19話
さてまどかちゃんのデート相手は誰だったでしょう。
あの兄貴が結婚するらしい。あの無口で無表情でかっこいいけど考えてることがよくわからない兄貴が。
その話を持ってきたのは妹だったんだが、興奮した様子で「お兄ちゃんプロポーズするって!」と俺の部屋に飛び込んで来た時は、思わず飲んでいた茶を吹き出してしまった。
しかも聞けばまだ交際一カ月。早くね?と思ったのは当然だよな。こういうのって電撃婚っていうんだっけ?
詳しく話を聞こうと兄貴の部屋へ行けば、なにやらメモを書いてぶつぶつ言っている。どうやらプロポーズのシチュエーションを考えているらしい。そんなに早く結婚したいのか。
若干遠い目になっている俺なんて気にせずに、兄貴は妹にどういうのが女の子が喜ぶか聞いている。OLのお姉さんと女子高生じゃジェネレーションギャップっつーのがあんじゃね?まあそれでも普段俺たちの話の聞き役ばかりの兄貴が、自分のことで相談してくれるなんて兄弟としては嬉しいもんだよな。
だから、兄貴のプロポーズを成功させるべく、俺と妹も一肌脱ぐことにした。兄貴に(無理矢理)見せてもらった彼女の写メや、彼女の性格なんかを聞いて、あーでもないこーでもないと結婚情報誌の指輪のページを見るのは楽しかった。やっぱり妹も女なんだな、俺なんかより的確なアドバイスを兄貴にしていた。ちょっと悔しい。
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そして日曜日。朝から3人で指輪を選びに行った。本当は兄貴は一人で行きたかったみたいだが、そこは可愛い弟妹の権限を使って強行させてもらった。選んでいる間、周りが「どういう関係?」という顔をしていたが、指輪を見るのに真剣だった兄貴は気付いてもいないと思う。ほんとに彼女が好きなんだなー。
そして、無事指輪を手に入れて(サイズ直しは彼女と行くようだ)、俺たちもいい仕事したぜ!みたいな達成感に包まれていた時、その事件は起きた。
突然前を歩いていた兄貴が止まったから、危うく俺は兄貴の背中にぶつかるところだった。あぶねー!って言おうと兄貴の顔を見たら…
般若がいた。
いや冗談じゃなく。
なになにこの短い間に何があったわけ?って妹と二人でおろおろしてたら、兄貴の視線がある店に刺さっていることに気付いた。恐る恐る見てみると…なんとあれは兄貴の彼女じゃないか。しかも男連れ。なんてこった。
嗚呼どうして俺は今日兄貴と出かけてしまったんだろう。どうして大人しく家で勉強でもしていなかったんだろう。そしたらこんな修羅場に出くわすこともなかったのに。
この場をどう収拾したらいいかもわからず固まるしかなかった俺と違って、妹は余裕があったらしい。勇者か。俺の耳元で「あの二人の顔見てみなよ」なんて言ってきた。顔?あの二人って店の中の?
そう言われて彼女たちを観察してみると…似ている。男女の違いはあれど似ている。
なんだ兄妹か。
あんなに焦っていたのが馬鹿らしくなるほど似ている二人だった。あーよかった浮気じゃなくて。もしそんなんだったら兄貴が一体どうなったことやら…と思い、はっと兄貴を見ると
般若再び。
まじか。あのどう見ても血縁関係ありまくりな顔に気付く余裕もなかったか。どうする俺。とりあえず兄貴が想像している関係じゃないってことを言ってやるか。
なんて俺が親切にも考えていた一瞬の間に、さらに兄貴の怒りに火をつける出来事が起こる。
「はい、あーん」事件だ。それを見た瞬間の兄貴の顔は恐ろしくてとてもじゃないが直視する勇気が出なかった。妹も流石に何も言えなかったらしく「あちゃー」みたいな顔をしていた。
どうするどうする。このままだと兄貴が店に乗り込みそうな勢いなんだけど!こんな街中で暴力沙汰はまずい!しかも相手は結婚を考えている彼女の家族だ。こんなことで兄貴への評価がマイナスになったら困る。
しかしその時、どうしようもなく混乱している俺たちの前に、救いの女神が現れた。
彼女が兄貴に気付いて手を振っている!!
助かった!!!
こういうオチでした。わかりやすかったかな?