い野郎連中にも臆する事なく軽い調子で挨拶したのは、物資の送り元である森林都市から来た双子達―――『風の双子』である風吹と風矢だった。
「ありがたいけどよ、この布どうやって使えば良いんだ?妙に派手でうっすいし、ひらひらしてるから迂闊に触るとすぐに破けそうだ」
すぐそばで荷受けの様子を確認していたイチが、手を止めてやってきた。
「もー!破かないでよ!」
「ねえ、何に使うつもりだったの?」
「……何って、なあ」
見当もつかないと言った感じで顔を見合わせる一同に、風の双子は胸を張った。
「それはね」
「“ユカタ”よ!」
彼女ら曰く「“夏”の“おすそ分け”に来た」のだそう。
逢魔ヶ丘のある元海上都市の位置する場所は、1年を通して気温の変化があまり無い。
しばらく雨が続く日もあれば、逆に1月近く全く降らない日があったりもするが、その程度だ。
ただそれも涼や銀花の力によって軽減される事が多いので、気にならないと言えばそれまでなのだが。
ゆえに四季などという概念もなく、“夏のおすそ分け”と言われてもいまいちピンと来なかったのは仕方のない事だろう。
逆に自然あふれる森林都市は、精霊が管理している事もあり気象災害こそほとんどないものの、冬は寒く雪が降り、夏は慣れない人間がバテる程度には気温が上がる土地である。
「ユカタ?」
「何に使うんだ?」
「こんなに薄いんじゃ、物を入れたら重さですぐに破けちまいそうだな。結構大きい布だけど、そう考えるとあまり入りそうにねえし。やっぱ切って使うか?」
「何かの保護に使うにしても、薄いからなあ……」
「緩衝材くらいにはなるんじゃねえの?」
「もー!違うよ!」
「それ、着るんだよ!」
どこかずれた感想しか出て来ない逢魔ヶ丘の住人達に、風の双子が怒り出した。
「着るって、体に巻きつけるのか?」
「ホントに知らないんだ……」
「あれー?でも“ワフク”の人、いるよ?」
適当に1枚布を手に取り体に宛ててみたイチを見て、今度は風の双子が首を捻った。
「“ワフク”……って何だ?これもこんな感じで前を重ねて着るのか?うーん、わっかんねえな。よし、こうなったら“ジジイ共”に聞いてみるか」
「ああ、“浴衣”ですね。知っていますよ」
「ホントか!?」
「やった!これで何とかなりそうだぜ!」
喜びの声を上げる彼等に対し、風の双子は困惑した表情だ。
「和尚さんでも神主さんでも無くて」
「まさか神父さんが知ってるなんて……」
「“昔”近所に住んでいた子達が、よくお祭りの日になると浴衣を着て見せてくれたんですよ。……懐かしいですね」
「お祭りも知ってるの!?」
「神父様って、もしかして森林都市育ち!?」
目を丸くする2人に、神父はただ苦笑するだけだった。
「おまつり?」
脇で聞いてたイチが首を傾げると、双子達は何故か胸を張った。
「森林都市では、毎年四季に合わせて年に4回“お祭り”をするって決まっているのよ!」
「春は“お花見”、夏は“花火”、秋は“紅葉狩り”、冬は“雪まつり”!」
ねー、と2人でにっこりと顔を見合わせる。
「……それは、祭りであって祭りでは無い」
低い声で話に割って入って来たのは、神主だった。
「祭りとは、感謝や畏怖などの人々の抱く感情を捧げ、また、これからの生活に対しての願いや希望を神に伝えるものだ。ただ人々が集まって騒ぐだけの単純な催しでは無い」
「まあま、それだけで無い事も1つの事実じゃろうて。普段の生活で抱えた“憂さ”を晴らし、気持ちを新たに切り替える為、その時存分に楽しむ事もまた“祭り”という物の意義であろうよ」
その後ろから和尚が顔を出す。
何やら難しい話題になりそうだったので、とりあえずは、とイチが神父の方を仰ぐ。
「で、結局こりゃどうすればいいんだ?」
「とりあえず私の方でいったんお預かりしましょう。大きな布地の方は手先の器用な方々を集めて加工する他ないでしょうね」
「ふうむ。じゃがのう、ただ着るだけではつまらんの。それはそれで普段とは違う雰囲気とやらになって、それなりに楽しめはするじゃろうが……。とはいえここには“祭り”の概念を知ってはいても、どうするべきか分からん者の方が多いしのう」
