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黒幕座談会


黒い人達による、黒い部屋での黒い会話。

 暗い、暗い闇の中。

 ここは、海上都市第5階層。

 誰もいない筈のその場所には、現在、3人の人物と1体の巨大な機械が存在していた。


 僅かに明るいだけの頼りない非常灯の明かりが、広大な敷地に限界がある事を示す。

 中心部には凝った意匠の漆黒の扉だけがあり、地上で見れば芸術的に見えるであろうその扉も、この暗闇の中では、まるで地獄の扉の様にさえ見えた。


 扉の前に集った三人の人物達。

 それは、この暗闇の上にある廃墟都市の相談役として、皆に一目置かれる人物達だった。


「御足労願ってすまないね」

 頭部に毛の無い老人が口火を切った。

 袈裟をかけたその老人は、地上では和尚と呼ばれる人物だ。

 穏やかな人柄で、周囲の人々の相談を受けたり、荒事以外の仲裁に入る事も多い。

 しかし、この暗黒の空間内では、底の知れない笑みを浮かべ、見る人が見れば不気味な、と形容する程、独特の雰囲気を醸し出ししていた。


「いえ、これ位大したことはありませんよ」

 中年の穏やかな笑みを浮かべた偉丈夫が、穏やかに相槌を打った。

 一見穏やかに見える笑みも、身に纏う神父独特の漆黒の服と、目の前の扉のせいで、何処かうすら寒くなる様な微笑みに見えた。


「…早く本題に入れ。私は暇では無い」

 最後に口を開いたのは、そろそろ壮年の域に入ろうかという年頃の男性。

 地上世界では、小さな神社の神主だった人物だ。

 寡黙な印象を与える風貌だが、一度口を開けば、辛らつな言葉が次々と出て来る。

 まるで、彼自身の印象と同じく、抜き身の剣の鋭い刃先でもって喉元を撫でられているかのようだった。


「まあま、良いではないか。…ここに来るのも久しぶりだのう」

「あの事件の直ぐ後に封鎖されてからは、足を踏み入れる機会もありませんでしたからね」

「……理由が無い。下らん雑談で時間を潰すなら、私は帰らせて貰うが」

「そうおっしゃらずに、神主さん」

「この話をするには、誰に聞かれるか分からない地上で話すわけにはいかんからのう」

「……まだ、時機尚早でしょうね」

「ふん、いずれは知れる事だ。だが、まあ、確かにまだ何処も動き出した様子はないな」

「現状、一番進んでいるのは本土ですか」

「ふむう、機械の連中に何がどう出来るとも思えんがのう…」

 老人が顎の下を撫でながらそう言った。

 

 本土は機械工学が発達した都市だ。

 神父の背後にいる機械の龍も、外装部分は本土で造られている。

 現在の本土で最も研究開発が進んでいるのは、限りなく人間に近い“人間型ロボット”だ。

 外見、動作だけでなく、本来あり得ない内面、「心」の部分に集中的に研究実験が繰り返されている。


「……そうとも言い切れんかもしれん」

 しばしの沈黙の後、そう言ったのは神主だった。

「ほう?」

 らしからぬその物言いに、神父が片眉を上げた。

「聞けば、次々と仲間を増やしていく機体があると聞く」

「ふうむ、仲間を増やす、か」

 増殖でもするのかと和尚が首をひねるが、少し違うと神主は続ける。

「救い上げるのだそうだ。今までには、動作や外装に問題を抱えた機体や、プログラム上不安定な、暴走の危険のある機体、あるいは事故で引き取り手のない機体を回収したそうだ」

「なる程のう…」

「そう言ったことであれば、今回の“計画”の目的と合致しますね…」

 聞き手にまわった2人が深く頷く。

「して、森林都市の方はどうなっておる」

 一区切りついたと判断した和尚が、森林都市の内情に焦点を切り替えた。


「こちらはほとんど変わりありませんよ」

 神父が苦笑する。

海上都市(こちら)の情報の多くを流しているのは、この森林都市ですが、特に表だった変化は現れていない様です」

「実際の学徒や研究者達はともかく、あれは上が上だからな」

 神主が苦い顔をする。

「片や科学でのし上がり、片や精霊が統治する。これ程までにそりが合わん都市も珍しいだろうよ」

「私は逆になじみ深いですけどねえ」

 神主の言葉に、神父がしみじみと呟いた。


「……お前さんが来てからもう何年になるかのう」

 零れた呟きを拾った和尚が、神父の顔を見てそんな風に言った。

 先程までの底知れぬ闇を見せることなく、今はただ、相手を思いやる穏やかな表情がそこにはあった。

「……皆さんに温かく迎え入れて頂いたからこそ、今の私がある。それは十分に承知しています。その為にも、この計画は恙無く進行して行かねばならない」

「“救世主具現化計画メサイア・プロジェクト”か」

「あの子達が聞いたら、すぐにでも粉砕しようとするでしょうね」

 くすりと神父が笑みをこぼす。

 その表情は、ただ、大人が子供を見守るだけの、いかにも微笑ましいと言った表情で。

「“あの事件”が起こる直前に、突然貴方はこの時代にやってきた。そして全てが終結に向かって行った。だが実際には、貴方が来たからこそ、そこから全てが始まったのだ。その為に起こりうる災厄があるのならば、それを知ってしまったのならば、何があろうと止めねばならない」

