21話
お久しぶりです。
前回、引っ越しの為更新が少なくなると、でも週2くらいは…なんて言ってしまいましたが、結局1カ月もご無沙汰してしまいました。申し訳ありません。
家の方もだいぶ落ち着いてきましたので、これからはこんなに間が空かないようにがんばります(●^o^●)
お義兄さんありがとうございます。
おかげで勇気が出ました。
もうこの勢いは誰にも止められそうにありません。
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問題の人物がなんと彼女のお兄さんだと分かり、先程までの怒りはどこへやら、今度は思いがけない身内の登場に内心焦りを感じていた。冷静になれば目の前の人が彼女の血縁だとすぐにわかるというのに…あの衝撃的な光景を見て頭に血が上っていたとはいえ、思いっきり憎々しげな視線を向けてしまったのだから。こんな短慮な男に妹はやれないなどと言われたらお終いだ。というか俺ならそうする。
しかし年上の余裕というものなのか、俺の予想に反して彼は友好的だった。彼女との馴れ初めを聞きたがったり、ご両親の行動へのアドバイスなど、こちらが緊張しないように気遣ってくれたようでかなりの好人物という印象を受けた。
これなら彼女と結婚したあとも、良い関係が築けそうだ。
しかし、そんな楽天的な考えを見透かされたのか、彼女が少し席を外した途端ある意味予想通りの言葉が投げられた。
「ちょっとこのあと顔貸してくれる?」
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彼女を駅まで送り、指定された店へ急ぐ。
やはり俺みたいな奴は気に入らないのか。可愛い可愛い妹だもんな。その相手には兄として言いたいことの一つや二つや三つ…いや二十くらいあるのかもしれない。
しかしここで彼に認めてもらえなければ、彼女との未来が遠ざかるのは必至だ。なんとしても乗り越えなければ。
店のドアノブを掴んで深呼吸と気合入れに「よしっ」と呟き中へ入る。店内は落ち着いた感じのバーで、彼はカウンターで既に飲んでいるようだった。
自分でも自覚できるほど緊張した面持ちで彼に声をかけると、彼女そっくりの顔が満面の笑みで迎えてくれる…これは好意的と受けとっていいのだろうか。若干その笑顔に戸惑いを感じつつ、それでも悪い話ではなさそうだと判断しバーテンに注文する。さて何を言われるやら。
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そして3時間が経過し、漸く結婚の挨拶へと話が進む。断っておくが俺たちの話ではない。目の前にいる彼と、彼の最愛の妻の話だ。
驚くべきことに、入店してから今までずっとこの夫婦の馴れ初めから始まり、延々と惚気話が続いている。しかも彼女同様、酒にはあまり強くないようで、既に絡み酒となって同じ話を繰り返したり、テンションが上がって俺の肩をバンバン叩いたりと、流石の俺も疲れた。これは何の試練だ。俺は酔っ払いの介抱をしに来たわけではない。
そろそろ切り上げた方がいいかと思い時計を見ると、5時間経過。まじか。隣では漸く満足したのか、水をがぶ飲みしている男。「出ましょうか」と声をかけようとした時、今までとは違う低い声で俺に聞いてきた。
「まどかのことどれくらい好き?」
正直に答えるべきなんだろうな…。というかこんなことで嘘やごまかし言ったって仕方ないし。
「お義兄さんが奥さんのこと好きな気持ちと同じくらいの自信はあります。」
そうだ。交際期間はお義兄さん達の足元にも及ばないが、俺だって彼女について語らせたら止まらない自信がある。「お義兄さんって…まだ早いだろ」とか隣で呟いているが、知るか。こっちは惚気話に5時間付き合ったんだぞ。少しくらい主張したっていいじゃないか。
そして義兄は俺の顔を見てしみじみと呟いた。
「なんか昔の俺たち見てるみたいでさ、ちょっとアドバイス?しよっかなーと思って。まどか抜きで男同士腹割って話したいなーなんて。まあ前置きは長くなっちゃったけど。ごめんね。」
どうやらあの延々と続く惚気はただの前置きだったらしい。前置きであの長さって、本題はどんだけだ。…今日はもう帰れないかもしれない。
若干遠い目の俺には気付かなかったようで、さらに義兄が話を続ける。
「君はさ、もうまどかとの結婚が視野に入ってるでしょ。でもさっきの二人見てると、まどかには結婚の「け」の字も感じられない。君の気持ちだけが先走ってる。そういう風に感じちゃってね。まあわかるよ、まさに俺がそうだったし。「この人が俺の生涯の伴侶」って自分の中で決定しちゃって、とにかく全部欲しくなっちゃったんでしょ。わかるわかる。なんていうか、当事者だった時はわからなかったけど、外から見ると温度差がね。ぐーんとね。開いてるわけだよ。…妹との交際をやめろっていうんじゃないから勘違いしないで。むしろめちゃくちゃ応援してる。あの頃の自分見てるようでふび…とにかく頑張ってまどかを幸せにしてやってよ。相手が若干引いても押し倒すぐらいの気概を見せてくれ。基本的にうちの奥さんとまどかって似てるからさ。多少強引に進めても大丈夫だと思う。今まで男っ気のなかったまどかが君のことは信頼して付き合ってるみたいだし、君はまどかのことすごく大事にしてくれるだろうから。お互いがお互いを同じくらい思い合ってる夫婦っていうのもいいかもしれないけど、俺たちみたいに多少の温度差がある夫婦もありでしょ。…彼女たちは時々ものすっごいドライだからね。気をつけて。もちろん温度差って言っても愛情がないってことじゃないよ。ベースに愛があって、ちょっと男側の気持ちが多いってだけだから。
結局何が言いたいかっていうと、まどかには押して押して押しまくれってこと。君には今更なアドバイスだったかもしれないけど、俺は応援してるってことを伝えておきたくて。ああ、1つ忠告!結婚までは最後の一線越えないでね。まどかのこと大事にしてくれるなら当然だよね?」
そうして言うだけ言って満足した義兄は、千鳥足で帰っていった。もう日付が変わりそうだ。今まで耐えた俺偉い。
思い返せば長かった。そういえば彼女へ贈る指輪を買うために出かけたんだったな。その幸せな時間もこの濃厚な数時間のせいで霞んでしまったが。
…とにかく、義兄の言うとおり、彼女を手に入れるため、なりふり構わず行こうと思う。経験者の言うことは素直に聞き入れよう。あんな義兄でもうまくいってるんだ、俺にできないことはない。
精神的にはきつい日だったが、そのお陰で方向性が定まったのも確かだと彼には感謝しよう。
指輪も買った。身内の同意も得た。
あとは彼女に「うん」と言わせるだけ。
彼とお兄ちゃんのお話でした。
ちなみに前置き:本題=9:1です。きっつい。
意外な味方を得て、彼が俄然やる気になりましたという流れ。




