表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一期一会  作者: 雪奈
第1章 いじめなんて
8/45

6.反撃

「はよ。」


翌日、香緒里が学校に向かって歩いていると、後ろから声をかけられた。

振り向くと新谷がいた。


「おはよ。今日は朝練ないの?」

「ないよ。その分たくさん寝れた。それより、怪我大丈夫か?」

額と足に目を交互にやりながら聞く。

「痛くないって言ったら嘘になるけど…でも、大丈夫。空手やってた時は怪我とか痣とかは日常茶飯事だったから。」

「そりゃそーか。ま、無理はすんなよ。」

じゃあな、と言って新谷は先を歩いて行った。

学校の近くに来たからか、人が増えている。

女子の中には新谷に声をかける者もいるが、当の本人は全く反応しない。

人付き合いが苦手だからなのか、ただそういう女子が嫌いだからなのか。

どちらかはよくわからない。

前を行く新谷を見て、香緒里は心の中で呟いた。



--------------------



朝のホームルームが終わると香緒里は担任に呼ばれた。

もしかして…昨日の事だろうか?

いや、雪音達以外誰も知らない筈だ。

沙世達も言うわけがない。


あれこれ考えながら、担任の所に行くと予想と大きく外れた事を言われた。

「吉崎、夏休みの宿題だった読書感想文あるだろ?」

「え?はい、ありましたけど…。」

確かに夏休みの宿題に、あった。

宿題は7月中に終わらせてしまったから、記憶が薄かったけれど。

その感想文がどうかしたんですか、という視線を向けると担任は手にしていたファイルから原稿用紙を出した。

書かれている文字には見覚えがある。

「吉崎の感想文を感想文コンクールに出そうと思うんだ。いいか?」

「私のを、ですか?」

「学年で一番良いって、国語の先生方が言ってらしてる。出してもいいか?」

「構わないですけど…」

「じゃあ、これにもう一度書いて来て欲しいんだ。」

先ほど出した、香緒里の感想文と一緒にまだ何も書かれていない原稿用紙を差し出した。

「いつまでですか?」

「なるべく早い方がいい。」

「それなら、今日は部活がないので、放課後に書いて、今日中に職員室に届けますね。」

「助かる。ありがとな。」

いえ、と言って去ろうとした時に、呼び止められた。

「ところで、どうしたんだ?額に怪我したのか?」

香緒里の額のガーゼを指差し、言う。

教室の空気が張り詰めたのがわかった。

「昨日…家の階段で転んで、怪我したんです。大したことないですよ。」

「おいおい、気をつけろよ。」

曖昧な笑いを残し、香緒里はその場を離れた。

沙世達をかばったわけではない。

担任に事実を言ってしまえば余計に事態がややこしくなるだろうと考えたからだ。

学校側はいじめがあったとわかれば大騒ぎするだろうし、無理やり解決するだろう。

けれど、それでは意味がない。

根本的な所を突き詰めなければならない。

しかし、香緒里のその行為が無駄におわることはまだ誰も知らない。




-------------------



放課後。

沙世達に奪われないよう、細心の注意を払っておいた感想文と原稿用紙を持って図書館に行き、香緒里はそこで原稿を書き上げた。

丁寧に書いていたら、思ったより時間がかかり、気がつくと各部活が終わる時間になっていた。

急いで荷物をまとめ、原稿を職員室に届けた後、雪音と待ち合わせをしている下駄箱前に向かう。


「あ、香緒里!」

既に着いていた雪音は香緒里に向かって手を振った。

「感想文、終わった?」

「うん、無事に。新谷と石川は?」

昨日のことがあったから、今日は新谷と石川も一緒に帰ろうと約束をしていた。

「まだ来てないの。男バスの方が先に終わった筈なのに、おかしいな…サッカー部も、もう終わってたし…」

「何か、あったのかな。」

そこへ、男子バスケ部の先輩数人が下駄箱にやってきた。

香緒里と雪音は顔を見合わせた後、その先輩に話しかけた。

「あの…新谷君、見ませんでした?」

「新谷?俺は見てないけど。」

「俺も。小倉は?」

「見た。さっき、部活が終わった後…野球部の、えーと、沢田だっけ?二年でエースの。そいつと少し話した後、二人でどっか行ったみたいだけど。」


嫌な、予感がした。

新谷が沢田と…?

一体、どこに?

何の意図があって?