 珍しく饒舌に語る。

 口は悪いが、神主もこの街を守る人物の一人だ。

 この街の住人を守る為ならば、恐らく手段は選ぶまい。

 それが、この街の若者達と、ここに集う黒幕達の違いでもある。


「……扉はずっと此処に在ったのです。ただ、目に見える形で存在していなかっただけで」

「その扉を開いて、貴方は此処へとやって来たのじゃな」

「ええ。破滅の未来を知った過去の世界の人々から、この未来を守る為にと送られた」

 懐かしむように扉を撫でる神父に、2人の同志が声をかける。

「どうじゃな、あ奴らならばやってくれると思うか?」

「もちろんですよ、和尚様」

 にこりと笑う。

「涼も銀花も、あの方達の素質を確かに受け継いでおられます。確かに直接的な血筋ではありませんが、それは問題にはならないでしょう」

「竜と魔のあいのこ、か」

計画(プロジェクト)の中でも、重要な位置を占めていた研究だったな」

「いやはや、何処から漏れたんでしょうねえ。彼等に使われた遺伝情報の、元になった被験者の遠い先祖が異世界からの移住者だった事が」


 この世界は過去、何度も破滅の危機にさらされて来た。

 遠い過去に起こった事件もその一つ。

 その時、破滅を阻止せんと、異世界からやって来た戦士達がその破滅を退けた事があった。

 彼等はそのままこの地に留まり、子孫を残した。

 海上都市の研究者達は、その子孫の血筋から銀花や涼を創りだしたのだ。


「後はイチだな」

「あの子も良くやってくれてますしね」

 うちは3人もいて、優秀ですよ、と神父がほくほくとした顔で言う。

「あれは駄目だろう」

 一転、顔をしかめたのは神主だ。

「街の安定のみ力を尽くし、自身を高めると言う事を怠っている」

「実質奴がこの街の長だからのう」

 何も言わんと良く纏めておる、と様々な些事を押しつけている自覚のある和尚が言う。

「本来であれば、銀花や涼にも引けを取らぬ素質のある奴なのだがな」

神主はあくまで苦い顔だ。

「ホホッ、何じゃお主、奴に期待しておったのか、そうかそうか」

「…面倒が無くて良い、それだけだ」

 和尚に指摘され、神主はそっぽを向く。

「3人とも良い子ですよ。我等の主に相応しい」

 ねえ、と神父は背後の龍を仰いだ。


「さて、まあ、ここまで話した所でこのまま進展が無ければ、我らに出来る事は今のところ無さそうだのう」

「このままもう少し、平穏な時間を謳歌していて欲しい気はしますが…」

 ひとしきり情報を共有し、纏めに入った和尚に、神父は苦笑気味に返した。

「だが、のんびり手をこまねいている間にも、残党の手はあちこちに延ばされようとしている」

 時間が無い、と神主は繰り返す。

「……そうですね…、3人に森林都市にお使いに行って貰いましょうか」

「守りが薄くなるのは否めんが、対象との接触で、何事か引き起こす可能性に期待する、と言う事か」

「何か起こらなければ先に進むこともままなりませんからね」

「ふうむ、森林都市の精霊の娘、か。いかにも何か事件が起きそうじゃな」

 楽しみであるとさえ受け取れるその物言いに、他の2人は顔をしかめたり、苦笑したりするばかり。

「折を見て話をしてみましょう。『龍』も、それで良いですね?」

「……」

 僅かに、龍の瞳の部分(ひかり)が点滅する。

 どうやらそれが彼の了承の合図の様だ。


「では、我等はこの辺りで」

「また地上で会おう」

 和尚と神主が第5階層から静かに消え、扉の前には機械の龍と神父だけが残った。


「口くらいきいてくれたって良いでしょう、つれないですね」

 からかうような、責める様な物言いに、蒼い龍の機体は駆動音を響かせ、ゆっくりと姿勢を伏せた。

 だが、何かを語る事も無く、黙したまま静かに眼前の神父を見つめた。


「……後悔していますか?私と共にこの時代に来た事に」

 宥めるような、どこか寂しげな声色で神父は龍に語りかける。

 あるいは、寂しいと感じているのは、龍と同郷だと言うこの神父も、同じなのかもしれなかった。

「ただ一人、この暗い空間に居続ける事は、せめて自分だけでもあの頃を、あの人達を忘れない、という意思表示なのでしょうか…?」

 答えない龍に、なおも神父は語りかける。

「“彼女”の元を離れ、肉体から解き放たれた貴方がたを、この時代に連れて来たのは私の独断によるものです。あのまま、せめて心だけの存在になっても“彼女達”を見守ろうとしていた貴方にしてみれば、この私に憎しみすら覚えたのではないですか…?」


『……憎んでなんて、いないよ』

 普段、他者にかける威厳のある声とは違う、幼ささえ感じさせる弱弱しい声が応えた。


『彼女も、僕も、結局最後は自分で決めたんだから。この世界を、あの人達の子孫を守る、って』

「その彼女も、転生に際し、貴方の事を忘れてしまった。あの頃の事を思い出せるのは、今や、我々二人だけです。…寂しいのではないですか?“彼女”について存分に語り合い、慰め合える同志は、もう居ない」

『…銀花は、きっとあれで良かったんだよ。“あの人”と同じ、人間に、なったんだから、さ』

 小さな光が、ちかちかと瞬いた。

 まるで、涙を流せない機械の龍が、堪え切れずに泣いているように。


『選んだのは自分だって、分かってる。……分かってたよ、ここには誰もいないって…。……それでも、思ってしまうんだ。…僕は、あの人達のそばに、ずっと居たかったんだ、って…』


 まるで、人の両腕で抱えられるほどの小さな竜が、主人を恋しがって泣いている様に。





設定盛りまくったったですwww


さて、今後回収されるのか?


先は長そうです。

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