9話
ようやくデートに漕ぎつけた相田君。
でもまどかちゃんはその意識なしです(笑)
私は今、都内で人気の動物園の入口に立っています。隣には相田君。
なぜこうなった?!再びです。
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あの飲み会の翌日。あんな話を聞いたにもかかわらずいつもと同じように弁当を差し出す彼に、一体どんな顔を向ければいいのか…と俯いたままの私に、予想もしなかった言葉が降ってきました。
なんと、例の弁当を持って動物園に行こうと言うのです。
ちょっとあなた正気ですか。あんなに馬鹿にされた弁当をわざわざ食べようとか何考えてるんですか。一辺頭の中見せてください。
なんて頭では嵐のように言葉が渦巻いていますが、実際は何も言えずに固まる私に、尚も彼は続けます。
彼曰く、私の作るお菓子はとても美味しいので、きっとごはんもおいしいだろうということ。そんな男一人のために嫌な思い出を引きずる必要などないこと。自分だったら好き嫌いもないので、「美味しい」と言える絶対の自信があること。
彼の熱意(?)に負け、次の日曜にパンダのいる某動物園へ行くことになってしまいました…。だって仕方ないじゃありませんか。普段口数の少ない彼からマシンガンのように説得の言葉が出てきたら、誰だって断れませんって。断じて私が押しに弱いからではありません。
しかし彼と約束したものの、やはり悩んでしまいます。
折角、関わりのない同僚→趣味の合う友人へとレベルアップしてきたのに、ここで失敗したら前と一緒じゃないですか。そしたらもう立ち直れません。
でもそんな否定的な考えの頭の中に、彼を信じたいという気持ちも確かにあるのです。
私が作ったお菓子を「美味しい」と言ってくれた彼。その彼を信じられなければ、この先ずっと駄目なままだと思うんです。
彼は後ろ向きな私の背中を優しく押してくれたのでしょう。彼の優しさに応えるためにも、勇気を出そうと思います。
で、冒頭へとつながるわけです。
正直弁当のことが気になりすぎて、動物なんて見ていられません。ちょっと相田君!ゾウとか今どうでもいいんですよ!
気も漫ろな私を見かねたのか、少し早い昼食となりました。気分は死刑判決を待つ被告人です。
テーブルの上に、弁当を広げます。メニューはあの時と全く一緒です。
もう怖くて怖くて彼の顔が見れません。緊張しすぎて吐きそうです。
そんな私の様子に苦笑したらしい彼は(顔が見れないので雰囲気で判断)、そっと弁当箱のふたを開けました。
「どうですか?」
こんなに小さい声出たんだ、くらい小さな声でしたが、彼はしっかり返してくれました。
「すっげえ美味そう」と。
実際、彼はものすごく食欲旺盛でした。「美味い」と言いながら、どんどん弁当箱を空にしていきます。あの時には感じられなかった喜びが、私の心を満たしていくのがわかりました。
緊張の糸がぷっつり切れたことと安心感から、また涙が止まりません。少し困った顔をした彼が隣に座って頭を撫でてくれます。泣いている女と一緒にいるなんて彼に申し訳ないと思うのですが、彼の目が「大丈夫だよ」と言っているようで、なかなか治まらないのです。
しばらく泣き続けやっと笑顔になれた私に、彼は優しく「ごちそうさま」と言ってくれました。もう大丈夫です。今日の記憶がある限り、過去は思い出しません。
その後は園内をゆっくりと回り、楽しい一日となりました。
本当に彼には感謝してもしきれません。その気持ちを私の拙い言葉で伝えると、彼はそっと頭を撫でてくれました。しかしですよ。これで明日からは私からも弁当を渡せる!と内心小躍りしていると、予想もしなかった言葉が聞こえたのです。
「そろそろ俺と付き合おうか」
それってそういう意味ですか?!誰か説明プリーーーーーーズ!!!!!!
彼の暴走っぷりにはついていけません…。
このあとどうするか悩みます。
最後のセリフ、彼の本心としては「そろそろ(結婚を前提として)俺と付き合おうか」だというのは間違いない!