石川も一緒なのだろうか。

香緒里はもう一度雪音と顔を見合わせた。

一体、何が。




----------------



部活後、香緒里達との待ち合わせに行こうと体育館を出ると、呼び止められた。

「おい、新谷。」

声の方を見ると、沢田が一人で立っていた。

「何か用か?」

「ちょっと面貸せよ。」

「悪いけど、来いって言われてのこのこ行くような奴じゃねーんだわ、俺。急いでるし。」

そう言って、帰ろうとすると重ねて言ってくる。

「来いって言ってんだよ。石川もいるぜ?放っておくのかよ。」

こいつ……。

睨みをきかせて言ってきた沢田を逆に睨む。

「……わかった。行く。」

それを聞くと、来いよ、と沢田は言い、体育館から離れる。


大人しくついて行くと、普段は人が殆ど来ない中庭に連れて来られた。

そこには石川だけでなく、クラスの男子十数人がいた。

石川をぐるりと囲んでいた輪は沢田が来たことにより、開けた。


「で?何の用なんだよ。翔太まで呼び出して。」

新谷は石川の方に歩み寄りながら周りを見回す。

「まぁ、人気のない場所にこんだけ集まってるんだから、やる事は決まってるだろうけど?」

「よくわかってんじゃねぇか。」

ニヤリと妖しく笑い、沢田は新谷を見た。


「いろいろ調子乗りすぎだろ。」

「何でも出来るからって、俺らを見下しやがって。」

「石川もバカだよな。新谷に関わんなきゃ、こんな風に呼び出されることもねぇのに。」

周りにいたクラスメイト達が薄ら笑いを浮かべながら言う。

「ってことでさ。お前らには一度痛い目見てもらおうと思ってな。」

そんなことだろうと思っていた。

全部で15人…。

ほぼクラスの男子全部じゃねぇか。

「翔太、下がってろ。俺だけで十分だ。」

「え?でも…」

不安げな表情を向ける石川に背を向け、沢田達と対峙する。


「ヒューカッコイいねぇ。ま、俺らはお前をボコれればそれでいいけどな。」

「やるなら、来いよ。」

ハッ、と沢田は笑い皆に目で合図を送った。

途端に、一斉に殴りかかってきた。

いくつか飛んでくる拳を新谷は軽やかによけ、同時に自分も拳を放つ。

後ろから、誰かが羽交い締めにし、もう一人が殴ろうとした。

が、新谷は片足を上げて蹴った。

そして肘を後ろに引き、相手の力が弱まったのを見て、突き放した。


見ていた翔太は息を呑む。

すごい、強すぎる…。

一人対大勢なのに、圧倒的な力の差。

そこに、新谷に適わないことがわかったのか、一人が石川に殴りかかって来た。

よそ見をしていた石川は軽々ぶっ飛ばされた。

「翔太!」

「ざまあみやがれ!」

倒れ込む石川にもう一発、殴ろうとする。

殴られる。

そう思って目を瞑り、体を硬くした。

が、いつまで経っても衝撃は来ない。


「間に合って、良かった。」

目を開けると、殴ろうとした手を片手で受け止めている香緒里が目の前に立っていた。

「吉崎さん!?」

「っ吉崎!」

香緒里はその体勢のまま、右足ですねを蹴った。

うずくまる男子の横を通って、唖然としている沢田達の傍に行く。

「助太刀しに来た。」

「俺一人でも平気だっつーのに。」

そう口では言いながらも新谷は笑う。

「んだよ、吉崎もやんのか?男子相手に?」

「先に行っておくけど、私空手やってたよ?黒帯になるまで。」

え、と周りの男子は固まった。

追い討ちを掛けるように今度は新谷が言う。

「因みに俺も空手やってた。あと柔道と合気道も。」

一瞬、全員が逃げ腰になる。

しかし考えれば、二対大勢。いくら武道をやってたとはいえ、全員で掛かれば平気だろう、そう思った。

「一人でも二人でも、一緒だろ?」

新谷は溜め息をついたあと、小声で言う。

「諦めわりーな。吉崎、足怪我してるんだし、いいぞ?俺一人でも。」

「私もやる。やられっぱなしなんて、嫌だもの。」

「ははっ、まぁそうだな。んじゃ、やるか、香緒里。」

「…了解、秀人。」


「石川、大丈夫?」

倒れていた石川に後からやって来た雪音が駆け寄る。

「平気。情けないな、女子に助けられるなんて。」

体を起こしながら、苦笑いをする。

「香緒里、強いもの。」

雪音はそう言って、男子を次々とのしていく香緒里を見た。

普通の男子より数倍強いだろう、香緒里は。


しばらくすると、ほとんどの男子が地面に張り付いていた。

「加減は、しといたから。」

両手を叩いて手についた土を落としながら、香緒里はクールに言う。

男子達の顔が悔しそうに歪む。


「さ、帰ろっか。石川、大丈夫?」

「平気。大したことはないから。」

香緒里はバッグを片手にその場から離れようとする。雪音達もその後ろについて歩き出した。

「あっさりしてんな〜お前って。」

「新谷程じゃないわよ。」

「秀人で、いいよ。呼び方。っつーか、さっき呼んでただろ〜?」

「あ…あれはあんたが私のこと名前で呼んだから…っ!」

少しからかうような口調で言った秀人に対し、香緒里はほんのりと顔を赤らめた。

「照れてる?」

「照れてないっ!」

二人の会話を聞きながら、雪音と石川は顔を見合わせた。


なんだかんだで、いいコンビだよね。

そう、目線で会話をしながら、四人は校門を出た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