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一期一会  作者: 雪奈
第1章 いじめなんて
9/45

7.終焉は

次の日。

「安西、石川、沢田、新谷、谷中、吉崎。六人はこの後生徒指導室に来るように。他のみんなは教室で待機してろ。」


朝のホームルームが終わると担任が香緒里達に言った。

まさか……。

嫌な予感がした。昨日の今日だ。

可能性はなくはない。


担任が教室を出た後、沢田と沙世より先に香緒里達は席を立ち、二階にある生徒指導室に向かう。

「やっぱり、昨日のことかな…?」

「恐らくな。」

雪音の呟きに秀人は答える。

「でも、だとしたらどこから漏れたんだろう。」

「たまたま昨日のを見ていた奴か、もしくは心配性の親。」

「親?」

石川が聞き返すと秀人は頷いた。

「どういうこと?」

「行けばわかるよ。ま、じゃなかったら、クラスの女子。」

これから起きる事がわかっているような顔を秀人はしている。

その、結末さえも見通しているような…。




----------------



生徒指導室に入ると中には既に担任と学年主任と校長がいた。

弧の字に並べられている椅子に座るように促される。それからしばらくしてやってきた沙世と沢田にも同じように促した。

六人が席に着くと学年主任が咳払いをした。


「昨日の放課後、中庭で乱闘したというのは本当か?」

そう、香緒里達を見て聞いてきた。

「…本当です。」

秀人は目線を真っ直ぐ返しながら答えた。

確かに事実ではある。

けれど、呼び出されたのがあちら側では沢田だけというのは少々違和感がある。

それに、昨日の乱闘とは関わりのない沙世までいる。


「沢田君やうちのクラスの男子に呼び出され、それで乱闘になりました。」

淡々とした口調で秀人は言う。

「…なるほどね。…昨日、君達のクラスの一人の男子生徒の母親から電話があったんだ。

息子が痣を作って帰って来た。文化系の部活に所属しているのに、そんな痣が出来る筈がない。何かあったのではないか、とね。」

それに続いて、担任も言う。

「更に、その昨日の乱闘を見たといううちのクラスの女子生徒からも連絡があった。」

秀人の予想、大当たりだ。

「それで、その女子生徒から…うちのクラスでいじめがある、と聞いたんだが…それも事実か?」

先生達に知られたくなかった…というわけではない。けれど…なんだろう、この違和感は。


「事実です。」

相変わらずの無表情で、感情の籠もらない声色で秀人は答えた。

「そうか…非常に残念だな。首謀者は…沢田と谷中だと聞いたが。」

そう言って、担任は二人を見た。

二人は目を逸らし、俯く。

イエス、と答えているようなその素振りに担任と学年主任と校長は顔を見合わせた。


「いじめが、どういうことだか、わかってやっているのか?」

それに対して、沢田も沙世も何も答えない。

「いじめを受けた人間がどんな気持ちになるか…その人の心に、人生に傷がつくんだ、わかるか?

人を傷つけてはいけないなんて、小学生でも知ってることを…中学生である君達がなぜそれをするんだ。」


もっともな事を言っているような気がする。

しかし、いじめをしていた事も問題だがそれ以上に、いじめが目の前で行われているのに、止めずに見てみぬふりをしたり、ましてや加わってしまうクラスの雰囲気の方がよっぽど問題だ。

いじめがよくないことは、わかっている。

だがそれ以上に怖いのは周りの空気…集団で固まった時の行動だ。


教師だって、クラスでいじめがあったことに気がついていた筈だ。

むしろ、気がつかなかったのならば脳がなさすぎる。

気づいていながら止めないならば教師とて同罪だ。

沙世達のことを言えない。

それでいて、いじめがあったことが外部に漏れたらこの有り様。

さも自分は悪くないかのように説教をする。


香緒里が感じた違和感の正体は多分、これだ。

一言も話さずに黙り込む二人にため息混じりに担任は言う。

「反省しないようならば…親御さんからも言ってもらうしかないな…。」


途端に、沢田の表情が一変した。

青ざめながらもその目は怯えよりも怒りの色が宿っている。

「…っ、もう、しません。いじめは、やめます。だから…」

「だから、私達の親には連絡しないで下さい!反省も…してます。吉崎さん達にも酷いことしたなって、自覚してます。二度とこんなことはしません。」

沙世までもが必死になってそう言った。

何かあるのだろうか。

「まぁ…反省してやめるならばいい。こちらとて、穏便に事は済ませたい。本当にやめるんだね?」

校長の言葉に二人は頷き、香緒里達にも頭を下げ、ごめんと言った。

本当に…これでいいのだろうか?




----------------



生徒指導室を出ると私達は静かにため息をついた。

「なんか腹立つな、逆に。」

教室に向かって歩いている途中、秀人は言った。


「もっともらしいきれいごとを言って、その実、俺らのことなんて全然考えてねぇ。ただ、いじめがあったことを揉み消したいだけだ。」

確かに、と雪音と石川が頷き、香緒里は呟いた。

「所詮…教師なんてそんなもんよ。自分の地位を守ることしか考えてない。本当の問題なんて、何も見えてない。」

大人なんて、みんな汚くて厭らしい。

心の中でそう付け足す。

あの説教に意味があったなんて思えない。

沙世達が反省したかどうかもわからない。


「おい、沢田。本当にやめるのかよ。」

少し前を行く沢田に秀人は声をかけた。

「…やめる。あいつらを呼び出されたらたまったもんじゃねぇ…ふざけるな。」

怒りと憎しみの籠もった目。

しかしそれを向けているのは香緒里達にではない。

別の誰かだ。

「真がやめるなら、私もやめる。さすがに、やりすぎたと思うし。ごめん。」

沙世もそう呟き、背を向けた。

そしてさっさと沢田と共に歩いて行った。

「それで、収まるの?」

二人を見ながら雪音は聞く。

「多分、教室では副担任が説教してるだろうけど、それで収まるかどうかはわかんねぇよ。」

スッキリしない終わり方だ。


こんな終わり方で果たして良いのだろうか?

終わったのにこんなことを言うのはおかしいかもしれない。

けれど、香緒里はそう思わずにはいられなかった。


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