「祭りならば“囃し”などの独特の音楽であろうか。しかし、今からでは準備が間に合わんぞ?」
あの『黒幕』達でさえ悩み始める事態に陥りかけた頃、見ていた双子が声を上げた。
「じゃあさ、花火ならどう?」
「火を扱うなら、うってつけの人材がいるよ!」
「派手にやろうよ!」
「どかーんってさ!」
その言葉に、一同うーん、と唸る。
「花火ってのは、その、どんなんだ?火を扱うってのは……吹き出したりするのか?」
具体的な想像がしにくいのかイチが双子に尋ねると、双子は賑やかに答え始めた。
「空に咲く花みたいなヤツだよ!」
「どーん、っておっきい音がするの!」
「色々色があったりするよ!」
「咲いた後に流れたりするの!」
「浜辺から打ち上げて、丘の上で見るとちょうどいいんじゃないかな?」
「ビルの上から見てもちょうどいいかも!」
「……具体的なのかそうじゃねえのか分かんねえぞ?」
とりあえず火を使った派手な見世物って事で良いのか?と自分に確認するように呟いた所で……。
『花火なら任せろ―!』
「うおっ!?」
町の中心の方から、あるいは誰かが近くに置きっぱなしにしていたらしい携帯ラジオから、明るい少女の声が聞こえた。
『ちょっと!?誰よあんた!?放送中に乱入するなんて非常識よ!!』
『ゴメンゴメン、何だか楽しそうな話してたからさあ、ついテヘ』
パーソナリティ役の夜子が突然の乱入に怒った声を上げたが、どうやら相手は気にしていないらしい。
『何処にいるの、出て来なさいよー!』と怒鳴りつける夜子だったが、そうそう簡単に相手が姿を現す事は無いだろう。
何故なら、声の主は今、『本土』にいるのだから。
「おい、A-T、勝手にラジオ放送ジャックしてんじゃねえよ」
『お、“りょーちゃん”からメッセージ来た。ありゃりゃ、ハッキングしたから怒ってるみたい』
「たりめーだっつの」
「だってひまだったんだもーん」と、悪いとも思って無さそうな非常にのんびりした声に、イチは脱力するしかない。
さすが本土のロボット工学研究最先端にして最高峰の作品群、『Aナンバーズ』の最新作だけはある。
彼女の言動を見れば、『龍』や『虎』の様な“突然変異”が生まれるのも当然の様な気がした。
「んで?本土チームの皆様もこの話に食いつくってか?」
『何で分かったのー!?』
うっそー、信じらんなーいと賑やかな声に、分からいでか、とひとりごちる。
『花火に関しては当てがあるからさ、ウチの男連中に任せてよ』
楽しそうに計画に混ざる算段をするA-Tに、そばで聞いていた神父が続けた。
「本土の方達が来るのでしたら、『龍』や『虎』にも頑張って貰いましょうかね」
「オイオイ、いいのかよ」
「ええ、花火の醍醐味は光と音の演出。きっと派手で面白い事になりますよ」
「何、させる気ですか、神父」
思わず引いたイチに、神父は笑ってこう言った。
「それは当日のお楽しみです」
こうして、その場で“花火大会”とやらの日程が組まれ、届けられた“ユカタ”の内、縫製済みの物の一部を型紙代わりに解体、その他の物は希望者に先着順で配布、という形が採られた。
そして涼や極楽鳥を筆頭に手先の器用な者が有志で集い、事情に明るい神父を先生代わりに“ユカタ”の制作が急ピッチで進められることとなった。
その中には何故か、手先が器用とは言い難い彼女……夜子の姿もあり、
「たっ!?」
「大丈夫!?夜子!」
「アンタはこっち見んなー!!」
ちょくちょく指を突き刺していたりした様だが、やはり何故か絶対に制作の様子を(特に涼には)見せようとはしなかった様である。
とはいえその事をのぞけば、丘の上の教会での緊急臨時裁縫教室は「誰それにはこの柄が似合う」などと賑やかに盛り上がり、期日までにはなんとか無事に制作が終了した様だった。
設定一部解説
A-ナンバーズ:“無作為”という意味では無く、この世界において伝説の様に語られている“原子”の名を持つロボットにあやかったシリーズ名。
ちなみにA-Tさんは暇つぶしと称し、逢魔ヶ丘の各所に仕掛けられた監視カメラを私物化し、定期的に覗いています。




