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いたってよくある話

 蒼歴30xx年。

海上に浮かぶ廃墟街。

 かつて、最先端の技術によって運用されていた研究都市は、現在外界からの来訪者もなく、完全に見捨てられてしまっていた。

 5階層あった内の上部2層は完全に破壊され、本来日の射さないはずの第3階層がむき出しになっている。

 海抜ゼロに近いその場所は、一部侵食されているらしく、小さな浜があり、波が打ち寄せていた。

 その場所を一人、少女が歩いている。流れ着いたゴミや海藻を拾いながらゆっくりと。

 膝まで届く銀の髪を一本の三つ編みにして、丈の長い黒いシャツと黒いズボンを着ている。

 瞳は青。時折その瞳が強く輝くと、彼女に誘いかけるように波が躍った。

 行く手には、廃墟には不釣り合いな竹林。浜を挟んで反対側には小さな庵があった。

銀花(ぎんか)

 空から声が降ってきた。

「カナリア」

 少女が答えた。

 明るい緑の少年は、慣れた様子で少女の前に降り立った。

「毎日見回り御苦労さま。和尚さんの所に行くの?」

「うん。“虎”のところに寄ったらね」

「どうせまた寝てるんじゃない?」

「もしかしたら話してくれるかもしれないじゃない」

「どうかなあ」

 銀の少女と緑の羽の少年は、明るい調子で話しながら竹林の中に入って行った。

 

 坂の途中にある、小さな神社の境内で本を読んでいた少年は、「(りょう)」と呼ばれて顔をあげた。

夜子(よるこ)

 名に反して、真夏の昼間のように明るい髪の元気そうな少女は、本を離さないままの少年を睨み付けた。

「これから地下に潜るって?」

「うん。だから、今神社で待ち合わせ中」

「…やっぱりついてっちゃダメ?」

「危ないからダメ」

 黒髪に黒い瞳の少年は即答して、ちょっと苦笑した。

「何が目覚めたか、まだ分からないんだ。今神主さんと神父さまが調べてる」

「…あたしにも、手伝えることがあったらいいのに」

 それは、もうずっと繰り返され、擦り切れたように何の力も無くなった定型の文句。

 それでも彼女は繰り返す。この町で現在、唯一無力であると言って良いがゆえに。

「…遅くなるかもしれないから、マスターの所で待ってて、夜子」

「…わかった。あんたの代わりにあたしが入ってあげる」

「いいの?有り難う!」

 せめて職場に代打で入ると言えば、凄くキラキラした笑顔が炸裂した。

「…仕方ないわね、この夜子様に感謝しなさいよ!あとへらへらしない!」

「うん!」

 照れ隠しの強い口調の声に、分かっていない嬉しそうな声が響いた。

 

「イチー」

 空から派手な色が下りてきた。背中には派手な翼、髪も様々に染まっている。

「おう、極楽鳥(ごくらくちょう)

 丘の上の円形劇場、一人客席に座っていた金色の髪の青年は手を挙げて答えた。

「連絡ごくろー」

「ちょっと、気持ちこもって無い!」

 かっる、と返す派手な青年も慣れているのだろう、その顔は笑顔のままで。

「神父さまは?」

 円形劇場の背後の教会は、この町で一番大きな建物だ。言うほど派手ではないが、皆が頼りにし、何かと集まるため何度か増築されている。この金の青年も世話になっている一人だ。

「神主と確認中。おおよその位置が割れた」

「ふうん?戦力は?」

「今回は3人いりゃ充分だろ。完全に施設内だから地の連中の出番も無え」

「いつもの3人ねえ」

「…当てこする様な言い方すんな。用が足んなきゃ地上に追い出すから、地と空、お前らに任せた」

「投げんなー!何地上に出したら俺の仕事終わり、みたいな言い方してんのよ!」

「もし出てきたらつってんだろ、単なる可能性の話だろうが」

「そこじゃなくて、出てきてからもお仕事しなさいよ、隊長」

「えー」

「はいはい、可愛くないから」

「…でもまあ騒々しくしてりゃ、“龍”と“虎”が起きて来るかもしれねえなあ」

 そしたら任せるか、と他人事のように呟いた青年に派手な鳥がキレて、

「誰が収拾つけんのよー!!」

 ヒステリックな声が響き渡った。


 捨てられた廃墟街。現在そこには捨てられた人々と、捨てられた実験体が平穏な日常を送っている。

 しかし、かつて第3階層だった現在の地表部分、その地下の旧第4階層には、あまりにも危険過ぎて深い眠りに就かされたままの実験体が数多く残されていた。

 それらは管理する者もなく、まれに目覚めては日の光を求めて徘徊する。

 地上に暮らす者は、人外といえど決して強いわけではない。だから、自衛組織を作った。

 水を操る銀青の少女「死告天使(アズライル)銀花(ぎんか)

 頭脳を強化され、又、その血筋に魔の力が宿るとされる「闇王子(プリンス)(りょう)

 力に特化し、空と地上二つの隊を統括する「剣力者(ソーディアン)」イチ

 この3人が上部2階層との争いに勝ち、陽光と自由を手にした功労者。そして、この逢魔ヶ丘遊撃隊おうまがおかイレギュラーズ発足の切っ掛けである。

 

「イチ」

「来たわよ」

「おう」

 劇場に3人がそろった。

「西門から地下に入る。ついでに“龍”に挨拶してから行くか?」

「ちょっと!」

 極楽鳥があわてて声をかける。

「別に参戦しろとは言わねえよ。でも何があったかは話しておいた方がいいだろ?」

「…まあ」

「こういう機会でもなければなかなか会えないからね」

 少しだけしんみりと涼が言った。

「涼と“龍”は繋がってるから余計会いたいんじゃない?私も会いたいけど」

「決まりだな。極楽、空の連中にはお前から話しといてくれ」

「了解。気をつけて」

「おう」

「行ってきます」

「後よろしくー」

 

 こうして3人は地下に潜っていく。

 目覚めたモノは大抵理性もなく、そのまま戦闘になってしまう。それでも、

「…できればさ」

 黒い少年は呟いた。

「ん?」

「何?」

「…増えるといいね。新しい仲間」

 やさしい願いを。  

 


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