とある科学者のお話
その科学者は 死んだ妻と娘を生き返らせる方法を探していました
子供のころから どんな方程式だって解けた彼
そんな彼が解けなかった こころ
その解き方を教えてくれた あの人と
そこから生まれた宝物
生き返らせる方法を 彼は必死になって探し続けました
時は過ぎ やがて彼も死んでしまいました
それでも彼は 研究を続けました
薄汚れた白衣に隠された身体
けれども隠しきれない 髑髏
人々は彼の事を ドクロの科学者と呼ぶようになりました
ドクロの科学者は 方程式を解き続けました
「あの世なんて そんなものはきっとないから
この世界でもう一度 君たちに会いたいんだ
だから僕はこんな姿になってでも
君たちを生き返らせる方法を 探し続ける」
解かれ続ける方程式
積み上がっていく 方程式
「もう一度 君たちに会いたいんだ」
何十年もの時かけ
何百もの方程式を解き続けた彼により
はじき出された、その答え。
ドクロの科学者は 墓の前で棒立ちになっていました
大切な たいせつな 二人の墓の前
手に持っているのは 方程式の答え
それは 花束でした
「分かったんだ やっと分かったんだ
『あの世』は 本当にあるんだね
君たちは今 そこにいるんだ
そして そちらの世界にも 寿命という概念がある
そちらの世界にも 永遠なんてものは ないんだね
――君たちを 生き返らせる方法なんて なかったよ
どうしてもっと早く気付けなかったんだろう
もっと早く『そっち』に行けばよかった
僕が方程式を解き続けた時間
ドクロのまま 一人で過ごした時間
その時間で 君たちと『そっち』で過ごせる時間が減ってしまった
僕も今からそっちに行くよ
方程式の答えなんて要らない
その代わりに この綺麗な花束を持っていくよ
君たちは怒るだろうか
僕の事を 馬鹿だと思うだろうか
それでも僕はもう一度 君たちに会いたい」
強い風が吹き 音を立てて崩れ落ちる彼の身体
墓の前に残ったものは 白い骨 薄汚れた白衣
彼の持っていた花束だけが そこにはありませんでした
お題は「花束」「ドクロ」「方程式」でした。